百日咳
【ポイント】
百日咳では、コンコンコンコン(呼気:staccato)→ヒュー(吸気:reprise) と、特有な咳発作が見られる。
百日咳特有な咳発作は、夜間の方が多く、昼間は、ケロッとしている(無熱)ことがある。
百日咳は、血液検査では、白血球数増多(リンパ球数が増加する)が見られる。 百日咳菌を分離するには、鼻咽腔粘液採取法が、良い
抗生剤を内服し、5〜7日間経れば、百日咳菌の感染力はないと言われる。抗生剤(EM、CAMなど)は、百日菌を消滅させる為には、2週間内服する必要がある
百日咳に特有な咳発作の録音テープ を、ここ をクリックすれば、聞くことが出来る。
1.百日咳と特有な咳発作
百日咳 (pertussis:whooping cough)は、百日咳菌(Bordetella pertussis)に感染した後、7日間程の潜伏期間(注1 )の後、無熱の感冒様症状(鼻水、鼻閉、軽度の咳)が始まり(カタル期)、咳は、1〜2週間後には、百日咳に特有な咳発作が現れる(痙咳期)。百日咳に特有な咳発作は、夜間の方が、昼間より、多い 。
百日咳菌は、健康成人キャリアーから、飛沫感染で、百日咳に免疫がない小児などに、感染し、百日咳を発症させる。百日咳菌は、抗生剤未治療の百日咳患者の鼻咽頭や気道分泌物によって、飛沫感染や接触感染する。感染のおそらがある期間は、抗生剤治療を受けてない場合、カタル期〜第4週まで(カタル期の発症初期が、感染力が強い)。
百日咳では、コンコンコンコン→ヒュー と、特有の咳発作が見られる:百日咳で見られる特有な咳発作は、staccato(呼気:咳を、コンコンと、数回〜20数回、連続して、長い間、咳き込む)と、reprise(吸気:長く咳き込んだ後、ヒューと笛声を発して、息を吸い込む)のが、特徴。reprise(レプリーゼ)は、吸気性笛声(吹笛様吸気:whoop)とも呼ばれる(注2 )。
<百日咳に特有な咳発作の録音テープ を聞くには、ここ をクリック>
百日咳は、特有な咳発作に際して、透明で粘稠な痰(鼻水様)を、喀出する。百日咳では、咳発作に伴ない、粘稠半透明な喀痰(粘稠硝子様の喀痰)を、口の外に排出する(嘔吐する)。
百日咳は、特有な咳発作に伴ない、咳き込んで、嘔吐することが多い。乳幼児は、百日咳に罹患すると、咳き込みなどで体力を消耗し、体重減少が見られる。
百日咳は、カタル期では、普通の感冒と区別することは、困難である。
百日咳は、痙咳期でも、夜間は、百日咳に特有な咳発作をしていても、昼間(外来受診時)は、気付かれないこともある。咳き込みの為、舌を突き出し、顔が真っ赤になり、眼瞼が浮腫状に腫脹し、所謂、百日咳様顔貌を呈する。
百日咳に罹患しても、初期は、無熱で、咳込みで苦しむ以外は、ケロッとして、一般状態は、良好で、重篤感がないことが多い。
百日咳では、特有な咳き込み発作がある時期でも、胸部聴診で、ラ音などの異常所見が見られないことが多い。
百日咳に特有な咳発作は、3〜4週間、続く。
百日咳に特有な咳発作は、百日咳菌が産生する毒素(注3 )によって生じるので、百日咳菌に有効な抗生剤(EMなど)が投与され、百日咳菌が消失しても、直ちに、咳の改善は、得られない。
乳児、特に、6カ月未満の小児が百日咳に罹患すると、重篤になるおそれがある。6ヶ月未満の乳児(特に、3カ月未満の乳児)では、特有な咳発作が見られることより、無呼吸が、主な症状(入院加療が必要)。
年長児や成人が、百日咳に罹患した場合、咳嗽が、長引くが、百日咳に特有な咳発作は、見られないこともある (慢性咳嗽患者)。乳幼児では、末梢血の白血球数が増加する(リンパ球の比率が70%以上になる)ことが多いが、成人の百日咳では、白血球数の増加例は少なく(15,000を越えない)や、リンパ球の比率が70%になる症例は認められない。欧米では、成人の慢性咳嗽患者(咳が長引く患者)の内、13〜32%の症例は、百日咳が原因だと言われる。
百日咳様の咳発作は、他の病原体による感染症(パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、マイコプラズマ、クラミジア感染症 など)でも、見られる。
