


本当に危険なのは、酸化LDL
コレステロール値が高いだけでは、動脈硬化は起こらず、コレステロールが、活性酸素などにより酸化されることの方が危険です。
血管内皮細胞の炎症が、動脈硬化症と、その合併症の発症に重要な役割を果しています。
1.酸化LDLは、冠動脈疾患患者で増加している
酸化LDLの量を、 冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)患者と健康成人で比較した研究があります。なお、酸化LDLとして、構成するリゾホスファチジルコリン(リゾフォスファチジルコリン:LPC)を測定。
表1 酸化LDLは、冠動脈疾患患者で増加している
対象 |
冠動脈疾患患者 |
健康成人 |
患者数(男:女) |
67(46:21) |
181(129:52) |
年齢(歳) |
59.8±7 |
52.8±7 |
酸化LDL(μg/dl) |
20.1±1.1 |
11.2±0.3 |
総コレステロール(mg/dl) |
196.6±37.1 |
197.7±33.0 |
HDLコレステロール(mg/dl) |
43.0±12.1 |
50.8±12.8 |
トリグリセリド(mg/dl) |
144.4±64.8 |
112.0±58.8 |
(参考文献のNikkei Medical 1997年6月号64頁の戸島氏の表2を改変し引用)
血清総コレステロールやトリグリセリドの量は、両群間で有意差がありませんでした。
ところが、酸化LDLの量は、冠動脈疾患患者では、健康成人に比べて、2倍近くもありました(冠動脈疾患患者が20.1±1.1μg/dlなのに比して、健康成人は11.2±0.3μg/dl)。
なお、酸化LDLの量の単位は、μg/dlと微量(総コレステロール値の単位はmg/dl)です。
さらに、血中の酸化LDL値と総コレステロール値には、相関関係がありませんでした。
血清総コレステロール値よりも、酸化LDL値の方が、冠動脈疾患の危険因子と思われます。
2.総コレステロール値が高いことよりも、抗酸化物質が少なくて酸化LDLが増加することの方が危険
50歳から54歳の男性を比べると、冠疾患の死亡数は、スウェーデンでは10万人当たり約100人なのに対して、リトアニアでは約400人と、約4倍も多い。
この原因を明らかにするために、スウェーデン(都市リンチェピング)と、リトアニア(首都ビリニュス)で、100人ずつ心疾患が無い50歳の男性が調べられました。
その結果では、血清総コレステロール値は、スウェーデンは212mg/dl、リトアニアは197mg/dl、LDL値は、スウェーデンは143mg/dl、リトアニアは128mg/dlで、冠疾患の多いリトアニアの方が低かった。
一方、LDLが酸化されるのに要する時間を測定すると、スウェーデンは79.5分なのに比して、リトアニアは67.6分と、有意に短かった。
また、抗酸化物質であるビタミンEやカロテンの濃度は、スウェーデンより、リトアニアの方が低かった。
この結果から、総コレステロール値やLDL値が高いことよりも、抗酸化物質が少なく、LDLが酸化されやすいことの方のが、冠疾患による死亡の危険因子と思われます。
3.酸化LDLの動脈硬化への影響
マクロファージが、コレステロールを含む酸化LDLを細胞内に取り込むリセプター(受容体)が、スカベンジャー受容体です。
酸化LDLは、マクロファージにスカベンジャー受容体を介して取り込まれます。
マウスを用いた実験で、このスカベンジャー受容体が無いと、プラークが出来にくく、動脈硬化の進行が遅いことが証明されています。
また、酸化LDL受容体が、動脈硬化の病変部位の血管内皮細胞に多い傾向があります。
プラーク(粥腫:ジュクシュ)形成のメカニズムは、完全に解明されていません。
恐らく、血液中に増加した酸化LDLは、過剰に供給されると受容体発現数が減少(ダウンレギュレーション)されるLDL受容体でなく、血管内皮細胞の酸化LDL受容体を介して、動脈壁内膜に取り込まれ、脂質沈着がおこる(ゼラチン病変)。
さらに、酸化LDLは、受容体発現数の制御が無いスカベンジャー受容体を介してマクロファージに貪食され、酸化LDLが消化されないと、マクロファージが泡沫化して自己崩壊し、コレステロールが動脈壁に蓄積して、プラークが形成されると言われます。
マクロファージに貪食された酸化LDLは、リソソームで分解・消化を受けますが、コレステロールエステルは、分解・消化されないので、不溶性物質として残り、マクロファージが死滅した後も、動脈内壁に沈着・蓄積し、粥状動脈硬化症を形成すると考えられています。
さらに、酸化LDLは、動脈硬化を起こすのみでなく、酸化LDLは、血栓ができやすい体質にします。
参考文献
・小崎丈太郎、小山千穂:特集 高脂血症治療の曲がり角 Nikkei Medical
1997年6月号、60-69.
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