十分に食餌を摂取している時の代謝
食事(食餌)には、多量の(炭水化物)が含まれていますが、食事で摂取した糖質(炭水化物)を、体内に、グリコーゲンとして貯蔵出来る量は、少ないです(体内の糖質貯蔵量は、70kgの成人で、約370g)。
エネルギー需要がある時には、糖質(ブドウ糖)は、細胞質で解糖され、ピルビン酸になった後、ミトコンドリア内で、アセチル-CoAに変換され、TCA回路と呼吸鎖を経て代謝され、ATPが生成されます。しかし、エネルギー需要が少なく、かつ、糖質を十分に(過剰に)摂取している際には、肝臓や、脂肪組織で、脂肪酸合成が促進され、余剰なカロリーは、脂質(中性脂肪)として、貯蔵されます。なお、運動時など、エネルギー需要が高い時には、脂肪酸がβ-酸化され、アセチル-CoAが生成され、TCA回路と呼吸鎖を経て代謝され、ATPが生成されます。
また、各組織の細胞でも、細胞膜の脂質を維持するのに必要な脂肪酸を、合成しています。
生体に入った糖質の内、解糖系・TCA回路・呼吸鎖で代謝されるのは、50%以下であり、殆んどの糖質は、脂質や、蛋白質に変換されます。
1.三大栄養素の代謝
十分に食餌を摂取している時は、食餌で摂取された三大栄養素は、トリグリセリド(主として脂肪組織)、グリコーゲン(肝臓、筋肉、注1)、あるいは、コラーゲンとして、体内に貯蔵されます。
また、コレステロールやトリグリセリドは、食餌で摂取しなくても、体内では、糖質(グルコース)や蛋白質(アミノ酸)からも、変換(転換)により、合成されます。
1).グルコース
食餌で摂取されたグルコース(ブドウ糖)は、肝臓ではグルコキナーゼ(glucokinase)により、筋肉ではヘキソキナーゼ(hexokinase)により、リン酸化されて、グルコース 6-リン酸に変換されます。
グルコース 6-リン酸は、筋肉や肝臓では、グルコース 1-リン酸を経て、グリコーゲン合成酵素(glycogen synthase)により、グリコーゲンに合成され、貯蔵されます(注2)。
細胞内へのグルコース取り込みは、筋肉では、インスリンに依存しますが、脳、肝臓、赤血球では、インスリンに依存していません。
グルコースは、脂肪組織では、インスリンによって、脂肪細胞内への取り込みが促進され、脂肪細胞のエネルギー源となったり、中性脂肪(トリグリセリド)の合成に必要なグリセロール3-リン酸が生成されます(注3)。
解糖系(Embden-Myerhof経路)で、グルコースは、ヘキソキナーゼ(又は、グルコキナーゼ)でグルコース 6-リン酸にされ、ホスホフルクトキナーゼ(phosphofructokinase)、ピルビン酸キナーゼにより、ピルビン酸(pyruvate)にまで分解します。この3つの酵素による反応は、不可逆で、解糖系の律速段階です。
解糖は、細胞質ゾルで行われます。
解糖で生成されたピルビン酸からは、ミトコンドリア内で、ピルビン酸脱水素酵素により、アセチル-CoAが生成されます。CoA(コエンザイムA)は、補酵素Aのことで、ビタミンであるパントテン酸が、その一部を形成しています。
アセチル-CoAは、TCA回路(クエン酸回路)で代謝(燃焼)され、生成されるNADH2+から電子が、ミトコンドリア内膜に伝達されて酸化され(電子伝達系)、ATPが生成されます。また、ミトコンドリア内のアセチル-CoAは、クエン酸として、細胞質ゾルに輸送され、脂質(脂肪酸)が合成されます(脂肪酸合成)。
このように、解糖系を経て生成されるアセチル-CoAは、ATPが不足している時(運動時、絶食時)は、ミトコンドリア内のTCA回路で代謝されてATP生成に利用され、ATPが十分に存在している時(食事摂取時)は、ミトコンドリア外で、脂肪酸の合成に利用されます。
a.pyruvate kinase:ホスホエノールピルビン酸がピルビン酸に変換される
ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)は、ホスホエノールピルビン酸をピルビン酸に変換する酵素です。この変換の際に、ADPからATPが生成されます。
