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 おたふくかぜ流行性耳下腺炎、ムンプス)

 おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)に罹ると、耳下腺や顎下腺が腫れて、痛みが出るだけでなく、髄膜炎・脳炎(頻度は3%程度)や、難聴(ムンプス聾注1)などの、合併症が起ることがある。

 1.おたふくかぜ
 おたふくかぜウイルス(ムンプスウイルス)の感染源は、患者の唾液:患者との直接接触、飛沫感染、患者の唾液で汚れて間もない器物(媒介物:fomites)を介する間接的な接触、それから、恐らく尿により、感染する。
 おたふくかぜウイルスは、唾液中に、発症6日前から排泄され、耳下腺、顎下腺の腫れが消失するまでの間、排泄が続く。発症1日前から、感染力がある。Nelsonの教科書(第18版:Wilbert H. Mason)によると、おたふくかぜウイルスは、唾液中に、発症7日前から、最大発症(耳下腺腫脹開始)7日後までの期間、検出される。おたふくかぜウイルスの感染力が強いのは、発症1〜2日前から、発症(耳下腺腫脹)5日後までの期間と記載されている。
 尿からも、おたふくかぜウイルスは、排泄される。
 耳下腺の腫脹が消失するまで、出席停止:感染可能期間(最大、発症9日後まで)は、幼稚園、学校は、出席停止になる(流行性耳下腺炎は、学校保健法第ニ種の疾患)。なお、発症10日以降は、腫れが存続しても、感染力は無いと見なされる。

 潜伏期間は、約18日:ウイルスに感染すると、約18日後(12〜25日後)に発症する。
 発熱も見られる:発熱は、耳下腺が腫れる1日前から見られ、1〜3日続く。発熱は、5日間程度、続くことがある。(鼻汁は出ても、咳はない。)
 耳下腺や顎下腺が腫れる:耳下腺の腫脹は、柔らかく触知され、顎下腺の腫脹は、硬く触知される。顎下腺の腫脹は、痛みが少ないが、耳下腺の腫脹より、回復が遅い。
 不顕性感染がある:不顕性感染と言って、症状が出ないこともある(30〜40%の人)。不顕性感染であっても、ウイルスは排泄され、周囲の人に伝染する。
 無菌性髄膜炎:無菌性髄膜炎の発症は、おたふくかぜの発症5日後に、多い(5〜10日後)。しかし、耳下腺の腫脹が見られる前に、発熱、嘔吐などの症状で、無菌性髄膜炎を発症することもある。おたふくかぜウイルスによる無菌性髄膜炎は、一般的に、脳炎を合併しなければ、予後は良好で、神経的後遺症なく、治癒する。

 おたふくかぜは、家族内では、未罹患の同居者に、高率に感染する。しかし、幼稚園などの室内では、直接の接触がなければ、感染率は、かなり減少する。そのため、年少時に罹らなくて、大人になってから、感染して発症する人も、結構いる(12歳以上の日本人の抗体保有率は、94.5%)。

 おたふくかぜは、ウイルスが感染しても、「不顕性感染」と言って、約30%の人は、症状が現れないので、知らない内に、罹って、免疫が出来ている人もいる。
 また、特に乳幼児は、耳下腺の腫れが目立たない傾向があり、おたふくかぜに罹ったと、気付かれないことがある。
 おたふくかぜに免疫があるかどうかは、血液検査をすれば、判明するが、時間・費用を要する。たとえ、おたふくかぜに免疫がある人が、おたふくかぜの予防接種を受けても、副反応は生じない。なお、免疫があるかどうかの判定には、ELISA法でIgG抗体が存在するか、検査すると良い(注2)。
 おたふくかぜは、成人が発症すると、子供より、症状が重くなることが多い。特に、男性は、睾丸炎、耳下腺炎、無菌性髄膜炎などで、入院が必要となることが多いとされる。
 
