利尿薬
1.炭酸脱水酵素阻害薬
糸球体で濾過された重炭酸イオン(HCO3-)は、80%が近位尿細管で再吸収される。重炭酸イオンは、接合尿細管(CNT)、集合管(CCD、OMCD、IMCD)では、再吸収と分泌が行われる。
近位尿細管の管腔側の刷子縁には、炭酸脱水酵素(CA:carbonic anhydrase)が豊富に存在し、重炭酸イオンと水素イオン(Na+/H+交換輸送体により分泌される)との反応で生成される炭酸(H2CO3)を、水(H2O)と炭酸ガス(CO2)に、分解している。炭酸ガスは、尿細管細胞内に拡散し、炭酸脱水酵素により、再び、炭酸(H2CO3)が生成され、
炭酸脱水酵素阻害薬のacetazolamide)は、主に、近位尿細管の管腔側で、炭酸脱水酵素(CA)を阻害し、Na+の再吸収を阻害し(尿中へのNaHCO3排泄が増加する)、利尿効果を現わす(体液は酸性に傾く)。
炭酸脱水酵素阻害薬は、温和なNa利尿と、尿中への重炭酸イオン(HCO3-)排泄増加を示す。 2.ループ利尿薬
太いヘンレ上行脚(TAL:thick ascending limbs)は、水透過性が低く、NaClは、管腔側のNa+-K+-2Cl-共輸送体(NKCC)により、能動的に再吸収される。Na+-K+-2Cl-共輸送体により再吸収されたNa+は、血管側(基底膜側)のNa+/K+-ATPase(Naポンプ)により、汲み出される(再吸収される)。K+は、管腔側のK+チャネルにより、再び、尿中に排泄される。Cl-は、血管側のCl-チャネルにより、汲み出される(再吸収される)。
ループ利尿薬(loop diuretics)のfurosemide(フロセミド)は、近位尿細管に於いて、尿細管腔内に分泌され、太いヘンレに於いて、管腔側のNa+-K+-2Cl-共輸送体の作用を阻害し、NaClの再吸収を抑制し、利尿効果(利尿作用)を現わす。 3.サイアザイド系利尿薬
Na+-Cl-共輸送体(NCC)は、遠位尿細管の尿細管腔側に存在し、Na+とCl-を共輸送(能動輸送)する。
サイアザイド系利尿薬(thiazide)は、Na+-Cl-共輸送体を阻害し、Na+やCl-の再吸収を抑制する。サイアザイド系利尿薬により、遠位尿細管のNa+-Cl-共輸送体が阻害され、Na+の再吸収量が減少すると、体内のNa+が欠乏し、糸球体濾過量(GFR)が減少し、近位尿細管での水・電解質の再吸収が促進される。サイアザイド系利尿薬は、近位尿細管に於いて、尿細管腔内に分泌され、原尿中を輸送され、遠位尿細管(接合尿細管:CNT)に於いて、Na+-Cl-共輸送体(NCC)を抑制し、NaCl再吸収を抑制し、利尿効果を現わす。
サイアザイド系利尿薬は、Na+の再吸収を抑制し、Na+の排泄を増加させることと関連して、降圧作用を現わすので、利尿薬(利尿剤)としてより、むしろ、降圧剤(血圧降下剤)として、使用される。 4.抗アルドステロン薬
アルドステロンは、集合管の細胞内のアルドステロン受容体と結合し、核内に移行し、アルドステロン誘導蛋白質(aldosterone induced protein:AIP)の合成を促進する。その結果、尿細管腔側のNa+チャネル(ENaC:epithelial sodium channel)が増加し、また、Na+/K+-ATPaseが活性化され(ATP供給が増加する)、Na+の再吸収が増加する。また、Na+チャネルの増加に伴い、負の管腔内電位が深くなり、K+チャネルによるK+排泄(分泌)が増加する。
抗アルドステロン薬のspironolactoneは、アルドステロンに構造が類似していて、アルドステロン受容体と結合して、アルドステロンの作用を阻害する(拮抗する)。その結果、Na+の再吸収が抑制され、Na+の排泄が増加し、利尿効果が現れる(K+の排泄は減少する)。
抗アルドステロン薬は、うっ血性心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群などの二次性アルドステロン症による浮腫などに、単独、又は、ループ利尿薬と共に、用いられる。 5.直接作用薬
amiroride、triamtereneは、アルドステロンと無関係に、直接、尿細管に作用して、Na+の再吸収を抑制し、利尿効果を現わす(K+の分泌をは、減少させる)。
amirorideは、遠位尿細管の遠位曲尿細管:DCT)と接合尿細管(CNT)、集合管(CCD、OMCD、IMCD)の尿細管腔側のNa+チャネル(ENaC)を抑制し、Na+の再吸収を抑制し、Na+の排泄を増加させ、利尿効果を現わす。
triamtereneは、利尿効果の発現が、抗アルドステロン薬のspironolactoneより早く、又、K+保持性も強い。
直接作用薬と、抗アルドステロン薬は、カリウム保持性利尿薬(K+保持性利尿薬)。カリウム保持性利尿薬の利尿効果は、ごく弱い。