Pyruvate kinaseの活性は、フルクトース 1,6-ビスリン酸により、活性が促進されます。
Pyruvate kinaseの活性は、ATP、cAMP、アドレナリン、グルカゴンにより、活性が抑制され、インスリンにより、活性化されます。
Pyruvate kinaseが先天的に欠損すると、溶血性貧血を来たします。
b.pyruvate dehydrogenase:ピルビン酸がアセチル-CoAに変換される
ピルビン酸(pyruvate)は、TCA回路(クエン酸回路)で代謝される際には、ピルビン酸脱水素酵素複合体(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体:pyruvate dehydrogenase complex:PDH:[EC 1.2.4.1])により、アセチル-CoAに変換されます。
Pyruvate dehydrogenaseは、ミトコンドリア内膜に存在し、TCA回路を制御します。
ビタミンB1(注4)は、pyruvate dehydrogenaseの補酵素として必要です。
哺乳類では、ピルビン酸を、アセチル-CoAに変換する酵素は、pyruvate dehydrogenaseの他にはありません。
ビタミンB1が欠乏すると、脚気になります。
ビタミンB1が欠乏すると、ピルビン酸が、TCA回路に入って代謝されず、蓄積して、乳酸となります:乳酸が増加するので、代謝性アシドーシスになります。
Pyruvate dehydrogenaseの活性は、アセチル-CoA、ATP、NADH2+で抑制されます。飢餓の時などに、脂肪酸のβ-酸化で供給されるアセチル-CoAは、pyruvate dehydrogenaseの活性を抑制するので、解糖が抑制され、糖新生が促進されます。
Pyruvate dehydrogenaseの活性は、インスリンにより、活性化され、解糖が促進されます。
Pyruvate dehydrogenaseは、ミトコンドリア内(マトリックス)に存在します。
c.pyruvate carboxylase:ピリビン酸がオキサロ酢酸に変換される
ピルビン酸カルボキシラーゼ(pyruvate carboxylase:PC:[EC 6.4.1.1])は、糖新生時に活性化され、ピルビン酸を、糖新生に必要なオキサロ酢酸に変換する酵素です。
pyruvate carboxylaseは、また、運動時に活性化され、オキサロ酢酸を生成し、このオキサロ酢酸と、脂肪酸のβ-酸化で生成されるアセチル-CoAとが結合し、クエン酸が生成され、TCA回路で代謝されて、NADH2+が生成されます。
ピルビン酸は、糖新生(注5)の際には、ミトコンドリア内で、ビオチン(Biotin)、ATP、CO2の存在下に、ピルビン酸カルボキシラーゼにより、オキサロ酢酸(オキザロ酢酸)に変換されます。この反応では、ATPが消費され、ADPになります。pyruvate carboxylaseにより変換されたオキサロ酢酸は、TCA回路でも利用され得ます(注6)。
細胞内のADP濃度やAMP濃度が、ATP濃度に比し、上昇すると、pyruvate carboxylaseの活性が抑制され、糖新生が抑制されます(AMP濃度が高いと、糖新生に必要な、fructose-1,6-bisphosphataseの活性も抑制されます)。
アセチル-CoAは、pyruvate carboxylaseの活性を、活性化させ、糖新生を促進します。アセチル-CoAが十分な量が存在する状況(グルコースも十分存在し、pyruvate
carboxylaseの基質のピルビン酸が供給される状況)では、TCA回路の縮合反応(クエン酸が生成される)に必要なオキサロ酢酸が供給可能です。しかし、空腹時などグルコースが不足し、脂肪酸のβ-酸化が亢進して、アセチル-CoA量が増加した状況では、オキサロ酢酸が糖新生に利用され不足するので、アセチル-CoAはTCA回路で利用されず、ケトン体生成に利用されます。