 2.予防接種
 おたふくかぜは、予防接種で、予防出来る。
 おたふくかぜの予防接種で、重大な副作用が生じるリスクは、少ない。
 予防接種で起る副反応は、自然感染によって起る合併症に比して、頻度がはるかに少なく、経過も良好とされる。
 おたふくかぜは、不顕性感染が多いので、知らない内に、免疫が出来ていることもあるが、おたふくかぜの免疫がある人に、予防接種しても、副反応は、生じない。
 麻疹生ワクチンは、患者と接触した場合、1〜2日以内に接種すれば、発症を防止し得ると言われているが、おたふくかぜ生ワクチンは、患者と接触した早期に接種しても、必ずしも、発症を防止出来ない(接触直後に接種してはならないと言うことではない)。
 最近の報告では、家庭内曝露後3日以内(家族がおたふくかぜを発症して3日以内)に、おたふくかぜ生ワクチン(ムンプスワクチン)を緊急に予防接種しても、野生株によるおたふくかぜ発症を予防する効果は、認めがたいと言う。しかし、おたふくかぜ生ワクチンを緊急に予防接種し、野生株によりおたふくかぜを発症した場合、発熱率には差が認められないが、唾液腺の症状(腫れの程度)は、有意に軽症化すると言う。
 予防接種で接種されたウイルスは、被接種者から排泄されないので、周囲の人に伝染しないとされる。

 主な、副反応を、以下に、書き示す。
 1).ショック
 注射直後に、蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫等が、現れることがある。

 2).無菌性髄膜炎
 ワクチン接種後、3週間ぐらいして、発熱、頭痛、嘔吐、痙攣などの症状が、現れる。
 頻度は、1,200人接種あたり1人程度と言われているが、実際は、もっと、頻度は、少ないと思
われる。
 ワクチン接種後の無菌性髄膜炎の頻度は、0.05%で、自然感染後の無菌性髄膜炎の頻度の1.24%より、少ない(注3)。ワクチン接種後の無菌性髄膜炎は、後遺症が少ない。
 なお、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)により、無菌性髄膜炎を発症しても、耳下腺腫脹がない場合もある。その場合、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)が原因であるか診断するには、血中のムンプスEIA-IgM抗体を測定すると良い。
 また、おたふくかぜの患者は、髄液を調べると、半数以上に細胞増多が見られる。

 3).急性血小板減少性紫斑病
 接種後、数日から3週ぐらいして、紫斑、鼻出血、口腔粘膜出血等が、現れる。頻度は、100
万人接種あたり1人程度と言われ、極、希な副作用。

 4).難聴
 まれに(自然感染より頻度が少ない)、感音性難聴が現れる。自然感染で生じる難聴と同様に、一側性のため、幼児などの場合、発症に気付かれないこともある。

 5).精巣炎(睾丸炎)
 接種後3週間ぐらいして、精巣(睾丸)が腫れて来る。
 特に、思春期以降の男性が、予防接種を受けた場合に見られるが、頻度は、まれ。
 なお、自然感染で、精巣炎(睾丸炎)を起こしても、男性不妊になることは、少ない。

 6).全身症状
 生ワクチンのために、おたふくかぜに対して、免疫のない健康人に接種した場合、接種後2〜3週間ぐらいして(Nelsonの教科書には、「7-10 days after vaccination」と書かれてある)、おたふくかぜの症状(発熱、耳下腺腫脹、嘔吐、咳、鼻汁等)が、現れることもある。しかし、これらの症状は、おたふくかぜの自然感染に比べ軽度であり、通常、数日中に消失するとされる。

 7).局所症状
 接種局所に発赤、腫脹を認めることがあるが、通常、一過性で、2〜3日中に消失する。

 おたふくかぜは、大人が発症すると、睾丸が腫れたり(睾丸炎)、髄膜炎・脳症など、重症になることが多いが、睾丸炎で、不妊になることは、実際は、希。
 むしろ、おたふくかぜに自然感染した場合、頻度は少ない(15000:1、あるいは、2万人に一人程度)が、難聴(ムンプス聾)になることが問題だと思われる(注1)。
 ムンプス聾は、多くは、一側性の為、小児では、障害が生じても、気付かれないおそれがある。

 以前、知らない内に、「不顕性感染」で、おたふくかぜに罹ったことがあった人が、予防接種を受けても、特に問題は、生じない。

 なお、おたふくかぜは、「終生免疫」と言って、一度罹ると、一生、再び罹らないと言われて来たが、 老人などで、年少時に一度罹ったことがあったのに、孫から、おたふくかぜを伝染されし、おたふくかぜに、2度罹った人もいる。
 おたふくかぜの予防接種を受けると、90〜96%の人で、抗体(中和抗体、ELISA抗体)が産生され、免疫が出来る。その後、おたふくかぜウイルスに自然感染すると、不顕性感染に終わり、一生、おたふくかぜに罹らない程の免疫的記憶が形成される(注4)。しかし、予防接種を受けても、3.8〜10%以上の人は、おたふくかぜウイルスに自然感染した際に、おたふくかぜを発
症してしまう。その場合も、予防接種を受けなかった人より、症状が軽く、短期間に症状が改善する。