小児遷延性咳嗽(慢性咳嗽)の患者では、百日咳とクラミジア・ニューモニエの混合感染が疑われる症例が存在する。百日咳の診断を、百日咳凝集抗体価(凝集素価)が山口株320倍以上、山口株/東浜株=4倍以上 、ペア血清で山口株4倍以上の上昇を基準として行い、クラミジア・ニューモニエ感染の診断を、クラミジア・ニューモニエIgM抗体価(Cp-IgM抗体)で行うと、混合感染と思われる症例が11%(10/174例)存在する。
百日咳は、早春から夏期に多く見られる。以前は、百日咳の月別患者発生数は、8、9、10月に多いと言う報告もあった。
百日咳では、末梢血液検査で、カタル期の終わり頃に、白血球数が増加する(白血球の75%以上がリンパ球)。白血球数は、リンパ球が優位に、20,000〜45,000にまで増加し、白血病と誤診されることもあった。白血球数増加は、三種混合ワクチン接種例や、年長児や、成人では、認められない 。
百日咳では、通常(細菌の混合感染がなければ)、CRP 値は正常で、赤沈値(赤血球沈降速度 :血沈値)も亢進しない。
百日咳の診断には、感染早期で、三種混合ワクチン未接種で、未治療な症例では、鼻咽頭ぬぐい液を培養すると、検出されると言う(鼻腔に綿棒を入れて、15〜30秒間、スワブしても良い、注4 )。
百日咳の診断の為には、血液中の百日咳凝集抗体価(山口株=流行株、東浜株=ワクチン株)か、百日咳菌抗体価精密測定(抗PT 抗体価IgG、抗FHA 抗体価IgG)を測定し、抗体価の上昇を確認する(百日咳に特有な咳が見られる痙咳期に、抗体価が上昇して来る)。なお、PT :Pertussis Toxin=百日咳毒素、FHA :Filamentous Hemagglutinin=線維状赤血球凝集素。百日咳凝集抗体価(山口株)が、X40以上(X10>から、X40〜X80に上昇)なら、百日咳の可能性が高い 。抗PT抗体価IgG(PT-IgG抗体)は、第2〜3病週に上昇し、百日咳に特異的だが、抗FHA抗体価IgG(FHA-IgG抗体)は、百日咳以外に、パラ百日咳でも、陽性になると言う。パラ百日咳は、百日咳より、軽症のことが多い。
三種混合ワクチン接種を受けていても、百日咳を発症することがある(約2%)。
抗生剤(EM、CAM、RKMなど)は、百日菌を消滅させる為には、2週間内服する必要がある。なお、通常の上気道炎に投与される抗生剤の内、AMPC(ペニシリン系)は、百日咳菌に効果がある(保険適応はない)が、CEX(セファロスポリン系:セフェム系)は、百日咳菌に効果がない。セフェム系抗生剤のCDTR−PI(セフジトレンピボキシル:メイアクトMS小児用細粒)は、百日咳菌に効果がある(保険適応もある)。
百日咳では、特徴的な激しい咳発作(百日咳に特有な咳発作)は、百日咳菌から産性される種々の毒素(注3 )によって、引き起こされるので、抗生剤を投与しても、直ぐに、咳発作は、改善しない。 百日咳菌に有効な抗生剤(EMなど)を、早期から投与(内服)すれば、症状(咳き込み)を軽減させ、症状の消失を早めることが可能。
百日咳は、抗生剤を内服し、5〜7日間経れば、百日咳菌の感染力はないと言われる。
百日咳は、抗生剤を投与しないと、約3週間、排菌が続くと言われる。
新生児は、生直後に、百日咳の母親からの移行抗体 を、有している:抗PT抗体価IgG(PT-IgG抗体)を20%の新生児が、抗FHA抗体価IgG(FHA-IgG抗体)を70%の新生児が、有している。しかし、これらの移行抗体は、生後1〜2カ月で消失する(検出感度以下に低下する)。その為、3カ月未満の乳児が、百日咳に罹患することもある。
6カ月未満(特に、3カ月未満)の乳幼児が百日咳に罹患すると、肺炎、脳症、痙攣、中耳炎などを合併し、死亡することもある。
百日咳は、回復期に入ると、百日咳に特有な咳発作の回数が減り、咳き込みも弱くなり、1〜2週間で、咳が出なくなる。しかし、百日咳に罹患した後、1〜3カ月間、冷たい空気や、運動により、咳が誘発され易くなる。
2歳未満の小児が百日咳に罹患すると、合併症(肺炎など)がなかった場合でも、肺機能の低下(abnormal
pulmonary function)が、12カ月間、持続することがある。
百日咳は、各年齢の小児が罹患するが、2〜6歳の小児が罹患することが多い(好発する)。
百日咳は、学校保健法では、第二種の疾患で、特有の咳が消失するまで出席停止となる。ただし、医師が、病状から伝染のおそれがないと認められた時は、この限りではない。
