栄養素の代謝と相互変換
【ポイント】
糖質(ブドウ糖)は、肝臓で、脂質(トリグリセリド)や蛋白質(アミノ酸)に変換される。
蛋白質(アミノ酸)は、糖質(ブドウ糖)や脂質(脂肪酸)に、変換出来るが、高蛋白食は、窒素を尿素に処理する為に、肝臓に負担がかかる。
脂質は、糖質(ブドウ糖)や蛋白質(アミノ酸)には変換出来ないが、脂肪酸分解(β-酸化)で生成されるエネルギー(NADH2やATP)は、肝臓で、糖新生に利用される。脂肪酸分解(β-酸化)により生成されるアセチル-CoAが、TCA回路で代謝(燃焼)される為には、糖質から生成されるオキサロ酢酸が必要(脂肪は、糖の炎によって燃える)。
三大栄養素の、糖質(炭水化物)、蛋白質、脂質につき、体内での主な代謝と、変換の相互関係を、下の図にまとめました。
糖質(グルコース)は、脂肪組織で脂質(脂肪酸、中性脂肪など)に、肝臓でアミノ酸やコレステロールに、変換出来ます。
蛋白質(アミノ酸)は、主に肝臓で代謝され、糖新生でグルコースに変換出来、また、糖原性アミノ酸は脂肪酸に変換出来ます。
しかし、脂質(脂肪酸)は、グルコースやアミノ酸に変換することは、出来ません。
脂肪酸のβ-酸化で生成されるアセチル-CoAは、TCA回路で代謝され、NADH2+などが生成され、ミトコンドリアで、エネルギー(ATP)が生成されます。この際、アセチル-CoAが、TCA回路で代謝されるためには、オキサロ酢酸と言う、グルコースの代謝産物が必要です:「脂肪は、糖の炎によって燃える」(Fat burns in the flame of carbohydrates.)。
1.糖質(炭水化物)
糖質は、消化管内で消化され、グルコース(ブドウ糖:Glc)などの短糖類に分解され、小腸から吸収され(注1)、門脈を経て肝臓に入ります。
グルコースは、大部分が、肝臓でグリコーゲン合成酵素(glycogen synthase、旧glycogen synthetase)により、グリコーゲンとして貯えられ、残りは、血液中に放出されたり、脂肪酸に変換(転換)されます(注2)。肝臓では、脂肪酸は、グルコースがら作られるグリセロール3-リン酸(α-グリセロリン酸)と結合して、トリグリセリド(中性脂肪)が生成され、VLDLとして、血中に分泌されます。脂肪組織では、脂肪酸は、グルコースから作られるグリセロール3-リン酸(α-グリセロリン酸)と、エステル結合されて、トリグリセリド(中性脂肪)として貯えられます。糖質からエネルギーを得て、脂肪として貯えるのが、生命活動の基本です。
グルコースは、細胞質で解糖(注3)を受けて、ピルビン酸(焦性ブドウ糖)になり、さらに、ミトコンドリアのマトリックスでアセチル-CoAとなり、TCA回路(tricarboxylic acid cycle、別名、クエン酸回路、Krebs回路)に導入され、NADH2+、FADH2、GTPが生成されます。
TCA回路は、リンゴ酸(注4)、オキサロ酢酸、クエン酸などから構成されています。
NADH2+やFADH2は、呼吸鎖の電子伝達系で酸化され、プロトン(H+)濃度勾配が形成され、エネルギー(ATP)が生成されます(注5)。
糖新生と言って、絶食時などには、筋肉由来のアラニンなどのアミノ酸や、筋肉や赤血球で産生される乳酸(Lactate)とピルビン酸や、脂肪細胞でトリグリセリドが分解されて生じるグリセロール(グリセリン)から、肝臓でグルコースが作られ、血液中に供給されます(糖新生の経路を参照して下さい)。
グルコース(ブドウ糖)の小腸からの吸収は、Na+-ブドウ糖共輸送体(SGLT1:sodium-dependent glucose transporter 1)により、Na+の吸収と共役して行われるので、Na+はグルコース(ブドウ糖)の小腸からの吸収に必要。 なお、フルクトース(果糖)も、グルコースの代謝(解糖)に組み込まれます(注6)。
フルクトースの吸収には、Na+は、必要でなく、肝臓で、速やかに、インスリン非依存性に、代謝されます。
また、図には示しませんが、ホスホグルコン酸回路(HMS)では、グルコース-6-リン酸から、NADPH2+(コレステロールや脂肪酸の合成に必須の補酵素)や、リボース(核酸の原料)が合成されます。
