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 A群溶血性連鎖球菌が産生する毒素

 A群溶血性連鎖球菌は、細胞壁にC多糖体やM蛋白など抗原性の高い物質を含んでいたり、種々の病原性を有する菌体外物質(毒素)を、産生したりする。

 発熱毒素(発赤毒素)A、B、Cは、猩紅熱の発疹を来たす。発熱毒素(発赤毒素)A、B、Cは、スーパー抗原として働き、劇症型溶血性連鎖球菌感染症を引き起こすと言われる。

 A群β溶血性連鎖球菌Streptococcus pyogenes)の細胞壁の莢膜は、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)が結合したヒアルロン酸(HA)から構成されていて、LTA(リポタイコ酸)、MDP(ムラミルジペプチド)、など免疫賦活作用のある物質を含んでいる。
 細胞壁外側には、M蛋白、T蛋白、R蛋白が存在する。M蛋白やT蛋白は、A群溶連菌の型別分類に用いられる。

 溶連菌は、感染した動物により、細胞壁を失い、細胞膜が表面に出たL型菌(L-form bacteria)に変化することが知られている。

 A.細胞壁の抗原(surface antigens)
 A群β溶血性連鎖球菌は、細胞表面の細胞壁に、様々な病原因子(抗原)となる物質を含んでいる。
 最外層の硬い莢膜は、ヒアルロン酸(HA)やM蛋白などから構成されている。
 M蛋白、ヒアルロン酸を構成するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、C多糖体、ペプチドグリカンは、哺乳類の筋肉や結合組織に類似した抗原決定基(共通抗原)を有している。その為、溶連菌に感染した後、糸球体腎炎やリウマチ熱などの自己免疫疾患を発症するおそれがある。
 1).M蛋白(M-protein)
 M蛋白(M-蛋白)は、A群溶血性連鎖球菌の細胞壁外側(莢膜)に存在する菌体表層抗原。M蛋白の抗原性の相違から、A群溶血性連鎖球菌は、60種類以上(100種類以上)に、型分類される。
 溶連菌は、M蛋白を用いて、組織の宿主細胞に付着する。溶連菌は、M蛋白により、補体のオプソニン作用を阻害し、白血球による貪食作用を、阻害する。M蛋白の先端は、強い酸性荷電(陰性荷電:negative charge)を有していて、溶連菌は、白血球による貪食から逃れる
 M蛋白は、ヒト組織(心筋組織)と、共通抗原性を有している(ヒト心筋組織には、A群溶連菌のM蛋白と、免疫的抗原性が似た構造の蛋白が存在する)。M蛋白は、(心筋組織の)トロポミオシンと類似した(homology)構造を有している。M蛋白は、(心筋菌鞘の)ミオシンのheavy chainと類似した構造を有している(M蛋白は、ミオシンのheavy chainと、交叉反応する抗原を有している)。クラスI M蛋白分子(M蛋白が細胞表面に突出している)を有する溶連菌が、リウマチ熱を発症させ易い。
 M蛋白に対する抗体は、型特異的感染防御抗体(オプソニン抗体)を産生させる。
 M蛋白に対する抗体は、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN:PSGN)や、リウマチ熱の発症に関与する。
 M蛋白が異なる溶連菌(型が異なる溶連菌)に感染すると、溶連菌に再感染することがある。
 M蛋白は、フィブリノーゲン(D-フラグメント)と、高い親和性で、結合する。M蛋白を有する溶連菌は、ヒト血清アルブミンと結合し、白血球による貪食が促進されるが、M蛋白によりフィブリノーゲンと結合した溶連菌は、アルブミンにより、貪食が促進されなくなる。
 M蛋白は、耐熱性、易消化性:M蛋白を細胞壁から離す為には、酸処理(pH2.0)と加熱を要する。M蛋白は、消化酵素(トリプシン)により、良く消化される。
 M蛋白は、血小板凝集や白血球凝集を引き起こし、出血性の肺梗塞を引き起こす。
 M蛋白は、型特異性物質であり、同じ型のM蛋白を有する溶連菌には、再感染しない。
 伝染性膿痂疹(impetigo)の流行は、M蛋白が、2型、49型、53型、55型、56型、57型、60型の溶連菌によることが多い。
 M蛋白が、12型、1型、4型、49型のA群溶連菌は、皮膚親和性が高く(膿痂疹を起こす)、同時に、腎炎をしばしば発症させる(起腎炎株)。M蛋白が、3型、6型、25型のA群溶連菌も、腎炎をしばしば発症させる起腎炎株。
 M蛋白が、1型、3型、5型、6型、(14型、)18型、(19型、24型)の溶連菌は、リウマチ熱の発症と関連がある。特に、ムコイドが豊富(very mucoid strains)な、M蛋白が18型の溶連菌は、リウマチ熱を発症させ易い(ムコイドコロニーを形成する)。このM蛋白は、心臓のミオシンや筋細胞膜蛋白と、共通抗原を有する(類似したエピトープを有する)。溶連菌感染症が、咽頭以外の部位(皮膚など)に起こった場合には、リウマチ熱は、発症しない。溶連菌が原因の伝染性膿痂疹(impetigo)の後に、リウマチ熱が発症することはない。

