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 インフルエンザ

 インフルエンザウイルスは、飛沫感染して、鼻や喉から、体内に侵入する。体内では、8時間後に、約100ケに増殖する(1日で、100万個に増殖する)。そして、1〜3日間の潜伏期間の後、発熱、独特の咳などの症状で、発症する。
 65歳以上の老人は、インフルエンザの症状を軽くする為には、潜伏期間に(患者に接触した2日以内に)、抗インフルエンザウイルス剤(オセルタミビルのカプセル製剤)を服用するのも、賢明と思われる。
 アスピリンなどのNSAIDsは、ミトコンドリアの機能を低下させるおそれがある。

 インフルエンザウイルスは、赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)とを有している。
 赤血球凝集素(HA:ヘマグルチニン)は、ウイルスが宿主細胞に侵入する際に必要:ウイルスは、赤血球凝集素(HA)を介して、宿主細胞のウイルス受容体(シアル酸を含む糖鎖)に結合する。
 ノイラミニダーゼ(NA)は、ウイルスが宿主細胞から遊離する際に必要:宿主細胞内で増殖したウイルスは、ノイラミニダーゼ(NA)により、ウイルスの赤血球凝集素(HA)と宿主細胞のウイルス受容体との結合を外す。
 抗インフルエンザウイルス薬のオセルタミビル(商品名:タミフル)は、ウイルスのノイラミニダーゼ(NA)を阻害し、宿主細胞内で増殖したウイルスが、宿主細胞外への遊離を抑制し、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する。

 黄色ブドウ球菌の産生する蛋白分解酵素は、インフルエンザウイルスの感染性を、高める。抗生物質(抗生剤)は、インフルエンザウイルスに対して、直接効果はないが、黄色ブドウ球菌などの細菌の増殖を抑制して、細菌の産生する蛋白分解酵素による、インフルエンザウイルスの感染力の亢進を、抑制する効果は、期待出来る。また、二次性の細菌性の呼吸器感染症(気管支炎、肺炎)の発症を、予防する効果が、期待出来る。

 シアル酸は、COOH基を持つため、陰性荷電を有している
 シアル酸を含む糖鎖により、血管内皮細胞と、血小板などは、陰性荷電により反発し合い、血小板の粘着・凝集が防がれている。
 インフルエンザ感染に伴ない、インフルエンザウイルス(ウイルス血症)か、インフルエンザウイルスが産生するノイラミニダーゼ(NA)が、血管内に流入し、血管内皮細胞や、血小板などのシアル酸を、分解し、血小板の粘着を増加させて、血小板凝集を促進させ、インフルエンザ脳症を引き起こすのかも知れない。
 抗インフルエンザウイルス剤のタミフルは、インフルエンザウイルス(A型、及び、B型)のノイラミニダーゼ(NA)を、選択的に阻害する。インフルエンザ脳症の発症に、インフルエンザウイルスが産生するノイラミニダーゼ(NA)が関与しているとすれば、タミフルの早期投与は、インフルエンザ脳症の、予防・治療に、有用かも知れない。

 わが国では、ライ症候群を予防する為に、アスピリン、アスピリン・アスコルビン酸、アスピリン・ダイアルミネート、サリチル酸ナトリウム、サリチルアミド、エテンザミド、ジクロフェナクナトリウムを、15歳未満の小児のインフルエンザや水痘に伴う発熱に対して、解熱などの目的で、原則として、投与しないことになっている。
 インフルエンザ脳症を予防する為に、メフェナム酸を使った解熱剤を、インフルエンザに伴う発熱に対して、原則として、投与しないことになっている。なお、ジクロフェナクナトリウムは、インフルエンザ脳症の死亡率を、上昇させる(悪化させる)。

 1.インフルエンザの症状の特徴
 インフルエンザウイルスは、罹患した人が、咳やくしゃみをすると、飛沫して、空気中に浮遊する。その浮遊しているウイルスを、鼻や口から吸い込んで、飛沫感染する。吸い込まれたウイルスは、約20分程度の時間で、細胞内に取り込まれ、8時間後には、約100倍に増殖する。
 インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染した後、1〜3日間の潜伏期間を経て、突然、38〜40度の高熱が出て、発病する。
 発熱弛張熱)は、初感染では、1週間以上続くこともあり、3日間発熱した後、一旦、1日程度、解熱して、再び、もう3日間程度、発熱が続くことが多い(二峰性発熱)。成人など、再感染では、肺炎などの合併症がなければ、2〜3日程度の発熱のことが多い。なお、6カ月未満の乳児は、移行抗体(母親由来のインフルエンザIgG抗体)があれば、微熱程度のことが多い。
 インフルエンザの場合、病初期には、普通の風邪(普通感冒)に比して、鼻水が少ない傾向があるのが、特徴(鼻水は、鼻腔粘膜に張り付く感覚があり、鼻水の量は少ない)。インフルエンザの時の鼻水は、無色透明で粘度が少ない(RSウイルス感染症の時の鼻水は、粘度が高い)ことが多いが、時に、細菌感 染を合併すると黄色になることもある。
 また、インフルエンザの場合、咳(咳嗽)は、喉にこびり付いた痰を出すような独特の音の咳であることも、特徴。
 喉の痛みはあるが、頚部のリンパ節の腫脹は見られず、咽頭発赤は、あっても、軽微なことが多い。咽喉後壁の顆粒は、アデノウイルス感染症の時のように、腫脹が認められることもある。
 嘔吐、軽度の下痢(血便ではない)など、胃腸炎症状で、始まることもある。下痢などの消化管症状は、乳児に多いと言われるが、年長児でも見られる。
 悪寒、頭痛、背中や四肢の筋肉痛、全身の関節痛、全身倦怠感などの、全身症状も、見られる。

 マスクをすれば、飛沫が飛ぶのは、1〜2メートル以内が多いので、飛沫感染を、最小限に、抑えることが出来ると言われる。
 また、手洗いをすれば、手指を介する、接触感染を、予防出来る。

 インフルエンザに罹患すると、下気道の粘膜線毛細胞が脱落(剥離)したり、免疫力が低下して、二次性に、細菌性の気管支炎や肺炎を、合併し易くなる。また、乳幼児では、中耳炎や、熱性痙攣(ひきつけ)を、起こしたりする。その他、稀ではあるが、ウイルス性肺炎(ウイルスそのものによる肺炎)、心筋炎、ライ症候群インフルエンザ脳症などを、併発することもある。

