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 インフルエンザ脳症

 インフルエンザ脳症の病型は、急性壊死性脳症ライ症候群、HSE症候群(HSES)などに分類されています。これらのインフルエンザ脳症は、頭部CTやMRI検査で、微慢性脳浮腫が見られ、肝機能障害、血液凝固障害(DIC)も、合併することがあります。
 表1 インフルエンザ脳症の病型分類「インフルエンザ脳症」の手引きの8頁の表4を改変し引用)
 病型  脳浮腫の分布  肝機能障害  血液凝固異常注a)  他の特徴的所見  死亡率
 急性壊死性脳症  脳全体+局所病変(視床、脳幹など)  軽度〜高度  なし〜あり  髄液中蛋白増加  高
 古典的ライ症候群  脳全体  中等度〜高度  なし〜あり  高アンモニア血症  中
 ライ様症候群  脳全体  中等度〜高度  なし〜あり  低ケトン性低血糖  高
 HSE様症候群  脳全体(出血や梗塞が加わりやすい)  中等度〜高度  あり  ショック、下痢注b)  高
 けいれん重積型  大脳皮質の一部(両側前頭葉など)  なし〜中等度  なし  −  低
 その他の型  なし〜軽度  なし〜軽度  なし  −  低
 注a:DICなどの血液凝固異常。HSE(様)症候群では、DICにより、腎機能障害、肝機能障害も見られる。
 注b:HSE症候群では、水様性下痢(特に血性)が見られる。急性壊死性脳症でも、高率(42%の症例)に下痢が見られる(ライ症候群と、異なる)。


 ここでは、主に、急性壊死性脳症に関して、述べて見ます。

 インフルエンザ脳症では、血中、及び、髄液中にサイトカインが増加して、血管透過性が亢進し、血管内皮細胞障害が認められ、全身の諸臓器で、アポトーシス(apoptosis)が起るとされています。

 シアル酸は、COOH基を持つため、陰性荷電を有しています
 インフルエンザ感染に伴ない、インフルエンザウイルス(ウイルス血症)か、インフルエンザウイルスが産生するNA(シアル酸を分解する酵素)が、血管内に流入し、血管内皮細胞や、リンパ球などのシアル酸を、分解し、リンパ球の接着を増強させ、血管内皮細胞障害を、強く引き起こすことが、インフルエンザ脳症の原因かも知れません。

 インフルエンザ脳症は、インフルエンザウイルス感染に伴う発熱後、急速に意識障害などの神経症状が進行します。インフルエンザ脳症の致命率は、約30%と言われ、生存しても、25%の症例に、後遺症を残すと言われています。
 インフルエンザ脳症は、インフルエンザを発症してから、神経症状が発現するまでの期間は、約1.4日と短いので、対応も、困難な場合が多いです。

 アポトーシスは、ミトコンドリアのPTPと呼ばれる穴が開口して、惹起されると言われていますが、PTPの開口は、カルシウムイオン(Ca2+)に依存します。非ステロイド性消炎剤(NSAIDs)の一種で、アスピリンの代謝産物である、サリチル酸は、PTPを開口させて、ライ症候群を来たす毒性(ミトコンドリア障害作用)がありますが、カルシウムイオン濃度(Cao)が高いと、サリチル酸の毒性が、増強します。カルシウム拮抗作用のある薬剤(chlorpromazine、nifedipineなど)は、サリチル酸の毒性を、軽減させます(Trost等)。

 インフルエンザに伴い、体内では、PGE2が、生成されます。PGE2には、炎症を促進する作用と、炎症を抑制する作用があります。例えば、PGE2は、発熱させたり、血管透過性を亢進させるので、血管内皮細胞障害を、促進させると、考えられます。しかし、他方で、PGE2は、炎症性サイトカインであるTNF-αの産生を抑制して、好中球のエラスターゼ産生を抑制し、血管内皮細胞障害を抑制すると、考えられます。
 本来、非ステロイド性消炎剤(NSAIDs)は、COX-2と言う酵素の活性を阻害して、PGE2の産生を抑制するので、解熱作用がある。しかし、NSAIDsのジクロフェナクナトリウムなどを、解熱剤として使用すると、TNF-αの産生を増加させ、血管内皮細胞障害を増悪させ、インフルエンザ脳症を発症した場合、死亡率を高めてしまうと、思われます。
 