 2).リポタイコ酸(lipo-teicoic acid:LTA)
 リポタイコ酸(LTA)は、polyglycerophosphate(PGL)-glycerolipid。
 リポタイコ酸(LTA)は、A群溶血性連鎖球菌の表層から細胞膜に存在するfimbriaeと連結(associate)している。
 リポタイコ酸(LTA)は、A群溶連菌が、宿主の皮膚や粘膜などの上皮細胞に、付着するのに、必要。
 溶連菌は、リポタイコ酸を用いて、宿主の組織のフィブロネクチンと結合し、組織へ定着する。
 リポタイコ酸やMDP(ムラミルジペプチド)は、免疫賦活作用がある。
 A群溶連菌のリポタイコ酸(LTA)は、補体第2経路を、直接的に活性化させる。A群溶連菌のペプチドグリカンも、補体第2経路を、活性化させる。

 3).ヒアルロン酸(hyaluronic acid)
 溶連菌の最外層の莢膜は、多糖体であるヒアルロン酸(HA:hyaluronic acid:hyaluronate)から構成されている。
 ヒアルロン酸は、グルクロン酸(glucuronic acid:GlcUA)と、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)とが結合した、GlcUA-GlcNAcの基本構造(繰り返し単位)から、構成されている(グリコサミノグリカンの1種)。
 溶連菌は、莢膜のヒアルロン酸(HA)により、白血球の貪食から逃れる。溶連菌の細胞壁の莢膜のヒアルロン酸は、ヒアルロニダーゼにより分解され、消失して行く。
 細胞膜のC-多糖体(C-ポリサッカライド)は、A群溶血性連鎖球菌の群特異性を決定している。C-多糖体のrhamnose side chain末端のN-acetylglucosamine(GlcNAc)残基が、抗原決定基として働く。

 4).C多糖体(C-carbohydrate:CHO)
 A群溶連菌のC多糖体(A-CHO:Lancefield carbohydrate C)は、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc:30%)と、ラムノース(rhamnose:60%)とから構成されている。
 C多糖体は、ムコペプチド(ペプチドグリカン)と結合し、細胞壁を構成している。
 C多糖体は、細胞壁の重量の30〜50%、菌全体の重量の10%を占めている。
 C多糖体は、強い抗原性を有している(ハプテンとして作用する)。
 精製したC多糖体は、毒性は少ないが、生体に投与すると(in vivo)、長期間、肝臓に集積して、残存する。
 C多糖体は、1933年、Lancefieldにより、C物質(C-substance)と命名され、連鎖球菌は、血清沈降反応を利用して、A、B、C、D、Eの5群に、分類された。A群溶連菌の「A群」は、C多糖体の相違からの分類。ヒトの感染症から分離される連鎖球菌は、殆どが、A群連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)。
 A群溶血性連鎖球菌は、ヒツジ赤血球加血液寒天培地で培養すると、完全溶血(β溶血)を示す。A群連鎖球菌の中には、β溶血を示さない菌も存在する。β溶血を示す連鎖球菌は、主に、A群溶連菌だが、一部のC群やD群の連鎖球菌にも、β溶血を示す。
 A群溶連菌が産生するC多糖体(A-CHO)は、心臓の弁膜(心弁膜)の糖蛋白のアミノ酸配列(glycopeptide)と、共通抗原性がある。
 ストレプトポリサッカライド(連鎖球菌多糖体:streptopolysaccaride:SP)は、A群溶連菌の細胞壁に含まれている(C多糖体)。
 抗連鎖球菌多糖体抗体(ASP:anti-strepto-polysaccharide)は、リウマチ性心炎や、急性糸球体腎炎(PSAGN)で陽性になることが多い。