 年長者では、インフルエンザ罹患後に、全身倦怠感、筋肉痛、関節痛などの全身症状が残ることも多い。

 インフルエンザでは、鼻汁(鼻水)は、透明で粘稠なことが多い(細菌感染を合併して黄色で粘性な鼻水の塊りが見られることもある)。
 インフルエンザでは、咳嗽は、独特に、割れたような咳の音になることが多い(特に、年長児)。
 インフルエンザでは、初感染時(自然感染の既往や、予防接種歴がない小児がインフルエンザに初めて罹患した場合)には、二峰性発熱(3日間程度弛張熱が続いて、一旦、半日程度、解熱した後、再発熱し、4日間程度、発熱が続く)を示すことが多い。
 インフルエンザでは、高熱があっても、咽頭(ノド)の発赤が著しくないこともある。
 インフルエンザでは、(他の病原体によって)滲出性扁桃腺の像を呈し、膿(白色の濃栓が線状に付着)が扁桃腺に見られることもある。

 2.ウイルス表面のスパイク

 1).赤血球凝集素(hemagglutinin:HA
 インフルエンザウイルスは、赤血球凝集素(HA:ヘマグルチニン、ヘムアグルチニン)を介して、宿主の細胞表面に存在する、シアル酸注1)を含むウイルス受容体(レセプター)と結合する。
 赤血球表面には、シアル酸を含む糖鎖シアロ糖鎖注2)が、存在する。シアロ糖鎖は、赤血球表面のインフルエンザウイルス受容体として、インフルエンザウイルスのHA蛋白の頭部領域のアミノ酸と結合する。
 4度では、インフルエンザウイルスのHAと、赤血球表面のウイルス受容体(シアロ糖鎖)が結合して、赤血球が凝集する。しかし、37度に加温すると、赤血球のウイルス受容体が、ノイラミニダーゼ(NA)で破壊され、インフルエンザウイルスが存在しても、凝集しなくなる。その際、HAにより、赤血球表面に結合していたインフルエンザウイルスは、赤血球から遊出(elute)する。そして、NAによりウイルス受容体が破壊された赤血球は、もはや、インフルエンザウイルスを吸着しなくなる(赤血球の凝集が起こらない)。
 インフルエンザウイルスの感染を受けた細胞は、細胞膜(細胞質膜)が、インフルエンザウイルスの赤血球凝集素(HA)を取り込み、赤血球を吸着するようになる。
 漢方薬の麻黄(葛根湯に含まれる)は、インフルエンザウイルスが、赤血球凝集素(HA)により、赤血球表面のウイルス受容体(シアロ糖鎖)と結合するのを阻害し、インフルエンザウイルスの感染を阻止する効果があると言う。
 なお、麻疹ウイルスは、envelopeに、赤血球凝集素(HA)を有しているが、ノイラミニダーゼ(NA)は有していないので、37℃で、ウイルス粒子が、赤血球表面から、遊出しない(elutionが起こらない)。

 2).ノイラミニダーゼ(neuraminidaseNA
 シアル酸注1を加水分解する酵素(シアリダーゼ)。
 インフルエンザウイルスのNAは、細胞内で増殖したインフルエンザウイルスが、細胞膜の外に遊離する際に、インフルエンザウイルスの赤血球凝集素(HA)と、宿主の細胞表面に存在するンフルエンザウイルス受容体(シアル酸を含むシアロ糖鎖)との結合を外すことによって、ウイルスの凝集を防ぎ、ウイルスの出芽(発芽)・遊離を促進する。

 HAは、15型、NAは、9型が存在する。
 HAとNAの型から、インフルエンザウイルスは、分類される。例えば、香港型は、H3N2、ソ連型は、H1N1。

 血管内皮細胞や、リンパ球や、赤血球の表面の糖鎖には、シアル酸が存在する。
 シアル酸は、COOH基を持つため、陰性苛電(マイナスの電荷)を有している
 シアル酸を含む糖鎖により、血管内皮細胞と、赤血球やリンパ球は、陰性荷電(陰性苛電)により反発し、粘着が防止される。血管内皮細胞は、強力な陰性荷電を有しており、同じく陰性荷電を有する血小板とは、反発し合い、血小板の粘着・凝集が防がれている。
 インフルエンザ感染に伴ない、インフルエンザウイルスが産生するNAが、何からの機序で、血管内に流入し、血管内皮細胞や、リンパ球などのシアル酸を、分解し、リンパ球の接着を増強させて、血管内皮細胞障害を、強く引き起こし、また、血小板凝集を促進させ、インフルエンザ脳症を引き起こすのかも知れない。

 インフルエンザウイルス粒子は、単球からのIL-1、IL-6、TNF-αの産生を誘導する。
 インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ(NA)は、マクロファージからのIL-1、TNF-αの産生を誘導する。

 3.抗インフルエンザウイルス剤
 リン酸オセルタミビル(医薬品名:タミフルTamiflu)は、インフルエンザウイルス(A型とB型)のノイラミニダーゼ(NA)を阻害し、ウイルスの細胞外への遊離を抑制する。
 このような抗インフルエンザウイルス剤は、ウイルスを殺す作用はないので、インフルエンザの臨床症状が改善(解熱)した後も、インフルエンザウイルスは、しばらく、排泄が続き、感染源となる。
 1ケのインフルエンザウイルスは、細胞に感染して増殖し、8時間後に、約100ケに増殖すると言われる(注3)。インフルエンザの潜伏期間は、1〜3日程度なので、周囲の人が、インフルエンザだと判明したら、早期に、オセルタミビルのような抗インフルエンザウイルス剤を服用すれば、発症を予防したり、症状を軽く済ませる。
 1歳未満の小児への、オセルタミビル(タミフル)使用は、十分な説明があれば、可能(注4)。しかし、塩酸アマンタジン(Symmetrel)は、決して使用しないようにとの勧告がある(注5)。