ビオチン(Biotin)は、水溶性ビタミンで、pyruvate carboxylaseの補酵素として、必要です。ビオチンは、ビタミンHとも呼ばれました。
Pyruvate carboxylaseが先天的に欠損すると、血液中の乳酸やピルビン酸やアラニンが高濃度になり、嘔吐や精神運動発達の遅延と言った症状が起こります(注7)。
Pyruvate carboxylaseの活性は、脂肪酸のβ-酸化で生じるアセチル-CoAにより促進されます(注8)。
Pyruvate carboxylaseは、ミトコンドリア内(マトリックス)に存在します。Pyruvate
carboxylaseは、肝臓や脂肪組織や脳の細胞に存在しますが、筋肉の細胞には存在しません。
Pyruvate carboxylaseは、ピルビン酸をオキサロ酢酸にし、TCA回路のオキサロ酢酸とアセチル-CoAの量を保証します(anaplerotic
role:fill up role)。
d.citrate synthase:アセチル-CoAとオキサロ酢酸から、クエン酸が合成される
アセチル-CoAとオキサロ酢酸は、TCA回路(クエン酸回路)で、クエン酸シンターゼ(citrate synthase)により、クエン酸(citrate、注9)が合成されます。
クエン酸は、TCA回路で分解を受け、NADH2+が生成されます。
NADH2+は、ミトコンドリア内の電子伝達系に電子を伝達し、エネルギー(ATP)が産生されます。
クエン酸シンターゼの活性は、ATPで、抑制されます。クエン酸シンターゼの活性は、試験管内(in vitro)では、NADH2+によっても、抑制されますが、生体内(in vivo)のNADH2+濃度は、かなり、低濃度です。
e.isocitrate dehydrogenase:ATPが十分に存在すると、クエン酸は脂肪合成に使用される
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(isocitrate dehydrogenase:イソクエン酸脱水素酵素)は、ミトコンドリア内に存在し、イソクエン酸をオキサロコハク酸に変換します。
イソクエン酸デヒドロゲナーゼの酵素活性は、ADPによって活性化され、ATPによって阻害されます。
十分な栄養が摂取され、十分にATPが生成される(エネルギー需要が少ない)と、イソクエン酸デヒドロゲナーゼの酵素活性は、抑制されます。
ATPにより、イソクエン酸デヒドロゲナーゼの酵素活性が抑制されると、TCA回路での代謝が抑制され、クエン酸が蓄積します。蓄積したクエン酸は、ミトコンドリアのマトリックスから細胞質ゾルに輸送され、アセチル-CoAカルボキシラーゼが活性化され、脂肪酸合成が促進されます。
このように、十分な栄養が摂取されている時は、クエン酸が蓄積し、脂肪酸が合成され、中性脂肪として、貯蔵されます。
f.HMG-CoA reductase:アセチル-CoAからコレステロールが合成される
肝臓では、肝細胞の小胞体や細胞質において、アセチル-CoAから、HMG-CoA(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA:-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme
A)を経て、HMG-CoA還元酵素(HMG-CoA reductase)、注10)により、メバロン酸(mevalonate)が合成されます。インスリンは、HMG-CoA還元酵素(HMGR)を阻害し、グルカゴンは、HMG-CoA還元酵素(HMGR)を促進(活性化)させます。インスリンは、HMG-CoAシンターゼ(HMGS)の活性をは阻害します。
メバロン酸からは、内因性コレステロール合成が行われ、VLDLとして、血中に放出されます。
ほとんど全ての細胞でコレステロール合成が行われますが、コレステロール合成の約50%は、肝臓で行われます。肝臓に存在するコレステロールは、20%が食事由来(カイロミクロン由来)のコレステロールで、80%が肝臓で生成されたコレステロールと言われます。
