BCAA
BCAAは、Branched Chain Amino Acid(分岐鎖アミノ酸)の略で、ロイシン、イソロイシン、バリンの3種類のアミノ酸がある。
BCAAは、BCATより、α-ケトグルタル酸と反応し、アンモニア処理に必要なグルタミン酸が、生成される。
運動時に、BCAAからは、アンモニア(NH3)を処理するのに必要なグルタミン酸が、生成される。
骨格筋で、BCAAの代謝で産生される有毒なアンモニアは、BCATにより無害なグルタミン酸に変換され、さらに、グルタミン合成酵素によりグルタミンに変換される。
BCAAは、骨格筋や脳で代謝され、生成されるグルタミンや、アラニンは、血液中を輸送され、腎臓や小腸で、代謝される。また、グルタミンやアラニンは、肝臓やに輸送され、アンモニアを処理する尿素回路や、糖新生の経路に、使用される。
AAAやメチオニンは、主に、肝臓で代謝される。
肝不全(劇症肝炎や非代償性肝硬変)では、血漿アミノ酸濃度が変化して、BCAA(Val、Leu、Ile)濃度が低下し、AAA(Tyr、Phe、Trp)濃度や、メチオニン(Met)濃度が、増加する。
1.BCAAは、骨格筋で代謝される
BCAAは、Branched Chain Amino Acid(分岐鎖アミノ酸)の略で、ロイシン、イソロイシン、バリンの3種類のアミノ酸がある。
ロイシン、イソロイシン、バリンの3種類のアミノ酸は、BCAA(Branched Chain Amino Acid:分岐鎖アミノ酸、分枝アミノ酸)と総称される。
BCAAは、血漿中の遊離必須アミノ酸の約4割を占めている。
BCAAは、肝臓ではほとんど代謝されず、主として、骨格筋と脳で代謝される。
BCAAは、骨格筋の蛋白質合成を促進し、蛋白質の分解を抑制する。
BCAAは、運動時の骨格筋の維持や増量に、重要な役割をすると言われる。
BCAAは、運動後の筋肉の疲労を、速くに、回復させる(運動3日後、4日後の筋肉痛や疲労感が、速く、軽減する)。運動時に、筋肉にグリコーゲンが不足すると、筋肉の蛋白質のアミノ酸が分解されエネルギー源となるが、BCAAは、エネルギー源となり、筋肉の蛋白質のアミノ酸の分解を抑制し(疲労が少ない)、また、BCAAは、筋肉の合成を促進させる(疲労回復を促進させる)。
BCAA(のサプリメント)は、1日、2〜4g、運動前か運動直後に、服用する。
BCAAを多く含む食品には、大豆類、鳥肉(鳥胸肉)、マグロ(赤身)、たらこ、チーズ、牛乳などがある。
各食品に含まれるBCAA量を、五訂食品成分表2005で調べ、表1にまとめた。表1で、BCAA=分岐鎖アミノ酸、AAA=芳香族アミノ酸、Val=バリン、Leu=ロイシン、Ile=イソロイシン、Phe=フェニルアラニン、Tyr=チロシン、Trp=トリプトファン、Ala=アラニン、Glu=グルタミン酸、Met=メチオニンを意味する。なお、芳香族アミノ酸(AAA)の項の合計量で、*印を上付きに表示した食品は、五訂食品成分表2005で、芳香族アミノ酸(AAA)の合計量が、フェニルアラニン(Phe)と、チロシン(Tyr)の数値を足した値と異なっている。
牛乳や、大豆食品(木綿豆腐など)は、メチオニン含量が少ない。表1には示さないが、魚類は、肝臓病に良いタウリンを多く含んでいる。
下記表1のBCAA/AAA比の内、mg比はBCAAとAAA(Phe+Tyr+Trp)のmg比、Fischer比はBCAAとAAA(Phe+Tyr)のモル比(分子量:Val=117、Leu=131、Ile=131、Phe=165、Tyr=181)を記した。
表1 食品中のBCAA含量(可食部100g当たりの含量:五訂食品成分表2005より引用)
食品名 |
蛋白質 |
分岐鎖アミノ酸(BCAA) |
芳香族アミノ酸(AAA) |
BCAA/AAA比 |
その他 |
Val |
Leu |
Ile |
合計 |
Phe |
Tyr |
Trp |
合計 |
mg比 |
Fischer比 |
Ala |
Glu |
Met |
g |
mg |
mg |
mg |
mg |
mg |
mg |
mg |
mg |
ratio |
ratio |
mg |
mg |
mg |
糸引納豆 |
16.5 |
830 |
1300 |
760 |
2890 |
870 |
680 |
240 |
1790 |
1.615 |
2.528 |
680 |