 A型インフルエンザに罹患した小児を、抗インフルエンザ薬で4日間治療し、解熱後約48時間経過した時点で、再度、鼻腔拭い液中のウイルス抗原を、迅速診断キット(キャピリアFluA,B、インフルA・B−クイック「生検」)を使用して、検査した。その結果、解熱後約48時間経過した時点でも、48.4%の患児(31名中15名)に於いて、鼻腔拭い液中のウイルス抗原(鼻汁中のA型インフルエンザウイルス抗原)が、陽性だった。
 抗インフルエンザ薬として、オセルタミビルを使用した場合は、71.4%(14名中10名)で、鼻腔拭い液中のウイルス抗原が陽性だった。また、アマンタジンを使用した場合は、29.4%(17名中5名)で、鼻腔拭い液中のウイルス抗原が陽性だった。
 抗インフルエンザ薬で治療後に、ウイルス抗原が陽性であり、ウイルス抗原が残存していても、必ずしも、感染源となり得ない(ウイルス抗原が陽性であっても、必ずしも、感染性のあるウイルス粒子が残存していることを意味しない)が、抗インフルエンザ薬を使用して治療した場合のインフルエンザ罹患後の登校基準を、検討する必要がある。(藤澤等の論文報告)

 4.黄色ブドウ球菌は、インフルエンザウイルスの感染力を高める
 インフルエンザウイルス感染細胞では、インフルエンザウイルスのHA蛋白は、膜癒合活性のない前駆体として合成される。この前駆体のHA蛋白を取り込んだインフルエンザウイルス粒子には、感染性はない。
 黄色ブドウ球菌は、蛋白分解酵素(アルギニン特異的セリンプロテアーゼ注6)により、HA蛋白を、HA1とHA2とに解裂(開裂)し、活性化する(解裂活性化)。HA1とHA2とに解裂活性化されたHA蛋白は、膜癒合活性があり、インフルエンザウイルスと細胞とを、強く付着させ、インフルエンザウイルスが増殖する。このように、鼻腔などの気道に存在する黄色ブドウ球菌は、蛋白分解酵素(プロテアーゼ)を産生し、インフルエンザウイルスの感染力を高め、病原性を高める。蛋白分解酵素(プロテアーゼ)が存在しないと、感染した仔ウイルスは、活性化されないので、一段増殖のみで終了して、病原性を示さない。
 そして、インフルエンザウイルスが、黄色ブドウ球菌の蛋白分解酵素により活性化され、上気道や下気道で増殖すると、気道粘膜線毛細胞が脱落(剥離)する(マクロファージが遊走して来る)。下気道の粘膜線毛細胞が脱落(剥離)した部位は、バリア機能が低下しているので、黄色ブドウ球菌などの細菌が定着し、増殖し易いので、二次性に、細菌性の気管支炎や肺炎が、発症し易くなる(好中球が遊走して来る)。
 従って、抗生物質(抗生剤)は、インフルエンザウイルスに対して、直接効果はないが、黄色ブドウ球菌などの細菌の増殖を抑制して、細菌の産生する蛋白分解酵素による、インフルエンザウイルスの感染力の亢進を、抑制する効果は、期待出来る。また、二次性の細菌性の呼吸器感染症(気管支炎、肺炎)の発症を、予防する効果が、期待出来る。
 近年は、耐性菌など、抗生物質の弊害の方が、注目されているが、衛生状況が悪い時代や社会では、潜在的に、細菌性の気管支炎に罹患していた人が、インフルエンザに罹患して、細菌性の肺炎を発症して、死亡することも、多かった。

 5.インフルエンザの予防接種
 気道粘膜の液性免疫として、上気道では、主にIgA抗体ば分泌され、IgG抗体は、少量分泌されるに過ぎない。
 しかし、気道の末梢の肺胞近くでは、炎症時に、血中からIgG抗体が、移行すると考えられる。

 インフルエンザワクチンを予防接種しても、血中には、IgG抗体が産生されるが、気道粘膜に分泌されるIgAは、産生されない。
 血中のIgG抗体は、インフルエンザウイルスの上気道の感染は、防御出来ないが、肺での感染や増殖を、防御すると、考えられている。

 6.インフルエンザの出席停止
 インフルエンザは、学校保健法第二種の感染症で、解熱した後2日を経過するまで、幼稚園・保育園や学校では、幼児・児童・生徒・学生は、出席が停止になる。
 一般に、無治療の場合、インフルエンザウイルスの存在量は、極、病初期は、少ない。その為、インフルエンザであっても、インフルエンザ抗原迅速検査が、陽性に出ないこともある。しかし、病初期に隔離することは、集団感染の予防に、重要とされる。

 抗インフルエンザウイルス剤(タミフル)は、ウイルスの細胞外への遊離を抑制する作用があるが、ウイルスを殺す作用はないので、臨床症状が改善(解熱)しても、しばらくは高いレベルでウイルス排泄が続くという。
 その為、幼児(1才〜6才)は、解熱後4日間、年長児は、解熱後2日間は、休養や隔離が必要とされる。

 廣津医院(神奈川県)の廣津伸夫院長が行った調査結果では、抗インフルエンザウイルス剤投与した場合、解熱した3日後でも、その12〜15%の症例に、ウイルスが残存していることが判明したという。従って、学校保健法で定められた出席停止期間は、解熱後2日間だが、病欠期間が4日間未満の症例から、インフルエンザウイルスが、他の人に、感染するおそれがあることが示唆された。

 従来は、インフルエンザの出席停止期間は、学校保健安全法(文部科学省)では、「解熱した後2日間」だった。
 平成24年4月1日からは、児童生徒や学生がインフルエンザを発症した場合、小中学校や大学の出席停止期間は、「発症後5日を経過し、かつ解熱した後日間」に変更される(注7)。
 また、幼稚園児がインフルエンザを発症した場合、出席停止期間は、「発症後5日を経過し、かつ解熱した後日間」に変更される。
 なお、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)に罹った場合、出席停止期間は、現行の「耳下腺の腫れが消えるまで」から、「腫れが出た後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで」に変更される。
 百日咳は、「5日間の抗菌性物質製剤(=抗生剤)による治療終了」か、「特有のせきが消える」のどちらかであれば、出席が可能となる。

 7.インフルエンザとライ症候群
 ライ症候群は、インフルエンザ様疾患や水痘に罹った小児が、アスピリンを含有している薬物を摂取すると、発症する危険性が高くなる。
 アスピリン投与と、ライ症候群の発症とには、密接な関連があることが、多くの疫学的研究が、示唆しているが、サリチル酸が、ライ症候群発症の、重要な因子であると、考えられている。
 アスピリンが、体内で代謝されて生成されるサリチル酸が、ミトコンドリアの機能を抑制し、ライ症候群を発症させるものと考えられる。
 サリチル酸は、ミトコンドリアで、PTP(permeability transition pore)という穴構造を開いて、膜電位を低下させてしまい、その結果、ミトコンドリアでのTCA回路での代謝などが、障害されて、ミトコンドリア内のNADH2+が、減少すると考えられる。