2.三種混合ワクチン(DPTワクチン)
沈降精製三種混合ワクチン (DPTワクチン)を接種した場合、百日咳毒素(PT )と線維状赤血球凝集素(繊維状赤血球凝集素:FHA )の抗体陽性率は、下記の表のような報告がある。
三種混合ワクチン(DPTワクチン)は、法律上は、I期には、3回接種することになっているが、百日咳や、ジフテリアや、破傷風に対して、2回接種するだけでも、十分に、免疫が獲得出来る。
三種混合ワクチン(DPTワクチン)は、生後3カ月になったら、可能な限り早期に接種を受けることが推奨されている。
表1 DPTワクチン接種後の抗体陽性率 (参考文献の永井 氏等の表3を改変し引用)
I期接種回数
ジフテリア(D)
百日咳(P)
破傷風(T)
百日咳毒素(PT )
線維状赤血球凝集素(FHA )
PHA法
EIA法(ELISA法)
EIA法(ELISA法)
PHA法
2回接種
100.0%
84.9%
98.1%
100.0%
3回接種
100.0%
82.8%
100.0%
100.0%
百日咳は、血液中(血清中)に、抗PT抗体や、抗FHA抗体が、少なくとも10EU(ELISA単位)以上存在すれば、感染防御出来ると言われる。百日咳菌に対する抗体は、全年齢層で、良く保有されている。抗PT抗体価は、1歳以上50歳までの全年齢層の人で、良く保有されている(年齢と共に僅かに低下する)。抗FHA抗体価は、1歳で抗PT抗体価と同様に上昇し、20歳以上で多少低下し、50歳以上で再び高値を示すと言われる。百日咳菌が家族内感染した場合、DPTワクチンを接種していない人の発症率が80〜90%と高いが、DPTワクチンを2回以上接種した人の発症は数%に過ぎない。
ジフテリアは、0.01IU(国際単位)/mLの抗体(抗毒素)が血中に存在すれば、感染防御出来る。DPTワクチン接種により、ジフテリアの平均抗毒素価は、0歳が0.280IU/mL、1歳が0.349IU/mL、2歳が0.758IU/mLと、高値になる(2003年度の調査結果)。0.01IU/mL以上の血中ジフテリア抗毒素は、1歳〜20歳台前半までの人の90%以上が、保有している。1〜4歳、20〜24歳の人の60%以上は、発病防止レベルの0.1IU/mL以上のジフテリア抗毒素価を保有している。しかし、45歳以上の人は、ジフテリア抗毒素を保有している人が少ない。 破傷風は、0.01IU/mLの抗体(抗毒素)が血中に存在すれば、感染防御出来る。発病防止レベルの0.01IU/mL以上の抗毒素保有率は、1〜4歳児では96.1%、5〜25歳の人では90%以上と、高い。破傷風は、顕性感染しても、免疫を獲得出来ない(破傷風は、自然感染によって、免疫を獲得出来ない)。破傷風は、三種混合の定期接種などで、基礎免疫が済んでいれば、追加接種を10年毎に1回受けることで、血中の抗毒素を感染防止レベル(発症阻止水準)に維持出来る。
三種混合ワクチンによって得られた抗体価は、年々、低下するので、特に、破傷風の感染防御の為には、追加免疫が必要。
1970年代は、百日咳ワクチンには、百日咳菌の全菌体が用いられていた(全菌体百日咳ワクチン)が、副反応が強かった(死亡例が存在した)。近年は、百日咳の毒素のみを精製した百日咳ワクチン(無菌体百日咳ワクチン)が開発され、沈降精製DPTワクチン(acellular pertussis vaccine combined with DT toxioids:DTaP )が予防接種に用いられている。無菌体百日咳ワクチンは、百日咳I相菌東浜株を液体培養し、菌体に含まれる内毒素(発熱に関与する)を殆ど除去し、PTやFHAを主成分とする分画を取り出し、更に、ホルマリン添加により、PT の白血球増多活性やヒスタミン増多活性を不活化させてある。
沈降精製DPTワクチン(DTaP)は、1回投与量の0.5mL中に、百日咳の防御抗原を4単位以上、ジフテリアトキソイドを23.5単位以上(約15Lf)、破傷風トキソイドを13.5単位以上(約2.5Lf)含有している。 無菌体ワクチン(DTaP:無細胞型ワクチン)は、全菌体ワクチン(DTwP)に比して、脳炎の発症や死亡を、約8分の1に低下させた。
日本で三種混合ワクチンに用いられている百日咳ワクチンは、百日咳菌の培養上清から作成した無菌体ワクチン(コンポーネントワクチン)。