コレステロールを多く含む食餌を摂取すると、肝臓で行われるコレステロール合成は抑制され、内因性コレステロール量は減少しますが、完全に抑制されることはありません。
コレステロールは、動物の細胞膜に必須な成分です:コレステロールは、動物の細胞膜を、強靭な膜にしています。細菌類の細胞膜には、一般的に、コレステロールが含まれず、細胞膜がリン脂質(構成する二本の脂肪酸は、パルミチン酸などの飽和脂肪酸)から構成されている為、柔軟性がなく、堅くて、脆いです。
なお、肝臓以外でも、すべての組織の細胞は、コレステロールを合成し得ますが、その量は、少ないとされます。
2).脂肪酸
糖質(グルコース)や蛋白質(アミノ酸)が代謝され、ミトコンドリア内で、アセチル-CoAが生成されます。
アセチル-CoAは、クエン酸シンターゼ(citrate synthase)により、クエン酸に変換され、TCA回路で代謝(燃焼)されると、NADH2+が生成され、呼吸鎖でATPが生成されます。
食事摂取時に、過剰な栄養が摂取され、十分にATPが生成されていると(運動時でなくATP需要が少ない時)、TCA回路のイソクエン酸デヒドロゲナーゼの酵素活性が、抑制されます。
ATPにより、イソクエン酸デヒドロゲナーゼの酵素活性が抑制されると、TCA回路での代謝が抑制され、クエン酸がミトコンドリア内に蓄積します。
蓄積したクエン酸は、ミトコンドリアのマトリックスから細胞質ゾルに輸送され、ATP-citrate lyase(クエン酸リアーゼ:肝臓に多く発現している)により、アセチル-CoAに戻されます。
細胞質ゾルで、アセチル-CoAは、マロニル-CoA経路で、活性化されたアセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACC、注11)により、マロニル-CoA(malonyl-CoA)となり、アシル-ACP(Acyl-ACP)を経て、パルミチン酸(palmitate)などの脂肪酸に合成されます(脂肪酸合成)。
糖質(グルコース)の代謝でエネルギー(ATP)が十分に産生されず、AMPが増加すると、AMPは、ACCの活性を抑制し、アセチル-CoAからの脂肪酸合成が抑制されます。
肝臓では、合成された脂肪酸は、グリセロール3-リン酸(α-グリセロリン酸:グルコースから変換される)と、エステル結合し、トリグリセリド(中性脂肪)となり、VLDLとして、血中に分泌されます。
脂肪酸の合成(マロニルCoA経路)は細胞質ゾル(cytosol)で行われ、脂肪酸の分解(β-酸化)はミトコンドリア内で行われます。
脂肪酸の合成に用いられるアセチル-CoAは、炭水化物(グルコース)や、アミノ酸から、供給されます。
脂肪酸の合成は、肝臓、腎臓、脳、肺、乳腺、脂肪組織など、多くの組織で行われます。
特に肝臓は、脂肪酸の合成に関与する酵素の活性が、高いです。肝臓では、肝臓で合成した脂肪酸や、脂肪組織から血中を輸送された遊離脂肪酸や、食事由来の遊離脂肪酸を、グリセロール3-リン酸にエステル結合させ、中性脂肪を合成します。肝臓では、合成した中性脂肪を、同じく、肝臓で合成したコレステロールと共に、VLDLとして、血中に分泌します。
なお、運動時などには、脂肪酸のβ-酸化(脂肪酸分解)により、ミトコンドリア内では、アセチル-CoAが生成されます。脂肪酸のβ-酸化により、アセチル-CoAが多量に生成されると、アセチル-CoAは、カルニチンと結合して、アセチルカルニチンとなり、ミトコンドリア外の細胞質ゾルに、汲み出されます。アセチルカルニチンは、細胞質ゾルで、カルニチンとアセチル-CoAに分解されます。
3).アミノ酸
食餌で摂取された蛋白質のアミノ酸(糖原性アミノ酸)は、酵素(ALT、AST)により、ピルビン酸やオキサロ酢酸にされ(アミノ基転移反応)、糖新生によるグルコース生成や、TCA回路での代謝(燃焼)に、利用されます。また、生成されるアンモニア(酸化的脱アミノ反応)は、尿素回路で尿素として処理されます(高蛋白食は、肝臓や腎臓に負担がかかります)。
