Oisix(おいしっくす) 29image/234x60_1.gif DHCオンラインショップ

 関節リウマチ

 【ポイント】
 関節リウマチ(RA)は、遺伝的素因のある人が、何らかの関節炎発生性抗原に対して免疫応答をし、発症する。
 関節炎発生性抗原として、腸内細菌が有する抗原が、考えられる。細菌の構成成分(ペプチドグリカンなど)に対して誘導された免疫応答が、交差免疫で、関節(滑膜)を構成するプロテオグリカンを、障害する可能性も、考えられる
 関節リウマチは、肉食を避けて、スマシ汁断食などで、腸内細菌を改善し、血行を良くすることも、大切。


 1.関節リウマチとロイマ
 関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は、自己免疫疾患だが、心臓と小腸の病気だと言う鍼灸の先生がいる。
 関節リウマチは、心臓(血行の悪さ)と、小腸(腸から吸収されるペプチド抗原や脂質)が、発症に関連にしていると思われる。
 関節リウマチ(rheumatoid arthritis)のロイマ(rheuma)と言う言葉は、BC4世紀頃、ヒポクラテスの時代に、関節疾患に関連して、用いられた。ロイマ(rheuma)は、カタル(catarrhos)同様に、「流れ」を意味し、脳の中にある粘液性の体液が、流れて来たところに欝滞し、粘液分泌過多になり、腫脹や発赤を来たし、病気になると信じられていた。
 関節リウマチ(RA)は、従来は、慢性関節リウマチと呼ばれて来た。

 2.関節リウマチと断食
 
 関節リウマチの治療には、断食療法(スマシ汁断食)が、有効だと言う:スマシ汁断食では、3合(540ml)の水に、コンブ(昆布)10gと乾燥シイタケ10gを入れて沸騰させ、ダシ(出汁)が出たら、コンブと乾燥シイタケを取り除き、ショー油30gと黒砂糖30g(又は、蜂蜜30g)を入れる。これを1食分とし、昼と夕の2回、飲用する(朝食は、食べない)。この他に、生水と柿茶を、1日1〜2L飲む。

 興味深いことに、断食中、宿便が排泄される前には、関節痛が強くなり、宿便が排泄された後には、関節痛が軽快すると言う(排便と、関節リウマチの痛みとに、関連があるのは、排便時に、消化管からPGE2が産生され、血液中を流れて、関節炎部分に到達し、発痛を増強される為かも知れない)。

 宿便中にも、腸内細菌が存在する。以下に述べるように、腸内細菌が有する抗原に対して、ヘルパーT細胞が活性化・増殖し、免疫応答する(抗体を産生したりする)と、交差免疫で、関節の滑膜に存在する、腸内細菌が有する抗原と相同性のある蛋白やプロテオグリカンなどが、障害され、関節リウマチを発症するとも、考えられる。なお、遺伝的素因(MHCクラスII分子が、HLA-DR4やHLA-DR1で、免疫的に高応答の人)を有する人が、関節リウマチを発症し易い。

 いずれにせよ、関節リウマチは、肉食を避けて、断食などで、腸内細菌を改善し、血行を良くすることが、大切のようである。

 3.関節リウマチと遺伝的素因と関節炎発生性抗原
 関節リウマチ(RA)は、遺伝的素因のある人が、何らかの関節炎発症因子(関節炎発生性抗原)に対して免疫応答をすることが、発症が開始されると考えられている。

 1).遺伝的素因
 遺伝的素因としては、MHCクラスII分子が、HLA-DR4やHLA-DR1である人は、関節リウマチ(RA)を発症し易い。同じ抗原ペプチドであっても、MHC(HLA)の型により、MHC(HLA)の溝へ結合し易かったり、結合しにくいため、MHC(HLA)の型により、特定の抗原に対する、免疫応答の強度が異なる。HLA-DR4やHLA-DR1である人は、MHCクラスII分子(DR分子)の抗原結合部位の溝に、四つのアミノ酸からなる鎖を有する点が、共通している。HLA-DR4やHLA-DR1である人は、共通して、MHCクラスII分子(DR分子)の抗原結合部位が、関節炎発生性抗原と結合し易い為、(関節炎発生性抗原に類似した抗原に反応する)ヘルパーT細胞が活性化され易く、関節リウマチを発症し易い。

 HLA-DR4は、第三超可変領域の第70〜74アミノ酸配列の相違から、Dw4、Dw10、Dw13、Dw14、Dw15の5種類のサブタイプが存在する。Dw4、Dw13、Dw14、Dw15の人は、関節リウマチを発症し易い(疾患感受性との関連が強い)。Dw10の人は、関節リウマチを発症し易くない。

 関節リウマチの患者のヘルパーT細胞(滑膜組織から分離)は、試験管内で培養して調べると、HLA-DRのサブタイプに関係なく、Glu-Leu-Arg-Ala-Alaのアミノ酸配列(第三超可変領域に存在する)を有するHLR-DRβ鎖を発現している細胞と、反応する。

 2).関節炎発生性抗原
 関節炎発症因子(関節炎発生性抗原)としては、微生物の感染が、疑われている。関節リウマチ患者の発症の引き金として、疑われて来た微生物として、EBウイルス(EBV)などのウイルス、細菌、マイコプラズマ種、ボレリア種、パルボウイルス、マイコバクテリアがあるが、確定的ではない。

 EBウイルスやアデノウイルスなどの構成蛋白は、HLA-DRβ鎖と、アミノ酸配列が、一部、相同性がある。

 細菌(mycobacteriaや、streptococcusなど)は、プロテオグリカンなどの菌体成分が、滑膜の成分と、一部、相同性がある。細菌の構成成分(ペプチドグリカンなど)に対して誘導された免疫応答が、交差免疫で、関節(滑膜)を構成するプロテオグリカンを、障害する可能性が、考えられる
 実際に、関節リウマチ患者では、腸内細菌(大腸菌0−14株)に対する血清中の抗体は、健康人より、倍程度、高く、腸内細菌が、関節リウマチの発症に関与していると言う説もある。大腸菌0−14株は、他の腸内細菌(プロテウス菌、クレブシエラ菌など)と、共通の抗原を有しているが、特に、35KD、38KDの2つの抗原(蛋白質)が、関節リウマチの発症に関連していると言う。なお、本来、腸には、GALTと呼ばれるリンパ装置があり、GALTのパイエル板では、サプレッサーT細胞(Suppresor T cells)を誘導して、食餌性蛋白抗原や、腸内細菌の菌体抗原などに対して、免疫寛容(経口寛容)を成立させている。
 正常では、腸内に常在している、大腸菌などの腸内細菌に対しては、人体は、免疫応答をしない。しかし、上記の説によると、腸内細菌の中には、人体の関節などを構成する蛋白などと似た構造をしている蛋白質(抗原)を有している細菌も存在し、このような腸内細菌に対して、人体が、何らかの理由で、免疫応答を始めると、交差免疫により、自分の関節組織などの破壊(炎症)が行われ、関節リウマチが、発症する(注1)。