4コンポーネントワクチン(北里研究所、武田薬品工業、デンカ生研)には、百日咳毒素(PT )、線維状赤血球凝集素(FHA )、69kD外膜蛋白(69kD OMP)、凝集原(Agglutinogen)の4成分が、含まれている。
3コンポーネントワクチン(阪大微研)は、百日咳毒素(PT)、線維状赤血球凝集素(FHA)、69kD外膜蛋白(69kD
OMP)の3成分を含んでいる。百日咳毒素(PT )の含有量は、阪大微研の3コンポーネントワクチンが最も多い。
2コンポーネントワクチン(化血研)は、百日咳毒素(PT)、線維状赤血球凝集素(FHA)の2成分を含んでいる。
百日咳抗体は、従来は、百日咳菌凝集抗体が用いられた。血中の凝集抗体価が320倍以上あれば、十分な感染防御効果があると言われた。現在、日本で販売されているDPTワクチンは、接種しても、凝集抗体価が上昇しない製品もある。現行のワクチンの接種効果は、凝集抗体価のみでは、評価出来ない。
どの成分(コンポーネント)が感染防御に不可欠なのか解明されていない。どのワクチンが最適比の有効成分で構成されているのか不明だが、PTとFHAは最低限含まれている必要がある。
PT(百日咳毒素)に対する抗体は、百日咳毒素を中和したり抗毒素作用を現す。FHA(繊維状赤血球凝集素)、69KD外膜蛋白(69kD
OMP)、AGC(百日咳凝集原)に対する抗体は、百日咳菌が気道上皮細胞へ付着するのを阻止する。
表2 無菌体百日咳ワクチンに含まれる抗原量 (参考文献の予防接種の手びき第11版 の表40を改変し引用)
メーカー名
種類
PT
FHA
69kD OMP
百日咳凝集原2
タイプ
価
μg/0.5mL
μg/0.5mL
μg/0.5mL
μg/0.5mL
北里研究所
T
4価
6.1
51.6
0.9
1.2
武田薬品工業
T
4価
3.2
34.4
1.6
0.8
デンカ生研
T
4価
9.0
32.0
3.0
1.0
阪大微研
B
3価
23.4
23.4
表示無し(微量)
表示無し
化血研
2コンポーネント
2価
8.0
32.0
含まず
含まず
Tタイプワクチン(4コンポーネントワクチン:武田薬品工業)、Bタイプワクチン(3コンポーネントワクチン:阪大微研)、2コンポーネントワクチン(化血研)を、第I期定期接種で3回接種した後の抗体価を比較した報告によると、3種類のワクチン共に、抗PT抗体価、抗FHA抗体価は、百日咳罹患後のレベル(100〜200IU/mL)にまで上昇する。
抗69kD OMP抗体価は、Tタイプワクチンを接種すると百日咳罹患後のレベルにまで上昇するが、Bタイプワクチンでは抗体価の上昇が低い。
凝集原は、東浜株には1と2とが、山口株には1と3とが、18823株には1と2と3と4と5と6が、含まれている。18823株に対する凝集抗体価は、Tタイプワクチンを接種した場合にのみ、上昇する(自然に百日咳罹患後のレベルにまで上昇する)。
表3 DPTワクチン接種の抗体上昇効果の比較 (参考文献の予防接種の手びき第11版 の165頁の表を改変し引用)
ワクチンタイプ
メーカー名
抗PT抗体価
抗FHA抗体価
抗69kD OMP抗体
凝集抗体価
Tタイプワクチン
武田薬品工業
100
179
175
217
Bタイプワクチン
阪大微研
222
108
11
検出限界以下
2コンポーネントワクチン
化血研
174
135
検出限界以下
検出限界以下
化血研のDPTワクチンは、2コンポーネントワクチンだが、含まれる百日咳ワクチン(PT、FHA)は、硫安分画・ショ糖密度勾配遠心法でなく、アフィニティー及びイオン交換クロマトグラフィー法(カラムクロマトグラフィー)で分離が行われている(PT、FHAの純度が高い)。また、ジフテリア毒素や破傷風毒素の抗原純度も高い。1)
沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(DPT“化血研”シリンジ)は、添付文書に、「製造工程でウシの乳由来成分(カザミノ酸、スキムミルク、ポリペプトン)、ウシの肝臓、ウシの血液、ウシの肉、ブタの胃由来成分(ペプトン、ペプシン)、ブタの膵臓由来成分(パンクレアチン)、ウマの血液由来成分(血清)、クジラの心臓由来成分(ハートエキス)及びヒトの血液由来成分(アポセルロプラスミン)を使用している」と記載されている。