また、蛋白質のアミノ酸(ケト原性アミノ酸)は、アセチル-CoAに変換され、脂肪酸を経て中性脂肪(トリグリセリド)に変換されたり、コレステロールに変換されます。
また、摂取されたアミノ酸は、コラーゲンとしても、貯蔵されます。
2.組織の主なエネルギー源
・脳:グルコース、(絶食時はケトン体が代替エネルギー源になる)
・肝臓:グルコース、脂肪酸、アミノ酸(ケトン体は使えない)
・骨格筋:グリコーゲン(グルコース、注12)、脂肪酸、アミノ酸(BCAAなど)、
・心筋:遊離脂肪酸(注13)、(グルコース)、
・赤血球、白血球:グルコース、
長鎖脂肪酸(遊離脂肪酸)は、特に、心臓(心筋)、骨格筋、肝臓において、主要なエネルギー源です。
注1:スタミナをつける為に、筋肉グリコーゲンの貯蔵を増やすには、高炭水化物食が良いです。
グリコーゲンは、多かれ少なかれ、全ての動物細胞に存在していますが、十分なグリコーゲン貯蔵能や形成能を有しているのは、肝臓と、筋肉です。正常成人(70kg)の炭水化物貯蔵量は、肝臓グリコーゲンが108g(肝臓重量1,800g)、筋肉グリコーゲンが245g(筋肉重量35kg)、細胞外炭水化物が10gの計363g(=1,452Cal)とされます。
肝臓は、消化管から吸収した糖質(ブドウ糖など)を、門脈から取り入れて、グリコーゲンとして貯蔵し、必要時に、中枢神経系の為に、ブドウ糖を、血液中に供給します。また、肝臓は、腎臓と同様に、糖新生で、アミノ酸などから、ブドウ糖を産生し、血液中に供給します。
それに対して、筋肉(白筋)のグリコーゲンは、筋自身のエネルギー源とする為に、貯蔵されています。
なお、70kgの人の脂肪組織の中性脂肪量は、5kg余りとされます。脂肪組織に貯蔵される中性脂肪の脂肪酸は、食事由来の中性脂肪(カイロミクロン)の脂肪酸、肝臓で合成された中性脂肪(VLDL)の脂肪酸が殆んどであり、脂肪組織(脂肪細胞)でブドウ糖から合成された脂肪酸は、極めて少ないと言われます。脂肪組織の中性脂肪は、絶えず、脂肪酸とグリセロールへの分解と、再エステル化が、行われています。そして、必要時に、脂肪酸に分解され、遊離脂肪酸として、血液中に供給され、エネルギー需要の高い組織(心臓、筋肉、腎臓)のエネルギー源になります。グリセロールは、脂肪細胞(白色脂肪細胞)には、glycerokinase(EC 2.7.1.30
:グリセロールを、グリセロール-3-リン酸にする酵素)が存在しない(活性が低い)ので、血中に拡散し、肝臓や腎臓や小腸など、glycerokinaseを有する組織で、利用されます。glycerokinase(グリセロキナーゼ)は、肝臓、腎臓、心臓では活性が高いですが、腸粘膜では活性が強くなく、脂肪組織では活性が低いか、まったく活性がないと言われます。
脂肪組織の中性脂肪を構成する脂肪酸は、オレイン酸(C18:1)が多く、次いで、パルミチン酸(C16:0)、リノール酸(C18:2)が多いとされます:体重70kgのヒトでは、脂肪組織の重量は、7.7kgあります。その内、水分が23%、脂質(中性脂肪、リン脂質、コレステロール)が71%(=5.5kg)、蛋白質が6%、糖(質)が0.1%(=7.7g)、ヌクレオシドが0.1%、無機質が0.2%、と言われます。脂肪組織の脂質(中性脂肪、リン脂質)を構成する脂肪酸の組成は、C14:0が3.1%、C16:0(パルミチン酸)が22.7%、C16:1が8.4%、C18:0が4.3%、C18:1(パルミチン酸)が45.4%、C18:2が9.6%、C18:3が0.7%、C20:1が0.9%です。ただし、食事(食物)によって、脂肪組織の脂肪酸の組成は、変化することが知られています:脂肪組織に貯蔵された脂肪(中性脂肪や、リン脂質を構成する脂肪酸)の飽和の度合いは、摂取する食事(食餌)によって、変化します。
脂肪組織は、糖質(炭水化物)が多量に供給される時には、ブドウ糖を、もっぱらエネルギー産生(ATP産生)と、中性脂肪の合成(脂肪酸のエステル化)へと利用し、また、糖質が少量しか供給されない時には、ブドウ糖を、グリセロール-3-リン酸(α-グリセロリン酸)合成により、中性脂肪の合成に利用し、もっぱら、脂肪酸を、エネルギー源とすると言われます。
