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 TNF-α

 1.TNF-αとは
 腫瘍壊死因子(TNF:Tumor Necrosis Factor)は、腫瘍細胞を壊死させる作用のある物質として発見されたサイトカイン
 TNFには、主として活性化マクロファージ(単球)により産生されるTNF-α(157個のアミノ酸からなる)と、活性化Tリンパ球により産生されるTNF-β(171個のアミノ酸からなる)とがある。

 TNF-αは、単球、マクロファージのみならず、血管内皮細胞、脂肪細胞、ミクログリア、アストロサイト、からも産生されるという。
 TNF-αは、INF-γ、IL-6、IL-8の産生を誘導し、血管内皮細胞のセレクチンの発現を高める。
 ラットにLPS(Lipopolisaccharide)とD-GalNAc(D-galactosamine)を投与すると、まず、血清中TNF-αが、投与後2時間をピークに上昇し、次いで、IFN-γが投与後6時間をピークに上昇する。

 TNF-αは、細胞膜表面のTNF receptorに結合して、炎症を起こした細胞の細胞死(アポトーシス)を誘発し、炎症を収束させると考えられる。
 TNFレセプターは、INF-γで増加し、IL-1で減少する。
 TNFは、リンパ球に作用して、Tリンパ球やBリンパ球の増殖、Tリンパ球表面のIL-2レセプター発現の増強、HLAクラスI分子やHLAクラス分II子発現の増加、を来たす。
 TNFは、IFNと同様に、リポ蛋白リパーゼ活性(LPL活性)を抑制し、トリグリセリド(中性脂肪)を増加させる。

 プロスタグランジン(PG)や糖質コルチコイド(ステロイド剤)は、TNF-α、TNF-βの産生を抑制する。
 
 TNF-αは、感染などの炎症時にマクロファージなどから産生されるが、下記に述べるように、生体内の炎症反応を血液凝固反応に結び付けている

 2.TNF-αの作用
 1).TNF-αは、好中球からエラスターゼを産生させ、血管内皮細胞を障害する
 TNF-αにより、好中球が活性化されると、産生されるエラスターゼが、血管内皮細胞を障害し、血管内皮の透過性が亢進し、血漿が血管外に漏出し、血液が濃縮し、微小循環が停滞し、微小循環障害が起こる。微小循環障害は、組織の虚血を起こし、臓器の機能不全につながる。

 2).TNF-αは、微小血栓を形成させる
 マクロファージから産生されるTNF-αにより、血管内皮細胞が活性化されると、組織因子が発現し、抗凝固因子の発現が低下し、線溶系因子の活性が低下する。
 そのため、微小血栓が形成される。 

 3).TNF-αは、ミトコンドリアを障害する
 TNF-αは、血管内皮細胞のミトコンドリア呼吸(mitochondorial respiration)を障害する。
 神経細胞のミトコンドリアが障害を受けると、興奮性アミノ酸が増加し、二次的神経細胞障害が起こる。また、細胞膜の透過性(permeability)保持機能が消失し、Ca2+が細胞内に流入して、急性の神経細胞壊死が起こるという。

 4).TNF-αは、アポトーシスを誘導する
 TNF-αは、TNF受容体(TNFレセプター)を介して、ミトコンドリアの透過性(permeability)転換を促進する(PTPが開口する)。
 ミトコンドリア内膜の透過性亢進により、ミトコンドリアの膜間スペースからシトクロムcが放出され、核にcaspase-3を活性化させ、アポトーシスを誘導する。

 3.TNF-を介する血管内皮細胞障害は、非ステロイド性抗炎症(NSAIDs)を使用すると、増強する?
 血管内皮細胞から産生されるプロスタグランジンI2(PGI2や、プロスタグランジンE2(PGE2は、マクロファージなどからのTNF-α産生を抑制する。
 NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、COXの活性を阻害し、プロスタグランジンの産生を抑制する。
 NSAIDsは、発熱時に使用すると、プロスタグランジンによるTNF-α産生抑制作用を解除し、好中球による血管内皮細胞障害を増悪させるおそれが、考えられる
インフルエンサ脳症の項を参照して下さい)。
 なお、TNF-αは、COX-2活性を誘導し、プロスタグランジン(PG)を産生させる。

 4.その他
 ・敗血症(注1)やショック状態では、TNF-αが過剰に産生される。、微小血栓を形成する。TNF-αは、 血液凝固の促進や微小循環障害を引き起こし、DIC(播種性血管内凝固症候群)の原因となる。TNF-αは、SIRS(全身性炎症反応症候群)の原因ともなる。

 ・抗凝固作用のあるアンチトロンビンIIIは、カプサイシン感受性知覚神経を活性化させる。
 神経末端から放出されるCGRP(calcitonin gene-related peptide:カプサイシンで枯渇される)が、血管内皮細胞に結合し、結果的にNOの産生を亢進させて、血管内皮細胞のPGI2の産生を促進させる。
 その結果、TNF-αの産生が抑制されるという。

 ・ダナパロイドナトリウム(医薬品名:オルガラン)は、抗炎症作用と抗凝固作用があり、PGI2の産生を増加させることにより、TNF-α産生を抑制する。

 ・TNF-αは、脂肪細胞がトリグリセリドを蓄積し大型化すると、(血中への)分泌量が増加する。
 脂肪細胞が産生するTNF-αは、局所(脂肪組織のTNF-α濃度)のみならず、血中のTNF-α濃度を上昇させ、インスリン抵抗性を引き起こす。