 PTPが開くと、PTPの穴を、プロトン(水素イオン)が通過して、ミトコンドリア膜の膜電位(the mitochondrial transmembrane potential:Delta Psi )が、低下し、酸化還元電位が変化して、アポトーシスが誘導される(pro-apoptogenic)と、考えられる。
 アポトーシスを惹起するPTPの開口(induction)は、Ca2+に依存する。その理由は、Bernardiの実験結果から、PTPの開口は、膜電位(the proton electrochemical gradient:刄ハH+)により制御されていて、Ca2+Camの増加)が、ミトコンドリア内で、膜電位(刄ハH+)を変化させて、PTPの開口(induction)を引き起こすためと、考えられる。
 Trost等の実験結果では、細胞外Ca2+濃度(Cao)が高いと、サリチル酸の毒性(ミトコンドリア障害作用)が、増強した。細胞外(extracellular)のカルシウムイオン濃度(Ca2+濃度)が高いと、サリチル酸の、毒性(ミトコンドリア障害作用)が、増強したカルシウム拮抗作用のある薬剤(verapamil、diltiazem、chlorpromazine、nifedipine、nisoldipine)は、サリチル酸の毒性(ミトコンドリア障害作用)を、阻害ないし軽減させた
 ライ症候群は、米国では、1974年以降、4〜12歳(おおよそ、6歳)の小児に多く発症したが、1988年までには、ライ症候群の発症例は、激減している。これは、アスピリン使用が減少したためか、ライ症候群に類似した症状を来たす先天性代謝異常症である、MCADD(中鎖アシル-CoA脱水素酵素欠損症)として診断されるようになったためなのか、定かでないと言う。

 ライ症候群を予防するために、15歳未満の小児がインフルエンザや水痘に罹った時は、解熱などの目的でアスピリン、サリチルアミド(PL顆粒に含まれる)、エテンザミドを使用してはならない(原則禁忌)。
 また、一般用医薬品では、アスピリン類(バッファリンA、エキセドリン、ケロリン)は、15歳未満の小児には、使用してはいけないことになっている。なお、小児用バッファリンは、成分はアスピリンでなく、アセトアミノフェンが配合されている。アセトアミノフェンは、抗炎症作用は弱く、アスピリンのような血小板凝集阻害作用はない。しかし、アセトアミノフェンは、肝細胞壊死を来すおそれや、水痘の病期を延長させてしまうおそれがある。

 NSAIDsは、アスピリンやサリチル酸と同様に、ミトコンドリアの脱共役作用(uncoupling effec)があるので、ミトコンドリアの機能を低下させるおそれがある。

 わが国では、ライ症候群を予防する為に、アスピリン、アスピリン・アスコルビン酸、アスピリン・ダイアルミネート、サリチル酸ナトリウム、サリチルアミド、エテンザミド、ジクロフェナクナトリウムを、15歳未満の小児のインフルエンザや水痘に伴う発熱に対して、解熱などの目的で、原則として、投与しないことになっている。
 インフルエンザ脳症を予防する為に、メフェナム酸を使った解熱剤を、インフルエンザに伴う発熱に対して、原則として、投与しないことになっている。なお、ジクロフェナクナトリウムは、インフルエンザ脳症の死亡率を、上昇させる(悪化させる)。
 日本小児科学会は、平成12年11月に、インフルエンザに伴う発熱に対して(解熱剤を)使用するのであれば、アセトアミノフェンが適切であり、非ステロイド系消炎剤(NSAIDs)の使用は慎重にすべき旨の見解を、公表している。

 8.インフルエンザと仮性クループ
 インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルスRespiratory syncytial virus)などは、仮性クループ(急性喉頭気管炎)を起こすことがある。

 仮性クループ(急性喉頭気管炎)は、犬の遠吠えのような咳(犬吠様咳嗽:けんばいようがいそう)がして、声がかすれる(嗄声:させい:声がしゃがれる)が、夜間などに見らられ、吸気性呼吸困難(吸気性喘鳴)になるのが特徴。
 <仮性クループに特有な咳発作の録音テープを聞くには、ここをクリック>

 仮性クループ(急性喉頭炎)は、喉部の気道が、炎症性腫脹により、狭くなる。

 真性クループは、ジフテリア菌が原因で、起こる(喉頭ジフテリア)。

 仮性クループの際に見られる、犬吠様咳嗽、嗄声、吸気性喘鳴などの症状は、他の喉頭疾患でも見られることから、クループ症候群と呼ぶこともある。
 犬吠様咳嗽、嗄声、吸気性喘鳴などの呼吸困難症状は、3〜4日間程度、続くことが多い。

 クループ症候群は、喉頭気管炎(喉頭気管気管支炎:狭義のクループ)、急性喉頭蓋炎、細菌性気管炎など、感染症が原因で起こることが多い(感染性クループ)。また、クループ症候群は、声門下狭窄、喉頭異物、喉頭腫瘍(血管腫)、血管神経性浮腫、痙性クループ(アレルギー素因が関与する)など、非感染性の原因で起こることもある。

 クループでは、犬吠様咳嗽、呼気性喘鳴、嗄声、発熱などの症状が現れる・
 ・急性喉頭気管気管支炎:最も多い。7カ月〜3歳の小児に好発する。パラインフルエンザ、アデノウイルス、RSウイルス麻疹ウイルスなどが原因。典型的には、2〜3日間、上気道炎症状(鼻水、咳、咽頭痛、微熱など)があった後、犬吠様咳嗽、呼気性喘鳴などが現れる。気道閉塞症状は、3〜4日間続いくが、その後、徐々に1週間程で軽快する。
 ・急性喉頭蓋炎:頻度は稀。致死率は高い。インフルエンザ菌(Hib)が原因のことが多い。2〜6歳の小児に好発する。先行する上気道炎症状がなく、急に、高熱、咽頭痛で発症する。喘鳴は、低調性のことが多い(ゴロゴロした感じに聞こえる)。患児は、座位で下顎を突き出した姿勢をとる(sniffing position)。診断には、頚部の側面X-P写真が有用。短時間で窒息状態に陥ることがあるので、刺激をしないようにして、専門の医療機関に送る(咽頭培養は呼吸停止を誘発するおそれがある。不要な注射などは避けて泣かせないようにする)。血液培養を行う。