注2:上図に簡略に示しましたが、下図のようなホスホグルコン酸回路が、解糖系(解糖経路:Embden-Meyerhof経路:E-M経路)の側路(代替路)として存在しています。ホスホグルコン酸回路は、ヘキソースリン酸側路(HMS:hexose monophosphate shunt)、ペントースリン酸経路、Warburg-Dickens経路、六炭糖リン酸側路(HMP側路)とも呼ばれます。
ホスホグルコン酸回路は、特に、肝臓、授乳期の乳腺、脂肪組織、副腎皮質、赤血球、睾丸に、存在します。
ホスホグルコン酸回路では、グルコース-6-リン酸から、NADPH2+や、リボース(核酸の原料)が合成されます。ホスホグルコン酸回路で生成されたNADPH2+は、コレステロールや脂肪酸の合成や、GDHを経たアミノ酸(グルタミン酸)の合成に、利用されます。なお、脂肪酸の合成に際して、脂肪酸の還元に必要なNADPHは、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)で、ホスホグルコン酸回路(HMS:約60%)、リンゴ酸酵素(malic enzyme:約40%)による反応、イソクエン酸デヒドロゲナーゼによる反応により、供給されます。
NADPH2+は、脂肪酸の合成に使用されますので、解糖系の側路ホスホグルコン酸回路と、脂肪酸合成系とは、共役しています。
注3:血液中から脂肪細胞に取り込まれたグルコース(ブドウ糖)は、エネルギー産生(ATP合成)の為のアセチル-CoA生成と、中性脂肪(トリグリセリド)合成の為のグリセロール3-リン酸生成に、利用されます。
脂肪細胞に貯蔵されている中性脂肪を構成する脂肪酸は、殆んどが、血液中から取り込んだ中性脂肪の脂肪酸であり、血液中から取り込まれたグルコース(ブドウ糖)が、アセチル-CoAを経て合成された脂肪酸(アシル-CoA)は、極めて少ないと言われます。
血液中の中性脂肪は、食事から吸収された中性脂肪(カイロミクロンに含まれる)と、肝臓で合成された中性脂肪(VLDLやLDLに含まれる)の、2つの起源があります。
注4:ビタミンB1(ビタミンB1)は、チアミンで、ピロリン酸が結合した、チアミンニリン酸(TPP)が、pyruvate dehydrogenaseの補酵素となります。
注5:糖新生の経路は、解糖の逆経路ではありません。
注6:オキサロ酢酸は、“活性化された”ピルビン酸と考えられます:ピルビン酸が、Pyruvate carboxylaseにより、ATPを使用して、CO2とビオチンで、活性化されたのが、オキサロ酢酸と言えます。
TCA回路が、順調に回り、呼吸鎖でのATP生成に必要な、NADH2+を得る為には、オキサロ酢酸が、必要です。糖新生の際などには、必要な、NADH2+を、オキサロ酢酸からリンゴ酸に変換することで、細胞質ゾルに輸送しますので、ミトコンドリア内には、オキサロ酢酸が欠乏してしまうので、pyruvate
carboxylaseにより、オキサロ酢酸を供給し、TCA回路が、順調に回るようすることが、必要なのだと、考えられます。
注7:Pyruvate caraboxylase欠損症では、亜急性壊死性脳脊髄症(subacute necrotizing
encephalomyelopathy)を来たし、血中の乳酸やピリビン酸が、高値になります。
しかし、低血糖は、主要な特徴ではなく、これは、アラニン以外からの糖新生は、保たれているためとされます。アラニンや、乳酸は、ピリビン酸を経て、糖新生などに利用されますが、Pyruvate
caraboxylase欠損症では、利用されません。その為、アラニンや、乳酸や、ピリビン酸が、血中に、蓄積し、軽度の低血糖が、空腹時に、生じ得ます。
Pyruvate caraboxylaseで生成されるオキサロ酢酸は、糖新生にだけでなく、TCA回路の回転に、必要のようです。