3200 |
260 |
木綿豆腐 |
6.8 |
380 |
600 |
370 |
1350 |
390 |
290 |
100 |
780 |
1.731 |
2.686 |
320 |
1300 |
100 |
凍り豆腐 |
50.2 |
2900 |
4600 |
2800 |
10300 |
3000 |
2200 |
760 |
5960 |
1.728 |
2.679 |
2400 |
9700 |
790 |
精白米 |
6.8 |
430 |
570 |
290 |
1290 |
370 |
280 |
99 |
749 |
1.722 |
2.702 |
390 |
1300 |
170 |
食パン市販 |
8.4 |
400 |
660 |
340 |
1400 |
460 |
240 |
96 |
796 |
1759 |
2.687 |
270 |
3100 |
150 |
うどん生 |
6.8 |
300 |
510 |
260 |
1070 |
370 |
200 |
75 |
645 |
1.659 |
2.522 |
260 |
2600 |
120 |
ごま乾 |
19.8 |
1100 |
1500 |
840 |
3440 |
1000 |
770 |
370 |
2170* |
1.585 |
2.643 |
1000 |
4000 |
720 |
さんま生 |
20.6 |
1100 |
1600 |
950 |
3650 |
830 |
690 |
230 |
1730* |
2.110 |
3.265 |
1200 |
2800 |
660 |
まぐろ赤身生 |
28.3 |
1400 |
2100 |
1300 |
4800 |
1000 |
920 |
320 |
2220* |
2.162 |
3.403 |
1500 |
3700 |
810 |
豚ひき肉 |
18.2 |
870 |
1300 |
770 |
2940 |
650 |
500 |
200 |
1400* |
2.100 |
3.467 |
1100 |
2500 |
440 |
若鶏むね皮なし |
22.9 |
1200 |
1900 |
1200 |
4300 |
960 |
820 |
280 |
2080* |
2.067 |
3.278 |
1400 |
3700 |
660 |
若鶏もも皮なし |
18.0 |
920 |
1500 |
880 |
3300 |
740 |
620 |
210 |
1610* |
2.050 |
3.291. |
1100 |
2900 |
530 |
鶏卵全卵生 |
12.3 |
830 |
1100 |
680 |
2610 |
640 |
500 |
190 |
1290* |
2.023 |
3.114 |
700 |
1600 |
400 |
牛乳生乳 |
2.9 |
190 |
280 |
150 |
620 |
140 |
110 |
38 |
288 |
2.153 |
3.369 |
93 |
560 |
75 |
プロセスチーズ |
22.7 |
1600 |
2300 |
1200 |
5100 |
1200 |
1300 |
290 |
2790 |
2.153 |
2.794 |
670 |
5000 |
580 |
たらこ生 |
24.9 |
1600 |
2500 |
1500 |
5600 |
1000 |
1100 |
300 |
2400 |
2.333 |
3.642 |
1900 |
3200 |
560 |
しじみ生 |
6.8 |
360 |
460 |
300 |
1120 |
280 |
220 |
90 |
590 |
1.898 |
3.048 |
540 |
830 |
180 |
ほうれんそう生 |
3.3 |
120 |
170 |
95 |
385 |
120 |
88 |
53 |
263* |
1.464 |
2.512 |
110 |
300 |
29 |
*:芳香族アミノ酸(AAA)の項の合計量で、*印を上付きに表示した食品は、五訂食品成分表2005で、芳香族アミノ酸(AAA)の合計量が、フェニルアラニン(Phe)と、チロシン(Tyr)の数値を足した値と異なっている。