 クループの治療としては、エピネフリン吸入(エピネフリン0.2〜0.3mlを生理食塩水1〜2mlと混ぜて吸入)、ステロイド薬投与(デキサメサゾンを、初回0.5mg/kg筋注、以後、6〜8時間毎0.2mg/kg投与)、抗生剤投与(アンピシリン、セフォタキシムを静脈注射:急性喉頭蓋炎や細菌性気管支炎の場合)などが行われる。

 クループ(喉頭気管気管支炎)は、7カ月〜3歳の小児が、発症することが多い。
 クループは、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス麻疹ウイルスなどのウイルスが、原因となることが多い。
 熱型は、RSウイルスでは、弛張熱(remittent fever)のことが多い。
 RSウイルスは、2歳以下の喘鳴の原因として多い。2〜16歳の喘鳴は、ライノウイルスが原因のことがある(Gary等)。
 RSウイルスが原因の細気管支炎で入院した乳幼児(月齢3〜36カ月)は、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)のモンテルカスト(医薬品名:キプレス、シングレア)を投与する(内服させる)と、臨床症状の悪化が有意に減少する(Bisgaad等)。

 RSウイルス感染に伴う鼻水(鼻汁)は、粘稠のことが多い。
 表 疾患と熱型と発熱期間
 疾患  原因  熱型  発熱期間  潜伏期間  鼻汁  咳嗽
 インフルエンザ  インフルエンザウイルス  稽留熱〜弛張熱(二峰性発熱)  3〜7日  1〜3日  +  +
 川崎病(MCLS)  不明  稽留熱  1〜2週  不明  +  ±
 急性気管支炎  パラインフルエンザウイルス  弛張熱(39℃以下、下痢、嘔吐あり)  4〜5日  4〜5日  ±  +(咽頭痛)
 (喘息様)気管支炎  ヒトメタニューモウイルス  (咳の後に発熱する、2〜6月に流行)  4.7日  4〜6日  ±  +(下痢)
 細気管支炎  RSウイルス  弛張熱(飛沫感染、接触感染、鼻汁は粘稠)  3〜5日  4日(2〜8日)  +  +(喘鳴)
 サルモネラ胃腸炎  サルモネラ菌  弛張熱(非敗血症型の腸チフスは稽留熱)a)  3〜7日  6〜48時間  −  −
 若年性関節リウマチ  不明(自己免疫疾患)  弛張熱  数週  不明  −  −
 猩紅熱  A群β溶血性連鎖球菌  稽留熱  3〜7日  1〜5日  ±  −
 滲出性扁桃腺炎  アデノウイルス  稽留熱〜弛張熱(高熱)  3〜7日  5〜7日  ±  ±(湿性)
 水痘  水痘帯状疱疹ウイルス  稽留熱  1〜6日  14日(9〜21日)  −  −
 大葉性肺炎  肺炎球菌  稽留熱(WBC数↑、杆状核好中球↑)  数日  1〜3日  ±  +
 チフス性疾患  チフス菌、パラチフスA菌  稽留熱→弛張熱(比較的徐脈)a)  数週  10〜14 日(3日〜3カ月)  −  −
 伝染性紅斑(リンゴ病)  パルボウイルスB19  稽留熱(弛張熱の場合もあり)  数日  10〜20日b)  −  −
 伝染性単核球症  Epstein-Barrウイルス(EBV  弛張熱(扁桃腺炎、頚部リンパ節腫脹を伴う)  数週  2〜8週  ±  −
 突発性発疹  HHV-6、HHV-7  稽留熱(弛張熱の場合もあり)  3〜5日  約10日  −  −
 白色便性下痢症  ロタウイルス  稽留熱(嘔吐、下痢を伴う)  2日以内  48時間以内(1〜4日)  +  +
 風疹  風疹ウイルス  稽留熱(40〜60%)  1〜3日  2〜3週  ±  ±
 ヘルパンギーナ  エンテロウイルスc)  稽留熱〜弛張熱(扁桃腺炎を伴う)  3〜7日  3日(1週以内)  −  −
 ヘルペス性歯肉口内炎  単純ヘルペスウイルス  (稽留熱→)弛張熱(頚部リンパ節腫脹有り)  3〜6日  3〜12日  ±  −
 麻疹(はしか)  麻疹ウイルス  稽留熱(二峰性発熱)  7日  9〜12日  +  +
 マイコプラズマ肺炎  マイコプラズマ・ニューモニエ  稽留熱〜弛張熱CRP高くならず、比較的徐脈)  1〜2週  2〜3週(1〜4週)  −  +(乾性)
 流行性耳下腺炎  ムンプスウイルス  (稽留熱:WBC数は減少しリンパ球数が増加)  3〜5日  18日(12〜25日)  −  −
 a)サルモネラ胃腸炎では、弛張熱が見られる。チフス性疾患(腸チフス)では、第1病週(腸管リンパ組織内で菌が増殖し菌血症により全身感染する)に段階的体温上昇(39〜40℃)と共に、比較的徐脈、肝j脾腫、バラ疹が見られ、第2病週(腸管リンパ組織が壊死を起こし痂皮を形成する)に稽留熱が見られ、第3病週(腸管リンパ組織の痂皮が剥がれ潰瘍を形成し出血する)に弛張熱になり、腸出血や腸穿孔が見られ、第4病週(潰瘍などが修復される)に解熱する。チフス性疾患では、典型的には、病初期(第1病週)に白血球数が減少しリンパ球数が増加すると言われて来たが、第2病週以内に白血球数が正常か増加し、好中球優位(好中球の割合が増加しリンパ球の割合が減少する)のことが多い。
 b):ウイルス感染してから7〜9日後に発熱し(微熱)、更に、7〜10日後に、発疹(紅斑)が現れる。
 c):ヘルパンギーナは、エンテロウイルスでも、コクサッキーウイルス、特に、B群のコクサッキーウイルス(Coxsackievirus B)が原因で発症する。ヘルパンギーナは、エンテロウイルスでもコクサッキーウイルス(特にCoxsackievirus B3など)が原因で発症する。ヘルパンギーナでは、ヘルペス性歯肉口内炎の際の様に、口蓋垂の周囲にアフタ(潰瘍)が生じるが、ヘルペス性歯肉口内炎の際の様に、咽頭後壁に顆粒(リンパ濾胞)にアフタ(潰瘍)が現れることはない。また、ヘルパンギーナでは、滲出性扁桃腺炎を合併し、後に、口内炎が現れるが、ヘルペス性歯肉口内炎と異なり、歯肉炎や口周囲の水疱や、頚部リンパ節炎を合併しない。ヘルパンギーナは、鼻水(鼻汁)や咳(咳嗽)が現れない点が、アデノウイルス感染症との相違点。