 1.インフルエンザ脳症の発症機序
 インフルエンザ脳症の発症機序は、今だ解明されていません。
 インフルエンザ脳症が、熱中症の熱射病と類似していると考える人もいます。
 インフルエンザ脳症では、著明な脳浮腫、血管原性浮腫、血漿成分の血管外への漏出(血漿蛋白の脳実質への漏出)、血管壁の硝子変性、血管内血栓の形成(微小線維素性血栓の形成)が、見られます。また、血管内皮細胞の接着分子であるE-セレクチンが、著明に増加します。
 インフルエンザ脳症では、高熱が出ることが多い。元々、食事や体質の為、血管内皮細胞の機能に失調があり、インフルエンザの発熱を契機に、血管内で、血小板凝集が始まり、血管内皮細胞障害が生じる可能性もありますが、最高体温が39.0℃でも、インフルエンザ脳症を発症した症例もありますので、熱が上がり過ぎて、脳症を起こすとは、考え難いです。
 表2 ライ症候群とインフルエンザ脳症の比較
 特徴  インフルエンザ脳症(急性壊死性脳症  ライ症候群注a)
 好発年齢  5歳以下(特に1〜3歳)  6歳(4〜12歳)
 発症時期  発熱して平均1.4日後  発熱して5〜7日後
 発熱の原因  A型インフルエンザ(A香港型)が多い  B型インフルエンザ、水痘が多い注b)
 嘔吐  +  +
 下痢    −
 痙攣  +  +(急性脳浮腫
 異常行動  +(熱性譫妄:意味不明の言動、うわごと)  −
 意識障害  +  +
 肝組織所見  肝小葉中心静脈周囲の凝固壊死  脂肪沈着(変性)、ミトコンドリアの膨化
 肝機能障害  +(GPT17〜1,810IU/L)  +(GPT65〜6,935IU/L)
 黄疸  −  −
 高アンモニア血症  −  
 腎機能障害  +(BUN上昇、血尿・蛋白尿)  −
 低血糖  −(むしろ高血糖)  +(in younger patients)
 血液凝固障害  +(DICを合併)  +
 血小板減少    −
 病因  血管内皮細胞障害?  サリチル酸等によるミトコンドリア障害
 注a:ライ症候群に類似した症状を来たすライ症候群類似先天性代謝異常を除く。
 注b:ライ症候群は、B型インフルエンザ、水痘以外に、肺炎マイコプラズマ、パラインフルエンザウイルス3型などに感染後にも、発症報告がある。
 インフルエンザに伴う炎症に際して、体内では、COX-2と言う酵素により、プロスタグランジン(PGE2など)と言う物質が、生成されます。
 炎症に際して産生されるPGE2は、炎症を促進する作用と、炎症を抑制する作用があります。
 例えば、PGE2は、発熱させたり、疼痛を増強させたり、
血管透過性を亢進させて腫脹を来たすので、血管内皮細胞障害を、促進させると、考えられます。しかし、他方で、PGE2は、TNF-αの産生を抑制するので、好中球のエラスターゼ産生を抑制し、血管内皮細胞障害を抑制すると、考えられます。
 本来、非ステロイド性消炎剤(NSAIDs)は、COX-2と言う酵素の活性を阻害して、PGE2の産生を抑制するので、解熱させたり、疼痛を抑制させたり、腫脹を抑える作用(解熱鎮痛消炎作用)があり、血管透過性を抑制して、血管内皮細胞障害をは、抑制するように、思われます。
 しかし、実際には、COX-2によって産生されるPGE2は、TNF-αの産生を抑制するので、好中球のエラスターゼ産生を抑制し、血管内皮細胞障害を抑制するようです。
 その為、NSAIDsジクロフェナクナトリウムなどを、解熱剤として使用すると、血管内皮細胞障害を抑制(修復)する酵素(COX-2)の働きを抑制するため、インフルエンザ脳症を発症した場合、死亡率を高めてしまうようです。

 a.ウイルスが直接に脳を侵すのではない
 インフルエンザウイルスが、インフルエンザに罹った子供さんの髄液から分離されたという報告もあります(日本小児科学会雑誌、101: 1063−1066, 1997)。
 また。インフルエンザ脳症で亡くなられた子供さんの、血管内皮細胞、腎蔵(糸球体内皮細胞)、肝臓(グリソン鞘毛細血管内皮細胞)に、ウイルス様の粒子が見出されたという報告もあります。
 神経細胞は、細胞質が膨化し、核は融解します。
 しかし、多くのインフルエンザ脳症の症例では、インフルエンザウイルスのウイルス抗原は、脳組織から検出されておらず、ウイルスが直接に脳を侵すのが、この病気の原因ではないようです。

 インフルエンザ脳症の死亡例(4歳)では、PCR法で、咽頭ぬぐい液や髄液から、インフルエンザA香港型ウイルス遺伝子が検出されました。また、酵素抗体法(ポリクローナルな、抗インフルエンザA型ウイルス抗体、抗インフルエンザB型ウイルス抗体)で、気管、気管支の上皮・粘液腺(陽性)、肺、小腸粘膜(弱陽性)にウイルス抗原を検出しましたが、インフルエンザウイルス抗原は、脊髄灰白質や肝臓には、検出されませんでした。このことから、インフルエンザ脳症は、インフルエンザウイルスが、脳脊髄や全身臓器(肝臓など)で増殖し、細胞を破壊する結果、引き起こされるのでなく、ウイルス感染を契機に、放出される物質が、インフルエンザ脳症を引き起こすと考えられています(日本小児科学会雑誌、104: 451-454, 2000)。

 インフルエンザ脳症で亡くなられた二人の子供さん(2歳と、5歳)の病理所見では、脊髄や延髄に、血管壁の硝子変性、血管内線維素性血栓、血漿蛋白の血管外への漏出、血管原性浮腫、が見られています。しかし、酵素抗体法(A型インフルエンザウイルスのNP蛋白に対するモノクローナル抗体)では、ウイルス抗原は、脊髄、延髄には、検出されませんでした。そして、全身の血管内皮細胞が障害されることが、インフルエンザ脳症の発症機転と推定されています(小児科学会雑誌、106: 76−80, 2002)。
 この二人の子供さんの剖検では、以下の病理所見が認めれたことが報告されています。
 1).グリア細胞反応を伴う血管原性浮腫(脊髄、延髄):いずれも、血管壁の硝子化、血漿成分の漏出、小血管内血栓、出血を伴う
 2).間質性肺炎(微小線維素血栓を伴う)
 3).脾臓のリンパ濾胞壊死
 4).壊死性腸炎(小腸陰窩壊死)、大腸のリンパ濾胞壊死
 5).肺円柱上皮にインフルエンザAウイルス抗原陽性
 6).脳、脊髄ともにウイルス抗原陰性(インフルエンザAウイルス抗原陽性)
 また、5歳の子供さん(男児)は、脳脊髄液中のIL-2、TNF-αが、極めて高値でした。