日本では、定期予防接種は、沈降精製三種混合ワクチン(DPTワクチン)による第I期定期接種(第1期定期接種)と、二種混合ワクチン(DTワクチン)による第2期定期接種とが、行われる。
百日咳の予防接種は、第I期定期接種にのみ行われる。予防接種の百日咳発症予防効果は、予防接種をして3〜5年後から減弱し、12年後には、消失する(百日咳に対する抗体が、検出されなくなる)。
三種混合ワクチン(DPTワクチン)の接種開始時期は、1994年10月の予防接種法改正により、従来の2歳から、生後3カ月に引き下げられた。その効果もあって、百日咳の患者数は、近年では、減少した(日本では、年間の百日咳の患者数は、推計では、2000年が2.8万人、2001年が1.5万人と言われる)。
百日咳は、母親からの移行抗体 により感染防御出来ない(移行抗体が生後1〜2カ月で消失する)ので、乳幼児期(特に乳児期)に罹患すると、重篤になる(肺炎や脳症を併発する)ので、生後3カ月を過ぎたら出来るだけ早くDPTワクチンの接種を受けた方が良い。
1).第I期定期接種
第I期定期接種は、生後3〜90カ月(7 歳 6カ 月 )に達するまでの期間に、受ける。
第I期定期接種は、初回接種として、標準は、生後3〜12カ月の間に、3〜8週間隔で、DPTワクチン(0.5ml)を、3回、皮下接種する(2回の接種でも、十分な免疫が獲得出来る)。
その後、追加接種として、初回接種を終了した後、6カ月以上間隔を開けて(標準は、初回接種終了12〜18カ月の期間)、DPTワクチン(0.5ml)を、1回、皮下接種する。 DPTワクチンは、2回以上接種すると、かなり十分な感染防御効果が得られる。第I期定期接種は、初回接種を2回終了後6カ月以上経過した場合には、追加接種として1回接種すれば、十分と言われる。
過去に百日咳に罹患したことがある小児は、二種混合ワクチン(DTトキソイド:0.5mL)を、3〜8週間隔(通常は6週間隔)で2回接種する(日本の予防接種法では、任意接種の取り扱いになる)。DPTワクチンの接種は、予防接種施行令第1条2により、当該疾患に罹っている者、又は、罹ったことがある者を除くことになっている(2006年4月1日現在:破傷風やジフテリアに罹患したことがある人は、DPTワクチンを受けられないことになる)。
なお、過去に百日咳に罹患し、百日咳菌に対する免疫(抗体)を保有している児に、DPTワクチンを接種しても、副反応は増強しない。百日咳の既往の有無が明白でない児には、規定通りにDPTワクチンを接種する。
2).第II期定期接種
第II期定期接種は、11歳以上13未満(標準として11歳=小学校5年生)の時に、二種混合ワクチン(百日咳を含まない沈降DTトキソイド)を、0.1mL、1回、追加接種する。2005年4月(平成17年4月)から、標準接種年齢が12歳〜11歳に変更になった。
第I期定期接種が不完全だと、第II期定期接種で、沈降DTトキソイド0.1mLを1回接種したのみでは、有効に、抗体が再上昇しない。
第II期定期接種を受ける年齢(11歳以上13未満:標準接種年齢は11歳)の児童は、ジフテリアトキソイドによる副反応が強く出易い。その為、DTトキソイドは、10歳以上の人に接種する場合、1回0.1mLとするよう、厚生労働省から指示が出されている(生物学的製剤基準、厚生労働省告示、2004)。しかし、破傷風トキソイドは、10歳以上の人に接種する場合でも、1回0.5mLずつ、安全に接種出来る。従って、第I期定期接種が不完全な人に、破傷風の免疫を獲得させる為には、沈降破傷風トキソイド0.5mLを、3〜8週間の間隔で、2回接種(初回免疫)し、その後、6カ月以上の間隔を開けて(標準として、初回免疫終了後12〜18カ月の期間)に、もう1回追加接種すると良い。
少なくとも、DTトキソイド0.1mLを2回接種した場合は、ジフテリアの抗原量は足りるが、破傷風の抗原量は不足する。