 パルボウイルス感染症(伝染性紅斑)では、関節痛は見れられるが、慢性化したり、変形を残さない。

 細菌の細胞壁のペプチドグリカンは、遺伝的素因がある動物を用いて実験すると、関節リウマチ(RA)に似た慢性破壊性関節炎を発症させる。
 微生物(死菌も含む)の構成成分(細胞壁、毒素など)は、慢性炎症性関節疾患を引き起こす。
 
 HSP(heat shock protein)は、関節炎の発症に関与している(注2)。
 大腸菌のHSP(heat shock protein)は、HLA-DRDw4の第三超可変領域と相同性を有している。関節リウマチ患者は、HSPと反応するT細胞や抗体を有している(注3)。
 EBウイルス(EBV)のGp110蛋白も、HLA-DRDw4の第三超可変領域の6個アミノ酸配列と、相同性を有している。

 微生物による腸炎や尿路感染症に罹患し、一定の期間の後、関節炎を生じることがある。このような関節炎では、炎症を起こしている関節内に、微生物を見出せないので、反応性関節炎(Reactive arthritis)を呼ばれる。

 ウサギの実験では、腸内細菌が有する菌体成分により、関節リウマチ(RA)に類似した関節炎が、引き起こされる
 グラム陰性桿菌(Yersiniaなど)でも、反応性関節炎が見られる(ライター症候群に類似している)。
 潰瘍性大腸炎やクローン病など炎症性腸疾患でも、関節炎が見られる。クローン病や潰瘍性大腸炎は、牛乳や乳製品の摂取を禁止し、自然の穀物(精製度が少ない穀物)、野菜、果物を摂取させると、改善したり、治癒すると言う(注4)。

 4.関節リウマチと免疫異常
 1).リウマトイド因子
 リウマトイド因子(RF)は、免疫グロブリン(抗体)のIgGのFc部分に対するIgMクラスの自己抗体(IgM-RF)。IgGクラスの自己抗体(IgG-RFもある。リウマトイド因子(RF)は、変性したIgGや、免疫複合体中のIgGと、強く結合し易く、変性したIgGなどを、生体から除去するのに役立っていると言われる。
 リウマトイド因子(RF)は、関節リウマチ患者では、約80%の人が、陽性になる。リウマトイド因子は、関節リウマチの原因(発症因子)でなく、慢性の炎症に伴なう高γグロブリン血症(免疫複合体などの増加)の結果として、血清中に増加する。
 リウマトイド因子(RF)は、関節リウマチ患者でない健常人でも、約3%の人が陽性になる。リウマトイド因子が陽性だから、関節リウマチだとは、診断出来ない。
 リウマトイド因子(RF)は、関節リウマチの関節炎を発症する前の時期に、陽性になることもある。

 プロテインAは、ブドウ球菌などの細菌表面に存在し、IgGのFc部分に結合する蛋白。リウマトイド因子(RF)は、抗プロテインA抗体(プロテインAに対する抗体)に対して産生される抗体(抗プロテインA抗体のFc部分に対して産生される抗イディオタイプ抗体)だと言う説も存在した。実際、関節リウマチ患者は、抗プロテインA抗体が、高値な症例が多い(16%)。しかし、抗プロテインA抗体が、高値な症例は、関節リウマチの活動性が高い症例であり、自己免疫疾患で良く見られる、ポリクローナルな抗体産生の増加の結果かも知れない(注5)。

  2).滑膜T細胞
 関節リウマチ(RA)患者では、滑膜T細胞(関節の滑膜組織中のT細胞)は、抗原刺激を受けていない:関節リウマチ患者の滑膜T細胞のCD3ζ鎖は、リン酸化されておらず、また、レクチン(PHA)で刺激しても、リン酸化されない(健康人の末梢血T細胞のCD3ζ鎖は、PHAで刺激すると、リン酸化される)。従って、関節リウマチ患者の滑膜T細胞では、レクチン刺激によるT細胞活性化が、抑制されている。このような、T細胞の抑制(早期活性化シグナル伝達異常)も、関節リウマチの原因と言うより、むしろ、結果なのかも知れない。
 関節リウマチのような自己免疫疾患でも、過剰な免疫的炎症を抑制する仕組み(マクロファージから抗炎症作用もあるPGE2を産生するなど)が作動している。
 本来、免疫系には、自己抗原や、腸管内の正常細菌叢の細菌抗原などに対して、免疫寛容を誘導し、免疫的炎症を起こさなくする仕組みが、備わっている。

 なお、関節リウマチで見られる、滑膜の増殖は、骨髄由来の間葉系細胞(線維芽細胞などの間質細胞)が、関節腔に入って、起こる。

 関節リウマチ(RA)の初期の病理所見では、滑膜の微小血管内皮細胞の活性化・障害が見られる。この所見から、関節リウマチでは、原因物質(関節炎発生性抗原)は、血流により、滑膜に輸送されると示唆されている。
 血管内皮細胞は、腫脹し、微小血管内腔が血栓(血小板、白血球、フィブリン血栓)により閉塞し、血管外の滑膜下被覆組織に血漿が滲出し、浮腫が見られる。

 関節リウマチ患者では、滑液中に白血球(好中球)が、増加する(WBC>2,000/mm3注6)。
 関節リウマチ患者の関節液中(滑液中)には、補体(C5a:補体は、RFなど免疫複合体により活性化される)、ロイコトリエン(LTB4)、血小板活性化因子(PAF)、インターロイキン(IL-8)などが存在し、好中球を、滑液中に遊走させる。

 関節リウマチでは、初期には、関節の滑膜に、炎症により、浮腫や細胞浸潤が起こり、滑膜が肥厚する。炎症性細胞浸潤では、まず、好中球(多核白血球)が浸潤(遊走)し、次いで、リンパ球(T細胞、B細胞、形質細胞)が、出現する。
 炎症に伴ない、滑膜内装細胞(lining cell)が増殖し、また、滑膜絨毛が肥大する。
 滑膜は、肉芽組織(パンヌス:pannus)により肥厚し、関節軟骨の表面に広がる。