なお、血液中のアミノ酸を測定して求めた、BCAAとAAAのモル比(血中BCAA/AAA比)は、フィッシャー比と呼ばれる。肝硬変患者では、フィッシャー比が低下する(トリプトファンなどのAAAが、血中に増加する)。
2.AAAは、肝臓で代謝される
インスリンは、BCAAの骨格筋への取り込みを促進するが、脳内の神経伝達物質の前駆体になる、芳香族アミノ酸(aromatic amino acids:AAA)の取り込みには、あまり影響しない。
AAAには、神経伝達物質の前駆体である、トリプトファン(Trp:注1)、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)がある。トリプトファン(Trp)とフェニールアラニン(Phe)は、必須アミノ酸だが、チロシン(Tyr)は、フェニ−ルアラニン(Phe)より生成される。
骨格筋で代謝されるBCAAと異なり、AAAは、アルブミンと結合し代謝的に安定しているトリプトファン以外は、肝臓で代謝される。
肝臓病の人は、(脂肪や鉄が多い)肉類や魚より、(BCAAを多く含む)大豆製品、卵、乳製品を摂ることを勧められている。
BCAAとAAAのTrpとは、脳への取り込み(脳血液関門の通過)が、競合する。
ラットに、空腹状態で、無蛋白食を食べさせると、インスリンが分泌され、血漿中のBCAAが骨格筋に取り込まれて減少し、Trpが脳へ取り込まれ易くなり、脳内Trp濃度が上昇し、Trpから合成されるセロトニン濃度も上昇する。
糖尿病患者が、うつ病になるリスクが高い(2倍)のは、インスリンによるBCAAの骨格筋へ取り込みが減少し、Trpが脳へ取り込まれにくくなるのが、機序かも知れない(運動は、骨格筋でBCAAを消費させ、血漿中のBCAA濃度を低下させることで、脳内の神経伝達物質を増加させると思われる)。
肝硬変患者では、肝臓でのアミノ酸代謝が減少し、骨格筋でのアミノ酸代謝が亢進し、血漿中のBCAA濃度が減少し、脳内のPhe濃度やTyr濃度が、増加するという。
重症肝炎や、非代償性肝硬変により、肝細胞が機能不全に陥り、門脈を介さない副血行路が発達し、本来、肝臓で解毒されるべき、消化管内の毒性物質(アンモニア、アミン、フェノール、低級脂肪酸)などが、大循環から中枢神経系に移行すると、精神神経症状が発現する(肝性脳症)。
このような重症肝炎や非代償性肝硬変に際して、血漿中の遊離アミノ酸は、BCAA(分岐鎖アミノ酸)が減少し、AAA(芳香族アミノ酸)が増加する。BCAAとAAAは、脳で、血液脳関門を超えて脳内に移行する際に、競合する。重症肝炎や非代償性肝硬変に際して、BCAAが減少し、AAAが増加すると、AAAは、脳内に移行し易くなり、Tyrosine(チロシン)からOctopamineが、Phenylalanine(フェニルアラニン)からβ-hydroxyphenyl
ethanolamineが、Tryptophanからセロトニン(Serotonine)が生成される。これらの物質は、偽性神経伝達物質として、noradrenalineやadrenalineに代わって作用し、肝性脳症の精神神経症状が発現する。
肝硬変などにより肝性脳症を来たした患者は、脳内のトリプトファン(Trp)量が著明に増加している。肝性脳症では、初期に、神経伝達物質のセロトニン(トリプトファンが合成の材料になる)が増加し、睡眠と覚醒が、昼夜逆転する。BCAA(トリプトファンと脳血液関門の通過が競合する)を含む輸液剤を、1週間程、点滴すると、BCAAが、AAA(トリプトファンなど)と競合して、AAAの脳血液関門からの脳内への通過を抑制し、神経伝達物質を正常化し、肝性脳症を改善する。
3.BCAAは、アンモニア処理に必要なグルタミン酸を供給する
BCAAのバリンは、BCAT(branched chain amino acid aminotransferase:BCAA aminotransferase)という酵素により、α-ケトグルタル酸にアミノ基を転移してグルタミン酸(注2)を生成し、自身は、α-keto-isovalerate(分岐鎖ケト酸:BCKA)になる。
BCAT:BCAA+α-ケトグルタル酸→BCKA+グルタミン酸
BCKAからは、ピルビン酸が生成される:バリン、イソロイシンの代謝からは、propionyl-CoAが生成され、succinyl-CoAを経て、ピルビン酸が生成される。
なお、BCATは、BCAA transaminaseとも呼ばれる。