 5).ペプチドグリカン(peptideglycan)
 ペプチドグリカン(PGL)は、N-acetylglucosamine(GlcNAc)と、N-acetylmuramic acid(MurNAc)がβ1-4結合した構造に、peptideがcross-bridgeしている。
 ムコペプチド(ペプチドグリカン)は、動物に投与すると、発熱を起こしたり(発熱因子)、肉芽腫を形成させる。ムコペプチドは、貪食細胞、血小板、培養細胞に対して、細胞毒として、作用する(in vitro)。
 ペプチドグリカンは、菌体表層の最内層(細胞膜近く)に存在する。
 ペプチドグリカン(PG)は、アジュバント関節炎、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)など、自己免疫疾患を惹起(誘導)する。
 A群溶連菌のC多糖体(A-CHO)とペプチドグリカン(PG)との複合体を、ラット腹腔内に1回投与(注射)すると、多発性関節炎が、惹起される。
 ペプチドグリカン(PG)を、ラットに、繰り返して静脈注射すると、(慢性)関節リウマチ(RA)に類似した(多発性)関節炎が、惹起される。

 6).T蛋白(T-protein)
 T蛋白は、易熱性(耐熱性でない)、難消化性である。
 T蛋白は、M蛋白と同様に、細胞壁に存在する。T蛋白は、菌体表層に存在する。
 T蛋白には、約50種類の型が存在する。

 7).R蛋白(R-protein)
 R蛋白は、菌体表層に存在する。

 B.溶連菌が菌体外に産生する毒素や酵素(菌体外産生物:extracellular products)
 A群溶連菌は、発赤毒素、溶血素(溶血毒素)、ストレプトキナーゼ、核酸分解酵素など、種々の活性蛋白物質を産生して細胞外に分泌し、種々の症状を起こすと考えられている。
 A群溶連菌は、発赤毒素(発熱外毒素:SPE)を産生し、発熱や、猩紅熱型の発疹などを来たす。
 溶連菌は、ストレプトリジン、ストレプトキナーゼ、核酸分解酵素(DNaseB)、ヒアルロニダーゼを産生し、これらの酵素により、感染組織を障害・分解し、増殖する。

 a).発赤毒素(erythrogenic toxin:ET)
 猩紅熱様の発疹を来たす毒素。
 Dick毒素(Dick toxin)、猩紅熱毒素、発赤毒とも呼ばれた。
 発赤毒素(Erythrogenic toxin)は、A群溶連菌以外に、C群、G群の多くの菌株も先生する。
 発赤毒素(Erythrogenic toxin)は、近年は、SPE(streptococcal pyrogenic exotoxins:連鎖球菌発熱外毒素) と呼ばれる。SPE A、SPE B、SPE Cは、スーパー抗原として、Tリンパ球を活性化させる作用を有している。
 川崎病でも、溶連菌感染症のように、急性期に、発疹や苺舌(イチゴ舌)が現れるが、抗生剤(ペニシリンなど)は、無効で、回復期に、血液中のASO値やASK値が上昇しない。しかし、川崎病でも、溶連菌が産生する外毒素である、SpeA(streptococcal pyrogenic exotoxin A)や、SpeC(streptococcal pyrogenic exotoxin B)に対する抗体が、上昇する。