 関節リウマチは、滑膜に持続性の炎症が起こる:新生血管が増加し、リンパ球(T細胞が優位)が浸潤し、滑膜を構成する滑膜細胞が増殖する。

 3).IL-6
 関節リウマチ患者の関節液中には、サイトカインのIL-6が、著明に増加している。
 IL-6は、IL-6受容体のgp130(シグナル伝達性サブユニット)を介して、STAT3を介するシグナル伝達経路と、SHP2/GAB/PI3K/MAPKを介するシグナル伝達経路とを活性化させる。後者(SHP2/GAB/PI3K/MAPKを介するシグナル伝達経路)は、前者(STAT3を介するシグナル伝達経路)を抑制する(負の作用をする)。前者(STAT3を介するシグナル伝達経路)は、抗体産生や、B細胞分化に必要。
 F759マウスは、加齢と共に、関節リウマチ類似の関節炎を発症するF759マウスは、ノックインマウスであり、変異gp130を発現して、SHP2シグナルを欠損している。F759マウスは、(SHP2/GAB/PI3K/MAPKを介するシグナル伝達経路が働かない為、gp130を介して、)STAT3を介するシグナル伝達経路が、亢進している。後者(SHP2/GAB/PI3K/MAPKを介するシグナル伝達経路)が欠損すると、前者(STAT3を介するシグナル伝達経路)が抑制されず、免疫応答などあ、亢進する。
 このように、IL-6受容体が異常を来たすと、シグナル伝達経路に異常が生じ、自己免疫疾患が発症する。
 IL-6受容体に対する抗体は、関節リウマチに、治療効果を示す。

 4).IgG糖鎖 
 関節リウマチ患者では、IgG糖鎖の末端が、ガラクトースを欠損し、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)に変化していることが多いと言う。IgG糖鎖の末端が、ガラクトースを欠損すると、IgGは、補体の活性化機能、Fc受容体への結合機能を、失ってしまう。このように、関節リウマチ患者で、IgG糖鎖の末端が、ガラクトースを欠損するのは、B細胞(IgG産生細胞)のβ1,4ガラクトース転移酵素が、異常を来たす為と、考えられている(恐らく、このような異常は、関節リウマチの原因と言うより、過剰な炎症を抑制する為の、生理的な機能が作動した結果と、思われる)。

 5).高脂血症(高リポ蛋白血症)
 II型高リポ蛋白血症(家族性高コレステロール血症)や、IV型高リポ蛋白血症では、リウマチ性の関節炎を合併することがある。II型高リポ蛋白血症のホモ接合体の若年患者では、移動性多発性関節炎が、50%の頻度で、見られる。

 6).滑膜細胞
 関節は、運動に際して、屈曲・進展する可動性を有している。
 可動性の関節は、血行が豊富で、血行性に、あらゆる抗原が、関節を通過する。
 可動性の関節の関節包の内面は、滑膜(synovial membrane)によって、覆われている。滑膜の表層は、間葉系の滑膜細胞が、2〜3層に覆っている。
 滑膜は、潤滑油として働く関節液を産生し、関節腔内に供給し、関節がスムーズに可動するようにしたり、関節(関節軟骨)に栄養を供給している。

 滑膜細胞は、抗原提示細胞として機能すると考えられている。滑膜周囲に、血液中を、血行性に到達した抗原(関節炎発生性抗原)は、滑膜細胞表面のHLA-DR(MHCクラスII分子)により、ヘルパーT細胞へ抗原提示され、好中球、リンパ球、マクロファージなどの炎症細胞が、滑膜に浸潤し、血管新生が起こり、関節リウマチの関節炎が、起こる。

 あるいは、滑膜には、微生物の抗原(関節炎発生性抗原)と似た構造の蛋白(糖蛋白)が存在し、微生物(腸内細菌?)に感染して、微生物の抗原(関節炎発生性抗原)に対して、免疫が誘導され、産生された抗体が、滑膜の微生物の抗原(関節炎発生性抗原)と似た構造の蛋白に結合し、免疫複合体が形成され、好中球など炎症細胞が、滑膜に浸潤し、関節リウマチの関節炎が、起こるのかも知れない。

 関節リウマチは、関節滑膜に、持続性の炎症が起こり、病理組織学的には、血管新生、リンパ球浸潤(T細胞が優位)、滑膜細胞増殖が認められる。

 5.関節リウマチと性格
 関節リウマチの患者は、几帳面で、完璧主義で、周囲の人への不満を、口に出さずに、自分の中に抑圧するタイプが多いと言う。
 慢性的な痛みは、精神的に苦痛であり、人間の精神に様々な異常をもたらす。
 患者は、慢性的な痛みに耐える為に、自分の感情を抑圧することを強いられる。
 余程の聖人でない限り、人間は、痛みがある時には、自己中心的になるのが、当然だと思われる。
 痛みから来る、不安、葛藤は、抑圧しないで、周囲に人などに吐露した方が、健康には良いと思われる。
 人間は、慢性的に長期間の痛みに悩まされ、人生に失望したまま、痛みに忍耐して、心を閉ざして、生きてしまうことがないようにしたいものである。
 患者は、周囲に、相談に乗ってくれたり、慰めてくれたり、思いやってくれる人がいれば、少しでも、痛みや苦痛などが、癒されることが出来る。

 7.関節リウマチと動脈硬化
 関節リウマチ患者(RA患者)は、頚動脈に動脈硬化(頚動脈アテローム硬化症)を来たすことが多い。関節リウマチ患者は、危険因子(血清中コレステロール高値、高血圧、喫煙)などを有していなくても、頚動脈に動脈硬化を来たす率が、(対照群より、3倍高い。
 関節リウマチの慢性炎症が、動脈硬化を促進する可能性がある。

 (関節リウマチ患者への)副腎皮質ホルモンの投与(ステロイド剤療法)や、NSAIDsであるCOX-2阻害薬療法は、アテローム性動脈硬化を促進させる要因ではない。
 TNF-α阻害薬の使用、年齢、高血圧は、関節リウマチ患者に、頚動脈に動脈硬化を来たす率を高める。

 なお、SLE患者は、動脈硬化を来たすことが、著しく多い。
 SLE患が動脈硬化を来たすことが多いのは、SLEに伴なう慢性炎症が関与しているが、SLEに対する治療や、動脈硬化を来たす危険因子(血清中コレステロール高値など)は、関与していない。