小腸には、BCAAを代謝するBCATと、branched-chain
-ketoacid dehydrogenaseが、存在する。
BCATは、ビタミンB6(ピリドキサールリン酸、注3)が、補酵素として必要。α-keto-isovalerateは、BCKDH(branched chain α-keto acid dehydrogenase)という酵素により、異化されて、その際、NADH2+が生成される。BCKDHは、運動時に活性化される。
バリンからは、最終的には、スクシニル-CoA(succinyl-CoA)が生成される。
BCAAのロイシンやイソロイシンの異化も、最初の段階は、バリンと同様に、BCATやBCKDHに触媒され、グルタミン酸が生成される(注4)。
BCAAから生成されるグルタミン酸(Glu)は、筋肉(骨格筋)で、アンモニアを解毒する(グルタミンが生成される)。
グルタミン酸(Glu)は、脳、肝臓、腎臓で、アンモニア(NH3)を処理するのに、大切なアミノ酸。
グルタミン酸は、グルタミン合成酵素(glutamine synthetase)により、アンモニアと結合し、グルタミン(Gln)が生成される。
glutamine synthetase:グルタミン酸+アンモニア→グルタミン
グルタミン酸は、ALT(GPT)により、ピルビン酸に、アミノ基を転移すると、糖原性アミノ酸である、アラニンが生成される。
ALT(GPT):グルタミン酸+ピルビン酸→α-ケトグルタル酸+アラニン
アラニンは、肝臓で、糖新生に利用され、グルコースが生成され、血液中に供給される。
BCAAからは、骨格筋などで、アラニンやグルタミンが生成され、肝臓、腸管、腎臓で代謝に利用される。
筋肉(骨格筋)では、BCAAから、アラニンやグルタミンが生成される(アラニンは肝臓で代謝され、グルタミンは腎臓で代謝される)。
脳では、BCAAから、グルタミンが生成され、血中に放出される(グルタミンは腎臓で代謝される)。
肝臓では、骨格筋などで生成されたアラニンから、糖新生により、グルコース(ブドウ糖)が生成される(糖新生で生成されるグルコースの約50%は、アラニンの炭素骨格が材料に用いられる)。肝臓は、アンモニアを取り込んで、尿素を排泄するが、(門脈血中と肝静脈血中で)グルタミンの濃度は、ほとんど変化しない。
腸管では、グルタミンから、アラニンが生成される。
腎臓でも、グルタミンから、アラニンが生成される(アラニンは肝臓で代謝される:糖新生)。
このように、BCAAからは、アンモニア(NH3)を処理するのに必要な、グルタミン酸が、生成される。
脳や骨格筋で、アンモニア(NH3)は、グルタミン合成酵素により、グルタミン酸(Glu)と結合して、グルタミン(Gln)が生成される(注5)。
BCAAを、肝性脳症の患者に、点滴や経口で投与すると、血中アンモニア濃度が低下する。
最近は、BCAAを含有するアミノ酸飲料も市販されているが、BCAAが減少している人には、アンモニアの処理を高めて、脳細胞の疲労の回復を早める効果が期待出来るが、うつ病(鬱病)の患者には、セロトニン産生を抑制する危険はないのか、疑問に思われる。
4.血漿アミノ酸濃度
アミノ酸濃度(μmol/L)は、血漿中と、髄液中の値は、下表の如く。
バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、トレオニン(Thr)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、トリプトファン(Trp)、リジン(Lys)は、必須アミノ酸。幼児では、ヒスチジン(His)も、必須アミノ酸。
バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)は、分岐鎖アミノ酸(BCAA)。フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)は、芳香族アミノ酸(AAA)。肝不全(劇症肝炎や非代償性肝硬変)では、血漿アミノ酸濃度が変化して、BCAA(Val、Leu、Ile)濃度が低下し、AAA(Tyr、Phe、Trp)濃度や、メチオニン(Met)濃度が、増加する。
表2 血漿中、髄液中のアミノ酸濃度
アミノ酸 |
血漿 |
髄液 |
酸性アミノ酸 |
グルタミン(Gln) |
596〜896 |
420〜580 |