 このことは、インフルエンザウイルスが、直接に脳を侵すのが、インフルエンザ脳症の原因でないことを示しています。しかし、インフルエンザウイルスから放出される物質(酵素など)が、血管内皮細胞を障害する可能性は、残ると思われます。
 なお、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルス感染症では、壊死性病変(肝臓、盲腸、直腸など)、出血性病変が見られ、免疫組織学的に、インフルエンザウイルス抗原が、肝臓、脾臓、心臓、脳、肺、腎臓、膵臓、腸管などの、主に、血管内皮細胞や上皮系細胞に、検出されています。鳥インフルエンザ感染症でも、インフルエンザウイルスが、血管内に流入し、その結果、インフルエンザウイルスが産生するNA(シアル酸を分解する酵素)が、血管内皮細胞や、リンパ球などのシアル酸を、分解し、リンパ球の接着を増強させ、血管内皮細胞障害を、強く引き起こすのかも知れません。

 b.サイトカインにより全身の血管内皮細胞が障害される
 最近は、インフルエンザ脳症の症例で増加している、TNF-αIL-6などのサイトカインが、発症に関与しているとも推測されています。

 インフルエンザ脳症の症状が急激に進行して亡くなられた子供さんでは、脳脊髄液中のTNF-αやIL-6の濃度が、極めて高値だったと、報告されています(日本小児科学会雑誌、103: 16−19, 1999)。

 インフルエンザウイルス(ウイルス血症)に対する炎症反応で、生体がTNF-αなどのサイトカインを産生し、血管内皮細胞が活性化されたり、障害され、血管内に微小血栓が形成されるものと、推測されます。
 なお、インフルエンザ脳症では、血小板数の低下や、肝臓や腎臓の機能不全が認められ、播種性血管内凝固症候群(DIC)と同様の病態にあると思われます。

 その他、インフルエンザウイルスが、血管内皮細胞にアポトーシスを誘導する物質を産生するおそれもあります。

 2.インフルエンザには、解熱剤として、非ステロイド性消炎剤(NSAIDs)を使用しない
 厚生労働省は、インフルエンザによる発熱では、解熱剤として、非ステロイド性消炎剤(NSAIDs)のジクロフェナクナトリウム(医薬品名:ボルタレン)を使用しないように通達しています。
 これは、インフルエンザ脳炎・脳症を発症した患者において、ジクロフェナクナトリウムを使用した群は、解熱剤を使用しなかった群と比較して、有意に死亡率が高いという臨床疫学的研究が根拠になっています。

 3.非ステロイド性消炎剤(NSAIDs)の危険性に関する推測: NSAIDsは、TNF-α産生を増加させ、血管内皮細胞障害を増悪させる
 何故、インフルエンザ脳症の患者さんに、解熱剤としてNSAIDsを使用することが危険なのかは、明らかにされていません。
 私のような立場の者には、実証できない問題ですが、以下に推測を述べさせてもらいます。
 インフルエンザ感染により、炎症反応として、マクロファージなどから、炎症性サイトカインであるTNF-αが産生されます。
 TNF-αにより好中球から産生されるエラスターゼには、血管内皮細胞を障害する作用があります。
 他方で、TNF-αは、COX-2を活性化させて、プロスタグランジンE2PGE2)を産生させます。
 PGE2は、生体を発熱させますが、TNF-αの産生を抑制します
 PGE2は、好中球のライソゾームからのエラスターゼ遊離を抑制します
 
 ジクロフェナクナトリウムのようにCOX-2選択性の高いNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、COX-2の活性を阻害し、PGE2の産生を抑制します。
 NSAIDsを使用すると、解熱はしますが、PGE2によるTNF-α産生の抑制が低下し、TNF-α産生が増加すると、考えられます。
 TNF-α産生の増加により、好中球の活性化が増強され、また、PGE2によるエラスターゼ遊離抑制が起こらないと、血管内皮細胞が、より強く障害されると考えられます。
 なお、PGE2には、血管透過性亢進作用があります。

 それから、COX-1により産生されているプロスタグランジンI2PGI2)は、TNF-α産生を抑制します
 COX-1の活性も阻害するNSAIDsは、PGI2の産生を抑制して、TNF-αの産生を増加させてしまうと、推測されます。(TNF-α産生の抑制が、COX-1により産生されているPGI2やPGE2によることが主だとすると、ジクロフェナクナトリウム以外のNSAIDsも危険だということになります。)
 
 また、PGI2やPGE2が、直接、好中球機能を抑制して、エラスターゼ産生も抑制することも考えられます。

 このように、NSAIDsは、プロスタグランジンによるTNF-α産生の抑制を解除して、TNF-α産生を増加させ、好中球活性化を促進させてしまい、血管内皮細胞障害を強く発現させて、インフルエンザ脳症の病状を重症化させてしまうのかも知れません。
  また、PG(PGE1)には、細胞膜安定化作用があり、NSAIDsがPG産生を抑制することは、炎症(アポトーシス)で障害された血管内皮細胞の修復を阻害しているおそれがあります。

 なお、TNF-α産生は、血管内皮細胞が活性化・障害された結果起こる二次的な反応です。一次的に血管内皮細胞が活性化・障害される機序(ウイルス血症、neuraminidaseなど)が、インフルエンザウイルス感染に存在しているものと思われます。
 また、平成11年度厚生科学研究「インフルエンザ脳症・脳炎の臨床疫学的研究斑」の報告では、解熱剤を使用していない症例でも25.4%が死亡しています。NSAIDsのような解熱剤は、インフルエンザ脳症の原因ではあり得ません。

 4.その
 ・インフルエンザ脳症患児の血清中には、ミトコンドリア内膜の膜間スペース側に存在するシトクロムc(cytochrome c)が増加している。シトクロムcは、ミトコンドリア内に存在し、アポトーシス(apoptosis:注1)の際に細胞質内に放出されることから、インフルエンザ脳症では、サイトカインにより、アポトーシスが誘導されていると推測されています。
 プロスタグランジンは、アポトーシスを抑制し、細胞を保護すると考えられます。