 8.腸内細菌
 腸内細菌は、免疫系を賦活する。

 腸内細菌叢は、新生児時期から、形成が始まる。
 生後3カ月以内に、抗生剤を投与すると、アレルギー性疾患に罹る頻度が、増加する。

 プロバイオテックス(ビフィズス菌など)は、病原微生物の増殖を抑制する。

 宮入菌(Clostridium butyricum)は、酸素が存在しない大腸で、増殖する。宮入菌は、偏性嫌気性の桿菌で、グラム陽性、有芽胞。宮入菌は、酢酸、酪酸を産生する。なお、ビフィズス菌は、Bifidobacterium属に属する偏性嫌気性の多形性桿菌で、芽胞は形成せず、乳酸、酢酸を産生する。 
 Clostridium butyricumは、腐敗菌の増殖を抑制する。
 Clostridium butyricumは、健康成人の10%が保有している。Clostridium butyricumは、土壌中にも、存在する(芽胞を形成する)。
 宮入菌製剤(ミヤリサン)は、内服30分後に、小腸上部〜中部で発芽し、24時間後に、小腸下部で、分裂増殖する。宮入菌製剤(ミヤリサン)は、芽胞なので、製剤中の菌は、安定して、生存している。
 宮入菌製剤(ミヤリサン)は、腸管出血性大腸菌(EHECO157など)の増殖を抑制し、ベロ毒素(志賀様毒素:SLT1型とSLT2型)の産生を抑制する。
 宮入菌製剤(ミヤリサン)は、ピロリ菌を殺菌し、増殖を抑制する。ピロリ菌は、酢酸、酪酸、乳酸によって、抑制される(特に、酪酸の抑制効果が、強い)。

 炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)では、腸内細菌叢が変化し、ビフィズス菌が減少し、バクテロイデス属細胞が増加している。マウスに、デキストラン硫酸炎で、腸炎を惹起し、遺伝子操作プロバイオテックス(Lactococcus lactis)を内服させると、腸炎が、回復する。

 プロバイオテックス(ラクトバチルス:L.rahmnosus GG)を、分娩2〜4週間前から、妊婦に飲ませ、生まれて来た新生児にも、生後6カ月間飲ませると、アトピー性皮膚炎の患者の自覚症状の発症率が、減少する(2歳時のアトピー性皮膚炎発症率は、プらセボ群が46%なのに対して、プロバイオテックス投与群は24%)。

 2017年10月8日追記
 青木重久愛知医科大学名誉教授の研究によると、関節リウマチの原因は腸内細菌叢の乱れだと言う。
 大腸菌O-14株は、多くの腸内細菌が共通して保有する抗原(enterobacterial common antigen:ECA)を細胞壁に保有する。
 難治性腎盂腎炎は、尿中に(腸内)細菌は検出されない。
 大腸菌O-14株を加熱して死菌をウサギに筋注し、得られた抗ECA抗体を用いた研究から、難治性腎盂腎炎では、腎臓の間質に腸内細菌由来抗原が存在していて、発症に関与している。
 抗ECA抗体を作製する為に飼育しているウサギに、関節炎(腸内細菌関節炎)を発症するウサギがいて、リウマトイド因子(RF)様物質が陽性であることが判明した。
 抗ECA抗体を作製する為に飼育していて関節炎を発症したウサギの腸内細菌叢を検査した。すると、生体に有益なLActobacillus属菌が腸内から減少し、Clostridium属やブドウ球菌が検出され、好気性菌と嫌気性菌の比率が変化していた。
 腸内細菌叢を改善すると、関節リウマチの症状の改善が得られることが、細菌、明らかになって来ている。

 9.血中脂質
 オランダの血液銀行の献血サンプルを用いた分析では、血中の脂質値が高い人は、10年以内に、関節リウマチ(RA)を発症するリスクが高い(Annals of Rheumatic Disease, 2006年、オンライン版)。
 関節リウマチ(RA)を発症した人は、発症しなかった人に比して、総コレステロールは4%高く、HDL-コレステロールは9%低く、中性脂肪(TG)は17%高く、アポ蛋白B(アポリポ蛋白質B:アポB)は6%高かったと言う。
 血中脂質が増加すると、関節リウマチ(RA)などの炎症性疾患に、罹り易くなると推測されている。

 10.抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)
 関節リウマチでは、抗ケラチン抗体や、抗核周囲因子(抗核抗体の1種)が、特異的に陽性になることが、知られていた。これらの抗体(因子)は、フィラグリン(上皮細胞の角化に関係する)分子上のシトルリン化したアルギニン残基(シトルリン化フィラグリン)が、抗原エピトープになっていることが、解明された。
 関節リウマチでは、シトルリン化された蛋白(シトルリン化フィラグリン)に対する抗体(抗シトルリン化抗体:抗シトルリン化蛋白抗体)が、陽性になる。
 抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)は、抗シトルリン化蛋白抗体を測定する:CCPは、cyclic citrullinated peptide(環状シトルリン化ペプチド)の略。
 関節リウマチ患者で、抗CCP抗体が高い人は、関節破壊の進行が速い。
 抗CCP抗体は、稀に、(関節リウマチの)発症前から、検出される(陽性になる)。
 抗CCP抗体(抗シトルリン化ペプチド抗体)は、保険適用が承認されていなかった(2006年4月時点)が、2007年(平成19年)4月1日から保険適用が承認された(保険点数=210点)。ただし、「抗シトルリン化ペプチド抗体精密測定(抗CCP抗体)は、診察、リウマチ因子測定、画像診断等の結果から、関節リウマチと確定診断できない者に対して診断の補助として検査を行った場合に、原則として1回を限度として算定する。ただし、当該検査結果が陰性の場合においては、3月に1回に限り算定できる。」となっている。

 シトルリンは、非コーディングアミノ酸(核酸にコードされないアミノ酸)なので、mRNAから翻訳されたばかりの蛋白質中には含まれていない。
 蛋白質は、mRNAから翻訳された後に、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(peptidyl arginine deiminases:PADI)酵素により、蛋白質中のアルギニンが、シトルリンに変換され、シトルリンを含む(シトルリン化)蛋白質が合成される。
 関節リウマチでは、自己抗体(リウマトイド因子、抗核周囲因子、抗ケラチン抗体、抗Sa抗体)が認識する抗原分子がシトルリン化している(シトルリン化ペプチド)。シトルリン化ペプチドと結合する自己抗体は、抗CCP抗体などの抗シトルリン化ペプチド抗体。
 ヒトには5種類のPADT酵素が存在するが、RADI4の遺伝子は、血球に発現していて、多型を有する。RADI4遺伝子の多型により、RADI酵素はアミノ酸配列に相違が生じる。RADI4遺伝子の多型は、2種類(2アレル)が、集団中に高頻度に認められるが、その内の1種類は、関節リウマチ感受性と関連がある(抗シトルリン化ペプチド抗体の産生を増加させ、関節リウマチ発症リスクを高める)。