注8:脂肪酸の分解は、糖新生を促進させます:飢餓時などに、脂肪酸がβ-酸化されて、アセチル-CoAが増加すると、pyruvate caraboxylaseが活性化されて、糖新生が促進され、血液中にグルコースが供給され、血糖が維持されます。
なお、アセチル-CoAや脂肪酸は、ピルビン酸に変換出来ないので、脂肪酸からは、糖新生出来ません。
注9:クエン酸は、乳酸の蓄積を防ぎ、グリコーゲンの分解を抑制し、疲労回復を促進すると言われています。
しかし、従来、乳酸は、筋肉の疲労物質と考えられて来ましたが、最近は、乳酸は、アセチル-CoAに変換されることで、TCA回路に入るので、むしろ、疲労を和らげる物質と捉える人もいます。しかし、一般的には、乳酸が筋肉に蓄積すると、筋肉の酸性度が強まり、酵素群の活性が低下し、筋肉運動に必要なエネルギーを、生成出来なくなるので、乳酸は、疲労物質と、考えられます。なお、アンモニアの産生も、運動によって増加します。アンモニアは、筋肉で、乳酸生成を促進させ、また、中枢神経系を介して、筋肉群を硬化させるので、疲労物質と、考えられています。
クエン酸は、TCA回路で代謝されることで、オキサロ酢酸などを、供給する効果もあるのかも知れません。
注10:スタチン系のHMG-CoA還元酵素阻害剤が、日本で、遠藤氏らによって開発されました。カビやキノコには、他の微生物の増殖を抑制する為、他の微生物の細胞壁のステロール合成を阻害する物質を産生するものが存在します。スタチンは、青カビの1種(ペニシリウム・シトリナム)から、他の微生物の細胞壁のステロール合成を阻害する物質として、見出されたそうです。
HMG-CoA還元酵素阻害剤は、肝臓で、HMG-CoA還元酵素を阻害し、肝臓でのコレステロールの合成を抑制し、その結果、肝臓のLDL受容体の発現を高め、血液中のコレステロールを低下させます。HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)を、コレステロール値が高いウサギに投与すると、動脈硬化症の進行が抑制されます。HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)を、動脈硬化症の患者に1年間投与すると、一旦、形成された動脈硬化巣が、平均2割、退縮します。HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)は、血流(血行)を改善したり、炎症を抑制する作用(抗炎症作用)も有することが知られています。高脂血症になると、血液凝固と炎症が、亢進し、血管内皮細胞に炎症が起こると考えられます。スタチンは、(炎症を起こした)血管内皮細胞に、白血球が付着(接着)するのを、抑制し、動脈硬化症の進展を抑制します。
HMG-CoA還元酵素阻害剤としては、プラバスタンチンナトリウム(薬剤名:メバロチン)、シンバスタチン(薬剤名:リポバス)が販売されています。
プラバスタチンナトリウム(メバロチン)は、HMG-CoAと類似構造を有していて、コレステロール生合成系の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素を特異的に阻害し、コレステロール合成を抑制します。メバロチンは、コレステロール合成の主要臓器である肝臓や小腸のコレステロール合成を選択的に阻害しますが、他の臓器(ホルモン産生臓器など)でのコレステロール合成阻害作用は、非常に弱いと言われます。プラバスタチンナトリウム(メバロチン)を内服すると、血清脂質(総コレステロール、LDL)が著明に改善するのに伴ない、血液凝固系や血小板系(血小板凝集)の亢進が、改善すると言われます。
スタチン系薬剤は、生体内でのCoQの生合成をも阻害するので、酸化ストレスを、増加させます。
高脂血症の治療として、スタチン系薬剤と、フィブラート系薬剤を、同時に投与(内服)すると、特に、腎機能が低下していなくても、横紋筋融解症の副作用の頻度が高まります。