 インフルエンザ脳症の患児に、肝生検を行って調べた結果では、肝細胞のミトコンドリアが広汎に変化していました。
 ミトコンドリアから放出されるHtrA2は、カスパーゼを活性化させてアポトーシスを起こす他に、セリンプロテアーゼ(注2)作用で細胞死を引き起こします。

 ・シクロスポリンA療法
 ミトコンドリアには、PTP(permeability transition pore)と呼ばれる穴構造が、内膜と外膜との接触部位(the contact sites)に、存在します。
 PTPが開くと、PTPの穴を、プロトン(水素イオン)が通過(流入)して、膜電位(the mitochondrial transmembrane potential:Delta Psi )が、低下してしまいます。また、ミトコンドリアが、膨化します。
 NSAIDs脱共役作用(uncoupling effect)の、少なくとも一部は、PTPの誘導(induction:PTPの開口)の為と、考えられます。サリチル酸(salicylic acid)や、アスピリンは、ミトコンドリアを膨化させるなどの副作用を示します。Mg2+や、シクロスポリンA(Cyclosporin A:CysA)は、PTPの阻害剤(inhibitor)であり、PTPを経るプロトン(水素イオン)の通過(膨化)を抑制して、ミトコンドリアの機能障害を、防御します。
 サリチル酸(salicylates)が、PTPを開口させ、ミトコンドリアの膜電位を喪失させるのには、カルシウムイオン(Ca2+ )が、必要のようです(注3)が、他方で、サリチル酸は、蓄積されたCa2+を、放出させます。これらのサリチル酸の効果は、シクロスポリンAで、阻害されます。PTP(の穴)を誘導(開口)する作用は、サリチル酸の方が、アスピリン(acetylsalicylic acid)より、強いと言われます。
 近年、シクロスポリンAは、そのPTP阻害により、ミトコンドリア膜電位の低下を防止することによって、アポトーシスや壊死を阻害することを期待して、インフルエンザ脳症の治療に、試されているといるそうです。シクロスポリンAは、1〜2 mg/kg/日を、24時間連続して、点滴静注する(7日間)か、数時間での投与を、1日2回7日間行います。
 なお、サリチル酸や、インドメサタシン(indomethacin)は、ミトコンドリアの電子伝達系を、阻害します。

 ・急性脳炎・脳症と鑑別を要する、熱性痙攣の患児では、髄液中のTNF-α、IL-1β、IL-6は、上昇しなかったそうです。
 他方、急性脳炎・脳症の患児では、髄液中のTNF-α、IL-1β、IL-6のいずれかが上昇していたそうです。

 ・細胞膜表面のTNF receptorの細胞外部分が切断されてできる、可溶性のsTNFR1(soluble TNF receptor 1)は、予後不良な急性脳炎・脳症の患児例で、髄液中の値が上昇していたそうです。

 ・インフルエンザ脳炎・脳症の患児では、髄液中のTNF-α、sTNFR1上昇例は、予後が不良だったそうです(インフルエンザ脳炎・脳症でも、TNF-αや、TNFR1や、IL-6が、血清中や髄液中で、上昇していない症例もあったそうです)。

 ・インフルエンザ脳症(influenza-associated encephalopathy:IE)では、血液検査で、血小板が減少したり、血清AST(GOT)、ALT、LDH、Crが上昇したり、凝固系に異常が見られると、予後が悪い(重症になる)と言われています。しかし、重症例でも、発病初期から、血液検査で異常が見られるとは、限りません。
 インフルエンザ脳症の症例で、血清中のフェリチン(ferritin)値が高いと、予後が悪い(重症になる)と言われます。また、インフルエンザ脳症では、脳症でない熱性痙攣(有熱時の痙攣:influenza-associated febrile seizure:IFS)とは異なり、血清中のLDH、CK、CRPIL-6値が、高くなる傾向が見られます。
 インフルエンザ脳症の症例では、血清中や髄液中の一酸化窒素(NOx)が、高値になり、亜鉛は、低値を示します。しかし、NOxの上昇や亜鉛の不足は、単独では、重症化の指標にならないそうです(山中等) 。

 ・髄液中のTNF-αの半減期は、30分です。

 ・IL-6は、リンパ球、単球、マクロファージ、脳内の星細胞、ミクログリア、などで産生されます。
 血清中や髄液中のIL-6やIL-8が、1,000pg/ml以上の場合、急性脳症や急性脳炎が重症化することが多いと予測されます。

 ・インフルエンザ脳症の患児では、末梢白血球中のIL-6、IL-10のmRNAの発現が増加が認められます。
 血漿中のIL-6は、高値の傾向にあります。
 咽頭のウイルス量と、サイトカインmRNA発現量、血漿中のサイトカイン値には、相関関係は認められないそうです。

 ・NSAIDsの中でも、古くから解熱や鎮痛を目的に使用されたアスピリンは、ライ症候群の発症に関連するとされます。

・インフルエンザ脳症に多い急性壊死性脳症(acute necrotizing encepahlopathy:ANA)の病変限局型では、頭部CT、MRIで、両側視床、大脳白質、小脳、脳幹に、左右対称性の、境界明瞭な多発性病変が認められます。急性壊死性脳症の脳幹型で、短時間に呼吸停止に至り、脳幹や視床に、広範に、低吸収域、腫大が認められます。
 これは、ライ症候群では、脳全体の浮腫が認められるのと、相違しています。
 発熱に伴って放出されたサイトカインなどにより、脳の血管内皮細胞が障害され、脳血管関門が破壊され、脳実質の浮腫や出血が生じると、推測されています(ライ症候群では、脳実質の神経細胞のミトコンドリアが障害され、脳浮腫が生じます)。
 肝機能障害(血中アンモニアは上昇しません)、腎機能障害、血液凝固異常(血小板減少など)が認められます。
 急性壊死性脳症は、1歳前後の乳幼児に多い疾患で、日本、台湾など、東南アジアに多く発症しています。
 先行感染は、インフルエンザが多いが、突発性発疹の際にも見られます。
 インフルエンザ脳症は、画像診断上、急性壊死性脳症の像を示す症例が多いです。
 なお、インフルエンザに続発する脳症には、急性壊死性脳症の他、ライ症候群HSES(hemorrhagic shock and encephalopathy:出血性ショック脳症症候群)があります。