10歳以上の人は、ジフテリアトキソイドによるアレルギー反応(局所反応や全身反応)が、激しく出易い。ジフテリアトキソイドを生理食塩水で50倍(〜100倍)に希釈した液0.1mLを、前腕の皮内に注射し、(13〜)24時間後に、発赤が径10mmm以上あれば、ジフテリアトキソイド(含まれる菌体成分=莢雑物)に対するアレルギー陽性と判定される(モロニー反応)。なお、発赤径5mm未満は陰性、発赤径5mm以上10mm未満は疑陽性、発赤径10mm以上は陽性、発赤径20mm以上は強陽性と判定される。皮内反応で、モロニー反応(モロニー試験)が陽性の人には、ジフテリアトキソイドは、接種しない(陰性の人と、疑陽性の人には接種可能)。学童では、発赤径が20mm以下なら、0.1mLを接種しても、副反応で困ることはないとされる。
第I期定期接種を受けると、第II期接種を受けるまでの期間(11歳頃まで)、破傷風抗毒素価は感染防御レベル以上に維持されるが、ジフテリア抗毒素価は感染防御レベル以下に低下する児もある。
三種混合ワクチン(DPTワクチン:沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン:北里研究所)には、百日せき菌の防御抗原(4単位以上:PT など)、ジフテリアトキソイド(約15Lf)、破傷風トキソイド(約2.5Lf)以外に、トキソイドを不活化するのに用いたホルマリン(不活化剤)が、0.05mg以下、含まれている。また、アジュバント (水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、塩化アルミニウム)、緩衝材、等張化剤(塩化ナトリウム)も、含まれている。チメロサール(防腐剤)は、含まれていない(注5 )。沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン「S北研」シリンジは、バイアル製剤と同様にチメロサールや代替防腐剤が使用されていない(製造工程を無菌に保つことで、防腐剤を使用せずに無菌性を保持している)。北里研究所DPT(三種混合)ワクチンには、百日咳の感染防御抗原として、PT、FHA、69KD外膜蛋白、AGG(百日咳凝集原)の4成分が含まれている。
三種混合ワクチン液は、浸透圧比(生理食塩水に対する比)は、約1で、pHは、5.4〜7.4。
三種混合ワクチン接種後に起こる、重大な副反応としては、アナフィラキシーショック(蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫など、注6 )、急性血小板減少性紫斑病(1000万人接種あたり1人程度の頻度:接種数日後〜3週間後に、紫斑、鼻出血、口腔粘膜出血などがあらわれる)、脳症(接種後、発熱、四肢麻痺、痙攣、意識障害などが現れる)、痙攣(接種直後〜数日後に現れる)がある。そのほか、過敏症(接種直後〜数日中に、発疹、蕁麻疹、紅斑、掻痒などが現れる)、発熱(2〜3日中に消失する)、不機嫌(2〜3日中に消失する)、局所症状(ワクチンを皮下注射した部位に、発赤、腫脹、水疱、疼痛、硬結などが現れるが、通常、2〜3日中に消失する)、局所の小硬結(沈降ワクチンなので、アルミニウムアジュバント が含まれていて起こる:1カ月程度、残存することがある)がある(接種する腕を、接種の度に、変える:同一接種部位に反復して接種しない)。接種部位の局所症状(局所反応)は、ワクチンに含まれるアルミニウムアジュバントや、ワクチン有効成分の抗原性により起こる(局所反応は、特に、T=破傷風トキソイドが原因で起こる )。局所反応は、第I期定期接種初回接種の1回目には、接種1〜2日後と、接種7〜8日後をピークに見られる。局所反応は、接種回数が増えるにつれて、高率に、強く、早期に現れることが多い。第I期定期接種追加接種(0.5mL接種)後には、接種3日以内に、20〜30%の接種児に現れる。小学校高学年で第II期定期接種(0.1mL接種)後には、2日目をピークに、10〜20%の接種児に現れる。硬結は、ワクチンに含まれるアルミニウムアジュバント(アルミニウム塩)が原因で起こる。硬結は、大きさは小豆〜大豆程度で、球状で、皮下に触知される。硬結は、多くの場合、2〜3カ月程度で、消褪する。蚊アレルギー(蚊刺過敏症:蚊に刺されると皮膚が酷く腫れる)の患児は、DPTワクチンを接種した後に、局所症状や全身症状が現れ易い。蚊アレルギーは、慢性活動性EBウイルス(CAEBV )感染症でも見られる。