 麻疹では、ウイルスに暴露後72時間以内に、水痘では、家族内暴露後3日以内にワクチンを緊急に予防接種すれば、発病が防がれると言われる(自然感染で体内に入った野生株ウイルスは、体内で、潜伏期間の間、増殖して発病するが、予防接種で体内に入ったワクチン株ウイルスに対して、早い期間に免疫が誘導されるので、野生株ウイルスによる発病が、阻止される。しかし、場合によっては、ワクチン株ウイルスによって、発病することもある)。
 おたふくかぜ(ムンプス)では、家族内に患者が発生して、ワクチンを緊急に予防接種しても、発病を阻止出来ないことが多い。

 3.療養
 おたふくかぜの罹り始めの時期は、安静にして、酸味、辛味、強い甘味のある食物は避けて、柔らかい食餌を食べさる。
 熱がなければ、シャワー浴ぐらいは、良いが、長時間の入浴は、腫れを増悪化させ、痛みを増すおそれがある。

 4.おたふくかぜ罹患後の予防接種
 おたふくかぜが、治ってから、4週間は、予防接種(麻しん、三種混合など)を受けられない。

 5.ムンプス聾

 おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)に、難聴を合併することがある(注1)。多くの場合、難聴は、片側(一側)の耳にのみ起こり、母親などに、気付かれにくいことがある(両側の耳が難聴になることもある)。
 難聴は、おたふくかぜを発症後0病日〜13病日に発生する(7病日以内が多い)。難聴の発生時に、耳鳴りや眩暈(めまい)を訴えることもある。難聴が発生する側は、必ずしも、始めに耳下腺が腫れた側ではない。難聴の発生は、おたふくかぜの重症度(耳下腺の腫れの強さ)とも、無関係で、不顕性感染でも、難聴は、発生する。難聴を来たす場合、ムンプスウイルスは、血行性に内耳に到達するか、あるいは、中枢神経系から内耳に到達すると、考えられている。

 おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)に合併した難聴(ムンプス難聴)は、比較的軽症で、回復することが多いが、高度難聴例などは、永続性の高音性難聴に移行する(永続性難聴のムンプス聾)。
 おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)では、4%の症例が、一過性の高音域難聴(ムンプス難聴)を発生するが、普通は、回復し、一部の症例(1/20,000人)は回復せず、一側性の永続性難聴(ムンプス聾)となる(Jenson等)。
 永続性の高度難聴(ムンプス聾)の発生頻度は、2万人に1人程度と言われる(Nelson教科書には15,000人に1人と記載されている。297人に1人と言う報告もある)。

 おたふくかぜの予防接種(麻疹や風疹との混合ワクチンのMMR)を受けてあったのに、おたふくかぜに罹患し、ムンプス難聴を来たした症例もある(secondary vaccine failure)。
 若年者の一側性感音性高度難聴は、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)以外に、中耳炎、遺伝性疾患が、原因のことがある。

 感音性難聴は、ムンプスウイルス(おたふくかぜの原因ウイルス)以外に、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルスなどによっても起こる。
 おたふくかぜ(ムンプス)の流行によっては、高頻度(1/294人)に難聴患者が生じることも報告されている(青柳等)。
 難聴を発症した患児は、ムンプスウイルスによる無菌性髄膜炎を合併している場合もある(3.1%)が、難聴の発症と、髄膜炎の合併とは、必ずしも関連がない。
 一側性の難聴が、始めに耳下腺が腫れた側に生じるとは、限らない。
 おたふくかぜ(ムンプス)が重症(耳下腺腫脹が酷い)だと、難聴の発症が多いとも言えない。おたふくかぜ(ムンプス)が不顕性感染で終わっても、難聴が発症することがある。 

 成人のおたふくかぜ(ムンプス)患者298例から、難聴患者が13例発症し、比較的軽症の12例は回復(6例が全快、6例が軽快)したが、1例で永続性の高度難聴が残ったと言う報告がある(Vuori等)。難聴は、高温域が障害され、回復した症例は、数週間以内に回復が見られたと言う。