 クループ症候群の急性喉頭蓋炎は、b型インフルエンザ菌(Hib)が原因で起こることが多い。
 急性喉頭蓋炎は、上気道炎症状(鼻水など)がなく、突然、高熱、咽頭痛で、発症することが多い。
 急性喉頭蓋炎は、2〜4歳の小児に多く見られる。急性喉頭蓋炎は、ウイルスが原因の仮性クループ(急性喉頭気管炎:7カ月〜3歳の小児に多く見られる)より、高年齢の小児が、罹患する傾向がある。
 急性喉頭蓋炎の小児は、泣かせたりなどすると、呼吸困難が増悪するので、徒に、刺激を与えないように、注意する(咽頭培養や、注射・点滴路確保などの処置に際しては、注意が必要)。
 気道確保の為には、挿管する気管チューブは、年齢相当より、細い径の気管チューブを選択する(緊急を要する場合には、喉の気管部位に、太い注射針を、刺して、気道を確保する)。

 治療としては、吸入(L-エピネフリン0.2〜0.3ml+生理食塩水1〜2ml)や、ステロイド剤投与(デキサメサゾンを初回0.5mg/kg筋肉注射)が、有効な場合が多い。

 9.トリインフルエンザウイルス
 トリインフルエンザウイルス(鳥インフルエンザウイルス:H5N1)は、現在のところ、トリからヒトへ、ヒトからヒトへと伝染しない。
 トリインフルエンザウイルスには、脳など様々な臓器で増殖する強毒株(致死的な経過を辿る)と、呼吸器と腸管のみで増殖する弱毒株(致死的な経過を辿らない)とが存在する。
 トリインフルエンザウイルスの病原性(強毒株なのか弱毒株なのか)は、宿主に存在する、ウイルスのHA蛋白質を分解する酵素(宿主由来蛋白質分解酵素)の開裂活性化作用によって決まる。つまり、強毒株は、ウイルスのHA蛋白質を開裂活性化させる宿主由来蛋白質分解酵素は全身臓器に存在し、インフルエンザウイルスが細胞へ強く付着し、インフルエンザウイルスの増殖が促進する。他方、弱毒株は、ウイルスのHA蛋白質を開裂活性化させる宿主由来蛋白質分解酵素は呼吸器と腸管にのみ存在する。
 また、ウイルスのNA蛋白質に変異が起こると、全身に存在するプラスミノーゲンを介して、HA蛋白質が開裂活性化され、ウイルスの増殖が促進し、全身感染を起こす強毒株に変化する。

 10.迅速診断キット
 インフルエンザの診断は、臨床症状のみでは困難(アデノウイルス感染症など、他の疾患でも、インフルエンザ様症状が現れる)。
 インフルエンザの迅速診断キットは、近年、多数、発売されている。

 インフルエンザでは、発症1〜2時間後には、インフルエンザウイルスが迅速診断キットで検出される(陽性を示す)症例もあるが、発症12時間以内は、インフルエンザなのに、迅速診断キットが陰性を示す(偽陰性)症例もある。
 インフルエンザウイルスが分離された症例(ウイルス培養で陽性の症例)に関する報告では、インフルエンザの迅速診断キットの陽性率は、6時間以内は74.2%、7〜12時間は91.7%、13〜18時間は75%、19〜24時間は100%と言われる。発症12時間以内は、29%の症例は、迅速診断キットでは、陽性を示さない(偽陰性率が29%)。臨床的にインフルエンザが疑われる症例は、後日(発症24時間以降)、再度、検査を行う方が良い(初診時陰性を示し、後日、再検査して陽性を示す症例が存在する)。

 迅速診断キットは、検体中にインフルエンザウイルスが103〜104pfu/ml存在すると、陽性を示す(検体中のインフルエンザウイルス量が103pfu/ml以下だと、陽性を示さない)。
 インフルエンザウイルスでも、B型の方が、発症早期に、迅速診断キットで陽性を示さない症例(偽陰性の症例)が多い。

ポクテム インフルエンザA/B(B型陽性)
エスプライン インフルエンザA&B-N(A型陽性)
イムノエースFlu(B型陽性)
 一般的に、インフルエンザの迅速診断キットでは、B型(Flu B)の検出率が、A型に比して、低いことが多い。
 「エスプライン インフルエンザA&B-N」キットでは、最小検出感度は、A/New Caledonia/20/99(Aソ連型 H1N1)は1.1×10pfu/ml、A/Panama/2007/99(A香港型 H3N2)は1.7×10pfu/ml、B/Johannesburg/5/99は6.4×10pfu/mlと、添付文書に記載されている。
 「イムノエースFlu」キットでは、最小検出感度は、インフルエンザAウイルス抗原は7.5×10TCID50/テスト、インフルエンザBウイルス抗原は7.5×10TCID50/テストと記載されている。

 迅速診断にもちいる鼻腔ぬぐい液の検体は、専用のスワブ(綿棒)を鼻腔にしっかり挿入し、鼻甲介を数回こするようにして、粘膜表皮を採取する。スワブ(綿棒)は、顔面に対して垂直に、鼻孔から下鼻甲介に沿わせながら、鼻腔オクにコトン(やさしく)と突き当たる部位まで挿入し、数回擦るようにして粘膜上皮を採取する。
 「エスプライン インフルエンザA&B-N」キットは、鼻かみ液(鼻水を鼻かみ紙、サランラップなどに採取)を検体に用いても良いが、鼻腔ぬぐい液などに比して、検体中にインフルエンザウイルス抗原量が比較的少ない場合がある。

 11.その他
 ・インフルエンザウイルス感染症では、咽頭所見は、発熱の割りに、軽度である(発赤が顕著でない)ことが多い。
 インフルエンザウイルス感染症でも、アデノウイルス感染症と同様に、咽頭後壁のリンパ濾胞(顆粒)が累々と発赤腫脹し、いくら様(イクラ様)を呈することがあるが、アデノウイルス感染症に比して、軽度である(濾胞の数が少なく発赤が弱い)。