グルタミン酸(Glu) |
13〜61 |
4〜13 |
アスパラギン酸(Asp) |
<6 |
2〜6 |
アスパラギン(Asn) |
70〜140 |
<5 |
中性アミノ酸 |
アラニン(Ala) |
180〜528 |
12〜41 |
バリン(Val) |
152〜322 |
9〜20 |
ロイシン(Leu) |
98〜180 |
3〜15 |
イソロイシン(Ile) |
44〜105 |
1〜8 |
グリシン(Gly) |
130〜326 |
3〜18 |
セリン(Ser) |
83〜196 |
15〜34 |
トレオニン(Thr) |
80〜207 |
21〜41 |
システイン(Cys) |
26〜71 |
<2 |
メチオニン(Met) |
20〜44 |
<3 |
フェニルアラニン(Phe) |
45〜88 |
2〜9 |
チロシン(Tyr) |
47〜96 |
5〜21 |
トリプトファン(Trp) |
37〜79 |
<3 |
塩基性アミノ酸 |
ヒスチジン(His) |
60〜124 |
6〜20 |
アルギニン(Arg) |
62〜149 |
12〜29 |
リジン(Lys) |
106〜288 |
10〜28 |
オルニチン(Orn) |
32〜92 |
2〜8 |
イミノ酸 |
プロリン(Pro) |
109〜281 |
<3 |
絶食時には、当初、筋肉(筋組織)からのアミノ酸放出が増加する。
1日以上絶食が続くと、血漿中のBCAAは、一旦、数日間増加する(インスリン不足が原因)。
さらに絶食が続くと、BCAAを初めとして殆どのアミノ酸は、減少する(GlyとThrは減少しない)。
重症感染症時には、血漿中のBCAAは、エネルギー源として利用され減少し、PheやTrpが骨格筋の崩壊を反映し増加する。
表3 血漿中アミノ酸濃度の変動(参考文献の富谷智明氏の表2等を改変し引用)
疾患名 |
血漿中アミノ酸濃度 |
上昇 |
低下 |
肝疾患 |
Phe、Tyr、Trp、Met、Ser、Gly |
Val、Leu、Ile(BCAA) |
腎疾患 |
Arg、Asp、Cit(非必須アミノ酸) |
Val、Leu、Ile、Thr、His、Tyr |
高インスリン血症(インスリノーマ) |
Ala |
Val、Leu、Ile、Tyr、Phe、Met |
低インスリン血症(糖尿病) |
Val、Leu、Ile、Phe、Tyr |
Ala、Gly、Thr、Ser |
低蛋白栄養状態(Kwashiorkor) |
Ala |
Val、Leu、Ile、Thr、Tyr、Met、Lys |
重症感染症(敗血症) |
Phe、Tyr |
Val、Leu、Ile |
アミノ酸製剤投与 |
各種アミノ酸 |
|
バルプロ酸ナトリウム投与 |
Gly、Gln |
Glu、Asp、Met、Ile |
メープルシロップ尿症 |
Val、Ile、Leu |
|
5.肝疾患用経口栄養剤
AAAやメチオニンは、主に、肝臓で代謝されるが、BCAAは、肝臓ではほとんど代謝されず、主として、骨格筋と脳で代謝される。肝臓病の人は、(脂肪や鉄が多い)肉類や魚より、(BCAAを多く含む)大豆製品、卵、乳製品を摂ることを勧められている。
肝硬変の患者は、肝機能が低下し、食事で摂取する蛋白量を増加させると、食後にアンモニアが上昇し、肝性脳症を引き起こす。
食事で摂取する蛋白量を抑制すると(低蛋白食)、アンモニアの上昇は抑制される(肝性脳症の発症は抑制される)が、低アルブミン血症を改善出来ない。
そのような場合、低蛋白食に、BCAAを配合した肝疾患用経口栄養剤を併用すると、アンモニアの上昇を抑制したまま、蛋白摂取量の不足を補い、血清総蛋白質やアルブミン値を、改善することが可能と言われる。
BCAAは、骨格筋や脳で代謝され、生成されるグルタミンや、アラニンは、血液中を輸送され、腎臓や小腸で、代謝される。
肝性脳症時には、BCAA製剤を過剰に投与すると、糖新生が行われない為、高アラニン血症を来たす。また、アンモニアが尿素回路で処理されない為、高グルタミン血症を来たす。
肝疾患用経口栄養剤(BCAA製剤)としては、アミノレバンEN、ヘパンED、リーバクト顆粒が、販売されている。
アミノレバンENには、アラニンが含まれていない(点滴静注用のアミノレバンには、アラニンが含まれている)が、ヘパンEDには、アラニンが含まれている。