 b).ストレプトリジン(streptolysin)
 ストレプトリジンは、溶血素とも呼ばれ、ストレプトリジンO(酵素に安定)と、ストレプトリジンL(酵素に不安定)の2種類が、存在する。
 ストレプトリジンOは、溶連菌によって産生され、菌外に遊離される(菌体外毒素)。
 ストレプトリジンOは、赤血球を溶血させ、白血球、血小板、心筋に毒性を示す。
 ストレプトリジンO(SLO)の心毒性などの細胞毒作用は、コレステロールで抑制されることから、ストレプトリジンOは、コレステロールを有する原形質膜を、障害すると考えられた。
 溶連菌に感染した後(抗生剤で十分に治療しなかった場合)、ストレプトリジンOに対する抗体ASO(anti-streptolysin O:ASLO)が、血清中に上昇する。
 ストレプトリジンOは、A群溶連菌以外に、C群溶連菌、G群溶連菌によっても産生される。
 丹毒に罹患すると、既存の腫瘍が、縮小する。これは、溶連菌が産生するストレプトリジンS(SLS)の作用と言われる。

 c).ストレプトキナーゼ(streptokinase、fibrinolysin)
 ストレプトキナーゼは、血液凝固線溶系で、プラスミノーゲンをプラスミンに変換し、フィブリン(線維素)を溶解する。
 ストレプトキナーゼは、溶連菌が、組織中に広がる為の拡散因子。ストレプトキナーゼは、核蛋白を分解し、膿の粘稠度を低下させる。
 ストレプトキナーゼ(streptokinase)は、フィブリノリジン(fibrinolysin)とも呼ばれた。
 溶連菌に感染した後(抗生剤で十分に治療しなかった場合)、ストレプトキナーゼに対する抗体ASK(anti-streptokinase)が、血清中に上昇する。
 ストレプトキナーゼは、殆どのA群溶連菌が、産生している。
 ストレプトキナーゼ(streptokinase)は、A群溶連菌以外に、C群溶連菌やG群溶連菌も産生する。

 d).核酸分解酵素(streptodornase、deoxyribnuclease:DNAase)
 溶連菌に対して、生体は、免疫応答し、白血球(好中球など)が浸潤し、膿汁が形成されるが、核酸分解酵素は、膿汁の粘稠性を低下させ、溶連菌が、組織中に広がる為の拡散因子。
 核酸分解酵素は、A群以外の連鎖球菌によっても、産生される。
 核酸分解酵素は、A、B、C、Dの分画が存在する。B分画は、A群溶連菌に特有に含まれていて、溶連菌に感染した後、B分画に対する抗体(ADNaseB:ADN-B)が、陽性になる。

 e).ヒアルロニダーゼ(hyaluronidase) 
 A群溶連菌は、ヒアルロニダーゼを産生する。ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸(HA)を分解する酵素。
 ヒアルロニダーゼは、溶連菌が、組織中に広がる為の拡散因子:溶連菌は、宿主(ヒト)の組織に含まれるヒアルロン酸を、ヒアルロニダーゼにより分解し、組織に浸潤する。
 A-4株、A-22株などは、多量にヒアルロニダーゼを産生する為、莢膜が形成されない。
 抗ヒアルロニダーゼ抗体(antihyaluronidase antibody:AHD)は、A群溶連菌が皮膚感染した場合にも、血液中に、上昇する。
 抗ヒアルロニダーゼ抗体(AHD)は、起腎炎型のA群溶連菌に感染した場合、上昇することが多い。