 11.MMP-3
 MMP-3(matrix metalloprotease-3:マトリックスメタロプロテアーゼ-3)は、プロテオグリカン(細胞外マトリックス)を分解する酵素。MMP-3は、マトリックスメタロプロテイナーゼ-3(matrix metalloproteinase-3)、ストロメライシン-1とも呼ばれる。
 MMP-3は、滑膜細胞などから産生される中性プロテアーゼで、軟骨破壊や関節破壊に関与する。
 MMP-3は、関節リウマチでは、滑膜炎や、関節破壊を反映して、血清中にも、滑膜中(関節液中)にも上昇する。
 MMP-3は、変形性関節症や、痛風では、あまり、上昇しない。

 MMP-3は、線維芽細胞、滑膜細胞、軟骨細胞から分泌される。
 MMP-3は、蛋白分解酵素で、軟骨プロテオグリカン、コラーゲン(III型、IV型、V型、VII型、IX型)、ラミニン、フィブロネクチン、ゼラチンを分解する。

 関節リウマチでは、増殖した滑膜表層細胞からMMP-3が産生され、軟骨破壊に関与している。
 血清MMP-3濃度は、早期の関節リウマチ患者では、増殖滑膜量を反映して上昇する。早期の関節リウマチ患者では、血清MMP-3濃度が高い人程、関節破壊の進行が早い(予後不良)。血清MMP-3濃度は、変形性関節炎、痛風、多くの膠原病症例では、上昇しない。
 血清MMP-3濃度の測定は、骨破壊進行の予後予測や、薬剤治療効果の判定に有用と言われる。

 12.その他
 ・関節リウマチでは、関節液中のムチン含有量が減少する(関節液の粘稠度が低い)。
 ムチンは、酸により、凝固する。関節液を太い針を装着した注射器に吸い、5cm程度の高さから、1%酢酸50mlの液面に滴下する(関節液のムチン酢酸テスト)と、正常な関節の関節液は、滴下した酢酸液面に、固い、しっかりした、球状のムチン凝塊を形成する。変形性関節症や外傷性関節炎の関節液は、ゆるい、不規則な形のムチン凝塊を形成する。関節リウマチの関節液は、崩れて、少し分散したムチン凝塊を形成する。細菌感染性関節炎の関節液は、著しく分散したムチン凝塊を形成し、酢酸液全体が混濁する。

 ・関節リウマチの関節液は、好中球優位に、白血球数が、10,000/mm3以上に、増加する(白血球数の増加の程度は、変形性関節炎<関節リウマチ<化膿性関節炎の順に多い)。
 関節リウマチの関節液は、細胞数や多核白血球比率(好中球比率)は、増加する(感染性関節炎程は、多くない)。
 関節リウマチの関節液は、リウマトイド因子(RF)は陽性で、補体価は低いのが特徴。
 関節リウマチの関節液は、急性期は、好中球が優位だが、慢性期にはリンパ球が優位になる(急性期は、免疫複合体により、補体が活性化され、好中球が浸潤し、リソソームを放出し、慢性期には、T細胞などが浸潤し、サイトカインなどの炎症メディエーターが放出され、PGE2により、痛みが増強する)。

 ・関節リウマチでは、四肢の小関節、特に、近位指節関節(proximal interphalangeal joint:PIP)、中手指節関節(metacarpophalangeal joint:MCP)、中足指節関節に炎症が起こり、自発痛、運動痛、熱感、腫脹などが起こる。関節リウマチでは、母指を除いて、遠位指節関節(distal interphalangeal joint:DIP)に炎症が起こることは、少ない。変形性関節症は、遠位指節関節(DIP)にも起こる(ヘバーデン結節と呼ばれる)が、中手指節関節(MCP)は障害されることは少ない。
 関節リウマチでは、初期には、関節の滑膜に炎症が起こり(滑膜性炎症:パンヌス形成)、次第に、骨萎縮(骨組織の限局的吸収)などが起こり、関節破壊が起こる。変形性関節症では、不規則な骨棘を伴った骨変形(骨性炎性)が起こる。
 関節リウマチでは、肩関節も侵されるが、股関節は侵されることが少ない。

 ・抗原に抗体が結合し、免疫複合体が形成されると、補体系が活性化され(アナフィラトキシンであるC3aやC5aが形成される)、肥満細胞や好塩基球から、ヒスタミンが遊離され、血管透過性が亢進する。C5aは、多核白血球(好中球)とマクロファージを、局所に遊走・浸潤させる。
 多核白血球(好中球)は、表面のFc受容体に、免疫複合体を結合させ、貪食したり、リソソームを放出する。
 血管内(小静脈内)で、このように、抗原に抗体が結合し、免疫複合体が形成されると、アルサス型反応(抗体過剰のIII型アレルギー反応)により、3〜8時間後に、皮膚に、紅斑(発赤)と浮腫が生じる。
 III型アレルギー反応(アルサス型、免疫複合体型)は、免疫複合体により、免疫グロブリンのFc部分に対する受容体(FcRγ鎖:CD16)を有する細胞(好中球、マクロファージ、皮膚のランゲルハンス細胞、肥満細胞、腎糸球体のメサンギウム細胞など)が活性化され、起こる。
 炎症の原因による増加する細胞の相違
 炎症の原因  細菌感染  ウイルス感染  免疫複合体
 浸潤し増加する細胞  好中球  リンパ球  好中球
 ・関節リウマチでは、関節液中の補体価は低下している(免疫複合体により活性化され消費される)が、血液中(血清中)の補体価は低下していない(血清中のIgGは、19Sリウマトイド因子と結合し、補体結合性のない免疫複合体を形成する:リウマトイド因子は、補体の活性化を抑制している)。

 ・関節リウマチでは、免疫グロブリン(IgG)や、補体が、滑膜の間質、内張り細胞(lining cell)、滑液中(関節液中)の好中球に、粗大に、不整に、沈着している。