リーバクト顆粒は、BCAA(分岐鎖アミノ酸)のみからなる製剤であり、本剤のみでは、必要アミノ酸を満たすことは出来ない。
食品中フィッシャー比(食品中BCAA/AAA比)は、肉食では1.9、魚食では3.6、牛乳食では4.8と言われる:牛乳の方が、AAAに比して、より多くのBCAAを、含んでいる(食品中の含まれるBCAAとAAAのmg比は、表1に示した)。
肝性脳症のモデル犬(門脈と静脈を吻合させたイヌ:AAAやアンモニアを含む門脈血が、肝臓を経由しないで、直接、脳に回る)に、肉食を与えると、生存日数は、平均26日間に過ぎない。しかし、肝性脳症のモデル犬に、魚食を与えた場合は、生存日数は、平均54日間に延長し、さらに、牛乳食を与えた場合には、生存日数は、平均69日間に延長する。
6.その他
・BCAA(分岐鎖アミノ酸)は、蛋白合成促進作用と、蛋白分解抑制作用(筋蛋白崩壊抑制作用)がある。
・BCAAやアラニンは、腸管で生成され、(門脈中を)肝臓に輸送される。アラニンは、筋肉(骨格筋)や腎臓でも生成され、肝臓に輸送される(糖新生に利用される)。
BCAAは、肝臓から骨格筋に輸送される。骨格筋でBCAAから生成されるグルタミンは、腸管や腎臓に輸送され、主要な栄養素(エネルギー源)として利用される。
・BCAAは、ヒトの血中必須アミノ酸の約40%を占める。
血中BCAAは、極度の蛋白欠乏(アミノ酸摂取量低下)、肝障害(糖質利用の低下、グリコーゲン蓄積の減少)などによって減少する。その際、筋肉(骨格筋)のBCAAの消費が増大する(エネルギー源として利用される)。
肝障害や感染症に際しては、肝臓で代謝される芳香族アミノ酸(AAA:PheやTyrなど)は血中濃度が上昇する。
表4 C型肝硬変患者の血清アミノ酸値(参考文献の谷口靖樹氏の表1を改変し引用)
検査項目 |
C型肝硬変(n=38) |
正常人 |
検査値 |
増減 |
正常値 |
Fischer比 |
1.79±0.77 |
↓ |
2.4〜4.4 |
BTR |
3.1±1.5 |
↓ |
4.4〜10.0 |
BCAA(nmol/mL) |
339.1±125.3 |
↓ |
270〜600 |
Phe(nmol/mL) |
84.6±27.0 |
↑ |
43〜76 |
Tyr(nmol/mL) |
121.1±38.8 |
↑ |
40〜90 |
Met(nmol/mL) |
46.7±28.3 |
↑ |
19〜40 |
Phe/Tyrモル比 |
0.71±0.13 |
↓ |
0.84〜1.07 |
Alb(g/dL) |
3.3±0.6 |
↓ |
4.1〜5.3 |
Ch-E(冪h) |
0.41±0.24 |
↓ |
0.6〜1.3 |
アンモニア(μg/mL) |
81.0±26.6 |
↑ |
12〜66 |
血小板数(/mm3) |
9.7±4.2×103 |
↓ |
13±36×103 |
・高インスリン血症は、BCAAの骨格筋(筋蛋白内)への取り込みを増加させる(アンモニアの解毒作用などに利用される)ので、BCAAの血中濃度が減少する。
・可食部100g当たりに含まれるBCAAなど、アミノ酸の量(mg)は、下記の表の如く。
表中で、Ile=イソロイシン、Leu=ロイシン、Val=バリン、Phe=フェニルアラニン、Tyr=チロシン、Met=メチオニン、Cys=シスチン、Lys=リジン、Trp=トリプトファン、Arg=アルギニン、Ala=アラニン、Asp=アスパラギン酸、Glu=グルタミン酸。
表5 食品可食部100g当たりのアミノ酸組成(mg/100g edible protein)
食品名 |
蛋白質
(g) |
分岐鎖アミノ酸(BCAA) |
芳香族アミノ酸(AAA) |
含硫アミノ酸(SAA) |
Lys |
Trp |
Arg |
Ala |
Asp |
Glu |
Ile |
Leu |
Val |
合計 |
Phe |
Tyr |
合計 |
Met |
Cys |
合計 |
大豆(乾) |
35.3 |
1800 |
2900 |
1800 |
6500 |
2000 |
1300 |
3300 |
560 |
610 |
1200 |
2400 |
490 |
2800 |
1600 |
4400 |
6600 |
納豆 |
16.5 |
760 |
1300 |
830 |
2890 |
870 |
680 |
1600 |
260 |
290 |