 ・HSES(hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome:出血性ショック脳症症候群)では、発熱、ショック、脳症(意識障害、痙攣)、出血傾向、水様性下痢などの症状が現われます。
 hemorrhagicと言うのは、「出血性」と言う意味で、HSESでは、播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併します。
 HSES(HSE症候群)は、乳幼児に多く見られます。
 HSESの発症年齢は、2〜10カ月の乳児に多く、典型的なライ症候群の発症年齢(4〜12歳)より低く、早期に、下痢(特に血性)や、DICを生じる点も、ライ症候群と異なります。
 HSESでは、急性脳症と、DIC以外に、肝機能障害、腎機能障害も、合併します。
 HSESでは、ライ症候群と異なり、血液検査で、高アンモニア血症を認めず、病理組織所見で、肝組織に、脂肪沈着を認めず、壊死(centrilobular necrosis、あるいは、widespread necrosis)の所見を示すと言われます。
 アルファ1-アンチトリプシン(α1-AT)欠損が病因と提唱されましたが、確定されていません。
 補体キニン血液凝固系の活性化、蛋白分解酵素の活性亢進が、示唆されています。
 日本でのインフルエンザ脳症には、米国に多いHSES(HSE症候群)に類似した症状を来たす、HSE様症候群が、かなり多く含まれています。しかし、HSE症候群は、インフルエンザとの関連はないので、HSE症候群とは、似て非なる症候群(病態)と考えられています。
 HSE様症候群では、頭部CT所見は、ライ様症候群と同様に、全大脳型(最初から脳全体に浮腫が見られる)を示す場合と、遅発性皮質型(経過中に大脳皮質に浮腫が見られる)を示す場合とがあります。
 HSE(様)症候群は、ライ症候群と異なり、高アンモニア血漿は見られません。また、HSE(様)症候群は、肝生検では、非特異的な脂肪変性と、centrilobular hepatic necrosisが認められて、瀰漫性微細脂肪沈着が認めれられるライ症候群と、異なると言われます。
 HSE(様)症候群は、高熱に伴ない、意識レベルが低下します。HSE(様)症候群は、熱射病(heatstroke)、TSS(Staphylococcal toxic shock syndrome)に、臨床症状が類似していると言われます。
 表3 HSE症候群とHSE様症候群の鑑別
 特徴  HSE症候群  HSE様症候群
 インフルエンザとの関連  なし  強い
 地域  米国に多い  日本に多い
 年齢  乳児(2〜10カ月)に多い  幼児(6カ月〜5歳)に多い
 ・レジオネラ肺炎マウスの実験では、高酸素状態は、肺組織のアポトーシスを亢進させます。酸素マスク、人工呼吸管理などは、インフルエンザ脳症の予後を悪くする側面もあるかも知れません。

 ・血管内皮細胞や、リンパ球や、赤血球の表面の糖鎖には、シアル酸が存在します。
 シアル酸は、COOH基を持つため、陰性荷電(マイナスの電荷)を有しています
 シアル酸を含む糖鎖により、血管内皮細胞と、赤血球やリンパ球は、陰性荷電(陰性苛電)により反発し、接着が防止されます。血管内皮細胞は、強力な陰性荷電を有しており、同じく陰性荷電を有する血小板とは、反発し合い、血小板の粘着・凝集が防がれています。
 インフルエンザウイルスは、シアル酸を加水分解する酵素のノイラミニダーゼ(NA)を、産生します。NAは、宿主の細胞内で増殖したインフルエンザウイルスが、細胞膜の外に遊離する際に、宿主の細胞表面に存在するンフルエンザウイルス受容体(シアル酸を含むシアロ糖鎖)との結合を外すことによって、ウイルスの凝集を防ぎ、ウイルスの出芽・遊離を促進します。
 インフルエンザ感染に伴ない、インフルエンザウイルス(ウイルス血症)か、インフルエンザウイルスが産生するノイラミニダーゼ(NA)が、何からの機序で、血管内に流入し、血管内皮細胞や、リンパ球などのシアル酸を、分解し、リンパ球の接着を増強させて、血管内皮細胞障害を、強く引き起こし、また、血小板凝集を促進させ、インフルエンザ脳症を引き起こすのかも知れません。
 抗インフルエンザウイルス剤のタミフルは、インフルエンザウイルス(A型、及び、B型)のノイラミニダーゼ(NA)を、選択的に阻害します。インフルエンザ脳症の発症に、インフルエンザウイルスが産生するノイラミニダーゼ(NA)が関与しているとすれば、タミフルの早期投与は、インフルエンザ脳症の、予防・治療に、有用かも知れません。

 ・急性脳症では、血清中のチトクロームc(基準値100ng/ml)、TNF-α(基準値10pg/ml)、IL-6(基準値100pg/ml)、AST(GOT:基準値100IU/L)、ALT(GPT:基準値100IU/L)、LDH(基準値1000IU/L)、Cr(基準値1mg/dl)などが、増加し、死亡及び後遺症を予測する因子となると言われます。
 特に、発症早期に、チトクロームcや、TNF-αが増加する症例は、死亡したり、後遺症を残す確率が、高いです。
 死亡及び後遺症例の予測率は、発症早期では、チトクロームc=60%、TNF-α=64%、IL-6=50%、AST=50%、ALT=31%、LDH=43%、Cr=31%、と言われます。また、死亡及び後遺症例の予測率は、発症2日では、チトクロームc=83%、TNF-α=75%、IL-6=38%、AST=81%、ALT=69%、LDH=68%、Cr=50%、と言われます。