 ・破骨細胞分化因子(RANKL)は、破骨細胞(骨吸収細胞)を増加させる。
 RANKLは、滑膜細胞(滑膜組織)から分泌される。
 関節リウマチの骨破壊部位では、骨に侵入している滑膜の最前線に破骨細胞が多数集積していて、骨吸収(骨破壊)が盛んに行われている。関節リウマチの滑膜細胞は、破骨細胞を増加させるRANKLを多量に産生している。
 T細胞は、破骨細胞を減少させるIFN-γを産生し、骨を保護している。他方で、T細胞はIL-17(サイトカインの1種)を産生し、IL-17は滑膜細胞のRANKLの産生を増加させ、破骨に関与する。IL-17は、TNF-αの産生を増加させ、TNF-αは、炎症を悪化させたり、RANKLの産生を増加させる。
 抗TNFα抗体製剤(インフリキシマブ:Infliximab)やTNFα阻害薬(エタネルセプト:Etanercept:ヒトTNF可溶性レセプター)は、TNFαの作用を抑制して炎症を抑制するのみならず、RANKLの産生を抑制して骨破壊をも抑制すると言われる。

 ・関節リウマチ患者(RA患者)には、アルツハイマー型認知症(Alizheimer-type dementia:ATD)が少ない。

 注1:関節リウマチの治療に用いられる、サラゾスルファピリジン(SASP:アザルフィジンEN錠)は、内服された後、大腸で、腸内細菌によって還元され、スルファピリジン(SP)と言うサルファ剤(抗生物質)と、5-アミノサリチル酸(抗炎症作用がある)とに、分解される。抗生物質(抗菌薬)である、スルファピリジン(サルファピリジン)が、関節リウマチを悪化させている腸内細菌を減少させることも、治療効果の一因かも知れない。
 悪い作用を示す腸内細菌を減少させる為には、高蛋白・高脂肪食(肉食など)を減らし、野菜を多く摂ることも、良いように思われる。

 注2HSP(熱ショック蛋白質)は、生物細胞が、熱や紫外線や化学物質などのストレスに反応して、産生する蛋白。
 生物の細胞は、ストレスによって、細胞内に異常な蛋白質が生じ、蛋白質の立体構造が崩壊したり、蛋白質が凝集したりしてしてしまう。このような細胞内の蛋白質により、細胞は、死に至ってしまう。
 このようなストレスによる細胞内の蛋白質の変性に際して、細胞内には、異常な蛋白質を感知し、修復したり、分解する仕組み(機構)が、存在する。
 細胞は、ストレスによって、異常な蛋白質が増加すると、細胞質で、HSF-1(Heat Shock Factor-1)を活性化させる。HSF-1は、核内へ移動し、HSPのDNAに結合し、HSPのmRNAの転写を開始させ、HSPを、生成させる。ストレスが存在しない際(正常な細胞)には、HSF-1は、細胞質に存在するが、HSPは、ほとんど存在しない。

 テプレノン製剤(セルベックス)は、胃炎・十二指潰瘍の治療に、胃粘膜細胞の保護作用を目的に、用いられる。
 テプレノン製剤(セルベックス)は、HSF-1を活性化させ、HSPのmRNAの転写(HSPのDNAからmRNAへの転写)を促進させ、胃粘膜細胞の保護作用を現す。

 注3:HLA-DRは、MHCクラスII分子であり、ヘルパーT細胞に抗原を提示する(HLA-DRのようなMHCクラスII分子は、喩えて言えば、籠であって、抗原を入れて、ヘルパーT細胞に、抗原を手渡し、ヘルパーT細胞を活性化させ、免疫応答を引き起こす)。
 HSP(heat shock protein)のように、HLA-DRDw4の第三超可変領域と相同性がある蛋白は、変性するとMHCクラスII分子+抗原としてヘルパーT細胞により認識され、非特異的にヘルパーT細胞を活性化させるのかも知れない。
 あるいは、HLA-DR(Dw4)の第三超可変領域と相同性がある大腸菌のHSPに対して、免疫応答が引き起こされると、交差免疫によって、自己のHLA-DRの第三超可変領域に対しても、免疫的障害反応が惹起され、HLA-DRを有する細胞が、障害されるのかも知れない。
 注4:炎症性腸疾患の患者さんは、発症前に、ファストフードやインスタント食品の摂取量が多い傾向があり、炎症性腸疾患の発症に、加工食品中の食品添加物が関与していると言う説もある。
 炎症性腸疾患の発症への関与が疑われている食品添加物には、増粘剤(増粘多糖類)のカラゲニン(カラギーナン)。
 カラゲニン(カラギーナン)は、海藻(紅藻)から抽出された天然の食品添加物だが、潰瘍性大腸炎の発症への関与が疑われている。カラゲニン(カラギーナン)は、腸管粘膜の免疫細胞(マクロファージ)に貪食され、酵素(リゾソーム)を放出させ、腸管組織に炎症や障害を引き起こすと言う。
 カラゲニン(カラギーナン)は、ゼリー、プリン、乳製品、アイスクリーム、ヨーグルト、水産ねり製品、プロセスチーズなどに含まれている。
 ヨーグルトを常食している人の腸相は、良くないと言う。ヨーグルトは、乳酸菌を含んでいるが、ヨーグルトを飲んでも、乳酸菌により、腸内細菌叢が改善しないと言う。
 乳酸菌(死菌)の細胞壁には、強力な免疫増強作用がある。

 小児のクローン病(Crohn disease)では、55%の患児は、血液中にASCA(anti-Saccharomyces cerevisiae antibodies:酵母に対する抗体)が陽性になる(潰瘍性大腸炎では、5%の患児が陽性になるに過ぎない)。
 クローン病や潰瘍性大腸炎は、牛乳や乳製品の摂取を禁止し、自然の穀物(精製度が少ない穀物)、野菜、果物を摂取させると、改善したり、治癒すると言う。
 油中水型(water in oil)に、抗原が脂肪中(油中)に存在すると、抗原性(免疫原性)が増強される為、自己免疫疾患(多発性硬化症、クローン病など)や、アレルギー性疾患を、引き起こす怖れがある。牛乳や、バターは、含まれている界面活性剤の作用をする物質により、乳化している(脂肪分と水分が均一に混じっているエマルジョン)ので、クローン病や、多発性硬化症などの自己免疫疾患の人には、良くない食品かと考えられる。
 クローン病(Crohn's disease)や、潰瘍性大腸炎の患者由来のリンパ球は、同じ人(患者)の腸内細菌の菌体や、細菌の表面抗原により、刺激される。このように、クローン病や、潰瘍性大腸炎の患者は、消化管の免疫寛容が成立しておらず、腸管内で、腸内細菌(常在細菌叢)に対しても、免疫応答をしてしまう。
 クローン病の患者は、サイトカインのIL-23受容体の遺伝子変異が少なく、非クローン病の健常者はIL-23受容体の遺伝子変異が多いと言われる。IL-23は慢性炎症を調節し細菌感染から防御する。IL-23受容体は、白血球(リンパ球やマクロファージ)に存在している。