DPTワクチン接種直後に、接種部位に発赤・腫脹が見られた場合には、即座に、ステロイド軟膏(リンデロンVG軟膏など)を塗布したり、局所を氷で冷やすと良い。
三種混合ワクチンは、発熱の頻度が少ない(熱性痙攣の報告が少ない)。
三種混合ワクチンは、凍結保存してはならない 。
三種混合ワクチンは、沈降しやすいので、室温で、瓶を良く振って 、ワクチン液を振り混ぜてから、注射器に吸引する。
従来は、DPTワクチンには、ゼラチンが含まれていて、DPTワクチンを接種すると、ゼラチンに対する抗体(IgG抗体、IgE抗体)が誘導され、その後に、ゼラチンを含む生ワクチン(おたふくかぜ、麻しん)を接種すると、アナフィラキシーショック を来たすことが解明された。
現在、日本で使用(販売)されているDPTワクチンは、全て、ゼラチンを含まない(ゼラチン・フリー)製品に変更されている。
注1 :百日咳の潜伏期間は、1〜2週間(7〜14日間)で、長くとも、21日以内と言われる。
百日咳の潜伏期間は、Nelsonの教科書には、3〜12日間(an incubation period
ranging from 3 to 12 days)と、記載されている。 百日咳菌が、百日咳患者(有効な抗生剤無治療)から周囲の人に感染するおそれがあるのは、感染7日後〜痙咳期(咳発作期)に入って3週間後の期間と言われる。
注2 :吸期(吸気時)のreprise(レプリーゼ)は、ドイツ語(独語)で、「繰り返し」、「再演」などの意味がある。whoopは、英語で、「歓声」、「(梟、鶴などの)ほー、ほーという鳴き声」などを意味する。
百日咳に特有な咳発作では、呼期(呼気時)に、「コンコンコンコン…」(staccato)と咳き込んだ後、吸期(吸気時)に、「ヒュー」(reprise)と、息を吸い込むのが、特徴。
なお、staccato(スタッカート)は、英語では、「断音」、「断奏」と言う意味で、ドイツ語では、「Stakkato」とも、表記される。
注3 :百日咳が産性する毒素には、百日咳毒素(pertussis toxin:PT)、線維状赤血球凝集素(Filamentous
hemagglutinin:FHA)、69kD外膜蛋白(Pertactin:69kD outer membrane protein:69kD
OMP)、凝集原(Fimbriae:Agglutinogen)、気管細胞毒素(Tracheal cytotoxin:TCT)、アデニル酸サイクラーゼ毒素(Adenylate cyclase toxin:ACT)、内毒素(Endotoxin:ET)、易熱性皮膚壊死毒素(Dermonecrotic
toxin:CNT)などがある。
百日咳毒素(pertussis toxin:PT )は、5つの異なるサブユニットから構成され、リンパ球増多因子(LPF:白血球増多因子:赤血球を凝集させるので、LPA-HA とも呼ばれる)、ヒスタミン増多因子(HSF)、アイレット活性化蛋白(IAP:膵臓のランゲルハンス島のインスリン分泌を促進させる)、アジュバント 因子(AF)の活性を有している。百日咳毒素(PT:LPF活性)は、百日咳で見られる白血球像多(リンパ球増多)に関与する。
線維状赤血球凝集素(Filamentous hemagglutinin:FHA )は、百日咳菌表面に存在する線維状分子(菌体表層の繊毛に由来する)で、毒性は有しないが、百日咳菌が、細胞膜(赤血球や動物細胞)に吸着するに利用される。
百日咳I相菌が産性する百日咳毒素(PT)や、線維状赤血球凝集素(FHA)は、感染防御抗原なでの、これらの毒素に対する抗体は、百日咳の防御抗体として、作用する(百日咳菌の感染を防御する)。
抗FHA 抗体は、百日咳菌が、宿主細胞に吸着することを阻害し、百日咳菌の感染を阻止する。
抗FHA抗体が十分に産性されないと、百日咳菌は、宿主の上部気道粘膜上皮細胞に吸着し、増殖して、百日咳毒素(PT)などを産性する。
抗PT抗体は、百日咳の症状の発現を、阻止する。
過去に、DPTワクチンの接種を受けてあっても、百日咳に罹患することがある。
百日咳患者の5〜20%弱は、DPTワクチンを3回〜4回接種したことがある。
百日咳の家族内感染では、百日咳ワクチン(DPTワクチン)の接種を受けたことがない者は80〜90%の発症率だが、2回以上接種を受けた者は数%の発症率で済む(ワクチンには、90%以上の発症防止効果がある)。