 ・経口ノイラミニダーゼ阻害薬リン酸オセルタミビル(タミフル)の有効性と安全性に関するアンケート調査(2006年インフルエンザシーズン:今村政信氏等)によると、インフルエンザウイルスは、インフルエンザ発症後7〜10日問、排泄され続ける。
 タミフルを服用すると、ウイルス価が減少するまでの期間が、約2日間短縮する。タミフルを服用すると、4日目にウイルス価が、計測限界以下になる。
 タミフルが、2日間しか処方されなかった患者は、3日及び5日間処方された患者に比して、再受診する率が、有意に高いと言われる。
 解熱後、直ぐにタミフルの服用を中止すると、インフルエンザの再燃、他者への感染、耐性ウイルスの出現、等の危険性があるので、タミフルは、5日間服用し続けることが望ましいと言う。

 注1シアル酸(sialic acid)は、唾液(sialo)ムチンから酸水解によって得られる、酸性のアミノ糖として発見された。

 注2: シアロ糖鎖(シアリル糖鎖)は、シアル酸NeuAc)とガラクトースGal)とN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)が結合した糖鎖。シアロ糖鎖は、インフルエンザウイルスのHAと結合する。
 赤血球表面のインフルエンザウイルス受容体になるシアロ糖鎖は、Neu5Acα2-6Galβ1-4(3)GlcNAcβ1-構造、又は、Neu5Acα2-3Galβ1-4(3)GlcNAcβ1-構造をしている:シアル酸(NeuAc)は、ガラクトース(Gal)とN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)からなる基幹領域タイプ1、又は、タイプ2)に、α2→6結合か、α2→3結合をしている。
 Neu5Acα2-3Galとは、N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)が、ガラクトース(Gal)とα2-3結合した構造。ヒトパラインフルエンザウイルス1型( hPIV-1)と、3型(hPIV-3)は、Neu5Acα2-3Galを有する糖鎖と結合すると言う。 

 注3:インフルエンザウイルスは、罹患した人が、咳をすると、飛沫して、空気中に浮遊する。1回のクシャミで、10万個のウイルスが、飛沫して、空気中に浮遊すると言う。その浮遊しているウイルスを、鼻や口から吸い込んで、飛沫感染する。また、目や鼻の粘膜からも、直接侵入する。インフルエンザウイルスを直接口に入れても、それほど、脅威にならないと言う。
 感染したウイルスは、細胞内で増殖し、8時間後に、約100ケに増殖する(1日で、100万個に増殖する)。ウイルスが増殖した細胞は、死滅し、炎症が起こり、発熱、咽頭痛、咳などの症状が現れる。
 インフルエンザの感染予防には、マスク、手洗い(石けんは、ウイルス膜を破壊する効果がある)、嗽(うがい)、保温(体を温かくする)ことなどが、大切。御茶(緑茶)や、梅干も、効果があると言う。

 注4:「タミフルドライシロップ3%の乳児への投与の安全性に関する検討(中間報告)」(日本小児科学会雑誌 108巻11号 1438頁:2004年)によると、2004年1月に、タミフルドライシロップ(以後、タミフルDSと記す)の、乳児への投与を控えることの要請があった。
 その後、タミフルDSを投与された乳児737例(A型、又は、B型インフルエンザウイルス感染症患者)に関して、副作用・有害事象の発現状況を、調査し検討した。その結果、タミフルDSとの因果関係が疑われる副作用として、下痢(13例)、嘔吐(5例)、軟便(3例)、低体温(2例)などの症状が見られた。発疹は、737例中4例に認められ、その内、1例は、タミフルDSとの因果関係が否定出来ないと判断された。なお、インフルエンザ感染の経過中に、タミフルDSを投与後、痙攣が見られた(1日後に2例、2日後に1例)が、痙攣は、タミフルドライシロップの副作用とは、見なされていない。
 いずれにせよ、重篤な副作用の報告はない。中間報告には、「インフルエンザ患児乳児に対して、指示された用法・用量によるタミフルドライシロップ3%の投与に関する危険性は高くないと推測されるが、本報告はあくまでも中間報告であり後方視的な調査のデータである。」と、記されている。
 なお、添付文書に、「治療に用いる場合には、抗ウイルス薬の投与がA型又はB型インフルエンザウイルス感染症の全ての患者に対しては必須ではないことを踏まえ、患者の状態を十分観察した上で、本剤の使用の必要性を慎重に検討すること。 」と書かれてあるように、抗インフルエンザウイルス剤は、全ての患者に投与する必要はない。

 リン酸オセルタミビル(Oseltamivir Phosphate)は、プロドラッグであり、代謝により活性体に変換され、活性体となる。リン酸オセルタミビルの活性体は、ヒトA型、及び、B型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ(NA)を、選択的に阻害し、新しく形成されたインフルエンザウイルスが感染細胞から遊離することを阻害し、ウイルスの増殖を抑制する。
 タミフル(リン酸オセルタミビル)は、インフルエンザ様症状が発現してから、2日以内に、投与を開始する。症状が発現してから48時間以後に投与を開始した場合は、有効性が確認されていない。

 インフルエンザウイルスは、飛沫感染して、体内では、8時間後に、約100ケに増殖する。そして、1〜3日間の潜伏期間の後、発熱、独特の咳などの症状で、発症する。DS製剤は、保険では、予防投与が認められていないが、Cap製剤(カプセル製剤)は、下記のような場合には、保険で、予防投与が認められている。インフルエンザの症状を軽くする為には、潜伏期間に、オセルタミビルのカプセル製剤を、予防的に服用するのも、賢明と思われる。
 インフルエンザ感染症を発症している患者の、家族や共同生活者(施設などの同居者)が、下記のような場合には、タミフルのCap製剤(カプセル製剤)を、1日1回、予防投与することが、保険で認められている(7〜10日間)。
 1).高齢者(65歳以上)
 2).慢性呼吸器疾患患者、又は、慢性心疾患患者

 3).代謝性疾患患者(糖尿病など)、
 4).腎機能障害患者、
    治療   予防 
 対象   成人及び体重37.5kg以上の小児   成人及び13歳以上の小児 
 投与法   1回75mg 1日2回   1回75mg 1日1回 
 投与期間   5日間経口投与   7〜10日間経口投与 
 予防投与する場合には、インフルエンザ感染症患者に接触した後、2日以内(48時間以内)に、投与を開始する
 インフルエンザウイルス感染症に対する予防効果は、本剤を、連続して服用している期間のみ持続する。