 Mycobacterium paratuberculosisは、牛乳などの乳製品を介して、人間に感染する。
 M. paratuberculosisは、畜牛に、ヨーネ病と呼ばれる消耗性疾患(下痢を伴う)を引き起こす。
 クローン病の組織からM. paratuberculosisが検出される。M. paratuberculosisは、クローン病患者の約2/3に存在する血中抗体(ASCA)の潜在的な引き金になると言う。M. paratuberculosisは、マクロファージが体内の大腸菌(E. coli)を貪食するのを阻害する因子(糖鎖であるマンノースを含有する複合分子)を産生(放出)する。クローン病の患者は、腸内細菌に対する免疫能が低下して、腸内に、粘着性を有するタイプの大腸菌が増加している。(Gastroenterology, 133,1487-1498,2007)
 自験した難治性クローン病の成人1例では、抗生剤(カナマイシン:KM)を、2週間以上、内服させることで、下痢などの症状が改善し、体重増加が得られた。

 ω3脂肪酸(n-3系多価不飽和脂肪酸:4g/日)を、経口投与(最長58週間)させても、クローン病の再発の予防効果は認められていない(Feagan BG, et al. JAMA 2008; 299: 1690-1697.)。
 クローン病の再発を抑制するために(緩解維持療法)、免疫抑制薬が使用されるが、感染症リスクが増加する。


 注5:関節リウマチのような自己免疫疾患では、発症因子(発生性抗原)に対してのみならず、他の抗原に対しても、ポリクローナルな抗体産生や免疫応答が、亢進していると考えられる。
 一つの抗原に対する免疫応答の亢進は、自己免疫疾患における免疫応答の亢進の結果であり、原因でないことも考えられる。
 一つの抗原に対する免疫応答の亢進を持って、その抗原が、発症因子とは、言えない。

 関節リウマチでは、免疫応答が亢進すると同時に、亢進した免疫応答を抑制する機構も、働いている(RFの産生など)。
 また、関節リウマチでは、治療に用いられる副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)や、免疫抑制剤(MTXなど)により、免疫応答が抑制される。
 関節リウマチのようなリウマチ性疾患では、免疫応答の抑制の結果、日和見感染症が起こることがある。
 日和見感染症として起こる、CMV感染症(サイトメガロウイルス感染症)では、発熱、肝機能異常、肺炎などの症状が現れる。発熱は、原疾患の増悪時にも見られるが、CMV感染症の症状であることもある。
 CMV感染症は、関節リウマチ患者を、インフリキシマブで治療した際にも、頻度は少ないが、起こることがある(36万5000人中16人)。

 注6:小児に多い若年性関節リウマチ(JRA:Juvenile Rheumatoid Arthritis:)では、末梢血中に白血球(好中球)が、増加する。全身型若年性関節リウマチは、スティル病(スチル病:Still's disease)と呼ばれる。
 若年性関節リウマチでは、腹痛を訴えた際に、腹水中の好中球数が増加し、急性虫垂炎と紛らわしいことがある(抗体が腹水中にも移行し、腹膜中の抗原と結合し、免疫複合体が形成され、補体が活性化され、好中球が遊走する:JRAはIII型アレルギーで発症する?)。
 JRAは、関節炎より、発熱(弛張熱)が、初期症状のことが多い。
 JRAでは、下の写真のような発疹(ピンク色の紅斑:リウマトイド疹)が見られることがある。
   
 JRAでは、血中の免疫複合体(Immune Complex)を、C1q法(C1q binding test)やRaji cell法(Raji cell radioimmunoassay)にて検査すると、特に、全身型で増加している症例がある。小関節型でも、血中の免疫複合体が増加している症例がある。血中の免疫複合体(C1q法)は、活動性の症例で増加し、非活動性の症例では、低い(正常範囲内の症例が多い)。

 若年性関節リウマチ(JRA:Juvenile Rheumatoid Arthritis)は、近年、若年性突発性関節炎(JIA:Juvenile Idiopathic Arthritis)と呼ばれるようになった。
 若年性突発性関節炎(JIA)の関節型の症例でも、RF因子陽性の症例は、成人の関節リウマチ(RF)と同型で、炎症反応が強い。
 若年性突発性関節炎(JIA)の関節型の症例でも、ANA陽性(抗核抗体陽性)の症例は、ブドウ膜炎を併発することが多い(10〜50%)が、炎症は軽い。
 若年性突発性関節炎(JIA)の関節型の症例に対しては、MTX(Methotrexate:遅効性)、Aspirin(アスピリン:他のNSAIDsを用いることがある:速効性)、Predonisolone(ステロイド剤:速攻性)によるMAP療法が行われる。MAP療法では、ステロイド剤を少量用いることにより、炎症を早期に抑制するので、MTX単独療法に比して、1年後の炎症抑制効果は同等であっても、骨・関節破壊の程度が異なる。MAP療法により、若年性突発性関節炎(JIA)の約73%が、寛解を得る。
 若年性突発性関節炎(JIA)では、IFN-α誘導蛋白の尿中β2-MGや、IFN-γ誘導蛋白のフェリチン(Ferritin)が、増加する。全身型JIAでは、IL-6が高値を示す。また、細胞障害を反映して、血中のAST、LDH、CK(CPK)値が上昇する。

 思い返すに、長野県木曽地方の病院に勤務していた時に、何故か、JRAの患児さんが多かった。
 木曽地方では、「すんき漬け」が食べられている。普通の漬物は、食塩で、雑菌の繁殖を抑制し、野菜が高い浸透圧の食塩水の中に沈んだ状態で、乳酸発酵が嫌気状態で行われる。しかし、「すんき漬け」は、食塩を用いないで、すんき菜を湯通しした後に、「すんき漬け」に含まれる乳酸菌を加え、発酵させて作る。「すんき漬け」に混入している何らかの細菌(嫌気性菌?)が、JRAの発症に関与していたのかも知れない。

