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 乳児の臍の病気

 新生児期や幼児期に見られる臍の病気である、臍肉芽腫臍ヘルニア臍帯ヘルニアに関して、実際の症例の写真を提示して、解説する。

 1.臍肉芽腫(臍ポリープ
 新生児の臍帯(へその緒)が脱落する際に、臍底に、臍帯の組織の一部が残り、生後1週間以降に、(新生児の1カ月検診で発見されることが多い)、臍の中心部に、赤色の肉芽腫が生じることがある。特に、臍に生じた肉芽腫は、茎状に隆起している場合は、臍ポリープと呼ばれる(注1)。
 臍肉芽腫があると、臍がジクジクと乾燥せず、細菌感染を起こすこともある。臍肉芽腫があると、臍部に分泌物が増加して、時に、出血する。
 臍肉芽腫は、赤色で、半米粒大〜小豆大の大きさのことが多いが、大豆大になり、臍部から表面に飛び出して見えることもある。
 臍肉芽腫は、糸でしばったり(結紮:けっさつ)、硝酸銀棒(ラピス)で焼いたりして、治療する。硝酸銀棒(ラピス)で焼いた後は、化学熱傷を起こさないように、臍部を、生理食塩水を浸した滅菌綿棒により、良く拭いて、硝酸銀を除去して置く。
 硝酸銀棒の入手が困難になり、代わりに、硝酸銀液を用いることもある。硝酸銀液は、滅菌蒸留水100cc に硝酸銀20g(硝酸銀は、試験研究用の特級、あるいは、第1級の硝酸銀を用いる)を溶かし、褐色ビンで保存し、処置時に、滅菌綿棒に染み込ませて使用する。硝酸銀液で、処置を行った後は、臍部を、生理食塩水を浸した滅菌綿棒により、良く拭いて、硝酸銀を除去する。硝酸銀による処置を行うと、臍部の皮膚が褐色になるが、硝酸銀が残存していると、化学熱傷により焼け過ぎて、潰瘍等を形成するおそれがある。
 臍肉芽腫は、ステロイド含有軟膏を塗布すると、退縮する。第4群のステロイド剤で充分な効果が得られる。臍肉芽腫は、直径5mm程(綿棒大)であっても、ステロイド軟膏(リンデロンVG軟膏、テラコートリル軟膏、ロコイド軟膏など)を塗布すると、1週間後には縮小し、2週間後には縮んで消失すると言う。
 臍肉芽腫を、トラコーマ・ピンセットで摘除しても、乳児は泣かないので、痛みはないと言われる。
 臍底が、臍の皮膚で覆われて見えず、臍肉芽腫が出来ているか、外観では、判断出来ない場合、鼻鏡の先を臍底に附けて、臍の皮膚を開くを、臍底が、観察し易い。

 臍肉芽腫は、放置した場合、臍肉芽腫の表面が、上皮化(表面に皮が乗る)してしまい、普通の皮膚の色になって、治り難くなることもある。
臍肉芽腫の上皮化(臍ヘルニアを合併)
 臍部が湿潤するだけで、臍肉芽腫が見えない場合は、尿膜管遺残症の疑いがあるので注意が必要。

 2.臍ヘルニア
 臍ヘルニアは、臍輪から、腹腔内の腸管が、脱出して、臍部の皮膚を、押し広げる。
 臍ヘルニアは、膨らんだ部分を押すと、脱出した腸管を、容易に腹腔内に押し戻すことが可能で、その際に、グル音を触知する。
 臍ヘルニアは、新生児が、御腹一杯に、母乳やミルクを飲む、生後1カ月頃に、目立って来ることが多い。
 臍ヘルニアは、非還納性になることは、ごく稀。臍ヘルニアで、脱出した腸管が、腹壁に癒着することはある。

 臍ヘルニア(出べそ)は、2歳頃までに、自然治癒して、腸管が、脱出しないようになる。
 臍ヘルニアが、自然治癒する際には、過剰に進展されていた皮膚が、硬く厚くなって来る。
 臍ヘルニアは、自然治癒するが、臍ヘルニアの表面の臍の皮膚が、弛んだ(弛緩した)状態で残り、特に、女の子は、美容上、問題が残る。

 下の写真は、水痘に罹患した乳児(生後2カ月)に見られた臍ヘルニアだが、自然治癒して来ていて、臍ヘルニア表面の皮膚が、硬くなって来ている。
 そのような事態を避ける為に、臍ヘルニアは、放置せずに、早期から、保存的に治療する方が良い。
 保存的治療としては、ヘルニア内容(腸管)を腹腔内に押し戻した(還納)後、臍部の窪み(穴)の大きさの綿球を、臍の窪みに当て、かぶれ(気触れ)が少ないテープ絆創膏を貼って固定し、腸管が脱出しないようにする。
 このような、綿球固定し、腸管が脱出しないようにすると、腸管が脱出する穴(ヘルニア門)は、次第に縮小し、1週間程度後には、綿球固定を外しても、あまり、腸管が脱出せず、臍ヘルニアの大きさが小さくなる。さらに、綿球固定を、ヘルニア門が閉じるまで、続ける(2カ月程度)。

 臍ヘルニアの保存的治療(綿球を持ちいたテープ絆創膏固定)は、遅くとも、生後3カ月以内に行わないと、効果が期待出来ない。
 臍ヘルニアは、保存的治療を行わないで放置すると、自然閉鎖しないばかりか、過剰に進展された皮膚が、硬く厚くなって残ってしまうことが多い(出べそになる)。
 下の写真は、臍ヘルニアを放置された生後10カ月児の臍:臍ヘルニアは自然閉鎖ぜず、弛んで厚くなった皮膚が残存してしまっている。生後3カ月以内に保存的療法を受けておれば、出べそ状態にならなかったはずである。
 3.付記
 臍帯ヘルニアは、臍帯の基部から、臍帯の羊膜内に、腹腔内臓器が脱出する。
 羊膜や腹膜は、透明なので、脱出した腹腔内臓器(多くは、腸管、肝臓)が見える。