フィブラート系薬剤は、血漿中のコレステロール、トリグリセリド(トリグリセライド)を、低下させます。その作用機序は、明確にされていませんが、コレステロール生合成において、メバロン酸からイソペンテニルピロリン酸への過程を抑制すると考えられています。また、フィブラート系薬剤は、肝臓でのトリグリセリドの合成を抑制し、血液中でのLPLによるトリグリセリドの分解を促進させるとも言われます:フィブラート系薬剤は、PPARαを活性化し、肝臓で、脂肪酸合成を抑制し、脂肪酸分解(β-酸化)を促進し、VLDLの産生を、強力に抑制し、血中で、リポ蛋白リパーゼ(LPL)と、肝性トリグリセリドリパーゼ(HTGL)を活性化させ、VLDLやレムナントリポ蛋白の異化を促進すると言われます。
注11:アセチル-CoAカルボキシラーゼ(acetyl-CoA carboxylase:ACC)には、ACC-1とACC-2の二つのタイプが存在します。
ACC(ACC-1)は、肝臓、脂肪組織、授乳中の乳腺に多く発現しています。
ACC-2は、主に、骨格筋、心筋に発現し、わずかに肝臓にも、発現しています。ACC-2は、マロニル-CoAを生成することで、ミトコンドリア内で行われる脂肪酸のβ-酸化を制御します(CPT-Iを抑制します)。
ACC(アセチル-CoAカルボキシラーゼ)の活性は、クエン酸により、促進されます。
注12:筋肉中のグリコーゲンは、運動時にグルコース(グルコース 6-リン酸)に分解され、筋肉のエネルギー源として、使用されます。筋肉中のグリコーゲンが分解されて生成されるグルコースは、肝臓のように、血液中には、供給されません。筋肉は、血液中の脂肪酸(脂肪組織から放出される遊離脂肪酸)を取り込んで、エネルギー源として使用することも可能ですが、最大でも、エネルギー需要量の約30%のエネルギー源にしかならないと言われます(ミトコンドリアの脂肪酸のβ-酸化能力には、限界がある)。
筋肉は、運動強度が低い運動の際には、主に脂肪酸をエネルギー源として利用し、運動強度が高い運動の際には、主にグルコースをエネルギー源として利用します。グルコースをエネルギー源として利用した場合、筋肉から、血液中に、乳酸が放出され、血中乳酸量が増加します。
筋肉は、安静時には、筋肉内のグリコーゲン、中性脂肪、蛋白質のアミノ酸をエネルギー源として利用しています。筋肉は、運動時には、さらに、血液中のグルコース(血糖)や、脂肪細胞から放出される遊離脂肪酸(FFA)を取り入れて、エネルギー源として利用します。筋肉は、長時間の運動時には、血液中の遊離脂肪酸を主たるエネルギー源として利用します。
なお、骨格筋には、遅筋と、速筋とがあり、遅筋は、脂肪酸を消費し、速筋は、グルコース(血糖)を消費すると言われます。
注13:心臓は、好気代謝が盛んで、ミトコンドリアが、細胞質スペースの40%を占めている。心臓は、脂肪酸、ケトン体、グルコース、ピルビン酸、乳酸を代謝出来るが、休憩中や血中インスリン濃度が低い空腹時は、脂肪酸をエネルギー源(70%)として利用し、重労働中は、貯蔵グリコーゲンを分解して、グルコースをエネルギー源として利用します。
参考文献
・ハーパー・生化学(丸善株式会社発行、1975年).
・ヴォート生化学(東京化学同人、2003年、第4刷).
・鈴木紘一、他:ホートン生化学 第3版(東京化学同人、2005年、第3刷).
・植田伸夫:脂肪酸代謝と肥満 小児科 31: 747-753, 1990年.
・曲直部壽夫、他:高カロリー輸液の実際、へるす出版、昭和56年.
・後藤田貴也:血清脂質コントロール 高脂血症合併糖尿病患者での抗高脂血症薬の選択と使い方 日本医師会雑誌 特別号 糖尿病診療マニュアル Vol.130, No.8, S198-S201, 2003年.
・田川邦夫:からだの働きからみる代謝の栄養学 タカラバイオ株式会社(2003年).
・松田幸次郎、他訳:医科生理学展望(原著6版、丸善株式会社 1975年).
・斉藤昌之:脂肪組織の代謝特性、今月の主題 肥満とやせ、小児内科、Vol.20 No.2、1988−2、171-175頁.
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