 ・インフルエンザの予防接種(インフルエンザワクチン)を受けても、インフルエンザ脳症の発症を、予防出来ないようです(注4)。
 インフルエンザの予防接種が、インフルエンザ脳症を予防する効果があるかに関して、厚生労働省の見解(主任研究者:森島恒雄教授)では、「インフルエンザ脳症を発症した事例の間で、ワクチン接種の有無について有意な差は無く、インフルエンザワクチンの接種によるインフルエンザ脳症の予防、インフルエンザ脳症の重症化の予防について、明らかな効果は見いだされていません」とのこと。ただし、「インフルエンザワクチンの接種により、インフルエンザの発症が防げるのであれば、論理的にはインフルエンザ脳症の発症リスクは回避あるいは軽減されるとも考えられます」。

 ・インフルエンザの予防接種を2回受けていたにもかかわらず、インフルエンザ脳症を発症した症例が、複数、報告されています。
 乳幼児では、インフルエンザの予防接種を受けても、血液中に有意な抗体が、上昇しないこともあります。しかし、これらの症例(予防接種を受けていたにもかかわらず、インフルエンザ脳症を発症した症例)の中には、抗体(インフルエンザウイルスに対するIgG抗体)が、十分に(X160以上)存在していたにもかかわらず、インフルエンザ脳症を発症した症例を発症した症例もあります。
 なお、インフルエンザの予防接種は、1〜6歳未満の幼児では、インフルエンザの発症を、20〜30%阻止する効果があると、認められています(20〜30%の発症阻止効果)。

 5.解熱剤に関して
 インフルエンザに罹患した後、インフルエンザ脳症、ライ症候群などの、脳症を来たすおそれがあります。
 ライ症候群は、アスピリンの代謝産物である、サリチル酸が、ミトコンドリアを障害するのが、原因と推測されます。

 わが国では、ライ症候群を予防する為に、アスピリン、アスピリン・アスコルビン酸、アスピリン・ダイアルミネート、サリチル酸ナトリウム、サリチルアミド、エテンザミド、ジクロフェナクナトリウムを、15歳未満の小児のインフルエンザや水痘に伴う発熱に対して、解熱などの目的で、原則として、投与しないことになっています。
 インフルエンザ脳症を予防する為に、メフェナム酸を使った解熱剤を、インフルエンザに伴う発熱に対して、原則として、投与しないことになっています。なお、ジクロフェナクナトリウムは、インフルエンザ脳症の死亡率を、上昇させます(悪化させます)。
 日本小児科学会は、平成12年11月に、インフルエンザに伴う発熱に対して(解熱剤を)使用するのであれば、アセトアミノフェンが適切であり、非ステロイド系消炎剤(NSAIDs)の使用は慎重にすべき旨の見解を、公表しています。

 小児が発熱した際に、原因が、インフルエンザや水痘であるか、家族が、見分けることは、困難だと思われます。従って、15歳未満の小児が発熱した際には、アスピリンなどを含まない解熱剤を使用する方が、安全です。
 市販薬の小児用バファリンは、成分はアスピリンでなく、アセトアミノフェンが配合されています。しかし、市販薬でも、成人用に販売されている、バファリンA、エキセドリンA、ケロリンなどには、アスピリン(アセチルサリチル酸)が、含まれていますので、15歳未満の小児に、服用させないことが、大切です。

 
6.異常行動熱性譫妄
 
小児は、高熱を出した際に、熱性譫妄(せんもう、熱譫妄)と言って、幻視、幻覚を見て、異常行動をする子供さんがいます。例えば、壁に、実際は存在しない、アニメのキャラクターが見えると言って、笑ったり、意味不明の言葉を喋ったり(異常言動)、理由もなく怯えたりすることがあります。
 このような熱性譫妄(異常行動)は、インフルエンザ脳症を合併していなくても、見られます。しかし、熱性譫妄(異常行動)は、痙攣、意識障害と同様に、インフルエンザ脳症の初期症状のこともあると言われます。

 「インフルエンザ脳症ガイドライン」(森島恒雄氏等、表3)に掲載された、インフルエンザ脳症患者家族の会「小さないのち」のアンケートによると、インフルエンザ脳症の前駆症状としての異常行動・言動の例として、以下のような事例が、紹介されています。
 1.両親がわからない、いない人がいると言う(人を正しく認識できない)。
 2.自分の手を噛むなど、食べ物と食べ物でないものとを区別できない。
 3.アニメのキャラクター・象・ライオンなどが見える、など幻視・幻覚的訴えをする。
 4.意味不明な言葉を発する、ろれつがまわらない。
 5.おびえ、恐怖、恐怖感の訴え・表情
 6.急に起こりだす、泣き出す、大声で歌いだす。
 これらの異常言動・行動の症状は、大脳辺縁系の障害と関連があるそうです。

 インフルエンザ脳症に伴う異常言動・行動は、熱譫妄と区別しにくいですが、2005年11月に配布された「インフルエンザ脳症ガイドライン」(森島恒雄氏等)によれば、以下のような場合は、二次、または、三次医療機関へ紹介することを勧めています。
 1.異常行動・言動が、連続的ないし断続的に、概ね1時間以上続く場合、
 2.異常行動・言動が見られ、意識状態が明らかに悪いか悪化する場合、

 一般に、インフルエンザでは、他の感染症に比して、発熱に伴い、譫妄状態(熱性譫妄)が見られることが多いです(熱性譫妄は、必ずしも、インフルエンザ脳症の合併を意味しないです)。
 インフルエンザなど感染症で現れる譫妄状態(熱性譫妄)は、睡眠中(夜間、昼間)に現れる(睡眠後に覚醒した時に異常行動をとる)ことが多いです。インフルエンザ脳症などで現れる痙攣発作は、覚醒時に現れることが多いです。