糖質(α-ケトグルタル酸、ピルビン酸、オキサロ酢酸)は、酵素(ALT、AST、GDH)により、アミノ酸(グルタミン酸、アラニン、アスパラギン酸)に変換が可能です。
2.蛋白質
蛋白質は、アミノ酸に分解され、小腸から体内に吸収されます。
蛋白質を過剰に摂取しても、体内では、過剰なアミノ酸は分解されて、最終的に、グルコース(↑印で示した糖新生)や、脂肪酸(←印で示した脂肪酸合成)に、変換されてしまいます。
体内でアミノ酸(グルタミンなど)が分解されたり、食餌の蛋白質が腸内細菌によって分解されると、アンモニア(NH4+やNH3)が生じます。アンモニアを、尿素回路(オルニチンサイクル、ウレアサイクル)で処理して尿素を作る際に、ATPが必要なので、蛋白質を摂取しすぎると、肝臓や腎臓に負担をかけてしまいます(注7)。
運動時に、骨格筋では、解糖によりグルコースからピルビン酸が生成されたり、筋蛋白質が分解されてBCAAなどのアミノ酸が生成され、エネルギー源になります。生成されたピリビン酸は、細胞膜を通過出来ませんが、筋肉細胞内で、BCAAからアミノ基を転移され、アラニンに変換されます。アラニンは、筋肉細胞から放出され、血液中を肝臓に移行されます。アラニンは、肝臓でピルビン酸に戻されて(注8)、糖新生でグルコースに変換されます(↑印で示しました)。グルコースは、血液中に供給され、筋肉に取り込まれて、ピルビン酸に変換されます(グルコース・アラニンサイクル)。
3.脂質
体内に吸収されたトリグリセリドは、脂肪酸とグリセロール(注9)に分解されます。
脂肪酸は、ミトコンドリア内でβ-酸化によってアセチル-CoAに分解され、TCA回路で代謝されて、エネルギー源となります(注10)。
アセチル-CoAがTCA回路で代謝され、NADH2+が生成されるためには、グルコースから作られるオキサロ酢酸(オキザロ酢酸:oxaloacetate)が必要です:脂肪は、糖の炎によって燃える(注11)。
偶数個の炭素原子を有する脂肪酸は、β-酸化でアセチル-CoAしか産生出来ず、糖新生には利用されないので、脂肪酸はグルコースには、変換できません(注12)。
脂肪酸は、グルコースやアミノ酸に変換されないので、過剰に体内に取り込まれても、TCA回路で代謝されないと、トリグリセリドやコレステロールとして体内に蓄積されてしまいます(注13)。
余剰に摂取した糖質(ブドウ糖)や蛋白質(アミノ酸)は、肝臓で、脂肪酸合成により、脂肪酸に変換されます。脂肪酸は、糖質から生成されるグリセロール3-リン酸とエステル結合し、中性脂肪(トリグリセリド)が生成され、VLDLとして、血中に分泌され、脂肪組織に貯蔵されます。
ブドウ糖50gを過剰に摂取した場合、脂肪14gが生成されます。 日本では、過去50年間で、カロリー摂取量は2100Kcal/日でほとんど変化していません。しかし、カロリー摂取量に占める脂質の割合は、50年前が約6%だったのが、最近は、28%と、4倍に増えています。
米食をして来た日本人は、脂肪を貯め込む「倹約遺伝子」の働きが欧米人より活発だと言われています。
肥満や糖尿病を予防するためには、脂質の少ない食餌を摂ることが大切です。
カロリー制限をすると、活性酸素の発生量が低下して、寿命が延びます。
長寿の秘訣は、腹八分目に食べ、カロリーや脂質の摂取量を控え、野菜などで抗酸化物質を摂ることです。
注1:グルコースの小腸の細胞内への吸収は、Na+と一緒の共輸送なので、食塩はグルコースの吸収を良くさせます。
注2:肝臓で、α-ケトグルタル酸(2-オキソグルタル酸とも呼ばれる)が、酵素(GDH)により、アンモニアと反応して、グルタミン酸(Glu)が出来ますので、グルコースは、アミノ酸にも、変換出来ます。
グルコース(ブドウ糖)は、体内では、細胞のエネルギー源になる、肝臓や筋肉でグリコーゲンとして貯蔵される、中性脂肪として貯蔵される、アミノ酸に変換されるの、どれかの、運命を辿ります。
注3:解糖では、グルコースが、ピルビン酸に、分解されます。