550 |
1100 |
240 |
940 |
680 |
1800 |
3200 |
豚肉(ロース) |
20.3 |
990 |
1700 |
1100 |
3790 |
820 |
700 |
1500 |
590 |
230 |
820 |
1800 |
250 |
1300 |
1200 |
2000 |
3200 |
鶏肉(もも) |
18.0 |
880 |
1500 |
920 |
3300 |
740 |
620 |
1400 |
530 |
220 |
750 |
1600 |
210 |
1200 |
1100 |
1800 |
2900 |
秋刀魚(生) |
20.6 |
950 |
1600 |
1100 |
3650 |
830 |
690 |
1500 |
660 |
230 |
890 |
1800 |
230 |
1200 |
1200 |
2000 |
2800 |
蜆(生) |
6.8 |
300 |
460 |
360 |
1120 |
280 |
220 |
500 |
180 |
97 |
280 |
490 |
90 |
390 |
540 |
610 |
830 |
米(精白米) |
6.8 |
290 |
570 |
430 |
1290 |
370 |
280 |
650 |
170 |
160 |
330 |
250 |
99 |
550 |
390 |
650 |
1300 |
食パン |
8.4 |
340 |
660 |
400 |
1400 |
460 |
240 |
700 |
150 |
210 |
360 |
220 |
96 |
290 |
270 |
390 |
3100 |
おまけ
グルタミン酸(glutamic acid:Glu、塩は、glutamate)とグルタミン(glutamine:Gln)の変換に関して。
1).グルタミン酸デヒドロゲナーゼ
グルタミン酸は、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(グルタミン酸脱水素酵素:glutamate dehydrogenase:GDH、または、GLDH)によって、アンモニアとα-ケトグルタル酸(2-オキソグルタル酸)から生成される。
アンモニア(NH4+)+α-ケトグルタル酸⇔L-グルタミン酸(Glu)
この反応は可逆的で、アンモニアとα-ケトグルタル酸から、グルタミン酸を生合成するのとは逆に、グルタミン酸を異化(nitrogen liberation)して、アンモニアとα-ケトグルタル酸とに分解する異化反応も、GDHにより起こなわれる。アンモニアは尿素回路で処理され、α-ケトグルタル酸は糖新生の経路で、利用される。しかし、平衡定数は、グルタミン酸の生合成する側に偏っている。
GDH(グルタミン酸脱水素酵素)は、グルタミン酸を生合成する際には、NADP+を補酵素に使用し、グルタミン酸を異化する際には、NAD+を使用する(NADH2+が生成される)。
植物や細菌では、GDHにより、グルコース(α-ケトグルタル酸)とアンモニアから、多量のアミノ酸の合成が可能。
GDHの大部分は、肝臓のミトコンドリアのマトリックスに存在する。
2).グルタミン合成酵素
グルタミン合成酵素(glutamine synthetase:GS)は、グルタミン酸とアンモニアを結合させ、グルタミン(Gln)を生成する。
L-グルタミン酸(Glu)+アンモニア(NH3+)→L-グルタミン(Gln)
この反応には、ATP、Mg2+が必要。
この反応は、特に、脳でのアンモニアの解毒や、腎臓でのアンモニア排泄に、重要。
グルタミン酸とグルタミンは、グルタミン合成酵素とグルタミナーゼにより、相互に変換される。
3).グルタミン酸合成酵素
グルタミンは、グルタミン酸合成酵素(glutamate synthase)によって、α-ケトグルタル酸と反応し、2分子のグルタミン酸に変換される。
L-グルタミン(Gln)+α-ケトグルタル酸→2L-グルタミン酸(Glu)
この反応も、NADH2+が、消費される。
グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)は、糖原性アミノ酸であり、ミトコンドリア内で、m-AST(m-GOT)により、α-ケトグルタル酸(2-オキソグルタル酸)になり、TCA回路(クエン酸回路)に入る。