 7.インフルエンザ脳症の発症に関与する遺伝子多型「X」
 Med Wave(日経BP社亀甲綾乃氏)の記事によると、インフルエンザ脳症の発症に、「X](仮称)と言う酵素の遺伝子多型が関与することが、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター教授の中村祐輔氏等の共同研究(厚生労働省のインフルエンザ脳症研究班のゲノムプロジェクト)で解明されたそうです。つまり、「X](仮称)と言う酵素の遺伝子が、特定の型の子供さんは、インフルエンザに罹患した際、インフルエンザ脳症を発症しやすいことになります。

 インフルエンザ脳症の発症に関与する遺伝子多型「X](仮称)に関して、2005年11月20日に開催された第42回日本小児アレルギー学会の特別講演で、岡山大学小児科教授の森島恒雄氏により、発表されました。

 森島氏等の研究によると、インフルエンザに罹患し、インフルエンザ脳症で重篤な後遺症を残した症例では、「X」(仮称)という酵素に、遺伝子多型が見られるそうです(「X」と言う酵素が、特定の型の子供さんは、インフルエンザ脳症を発症しやすいと言うことです)。ただし、ただし、インフルエンザ脳症を発症した子供さんの全てが、「X」と言う酵素が、特定の型の子供さんなのか(遺伝子多型が認められるか)は、明らかにされていません。

 「X」と言う酵素は、10q22染色体に座位しています。
 「X」と言う酵素は、肝臓や腎臓、脳などに、発現します(RNAの発現が見られます)。
 「X」と言う酵素が、特定の型だと(遺伝子多型がある場合)、TNF-α、IL-6などの炎症性サイトカインにより、「X」の発現が刺激され、亢進し、肝細胞などで、アポトーシスが起こるそうです(S-アデノシルメチオニンなどの発現が、亢進させられる)。
 「X」と言う酵素が、シアル酸などを転移させ、糖鎖の形成に関与する酵素だとしたら、以前から、私が考えて来たように、インフルエンザウイルス(ウイルス血症)か、インフルエンザウイルスが産生するNA(シアル酸を分解する酵素)が、血管内に流入し、血管内皮細胞や、リンパ球などのシアル酸を、分解し、リンパ球の接着を増強させ、血管内皮細胞障害を、強く引き起こすことが、インフルエンザ脳症の原因かも知れません。

 インフルエンザ脳症は、発症すれば、致死率30%、後遺症率25%と、言われています。
 今後、インフルエンザ脳症のハイリスク者を、遺伝子多型を検査することで、発症前に診断することも、可能になるかも知れません。

 追記
 ・インフルエンザ脳症は、発症因子として、何らかの遺伝的素心が関与することが示唆されている。
 遺伝子多型(SNPs)のフルゲノム解析の結果、インフルエンザ脳症の患児では、遺伝子M(物質「X」の産生に関与する遺伝子)のプロモーター領域の変異をヘテロに有していることが示唆されている。
 遺伝子Mは、蛋白MPを細胞(HepG2)に発現させる(MP蛋白は遺伝子Mがコードしている)。
 MPは、物質Xを生成するが、その際に、ATPが消費される。
 (遺伝子Mの転写が促進し)MP蛋白の合成が増強し(MPが強発現し)、ATPが過剰消費されると、高サイトカインにより細胞のアポトーシスが誘導される(インフルエンザ脳症で多臓器不全が起こる)。

 注1アポトーシス(apoptosis)を起こす経路には、ミトコンドリアを介する経路(シトクロムcが放出される)と、ミトコンドリアを介さず、細胞表面の受容体(死の受容体:death receptors)を介する経路(Fas抗原を介する経路など)とが、存在する。
 いずれの経路も、プロカスパーゼをカスパーゼ(蛋白分解酵素群)に活性化させ、アポトーシスが誘導される。
 ミトコンドリアを介する経路では、PTPの開口などにより、ミトコンドリア内膜の透過性が亢進し、膜間スペースに存在する、シトクロムcが放出される。放出されたシトクロムcは、細胞質ゾルに遊離し、Apaf-1と結合し、この複合体が、カスパーゼ9を活性化させ、アポトーシスが引き起こされる。アポトーシスを抑制するBcl-2、Bcl-xLなどの蛋白は、PTP(の開口)を抑制する。アポトーシスを促進するBaxやBakは、PTP(の開口)を促進し、シトクロムcの放出を促進する。
 ミトコンドリアを介する経路は、活性酸素(ROS)、DNA損傷(DNA damage)などの、死のシグナル(death signals)により、活性化され(triggered)、細胞質ゾルに存在する、アポトーシス誘導蛋白(proapoptotic protein)のBaxが、ミトコンドリア外膜(PTPが存在する、ミトコンドリア外膜と、ミトコンドリア内膜の接合部位:contact sites)に、結合し、PTPが開口する。なお、抗癌剤のadriamycin(doxorubicin)は、活性酸素(ROS)を発生させ、Baxを誘導する。アポトーシスの際には(、アポトーシスの結果、ミトコンドリアのCa2+輸送系が障害され)、細胞質ゾルのCa2+濃度が、上昇する。
 ミトコンドリアは、ATPを合成して細胞の生を維持するだけでなく、アポトーシスに中心的な役割を果たして、細胞の死をも制御している。
 アポトーシスによって、核が凝縮して死んだ細胞は、細胞の中身を外に出ず、マクロファージによって除去されると言う。
 アポトーシスは、生体全体に取って、不要になった細胞や、危険な細胞を、死滅させて排除(elimination)する。
 アポトーシスは、変異(transformations)した細胞を死滅させ、癌細胞として、増殖するのを抑制する。
 インフルエンザウイルスにより、細胞は、アポトーシスによって、細胞死すると言う。
 プロスタグランジンは、アポトーシスを抑制する:解熱目的で、NSAIDsを使用して、PGE2産生を抑制すると、アポトーシスが進み易くなると考えられる。