 治療目的の投与量は、成人には、オセルタミビルとして、1回75mg(1カプセル)を、1日2回、5日間、経口投与する。幼小児には、オセルタミビルとして、1回2mg/kg(ドライシロップ剤として66.7mg/kg)を1日2回、5日間、経口投与する。

 オセルタミビルは、腎臓から排泄される。
 オセルタミビルは、乳汁中に移行するので、授乳婦に投与する場合には、授乳を避けさせる。
 主な副作用は、腹痛21件(6.8%)、下痢17件(5.5%)、嘔気12件(3.9%)が、知られている。
 オセルタミビルは、1回200mg以上を投与すると、嘔気、嘔吐、めまい(浮動性眩暈)が現れる。
 
 オセルタミビル投与後の耐性ウイルスに関しては、耐性ウイルスの出現率は、1.4%とされる(成人及び青年では0.34%、小児では4.5%)。耐性ウイルスは、全てA型インフルエンザウイルスに由来し、B型では出現が認められていない。耐性を獲得したインフルエンザウイルスは、著しく感染性が低下し、感染部位での増殖、伝播力は、極めて低いと考えられている(マウス、及び、フェレットでのデータ)。耐性を獲得したウイルスでは、ノイラミニダーゼ(NA)のアミノ酸変異が認められている。

 注5塩酸アマンタジン(医薬品名:シンメトレルなど)は、A型インフルエンザウイルスにのみ、効果を示す。
 塩酸アマンタジンは、1970年代から、パーキンソン病の治療薬として、用いられていた薬。インフルエンザウイルスは、細胞表面に吸着し、エンドサイトーシスで、細胞内取り込まれ、ウイルスの脂質層の膜上に存在するM2蛋白(M2イオンチャネル)が、活性化される。塩酸アマンタジンは、膜蛋白のM2蛋白を阻害し、ウイルス粒子が細胞核内へ輸送されることを(ウイルス粒子内のリポ核蛋白複合体の細胞内への放出を)、阻害し、抗ウイルス活性を示す。塩酸アマンタジンは、A型インフルエンザウイルスだけが持つM2蛋白に作用するので、A型インフルエンザウイルスにのみ、効果を示し、B型インフルエンザウイルスには、効果を示さない。塩酸アマンタジンを投与された患者の、約30%で、耐性A型インフルエンザウイルスの出現が見られたと言う報告もある。また、塩酸アマンタジンにより出現した耐性ウイルスは、人から人への感染があるとされる。その為、塩酸アマンタジン(シンメトレル)の添付文書には、「発症後は可能な限り速やかに投与を開始すること(発症後48時間以降に開始しても十分な効果が得られないとされている)。また、耐性ウイルスの発現を防ぐため、必要最小限の期間(最長でも1週間)の投与にとどめること。」と、記されている。
 塩酸アマンタジンの添付文書の「小児等への投与」の項には、「低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していない。」と記されている。ウイルス粒子内のリボ核蛋白質複合体(RNP)
 塩酸アマンタジンは、催奇性が疑われる為、妊婦、又は、妊娠している可能性のある女性への投与は、禁忌となっている。塩酸アマンタジンは、動物実験の結果から、胎児奇形と胎児毒性があるので、妊婦へ投与してはならない(禁忌)。また、塩酸アマンタジン(シンメトレル)の添付文書には、「本剤は、医師が特に必要と判断した場合にのみ投与すること」と明記されており、総てのインフルエンザ患者に、投与するべきでない。

 注6:細菌の混合感染が、インフルエンザウイルスを活性化させる機序としては、下記のような機序が考えられている。
 ・上気道の正常菌叢でもある、黄色ブドウ球菌から産生されるアルギニン特異的セリンプロテアーゼにより、HAが解裂活性化される。
 ・ブドウ球菌や連鎖球菌により、プラスミノーゲン活性化物質が産生され、血清や組織のプラスミノーゲンがプラスミンに変換され、プラスミン感受性のHAを持つウイルス株が活性化される。
 ・宿主の気道で、細菌の内毒素や、様々な生理活性物質により、ウイルスを活性化させる作用のあるプロテアーゼ(トリプターゼ・クララ、カリクレイン、トロンビンなど)の分泌が、促進する。逆に、プロテアーゼを阻害する物質(サーファクタント)の分泌が低下する。このようにして、インフルエンザウイルスの活性化が、促進される。
 ・口腔内や咽頭に存在する細菌(黄色ブドウ球菌、緑膿菌、インフルエンザ菌、セラチア菌、肺炎球菌など)は、トリプシン型プロテアーゼを産生し、インフルエンザのHAの解裂(開裂)を促進させる。
 ・口腔内細菌や咽頭細菌は、プロテアーゼやノイラミニダーゼを産生し、歯周や咽頭の粘膜を覆っている粘液層を破壊し、上気道粘膜細胞が有しているウイルス受容体(インフルエンザウイルスなどのウイルスに対するレセプター)を露出させ、ウイルス粒子の粘膜細胞への吸着(宿主への感染)を高める。

 嗽(うがい)や、歯磨きも、口腔内のプロテアーゼを産生する菌(歯周病菌など)を減少させ、インフルエンザウイルスの活性化を阻止し、インフルエンザウイルスの感染を予防する効果があると言う。

 注7:学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令が、2012年(平成24年)4月1日に施行された。その改正の概要は、
 ・児童生徒の定期健康診断における結核の有無の検査方法に関して、教育委員会に設置された結核対策委員会からの意見を聞かずに、精密検査を行うことが出来る(「学校における結核検診に関する検討会報告書」4のCのとおり)。
 ・髄膜炎菌性髄膜炎が、学校において予防すべき感染症の第2種感染症(飛沫感染し学校で流行する可能性が高い感染症)に追加された。髄膜炎菌性髄膜炎(髄膜炎菌感染症)の出席停止期間の基準は、「症状により学校医等において感染のおそれがないと認めるまで」、とされた。
 ・インフルエンザの出席停止期間の基準は、発症した後5日間を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで、とされた。
 ・百日咳の出席停止期間の基準は、特有の咳が消失するまで又は5日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで、とされた。
 ・流行性耳下腺炎の出席停止期間の基準は、耳下腺、額下腺又は舌下腺の腫脹が発現した後5日間を経過し、かつ、全身状態が良好になるまで、とされた。
 ・用語の整理等が行われた。

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