 参考文献
 ・リウマチ入門 第10版[日本語版] 日本リウマチ学会編集(萬有製薬株式会社発行、1996年).
 ・大岡真彦:リウマチという語の使われ方の変遷 日本醫事新報 No.4199(2004年10月16日)、98-99頁.
 ・甲田光雄:小食が健康の原点 たま出版 1998年.
 ・今井正、他:標準薬理学 第6版 (医学書院、2001年).
 ・森亘、桶田理喜、監訳:ロビンス 基礎病理学 第7版、廣川書店、平成16年.
 ・安倍達、他:慢性関節リウマチの病因と関節病変形成機序 日本臨床免疫学会雑誌 Vol.15 No.6、538-546、1992年.
 ・平野俊夫:サイトカインの分子生物学・免疫的研究:インターロイキン6研究から亜鉛シグナル研究へ 日本医師会雑誌 第134巻・第10号別冊、52-58、2006年.
 ・河合忠:目で見る初期診療の検査計画と結果の読み方(エスアールエル、1997年).
 ・John J. Calabro, et al: 慢性関節リウマチ、Clinical Symposia selected edition I、157-184頁、昭和53年(日本チバガイギー株式会社).
 ・山本雄造:HSPの胃粘膜細胞保護作用のスイッチを入れるHSF-1、日本醫事新報、No.4154、2003年12月6日号、C7-C10頁.
 ・西岡久寿樹:慢性関節リウマチの成因−微生物の役割を中心として、関節リウマチの診断と治療、臨床消化器内科 別冊、Chronic Disease、No.3 1990年、113-114頁.
 ・新谷弘実:胃腸は語る−胃相腸相からみた健康・長寿法、弘文堂(平成10年初版、平成12年11刷).
 ・高橋茂樹、他:II関節リウマチとその周辺疾患、STEP内科E(INTERNAL MEDICINE)、消化器・膠原病(Gastroenterology Collagen Disease)、357-376頁、2006年第2版(1999年第1版第1刷発行).
 ・血中脂質高値が関節リウマチリスクに、Medical Tribune、Vol.39 No.30、1頁、2006年7月27日号.
 ・、他:最近の関節リウマチの診療体系をめぐって、特集 関節リウマチ診療の進歩、日本医師会雑誌、第135巻・第5号、1017-1032頁、2006年(平成18年8月).
 ・深江淳、小池隆夫:リウマチ学における進歩:from bench to clinic、日本医師会雑誌、第135巻・第5号、1033-1036頁、2006年(平成18年8月).
 ・三森経世:関節リウマチの早期診断とその有用性、日本医師会雑誌、第135巻・第5号、1038-1042頁、2006年(平成18年8月).
 ・佐原力三郎:よくわかる最新医学、大腸がん・潰瘍性大腸炎・過敏性腸症候群、主婦の友社(平成18年8月).
 ・竹内勤:サインを知って早期発見、NHK きょうの健康、2006年3月号、72-76頁.
 ・綾仁冨彌:小整形外科書、MINOR TEXTBOOK 12、金芳堂、1978年改訂第7版第1刷(1964年第1版第1刷発行).
 ・上田英雄、他:内科学(第四版、1987年、朝倉書店).
 ・新井俊彦訳:ロアット免疫学要説(Essential Immunology Ivain M. Roitt) 原著第3版(理工学社、1981年).
 ・竹内勤:関節リウマチにおける関節組織破壊のしくみ、日本医師会雑誌 特別号(1)、わかりやすい免疫疾患、S14-S15、2005年(平成17年).
 ・羅智晴:アレルギーとは、日本医師会雑誌 特別号(1)、わかりやすい免疫疾患、S57-S62、2005年(平成17年).
 ・宮坂信之:関節リウマチ、日本医師会雑誌 特別号(1)、わかりやすい免疫疾患、S166-S171、2005年(平成17年).
 ・新谷弘実:病気にならない生き方、75頁、サンマーク出版(2005年).
 ・寺脇保、鉾之原昌:図解 若年性関節リウマチ、昭和57年11月(田辺製薬株式会社).
 ・山中寿:マトリックスメタプロテイナーゼ-3(MMP-3)、最新 臨床検査のABC、日本医師会雑誌 第135巻・特別号(2)、生涯教育シリーズ−70、S318頁、平成18(2006)年10月.
 ・山田亮:質疑応答 関節リウマチとシトルリンの関係、日本医事新報、No.4318(2007年1月27日)、93-94頁.
 ・藤田紘一郎:キレイ社会の落とし穴 ガン増加をまねいた 腸内細菌のエサ不足、現代農業、2006年4月号、346-351頁.
 ・日高徹、湯川宗昭:食品添加物事典、株式会社食品化学新聞社、平成9年発行.
 ・藤井清次、林敏夫、慶田雅洋:食品添加物ハンドブック 第ニ版、光生館、1965年初版第1刷発行、1997年第ニ版第1刷発行.
 ・増尾清:新・食品添加物とつきあう法−なくす日までの自己防衛−、農山漁村文化協会、1993年第1冊発行、1997年第10冊.
 ・高柳広:質疑応答 骨免疫学の概念と今後の展望、日本医事新報、No.434682007年8月11日)、97-98頁.
 ・牛乳に含まれる細菌がクローン病の原因に、Medical Tribune、2008年2月21日、Vol.41 No.8、6頁.
 ・渡辺佳夫、井ノ口健也:介護保険資料による関節リウマチ患者の認知症合併率の検討、日本医師会雑誌、第137巻・第4号、平成20年(2008年)7月、758-760頁.
 ・ω3脂肪酸のクローン病再発予防効果示されず、海外の主要医学誌から Journal Scan、Medical Tribune、2008年5月1日号、50頁.
 ・青木重久:関節リウマチの原因は腸内細菌の乱れ、日経メディカル 特別編集版 2017AUTUMN、007-009頁.
 ・David Koffler: The Immunology of Rheumatoid Diseases, CLINICAL SYMPOSIA, Volume 22 Number 3 1981.
 ・Earl J. Brewer, et al: Juvenile rheumatoid arthritis, volume VI in the series, major problems in clinical pediatrics, W. B. Saunders Company (1982, second edition).
 ・Jeffrey S. Hyams: Chapter 333 Inflammatory Bowel Disease, 1575-1585, Nelson Textbook of Pediatrics (18th Edition, 2007).

 |トップページ脂質と血栓の関係ミニ医学知識生化学の知識医学の話題小児科疾患生命の不思議リンク集