 アポトーシスでは、死滅した標的細胞から、細胞内物質が放出されない(病原体の処理に都合が良い)。

 カスパーゼ(caspase)は、現在13種類が同定されている。
 アポトーシスでは、アポトーシスを誘導する刺激により、最初に、initiator caspase(caspase2、8、9、10)が活性化され、次いで、effector caspase(caspase3、6、7)が活性化される。
 アポトーシスは、広域カスパーゼ阻害剤(zVAD)により、抑制される。

 細胞死には、アポトーシス(apoptosis)以外に、ネクローシス(necrosis)、オートファジー(autophagy)、senescence、mitotic catastropheが、知られている。

 イマチニブ(STI571:Imatinib)を、BCR-ABL陽性ヒト白血病細胞株に投与すると、核の断片化など、典型的なアポトーシスが誘導される。
 イマチニブ(Imatinib)に加え、広域カスパーゼ阻害剤(zVAD)を、BCR-ABL陽性ヒト白血病細胞株に投与すると、細胞全体が縮小し、核が濃縮し、ネクローシスが誘導される。
 ネクローシスには、セリンプロテアーゼ(serine protease)が関与する。トリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤(TLCK、TPCK)により、Omi/HtrA2を阻害すると、細胞死やミトコンドリアの膜電位(Delta Psi )低下が抑制される。
 ミトコンドリアのNa+-Ca2+交換輸送体(NCE:Na/Ca exchanger)を阻害するクロナゼパム(clonazepam)やCGPを投与すると、ネクローシスは、抑制される。
 クロナゼパム(clonazepam)などの向精神薬(精神安定剤)は、NCEによるCa2+流出輸送を、阻害する。

 ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDAC阻害剤)の1種、FR901228(depsipeptide)は、骨肉腫細胞株に、細胞死を誘導する(p53やRBの変異に拘わらない)。

 注2セリンプロテアーゼは、タンパク分解酵素で、原核生物、真核生物の消化酵素だけなく、発生、血液凝固炎症などに関わる酵素を含んでいる。
 セリンプロテアーゼには、キモトリプシン、トリプシン、トロンビンエラスターゼなどがある。キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼは、アミノ酸配列が類似していて、これらの酵素は、先祖の遺伝子が重複を起こし、出来た酵素が、分散新化したと、考えられている。

 注3細胞外のカルシウムイオン濃度(Ca2+濃度)が高いと、サリチル酸の、毒性(ミトコンドリア障害作用)が、増強する
 アポトーシスを惹起するPTPの開口(induction)は、Ca2+に依存する。その理由は、Bernardiの実験結果から、PTPの開口は、膜電位(the proton electrochemical gradient:刄ハH+)により制御されていて、Ca2+Camの増加)が、ミトコンドリア内で、膜電位(刄ハH+)を変化させて、PTPの開口(induction)を引き起こすためと、考えられる。
 Trost等の実験結果では、細胞外Ca2+濃度(Cao)が高いと、サリチル酸の毒性(ミトコンドリア障害作用)が、増強した。細胞外(extracellular)のカルシウムイオン濃度(Ca2+濃度)が高いと、サリチル酸の、毒性(ミトコンドリア障害作用)が、増強したカルシウム拮抗作用のある薬剤(verapamil、diltiazem、chlorpromazine、nifedipine、nisoldipine)は、サリチル酸の毒性(ミトコンドリア障害作用)を、阻害ないし軽減させた
 ニフェジピン(nifedipine)などのカルシウム拮抗剤(降圧剤)や、クロルプロマジン(chlorpromazine)のような精神安定剤は、サリチル酸の毒性(PTP開口作用)を弱め、ミトコンドリア障害を軽減するので、ライ症候群インフルエンザ脳症の治療(アポトーシス抑制)に、有用かも知れない。
 なお、ニフェジピンには、活性酸素の産生を抑制する作用もあると言われる。

 注4インフルエンザワクチンに含まれる卵白アルブミンの量は、ワクチン1ml当たり、1ng異化と言われる。ワクチン接種後のアナフィラキシーショックは、最低、鶏卵としては1mg以上(蛋白としてはg単位)の量を注射しないと、起こらないと言われているので、インフルエンザワクチンは、重症の鶏卵アナフィラキシー患者を除いて、安全に接種可能と言われる。
 なお、卵アレルギーがなくても、ワクチン含有されている、抗生剤(抗生物質)等が、アナフィラキシーを起こす原因となることも有り得る。
 現行のインフルエンザの予防接種に用いられる「インフルエンザHAワクチン」 は、全粒子型ワクチンでないので、インフルエンザウイルスのHA(赤血球凝集素)を含んでいるが、NA(ノイラミニダーゼ)をは含んでいない。HAに対する抗体は感染予防に有効だが、血管内でのNAによるシアル酸分解による血管内皮細胞など活性化予防には、NAに対する抗体の方が有効と思われる。
 インフルエンザワクチンの副反応は、インフルエンザウイルス粒子体の脂質分画が原因で起こる。

 参考文献
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 http://www.mhlw.go.jp/houdou/0111/dl/h1112-1e.pdf
 ・亀甲綾乃(日経メディカル):トピックス インフルエンザ脳症の発症に関与する遺伝子多型が判明 致死率30%の重篤疾患の発症前診断も可能に!? Med Wave 2005.11.21.  
http://medwave.nikkeibp.co.jp/regist/medi_auth.jsp?id=0/mdps/414862 

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