 ・TNF-αは、脂肪細胞からも血液中に分泌され、インスリン受容体のチロシンキナーゼの活性を低下させ、糖輸送能も低下させ、インスリン抵抗性を招く。
 肥満者の脂肪細胞は、非肥満者の脂肪細胞に比べて、TNF-αのmRNA量は、訳2.5倍ある。
 脂肪細胞や筋肉細胞には、TNF-αの受容体であるTNFR1(TNF-α receptor 1)とTNFR2(TNF-α receptor 2)の2種類が存在する。TNF-αによりTNFR1が刺激され、スフィンゴミエリナーゼが活性化され、スフィンゴミエリンからセラミドが作られ、IRS-1(insulin receptor substrate-1)のチロシンリン酸化によるPI3-キナーゼの活性化が抑制され、GLUT4(glucose transporter 4)を介するインスリンのグルコースの細胞内取り込み作用が抑制される。
 TNF-αは、IRS-1のみならず、糖輸送担体(GLUT4)の発現(転写)を抑制し、インスリン依存性の細胞内へのグルコース取り込みを抑制し、耐糖能に異常を来たさせ、糖尿病の発症に関連する。

 ・TNF-αは、グルコース(ブドウ糖)の細胞(筋肉細胞、脂肪細胞など)内への取り込みを抑制し、高血糖を来たす。
 TNF-αは、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性(産生)を抑制し、高脂血症(高中性脂肪血症)を来たす。

 ・TNF-αは、歯周病の炎症巣からも産生され、糖尿病のインスリン抵抗性を高めて、血糖のコントロールを悪化させる要因となる。

 ・肝臓を虚血再灌流させると、肝クッパー細胞Kupffer細胞)が活性化されて、TNF-αが放出される。

 ・TNF-αは、エンドトキシンによる胆汁うっ滞に関与している。

 ・髄液中TNF-α値は、無菌性髄膜炎(ウイルス性髄膜炎)では上昇しないが、細菌性髄膜炎では上昇し、特に予後不良例で上昇する。
 細胞膜表面のTNF receptorの細胞外部分が切断されると、可溶性のTNF receptor(soluble TNF receptor:sTNFR)になる。
 sTNFRは、細胞膜表面のTNF receptorと競合して、TNF-αの作用を抑制する。
 髄液中のsTNFR1は、細菌性髄膜炎の予後不良例では、上昇している(TNF-αの過剰な産生を抑制するためのネガティブフィードバック現象)。
 抗炎症性サイトカインのTGF-β1(transforming growth factor-beta 1)には、TNF-α、IL-1β、IL-6などの炎症性サイトカインの産生を抑制する作用がある。
 髄液中のTGF-β1も、細菌性髄膜炎の予後不良例で、TNF-αなどの炎症性サイトカインが、過剰に産生されるのを抑制するために、上昇していている。 

 ・H2受容体拮抗剤のラニチジンは、胃酸分泌を抑制するのみならず、好中球の活性化を抑制する。また、肝虚血再灌流障害モデルでの解析では、ラニチジンを前投与すると、肝のTNF-βの上昇が抑制された。

 ・TNF-βは、炎症時に、活性酸素産生能の亢進した好中球を、血管外に遊走させず、血管内に残留させるため、血管内皮細胞が障害を受ける。
 TNF-βは、炎症性サイトカインのGM-CSFが共存すると、TNF-βによるアポトーシス誘導作用は抑制されるが、活性酸素産生能の亢進した好中球が、長時間、血管内に残留する。

 ・脳炎、脳症、細菌性髄膜炎で、TNF-αが、高値を示す症例は、予後が悪い。

 注1:歯科治療後、サルモネラ菌などの細菌性腸炎、肺炎球菌感染などでは、一時的な菌血症(bacteremia)になっている。
 皮膚を、エタノールなどで消毒しても、毛嚢内の細菌は、消毒されないので、点滴のルート確保や、採血などを目的に、皮膚を、注射針で穿刺すると、皮膚片と共に、毛嚢内の細菌を、血管内に押し込むおそれがある。実際、私は、血液培養の際に、皮膚の表面を消毒後、血管を穿刺して、採血をして、血液培養をしたところ、敗血症でないのに、血液培養で、MRSAが検出された経験がある
 免疫力が低下していない患者さんでは、注射針の穿刺に供ない、血管内に、極少量の細菌が、押し込まれても、体内(血中)で、殺菌されるので、敗血症を発症しない。
 しかし、手術後など(全身麻酔をすると、免疫力が低下する)免疫力が低下した状態では、注射針の穿刺に供ない、血管内に、押し込まれた、極少量の細菌(MRSAなど)が、体内(血中)で、増殖し、敗血症を発症する危険性が、考えられる。従って、敗血症の予防のためには、手術前に、点滴や採血のルートを確保しておく事は、手洗いや、リネン類(ベッドマット、毛布、シーツなど)の消毒などより、有効と思わる。

 参考文献
 ・吉田俊秀、他:インスリンの作用と肥満 日本医師会雑誌 第124巻・第5号 IS-21〜IS-24、2000年.
 ・植松貢、他:細菌性髄膜炎に合併し、予後良好であった急性壊死性脳症の1例 日本小児科学会雑誌 109巻6号、735-740、2005年.
 ・上野隆登、依田道夫、森田恭代:肥満と肝疾患の関係について、日本医事新報、No.4334(2007年5月19日)、57-61頁.

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