 難聴発症時に、耳鳴りを合併する症例が存在する(18/28例、23/79例)。耳鳴りは、年長者に多く合併する。
 難聴に、眩暈を合併する症例が存在する(15/35例)。眩暈の合併は16歳以上の難聴患者に多い。

 6.その他 
 ・心内膜線維弾性症(endocardial fibroelastosis)は、ムンプスウイルス(おたふくかぜの原因ウイルス)が、胎内(子宮内)で胎児に胎内感染することが、原因と言われる。
 北米では、MMRワクチンの普及により、おたふくかぜ(ムンプス)の流行が減少し、心内膜線維弾性症の症例が、減少したと言う。

 ・おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)では、耳下腺や、顎下腺が腫れて、血液中アミラーゼ値や、尿中アミラーゼ値が、上昇する。
 アミラーゼ(amylase)は、デンプン(澱粉)を分解する酵素(ブドウ糖とマルトースとに分解する)。
 アミラーゼは、唾液腺(Salivary gland:耳下腺など)や、膵臓(Panceas)から分泌されるので、これらの組織が障害されると、血液中に増加する。アミラーゼは、卵管、肝臓、小腸にも存在する。 
 アミラーゼのアイソザイムを、調べると、どの組織が障害されているのか、推定可能。アミラーゼのアイソザイムは、電気泳動法で調べると、5つのバンドに別れます。1、2、4番は膵型(P型)、3、5番は唾液腺型(S型)と言われます。
 P型アミラーゼ(膵臓型アミラーゼ)を調べるには、モノクローラル抗体で、唾液腺型アミラーゼを阻害し、残ったアミラーゼ活性を求める。P型アミラーゼは、急性膵炎などで、血液中や尿中に増加する。
 正常人では、血清中アミラーゼは、約40%がP型アミラーゼ、約60%がS型アミラーゼと言われる。
 また、尿中アミラーゼは、約70%がP型アミラーゼ、約30%がS型アミラーゼと言われる。


 注1:難聴(ムンプス聾)は、ムンプスウイルスが、内耳細胞を直接障害することにより、起こるという。
 難聴(ムンプス聾)は、片側の耳のみが、ほぼ、全聾になる。健康側の耳の聴力が保たれるので、難聴の発見が遅れ易い。難聴の発見の発見には、「指すり法」と言って、片側の耳のそばで、指をすって、音が聞こえているか、スクリーニングすると、良い。
 難聴(ムンプス聾)の有効な治療方法はないが、予防接種を受けると、自然感染より、難聴(ムンプス聾)の頻度が、減少すると考えられる。

 注2:おたふくかぜに免疫があるかの判定には、ELISA法で、ムンプス-IgG抗体(EIA)を測定するのが、良い。今回、おたふくかぜなのかの判定には、ELISA法で、ムンプス-IgM抗体(EIA)を測定するのが、良い。なお、CF抗体は、上昇が遅い。HI抗体は、ムンプス-IgG抗体(EIA)が陽性で、おたふくかぜに免疫があっても、8倍未満のことがある。また、HI抗体は、パラインフルエンザウイルスに対する抗体も測定するので、不正確。

 注3:流行性耳下腺炎の患児の脊髄液を検査したところ、約60%の患児は、細胞数が、増加していたという。流行性耳下腺炎では、無菌性髄膜炎と診断するに当っては、嘔吐、頭痛などの症状や、項部強直などの所見も合わせて、臨床診断する必要がある。

 注4:Nelsonの教科書によると、過去におたふくかぜの予防接種を受けた子供の内には、おたふくかぜが流行した時に、発熱、倦怠感(malaise)、嘔気(nausea)、赤い丘疹性発疹(a red papular rash :胴体と四肢に多く、手の平や、足の裏には少ない)を特徴とする疾患を、発症したことがあったという。

 参考文献
 ・青柳憲幸、児玉明彦、小池通夫、津野博、小林昌和、上村茂、柏井健作:ムンプス難聴、小児科、Vol.37 No.11(10月号)、1273-1279頁、1996年.
 ・落合仁、他:ムンプスの家族内感染の感染様式と臨床症状の検討 小児科臨床 Vol.52 No.5、823-826、1999年.
 ・Nelson Textbook of Pediatrics (15th Edition).
 ・Wilbert H. Mason: Chapter 245 Mumps, 1341-1344, Nelson Textbook of Pediatrics (18th Edition, 2007).

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