 臍帯ヘルニアは、新生児の出生時に、既に、認められる(臍ヘルニアは、新生児が、母乳やミルクを、御腹一杯に飲む、生後1週間を経過してから現れる)。
 臍帯ヘルニアは、超音波検査を行うと、出生前に診断が可能。
 臍帯ヘルニアは、緊急に、適切な外科的が処置(手術)を要する。
 臍帯ヘルニアは、心臓、消化管、染色体などの合併異常が伴ないやすい。
 4.おまけ
 ・肛門周囲膿瘍の治療では、膿瘍の直上の皮膚を、報賞状に、米粒大の大きさに、メス(眼科用彎剪刀)で切開し、排膿させる。その際、皮膚のみでなく、皮下組織も楔状に切除し、膿瘍腔を開窓すると良い。
 切開創には、ガーゼを貼付しないで、創部を排便の都度などに、清拭・消毒し、抗生剤入りの軟膏(ゲンタシン軟膏、テラマイシン軟膏)を塗布し(軟膏をガーゼや布に塗って創部に貼付しても良い)、オムツを当てる。坐浴や入浴を頻回に行い、局所(肛門周囲の御尻)を清潔に維持する。
 肛門周囲膿瘍を真上から坐骨に向かって押し付けるように圧迫し、膿瘍腔内の膿を肛門側(肛門管内)に排出させるのも有効(切開創が癒合し閉鎖した場合など)。
 肛門周囲膿瘍には、抗生剤の投与が有効であるという根拠がない。抗生剤投与により下痢になると、むしろ、症状が悪化する。
 肛門周囲膿瘍には、漢方薬の十全大補湯が有効とする報告もある。十全大補湯は、0,1〜0.3g/kg/日を内服させる(0.3〜0.5g/kg/日まで増量可)。
 私の体験では、肛門周囲膿瘍は、整腸剤(ミヤBM、ラックBなど)を内服させ、切開は行わない(自潰を待つ)で、膿瘍部分を優しくマッサージして膿瘍腔内の膿を肛門側に排出させるように心掛け、排便後に座浴させて肛門内や肛門周囲を清潔に保つようにする方が、改善が良好に思われる。
 切開を行った場合、切痕が残ることが多い。痔瘻が完成したりした難治性の肛門周囲膿瘍は、手術の対象になってしまう。
 ・切れ痔も、排便後に座浴させて石鹸を用いて洗浄し、肛門内や肛門周囲を清潔に保つようにする方が、治癒が良好。
 痔用の軟膏でも、ステロイド含有軟膏の塗布は、却って、治癒を遷延することがある。
 切れ痔は女児に多く、肛門周囲膿瘍は男児に多い傾向がある。
 注1厳密には、臍肉芽腫は、脱落した臍帯の残存組織由来であり、臍ポリープは、腸管の組織由来の卵黄腸管遺残や尿膜管遺残
 臍肉芽腫(umbilical granuloma)は脱落した臍帯の残存組織由来で、多く見られ、臍ポリープ(umbilical polyp)は卵黄腸管(omphalomesenteric duct)や尿膜管(urachus)の遺残で、稀。臍肉芽腫は、臍帯断端(base of the cord)に軽度の炎症(mild infection)が起こったり、上皮化が不完全(incomplete epithelialization)だと、生じる。臍ポリープは、硬く(firm and resistant)、鮮紅色(bright red)で、粘液を分泌する(has a mucoid secretion)。
 臍肉芽腫は、結紮や硝酸銀処置(硝酸銀焼灼)で治るが、臍ポリープは、赤色が濃く、表面が平滑で綺麗だが、治りが悪く、硝酸銀処置で治らず、手術で全ての卵黄腸管遺残か尿膜管遺残を切除する必要がある。
 脱落した臍帯の残存組織由来の臍肉芽腫を臍肉芽(umbilical granuloma)、卵黄腸管遺残(卵黄腸管の退化障害)を臍息肉(umbilical polyp:臍ポリープ)と呼んだこともある。
 臍肉芽腫が、臍の処置が不潔で、脱落した臍帯断端に感染が起こることが原因で、慢性の炎症が起こり(臍がジクジクする)、生じるとする説もあるが、臍肉芽腫が存在する結果、臍の感染・炎症が起こる(臍がジクジクする)ことの方が、多いように思われる。


 参考文献

 ・馬場一雄:11.臍の病気 新生児・未熟児の取扱い、111-113、昭和52年(株式会社 診断と治療社).
 ・長島金二:臍ヘルニア 今日の小児治療指針 第8版、409頁、1989年(医学書院).
 ・金子道夫:臍帯ヘルニアおよび腹壁破裂 今日の小児治療指針 第9版、1992年(医学書院).
 ・西寿治:小児科医のための小外科的疾患の知識 小児科 Vol.32 No.2、185-190、1991年.
 ・室岡一:臍肉芽と臍息肉の発生病理と治療 日本醫事新報 No.2923、134頁、(昭和55.5.3日).
 ・今村榮一:臍の異常 小児科 Vol.33 No.8、863-866、1982年.
 ・高松英夫:肛囲膿瘍、今日の小児治療指針 第14版、348-349頁、医学書院(2006年5月).

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