血栓
採血した血液は、体外で凝固する。
しかし、血液が血管内にある場合は、正常では、凝固しない。
血液の流れている血管内で、何故、血栓が作られるのでしょうか?
心臓の冠動脈のように、血流が豊富で、血液が速く流れている血管内で、血栓が作られるメカニズムは、以下のように考えられている。
1.血小板が血管内皮細胞下組織に結合する
動脈硬化になっている血管壁が損傷し、血管内皮細胞下組織の露出したコラーゲンに、まず、von Willebrand因子(vWF)が結合する。
次いで、コラーゲンに結合したvWFに、血小板が表面の糖蛋白GPIb受容体を介してつながれ、血管内皮細胞下組織に粘着する。
vWF(A1ドメイン)とGPIb受容体(α鎖の凹面)は、一連の静電的相互作用によって、引き合う。
粘着した血小板は、血流により引きずられることで生じる、ずり応力で刺激される。その刺激が、血小板内のシグナル伝達により伝えられ、血小板が活性化される。
活性化された血小板は、血小板膜糖蛋白GPIIb/IIIa受容体を発現する。
2.血小板どうしが、粘着蛋白により、つながれる
従来は、血小板のGPIIb/IIIa受容体どうしを、フィブリノゲンがつなぎ、血小板凝集が形成されると、考えられていた。
最近は、フィブリノゲンのみならず、血流を流れてくるvWFも粘着蛋白として働いて、血小板のGPIIb/IIIa受容体(α鎖)どうしをつなぎ、血小板凝集塊が形成される。
GPIIb/IIIa受容体どうしでつながれた血小板は、ずり応力で刺激され、活性化される。
放出される、トロンボキサンA2(TXA2)やアデノシンニリン酸(ADP)などが、さらに、他の血小板を活性化させたり、粘着蛋白による結合(つなぎ)を安定化させる(「血小板血栓の形成機構」の項を参照下さい。)
3.白血球が活性化され、血小板活性化因子(PAF)が放出される
活性化された血小板の表面に発現するP-セレクチンは、白血球を活性化させる。
白血球(好中球)からは、血小板活性化因子(PAF)が放出される。
PAFには、強力な血小板凝集作用がある。また、血小板のTXA2の生成を亢進させる。
PAFは、アラキドン酸と同様に、細胞膜のリン脂質(ホスファチジルコリン)から生成される。
4.血小板からマイクロパーティクルが遊離される
活性化された血小板からは、マイクロパーティクル(platelet-derived microparticle:PMP)と呼ばれる、微小な膜小胞体が、遊離される。
マイクロパーティクルの大きさは、0.2μ以下(血小板の大きさは、2〜3μ)。
マイクロパーティクルは、活性化第V因子を不活化するプロテインCを消費する。
また、複合体[活性化第X因子-カルシウムイオン(注1)-第V因子-血小板膜リン脂質]を形成することにより、プロトロンビンからトロンビンが産生される反応を促進させる。
このように、マイクロパーティクルにより、血液凝固反応が促進され、フィブリンをからめた強固な血栓が形成される。
マイクロパーティクルは、血管内皮細胞にICAM-1を、白血球にLFA-1を発現させて、両者の接着を増強させるという報告もある。
マイクロパーティクルは、糖尿病(特に血管障害を合併した場合)、急性心筋梗塞、脳血栓、溶血性尿毒症症候群(HUS)、敗血症、抗リン脂質抗体症候群などで、増加が見られる。
5.P-セレクチン
P-セレクチン(P-selectin)は、血小板のα顆粒、血管内皮細胞のWeibel-Palade bodyの顆粒膜に存在する。
P-セレクチンは、血小板や血管内皮細胞が活性化された際に、膜表面に発現され、ノリのような役割をする。
血小板が活性化された時に膜表面に発現する膜型P-セレクチンは、白血球との接着に関与する。
血管内皮細胞で生成されるP-セレクチンには、膜型P-セレクチン(細胞表面に存在する)と、可溶型P-セレクチン(血中に存在する)がある。膜型P-セレクチンは、白血球との接着に関与する。
P-セレクチンは、シアリルLeX、シアリルLeaなどの糖鎖抗原の他に、PSGL-1(白血球に発現される、アミノ酸のムチン様蛋白)と結合すると言う。
注1:血漿中のカルシウム濃度は、9.0〜11.0mg/dl(4.5〜5.5mEq/L)。カルシウムは、血液中では、正常(pH7.4)では、48%が、カルシウムイオン(Ca2+)として存在し、47%が、血清蛋白(アルブミン)と結合して存在し、約6%が、非イオン化化合物(リン酸カルシウム、クエン酸カルシウムなど)として存在している。
生理作用のあるのは、カルシウムイオン(Ca2+)。カルシウムのイオン化は、溶け込んでいる溶液のpHによって、変動する:イオン化した割合(カルシウムイオン)は、血液のpHがアルカリ側では、減少し、血液のpHが酸性側では、増加する。血漿pHが、0.1増加すると、イオン化カルシウム濃度は、0.16mg/dL低下する。
血漿カルシウムイオン(血漿Ca2+)は、神経細胞内へのナトリウムイオン(Na+)の輸送を、抑制する。
過呼吸症候群では、血液がアルカリ側に傾き(呼吸性アルカローシス)、血漿カルシウムイオンが低下(減少)する。その結果、神経細胞内にナトリウムイオン(Na+)が入り易くなり、神経の興奮性が高まり、筋肉が硬直し易くなり、テタニー(母指は伸展、他の指は基関節で屈曲し、その先の関節は伸展する)などの症状が現れる。
カルシウムは、生体内の無機物のうち、最も多量に存在する。成人男子では、体重の2〜3%(約1,000g)が、カルシウムと言われる。その内、99%は、リン酸カルシウム〔Ca10(PO4)6(OH)2〕として、骨質に沈着している。
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