グルコースの解糖の経路には、ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)を経由して、
・グルコース→グルコース6-リン酸→フルクトース6-リン酸→フルクトース1,6-ビスリン酸→ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)→グリセルアルデヒド 3-リン酸(GAP)→1,3-ビスホスホグリセリン酸(1,3-BPG)→
と分解される経路と、DHAPを経由しないで、直接、グリセルアルデヒド 3-リン酸(GAP)に分解される、
・グルコース→グルコース6-リン酸→フルクトース6-リン酸→フルクトース1,6-ビスリン酸→グリセルアルデヒド 3-リン酸(GAP)→1,3-ビスホスホグリセリン酸(1,3-BPG)→
と言う経路とがあります。
ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)は、グリセロール-3-リン酸に変換され、トリグリセリド(中性脂肪)の生成に使用されます。
グリセロール-3-リン酸は、フルクトース(果糖)からも、生成されます(糖新生の経路の図に示しました):フルクトース→フルクトース-1-リン酸→グリセルアルデヒド→グリセロール→グリセロール-3-リン酸と、生成されます。フルクトースは、筋肉では、フルクトース-6-リン酸となって、解糖系にも、導入されます。
なお、グリセロール-3-リン酸は、α-グリセロリン酸とも呼ばれて来ましたが、解糖の経路のグリセルアルデヒド 3-リン酸(GAP)とは、異なります。
注4:リンゴ酸(オキシコハク酸)は、ミトコンドリア内では、TCA回路に必要なオキサロ酢酸になり、TCA回路の回転(代謝)を、良くすると、考えられます。
リンゴ酸は、林檎(リンゴ)や、ブドウの果汁に、含まれています。
林檎(リンゴ)は、約1.2%のリンゴ酸、クエン酸、酒石酸などの有機酸を含んでいます。リンゴは、食欲を促進させ、便秘の時にも、下痢の時にも、良いと言われています。
酵母のアルコール発酵で作られる、清酒などにも、リンゴ酸が、含まれています。
注5:グルコース1分子当たり、肝臓、腎臓、心臓では、38ATP、それ以外の臓器では、36ATPが、生成されます。
解糖では、グルコース1分子当たり、好気的条件下では、ATP2分子、NADH2+2分子、ピルビン酸2分子が生成されます(嫌気的条件下では、ATP2分子、乳酸2分子が生成されます)。
グルコース → 2 ピルビン酸 + 2 ATP + 2 NADH2+
この解糖で生成されたNADH2+は、ミトコンドリア外(細胞質)から、ミトコンドリア内に輸送され、呼吸鎖で酸化され、ATP が生成されます。
NADH2+は、肝臓、腎臓、心臓では、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルにより、その還元当量のエネルギーが、ミトコンドリア内に輸送され、1個のNADH2+当り、3個のATP が生成されます。
ところが、NADH2+は、筋肉などの組織では、グリセロリン酸シャトルにより、FADH2として、ミトコンドリア内に輸送されますが、1個のFADH2当り、2個のATPしか生成されません。従って、解糖で生成された2個のNADH2+が、肝臓などで、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルにより、ミトコンドリア内に輸送されると、6個のATPが生成され、全体で、38個のATPが生成されます。
しかし 解糖で生成された2個のNADH2+が、筋肉などの組織で、グリセロリン酸シャトルにより、ミトコンドリア内に輸送されると、4個のATPしか生成されないので、ATPは、2個少ない、36個しか、生成されないことになります。