6.利尿薬の利尿作用の比較
上記の利尿薬は、Na+の再吸収を抑制する(Na+の尿中への排泄を増加させる)ことで、利尿作用を現わす。
利尿薬の利尿作用を、表に示す。
表1 利尿薬の利尿作用の比較(参考文献の「標準薬理学」の283頁の表14-5を改変し引用) 利尿薬の分類 一般名 薬剤名 最大Na利尿
(%)GFR 尿中イオン排泄 Na+ K+ Cl- HCO3- Ca2+ 炭酸脱水酵素阻害薬 acetazolamide ダイアモックス 5 → ↑ ↑ → ↑ ↑ ループ利尿薬 furosemide ラッシックス 25 →↑ ↑ ↑ ↑ → ↑ サイアザイド系利尿薬 thiazide ダイクロトライド 8 ↓ ↑ ↑ ↑ → →↓ 抗アルドステロン薬 spironolactone アルダクトンA 3 → ↑ ↓ ↑ →↑ → 直接作用薬 triamterene トリテレン 3 → ↑ ↓ ↑ →↑ → 7.利尿薬の副作用
ループ利尿薬のfurosemide(フロセミド:薬剤名、ラシックス等)は、利尿薬の第一選択薬であり、サイアザイド系利尿薬と異なり、腎血流量、糸球体濾過量(GFR)を減少させない。
抗アルドステロン薬のspironolactoneは、尿中へのK+排泄を減少させる。その為、抗アルドステロン薬は、高カリウム血症を誘発する恐れがある。抗アルドステロン薬は、無尿、又は、急性腎不全の患者に投与すると、高カリウム血症を誘発、又は、増悪させる恐れがある。抗アルドステロン薬のspironolactoneは、高カリウム血症、低ナトリウム血症の電解質異常や、代謝性アシドーシス等の異常を現わすことがある(,異常が認められた場合には,減量又は休薬等の適切な処置を行うこと。電解質異常に伴い、不整脈、全身倦怠感、脱力等が、現れることがある。注1:1回25〜100mgを、1日1〜2回経口投与する。
表2 利尿薬の使用量・副作用(参考文献の「今日の治療薬」の554頁の表1を改変し引用) 分類 薬剤名 投与量(mg/day) mg/錠 効果持続 副作用 禁忌(慎重投与) ループ利尿薬 ラシックス 40〜80(分1回) 20、40 6時間 低K血症、アルカローシス、胃腸障害、高尿酸血症、耐糖能低下、顆粒球減少症、聴力障害、 低K血症、低Na、血症、無尿、高窒素血症、(急性腎不全、肝硬変末期) ダイアート 60(分1回) 30、60 12時間 アレリックス 3〜6(分1〜2回) 3、6 5時間 サイアザイド系利尿薬 ダイクロトライド 25〜200mg注1) 25 12時間 高尿酸血症、耐糖能低下、顆粒球減少症、アルカローシス、高Ca血症、低Na血症、低K血症 重症腎不全、肝不全、無尿、(高尿酸血症、糖尿病、高Ca血症、進行した肝硬変) フルイトラン 2〜8mg(分1〜2回) 2 24時間 べハイド 8〜16(分2回)注2) 4 (5時間以上) K+保持性利尿薬 アルダクトンA 50〜150 25、50 2〜3日間 高K血症、低Na血症、代謝性アルカローシス、高窒素血症、女性化乳房 無尿、急性腎不全、高K血症、(腎機能障害、妊婦) ソルダクトン 100〜400注3) 100注3) トリテレン 100〜200 30 12〜16時間
注2:1回4〜8mg(1〜2錠)を、1日2回経口投与する。
注3:1回100〜200mgを、1日1〜2回、日局ブドウ糖注射液、生理食塩液、又は、注射用水10〜20mLに溶解して、ゆっくりと静脈内注射する。ソルダクトン100mgと、ソルダクトン200mgが販売されていて、それぞれ、1A(アンプル)中に、ソレダクトン(カンレノ酸カリウム)を、100mg、200mg、含有している。1A(アンプル)当り、ソルダクトン100mgは、10mL、ソルダクトン200mgは、20mLの溶解液に、溶解する。利尿剤の副作用により低Na血症を来たすと、脱力、起立性低血圧を起こす。Na濃度が120mEq/L以下になると、意識障害を伴うこともある。肝硬変患者では、低K血症により、腎尿細管で、アンモニア産生が増加する。
低K血症は、ループ利尿剤により、尿中へのK+排泄が増加すると、起こり易い。
ループ利尿薬は、Ca排泄促進作用があり、高Ca血症に治療に用いられる。
高尿酸血症は、ループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬の副作用として、見られる。
ループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬は、長期投与すると、コレステロール、LDLコレステロール、トリグリセリド(中性脂肪)値が、上昇する。又、耐糖能低下も見られる(低K血症により、インスリンの分泌が低下する)。
参考文献
・今井正、他:標準薬理学 第6版 (医学書院、2001年).
・水島裕、宮本昭正:今日の治療薬 解説と便覧(南江堂、1997年).