DPTワクチンを接種すると、1カ月後に、百日咳凝集抗体価(ワクチン株=東浜株)は、1280倍程度に上昇する。
注4 :百日咳菌の同定には、特殊培地(Bordet-Gengou培地:ボルデジャングー培地)で35℃培養(3日間)を要するが、スワブした綿棒を、無菌のゼリー入りの試験管(チャコール入りカルチャースワブなど)に入れて、冷蔵保存して、輸送しても良い。
百日咳菌が分離される率は、臨床的に典型な百日咳例では、55.3%であるが、成人の百日咳例では、2.2%、患者家族では、12.7%と言われる。
患者から、百日咳菌を分離するには、鼻咽腔粘液採取法(細い綿棒を、前鼻孔より慎重に挿入し、後鼻腔の側壁や底面を拭って、鼻水や粘液を採取し、Bordet-Gengou培地で培養する)が、良い。鼻咽腔粘液採取法による百日咳菌検出率(陽性率)は、第1病週以内が66%、第1〜2病週が58%、第2〜3病週が27%、第4病週以後が5%と報告されている。
百日咳菌は、宿主の細胞表面に存在する糖鎖 を受容体として、付着し侵入する。
百日咳菌は、線毛上皮細胞や肺胞マクロファージに付着し侵入した後、サルモネラ菌や結核菌 と同様に、ファゴゾームとリソゾームとの融合を阻止し、細胞内に寄生する(細胞内寄生菌)。
注5 :チメロサール (エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム)は、ワクチン液が入ったバイアルに針を何回も刺して、細菌・真菌が混入し増殖するのを防ぐ目的で、防腐剤として使用されて来た。
水銀(メチル水銀)が中枢神経毒性があることから、ワクチンに含まれるチメロサールが自閉症を増加させるおそれも指摘された。近年は、チメロサール(エチル有機水銀)が添加されないワクチンや、代替剤として2-フェノキシエタノールやフェノールが添加されたワクチンが販売されている。フェノキシエタノールは、ワクチン接種で体内に入った量のほぼ全てが、24時間以内に体外に排出される。
神経障害の原因となるメチル水銀化合物の半減期は、1カ月半と長いが、チメロサールのようなエチル水銀化合物の半減期は、1週間以内と、短い。日本国民の平均水銀摂取量(1992〜2001年)は、厚生労働省の報告によると、8.4μg/日で、その内、87.5%は、魚介類から摂取されている。
デンマークでは、1992年からチメロサールを含んでいないワクチンが使用されているが、自閉症児は、むしろ、増加している。また、1990年までチメロサールを含んでいるワクチンを接種していた期間、デンマークでは、自閉症児は増加していない。これらのことから、チメロサールと自閉症との関連性は否定的だと言う(Madsen 等)。
注6 :アナフィラキシーショック は、抗原抗体反応(免疫複合体形成によるII型アレルギー反応)、補体系の活性化、化学伝達物質の放出(ケミカルメディエーターの放出)等により、急速(短時間:30分以内 )に、皮膚症状(痒み 、浮腫み、蕁麻疹、冷汗、蒼白、潮紅)、呼吸器系症状(胸内苦悶、胸痛、喘鳴、痙咳、呼吸困難、肺水腫、血痰)、心臓血管系症状(脈拍微弱、頻脈、低血圧、不整脈、心停止)、神経系症状(不安、混迷や傾眠や昏睡などの意識障害)、その他の症状(結膜充血、流涙、嘔気、嘔吐、腹痛、失禁など)が現れる。
アナフィラキシーショックが起こったなら、緊急に、気道の確保、酸素投与、補助呼吸、静脈路確保など応急処置を行う。
・0.1%エピネフリン皮下注:0.01ml/kg
・ハイドロコーチゾン皮下注(可能なら静脈注):5〜10mg/kg
・抗ヒスタミン剤 (例 アタラックスP1mg/kgをゆっくり静注)
応急処置を行いながら、救急車で、しかるべき病院に搬送する。
参考文献
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Evidence From Danish Population-Based Data, Pediatrics 2003; 112:604-606.
1) .加藤達夫:DPT(三種混合)ワクチンの有効性と安全性、メディカス株式会社(DPT12001A01).
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