なお、脂肪酸のパルミチン酸1分子当たり、β-酸化により、アセチル-CoAが8分子生成され、129分子のATPが生成されると言われます:パルミチン酸(C16:0)が、β-酸化で1回分解され、1個のアセチル-CoAが生成される際に、1個のFADH2と1個のNADH2+とが生じます。ミトコンドリアの呼吸鎖で、FADH2やNADH2+から、それぞれ、2個、及び、3個のATPが生成されます(計5個のATPが生成されます)。パルミチン酸は、アセチル-CoAに分解されるβ-酸化を7回繰り返すので、計35個のATPが生成されます(7回のサイクル数のβ-酸化により、8個のアセチル-CoAが生成されます)。アセチル-CoAが、TCA回路で代謝されると、11個のATPと1個のGTPが生成されます。従って、β-酸化とTCA回路で、計35+(12×8)=131個のATPが生成されます。しかし、パルミチン酸(C16:0)が、β-酸化される初期の段階で、Thiokinase(ACS)により、アシル-CoA(C15-CO-CoA)に変化させるのに、1個のATPが消費されAMPになる(実質、2ATP消費される)ので、差し引き、129個のATPが生成されます(ただし、肝臓では、パルミチン酸は、β-酸化された後、TCA回路に入らず、ケトン体のアセト酢酸になるので、35−2=33個のATPしか、生成されません)。
従って、グルコース1分子(1mol)当り38個のATP(グルコース100g当り21個のATP)が生成され、パルミチン酸1分子(1mol)当り129個のATP(パルミチン酸100g当り50個のATP)が生成されます(脂肪酸の方が、ブドウ糖より、エネルギー力価が高い)。
注6:フルクトース(果糖)は、グルコース(ブドウ糖)の代謝(解糖)に組み込まれますが、筋肉と肝臓では、異なった経路を辿ります(糖新生の経路の図に示しました)。
果糖の代謝に関しては、果糖の代謝の頁を参照して下さい。
注7:最近は、肝臓病や、腎臓病の食事療法では、低蛋白食が良いとされています。
例えば、ネフローゼ症候群の場合や、腎機能が低下している場合には、蛋白制限をした方が腎機能の悪化が少なくて済むと言うエビデンス(根拠)が出ているそうです。高蛋白食(蛋白負荷)は、蛋白代謝産物により、腎機能を悪化させるサイトカインが産生させたり、血管内皮細胞を障害する物質を産生させたり、腎臓の糸球体濾過量を増加させる(hyperfiltration)とされます。
蛋白摂取量の目安としては、慢性腎不全の患者さんには、0.6〜0.7g/kg体重/日、末期腎不全の患者さんには、0.4〜0.5g/kg体重/日が勧奨されています。
高蛋白食は、血液中の尿素値を増加させます。
アスリートなどで、筋肉量を増やす為に、高蛋白食を食べていて、蛋白を過剰に取り過ぎると、尿素が、尿中に増加し、尿素の為に、浸透圧利尿が起きて、頻尿になるそうです。頻尿や、喉の渇きが出現した場合は、蛋白質を過剰に摂取しているおそれがあります。
注8:アミノ酸の分解は、アミノ基転移反応と言って、アミノ酸のアミノ基を、α-ケトグルタル酸(2-オキソグルタル酸)などのアミノ基受容体に転移、α-ケト酸を生じます。
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ:alanine : 2-oxoglutarate aminotransferase)、旧名、GPT(glutamate pyruvate transaminase)は、肝臓に相対的に多く存在し(絶対量は、ASTの方が多い)、下記の反応を触媒します。
アラニン+α-ケトグルタル酸⇔ピルビン酸+L-グルタミン酸
アラニンは、血漿中で最も濃度が高いアミノ酸で、肝臓では、ピルビン酸の供給源になり、糖新生などに利用されます。
なお、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ:asparate : 2-oxoglutarate aminotransferase)、旧名、GOT(glutamate oxaloacetate transaminase)は、心筋、骨格筋にALTより多く存在し、下記の反応を触媒します。
アスパラギン酸+α-ケトグルタル酸⇔オキサロ酢酸+L-グルタミン酸
AST(GOT)は、特に、ミトコンドリア内で、リンゴ酸から変換されるオキサロ酢酸や、グルタミン酸を、α-ケトグルタル酸やアスパラギン酸に変換するのに、重要な酵素です。