トリプトファン(Trp)、アラニン(Ala)、AMPなどは、グルタミン合成を抑制する。
アラニン、AMPは、glutamine synthetaseの活性を抑制する(α-ケトグルタル酸を節約して、TAC回路を機能させる)。
なお、アンモニウムイオン(NH4+)は、脳血液関門を通過しにくいが、アンモニア(NH3)は、脳神経細胞内に移行しやすい。
注1:トリプトファンは、必須アミノ酸のひとつ。
トリプトファンは、穀類(精白米、小麦粉)、大豆、肉(豚肉など)、魚(アジなど)、鶏卵、牛乳、野菜(ほうれん草など)、多くの食餌に含まれている。
肉類は、セロトニンの原料となるトリプトファンを多く含むので、うつ病の人は、肉類を食べると良いと言う人もいるが、トリプトファンは、大豆など、多くの食餌からも、十分に摂取可能と思われる。
トリプトファンは、肉類、大豆以外にも、ゴマ、落花生、乳製品、卵黄、赤みの魚などに多く含まれているので、これらの食品は、うつ病に有用かもしれない。
注2:グルタミン酸は、ALT(GPT)により、ピルビン酸と反応して、アラニンに変換される。
グルタミン酸ナトリウム (Sodium Glutamate) は、昆布、シイタケ、鰹節などに含まれ、「だし(出し汁)」の「うま味(旨み)」として用いられて来た。
ヒトの母乳は、グルタミン酸を多く含んでいる。
なお、BCAAは、運動時に、骨格筋で異化され、グルタミン酸が生成される。このグルタミン酸は、解糖で生じるピルビン酸に、ALT(GPT)により、アミノ基を転移させ、アラニンを生成させ、肝臓での糖新生を促進させると考えられる。
注3:活性型ビタミンB6は、West症候群(点頭てんかん)などの、難治性脳神経疾患の治療に、用いられている。
点頭てんかんの症例(6カ月男児)で、髄液から約2カ月間、エコー24型ウイルスが分離され(髄液中の細胞数が、29/3/μl〜280/3/μlに増加し、約6カ月間、持続した)、頭部MRI-T2強調画像で、散在性の高信号域が認められ、点頭てんかんの発症に、エンテロウイルス(エコー24型ウイルス)による散在性遷延性脳炎が関与していると疑われた症例報告がある。
注4:ロイシンは、最終的には、acetoacetateとacetyl-CoAに異化される。
イソロイシンは、acetyl-CoAとpropionyl-CoAに分解され、後者は、succinyl-CoAにまで異化される。
注5:グルタミンは、小腸で、グルタミナーゼにより分解され、グルタミン酸が生成される。
小腸では、グルタミンや、グルタミン酸は、代謝燃料として、重要な役割を果たしている。
グルタミン酸は、血漿中で最も多いアラニンに変換される。
参考文献
・ハーパー・生化学(原著14版、三浦義彰監訳、丸善株式会社、 1975年).
・ヴォート基礎生化学(東京化学同人、第1版第4刷、2003年).
・鈴木紘一、他:ホートン生化学 第3版(東京化学同人、2005年、第3刷).
・内科 61巻6号(1988-6) 61:1105.
・肝疾患 日本医師会雑誌 第92巻・第7号 昭和59年.
・井本耕二、他:髄液よりエコー24型ウイルスが分離された中枢神経疾患の検討、日本小児科学会雑誌、101巻5号、909-915、1997年.
・香川芳子:五訂食品成分表2005(女子栄養大学出版部、2005年).
・中嶋俊彰:よくわかる最新医学 新版肝臓病、平成16年(主婦の友社).
・富谷智明:血中アミノ酸、最新 臨床検査のABC、日本医師会雑誌 第135巻・特別号(2)、生涯教育シリーズ−70、平成18(2006)年10月.S172-S173頁.
・谷口靖樹、東口高志:Q17 アミノ酸分析で何がわかるの?、ナーシングQ&A 全科に必要な栄養管理Q&A、36-37頁、総合医学社(2005年).
・谷口靖樹、東口高志:生化学パラメーター:蛋白代謝:アミノ酸分析、臨床検査、48
(9): 989-994頁、2004.
・谷口靖樹、東口高志:Q35 肝障害時の蛋白投与法は?、ナーシングQ&A 全科に必要な栄養管理Q&A、74-75頁、総合医学社(2005年).
・谷口正哲:Q33 侵襲時・感染時の蛋白投与方法は?、ナーシングQ&A 全科に必要な栄養管理Q&A、70-71頁、総合医学社(2005年).
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