グルタミン酸は、アミノ酸の分解で生じるアミノ基を、最終的に集める役割をしています。
グルタミン酸は、α-ケトグルタル酸となって、TCA回路に導入されます。
グルタミン酸は、アンモニアを処理するのに大切です。
アスパラギン酸は、アンモニアを処理する尿素回路において、ミトコンドリア内で生成されたシトルリンを、ミトコンドリア外でアルギニノコハク酸にする際に、必要です。
注9:グリセロール(グリセリン)は、エタノール(エチルアルコール)や、酢酸同様に、両新媒性の低分子化合物であり、生体膜(細胞膜)を自由に通過出来ます。
注10:β-酸化(β-oxidation)とは、脂肪酸分解(脂肪燃焼)のこと。
運動時や絶食時に、脂肪酸(アシル-CoA)は、ミトコンドリア内でβ-酸化され、アセチル-CoAにまで分解され、その際、NADH2+やFADH2が生成されます。これらの、NADH2+やFADH2は、筋肉(骨格筋や心筋)では、ミトコンドリア内で呼吸鎖により、ATPに変換され、また、NADH2+は、肝臓では、ミトコンドリア外に輸送され糖新生に利用されます。
脂肪酸がβ-酸化(脂肪燃焼)される際には、NADH2+やFADH2に加え、熱が放出されます(熱産生)。
筋肉(骨格筋や心筋)では、運動時に、脂肪酸がβ-酸化され、生成されるアセチル-CoAは、TCA回路で代謝され二酸化炭素にまで分解され(脂肪酸は完全燃焼)、NADH2+などが生成されます。NADH2+をエネルギー源にして、運動時には、ミトコンドリアの呼吸鎖で、ATPが生成されます。このように、脂肪酸は、骨格筋や心筋のエネルギー供給源で、ミトコンドリアでβ-酸化され、生成されるアセチル-CoAは、TCA回路で代謝され、二酸化炭素と水にまで分解されます。
、また、肝臓では、絶食時に、取り込まれた遊離脂肪酸がβ-酸化され、アセチル-CoAにまで分解され、その際に生成されるNADH2+の還元当量は、リンゴ酸として、細胞質ゾルに輸送され、糖新生が、行われます。肝臓では、アセチル-CoAは、ケトン体に変換され(脂肪酸は不完全燃焼)、ケトン体は、特に脳のエネルギー源になります。このように、脂肪酸は、肝臓では、β-酸化により、アセチル-CoAに分解された後、ケトン体が合成され、ケトン体は、特に脳のエネルギー源になります。
β-酸化系(の酵素活性)は、筋肉では、運動などに適応して、合成されます。普段、余り運動をしていない人は、β-酸化活性(脂肪酸をβ-酸化で分解する能力)が、非常に弱いと言われます。β-酸化活性は、高脂肪食(長鎖脂肪酸)や特殊な脂質化合物(の摂取)によって、増強されます。従って、β-酸化活性は、運動などの訓練で、増強するには、血中の遊離脂肪酸濃度が高くなる空腹時(低血糖時)に行うのが良いと言われます。ダイエットなど、体脂肪を減少させるのが目的なら、運動は、空腹時(低血糖時)に行う方が、β-酸化活性を増強する効果が高まります(ダイエットの為には、空腹時に運動した方が、脂肪燃焼効果が高まります。なお、普段、余り運動をしていない人は、ミトコンドリアの呼吸鎖(電子伝達系と酸化的リン酸化)の活性(酸化活性)も弱いですが、ミトコンドリアの呼吸鎖の活性(効率)は、訓練(持久運動など)によって、適応的に増強されます。
β-酸化系の酵素活性は、内臓では、肝臓で最も多いと言われます(糖新生、ケトン体の産生等が行われます)。
β-酸化系の酵素活性は、肝臓に次いで、心臓(心筋)、腎臓など、ATP消費が大きい臓器で、多いとされます。なお、β-酸化系の酵素活性は、加齢と共に、減少します。
脳のミトコンドリアには、β-酸化系(の酵素)が存在しないので、脳は、グルコースやケトン体をエネルギー源にします。
通常の筋肉(骨格筋)は、β-酸化系(の酵素活性)が強くなく、β-酸化系が最も強いのは、肝細胞と言われます。
肝細胞は、絶食時(血糖低下時)に、血中に増加した遊離脂肪酸(脂肪組織のトリグリセリドがHSLにより分解され生成される)を取り込み、ミトコンドリア内でβ-酸化します。
肝細胞が遊離脂肪酸をβ-酸化しますと、ミトコンドリア内にNADH2+やFADH2が増加し、呼吸鎖(電子伝達系)の燃焼容量が満杯になり、TCA回路は、作動しなくなります。遊離脂肪酸のβ-酸化により、アセチル-CoAが増加しますと、ケトン体が生成されますが、ケトン体のアセト酢酸は、NADH2+により還元され、β-ヒドロキシ酪酸となって、放出されます。また、遊離脂肪酸のβ-酸化により、ミトコンドリア内に増加したNADH2+は、ミトコンドリア外にリンゴ酸として還元当量が輸送され、糖新生が、行われます。
このように、肝臓では、遊離脂肪酸のβ-酸化に伴い、糖新生、ケトン体の産生が増加しますが、TCA回路は作動しません(TCA回路の代謝によっては、NADH2+は、電子伝達系に供給されません)。
β-酸化(脂肪酸分解)では、酸素は必要でありませんが、β-酸化により生成されたNADH2+やFADH2、それに、アセチル-CoAが、呼吸鎖で代謝される(脂肪燃焼)際には、酸素が必要です。
注11:脂肪酸がβ-酸化され、生成されるアセチル-CoAは、オキサロ酢酸と結合しないと、TCA回路で代謝されないので、NADH2+も生成されず、呼吸鎖でATPが生成されません。「脂肪は、糖の炎によって燃える」と書きましたが、脂肪酸が分解(β-酸化)され、燃焼(代謝)されるには、オキサロ酢酸を供給するに足るグルコース(ブドウ糖)の補給が、必要とされています。
オキサロ酢酸は、ミトコンドリア内外を、移動出来ません。しかし、リンゴ酸は、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルにより、ミトコンドリア内外を、移動出来ます。「脂肪は、糖の炎によって燃える」(Fat burns in the flame of carbohydrates.)と書きましたが、リンゴ酸は、ミトコンドリア内で、オキサロ酢酸に変換され、TCA回路の回転を高め、脂肪酸のβ-酸化で生成されるアセチル-CoAを、迅速に処理し、脂肪の代謝を促進し、TCA回路でのNADH2+生成を高め、呼吸鎖でのATP生成を高めると、考えられます。
注12:奇数個の炭素原子を有する脂肪酸からは、β-酸化によってプロピオニル-CoAが作られ、スクシニル-CoA(succinyl-CoA)を経て、オキサロ酢酸に代謝されて、糖新生が行われます。
注13:コレステロールは、1日約0.3gが食餌から吸収され、約1.5〜2gが体内で合成されます。
生体内のコレステロール合成は、ヒトでは、肝臓が50%、小腸が15%、皮膚が35%を分担しているとされます。コレステロールを多く含む食餌を摂取すると、肝臓で合成される内因性コレステロール量は減少しますが、完全に抑制されることはありません。胆汁酸は、小腸内でのコレステロールの合成を抑制します
コレステロール合成は、摂食時には肝臓と(小)腸で行われ、空腹時には肝臓で行われます。 人間は、1日約0.3gのコレステロールを食事(食物)から摂取し、1.5〜2gのコレステロールを体内(肝臓など)で合成します。
人間は、1日約0.2〜0.3gのコレステロールを食事(食物)から摂取します。また、1日約2gのコレステロール(胆汁酸)を胆汁中から腸管内へ排泄しますが、この腸管内に排泄されたコレステロールは、大部分は、再び、腸粘膜から吸収される(腸肝循環)ので、実際には、1日0.4gのコレステロールが、体外に排泄されると言われます(胆汁酸は、成人では、肝臓から20〜30g/日排泄され、そのうち95%以上が小腸で吸収され、腸肝循環しますので、実際に糞便中に排泄される胆汁酸量は0.5〜1.0g/日と言われます)。
人間は、本来、草食性動物なので、コレステロールは、栄養素として、摂取する必要がないと言われます。
糖質(炭水化物:御飯など)、蛋白質(肉類など)、脂質(動物性脂肪など)は、代謝されアセチル-CoAに変換されるので、コレステロール合成の材料になります。肉類は、動物性脂肪(飽和脂肪酸を含む中性脂肪から構成されている)を含むので、肉食はコレステロールを上昇させ易いです。肉類を摂取する場合には、脂身を除いたり、煮て食べる方が、高脂血症の予防に良いです。 参考文献
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