 f).ニコチンアミドアデニンジヌクレオシダーゼ(nicotinamide adenine dinucleosidase:NADase) 
 溶連菌は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオシダーゼ(nicotinamide adenine dinucleosidase:NADase)を産生する。
 NADaseは、diphosphopyridine nucleotidase(DPNase)とも呼ばれた。
 NADaseは、白血球に対して、毒性を示す(leukotoxic)。
 NADase(DPNase)は、A群溶連菌の大部分が産生する。NADase(DPNase)は、A群溶連菌以外に、C群やG群の溶連菌も産生する。
 溶連菌感染後には、抗NADase抗体(ANADase)が、血液中に、上昇する。
 ストレプトザイムテストは、A群溶連菌が菌体外に産生する毒素(菌体外抗原)である、ストレプトリジン、ストレプトキナーゼ、核酸分解酵素(DNaseB)、ヒアルロニダーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオシダーゼ(NADase)の5種類を、ホルマリン処理ヒツジ赤血球(SRBC)に吸着させ、これらのA群溶連菌が産生する毒素に対する抗体が、血清中にあるか、検査するキット。

 C.劇症型溶血性連鎖球菌感染症
 劇症型溶血性連鎖球菌感染症の初発症状としては、発熱(高熱)、筋肉痛、消化器症状(腹痛、嘔吐、下痢など)が見られる。

 劇症型溶血性連鎖球菌感染症は、四肢の軟部組織の壊死性炎症(壊死性筋膜炎、蜂窩織炎など)で発症し、急激に、ショック症状や、多臓器不全に陥り、死亡率が高い、重篤な疾患。
 劇症型溶血性連鎖球菌感染症は、A群溶血性連鎖球菌(A群溶連菌)でも、菌のT型が、T1や、T3の株によって、引き起こされることが多い。劇症型溶血性連鎖球菌感染症は、菌の産生する発赤性毒素型が、B+C型や、B型、A+B型によって、引き起こされることが多い。

 劇症型溶血性連鎖球菌感染症は、成人や高齢者に多く発症する。
 劇症型溶血性連鎖球菌感染症は、A群溶血性連鎖球菌(A群溶連菌)による咽頭炎や、外傷などの後に、突然、発症する。
 劇症型溶血性連鎖球菌感染症では、上気道(咽頭や扁桃腺)、あるいは、創傷部のA群溶連菌感染巣から感染する。潜伏期間は、1〜7日間。
 劇症型溶血性連鎖球菌感染症は、上気道(咽頭や扁桃腺)に、A群溶連菌が存在する期間は、他のヒト(医療従事者者など)に感染するおそれが考えられるが、実際に、発病者から感染した事例は、日本ではないと言われる(厳重な隔離は、必要としない)。

 劇症型溶血性連鎖球菌感染症の初発症状としては、発熱(高熱)、咽頭痛、筋痛(筋肉痛)、消化管症状(腹痛、嘔吐、下痢、食欲不振など)が見られる。
 劇症型溶血性連鎖球菌感染症は、突然の発熱(高熱)で発症し、急速(24時間以内)に敗血症性ショック状態(血圧低下など)に陥る。多臓器不全(肝不全、腎不全、DICなど)を合併する。

 劇症型溶血性連鎖球菌感染症の皮膚病変としては、四肢などの軟部組織に、発赤、腫脹、水疱形成、壊死が見られる。
 劇症型溶血性連鎖球菌感染症では、四肢などの皮膚が、赤紫色に変化し、時に、水疱形成や、表皮剥離が見られる。また、四肢などの軟部組織に、壊死性筋膜炎、筋炎、蜂窩織炎を来たす。
 劇症型溶血性連鎖球菌感染症は、A群溶連菌感染による軟部組織炎(丹毒)と、鑑別を要する。

 劇症型溶血性連鎖球菌感染症では、血液検査では、CRP値が高値を示し、CPK値(CK値)が上昇する(筋肉破壊を反映している)。

 感染症法に基づく医師の届出基準では、A群溶血性連鎖球菌咽頭炎は、感染症五類感染症なので、指定届出機関の管理者は、週単位で、届出する必要がある。劇症型溶血性連鎖球菌感染症(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)は、診断した医師は、法第12条第1項の規定により、7日以内に届出する必要がある(病原体診断の検査材料は、血液、壊死軟部組織)。

 D.リウマチ熱
 リウマチ熱の発症には、A群溶連菌が関与している。
 A群溶連菌でも、M蛋白が、3型、5型、14型、18型、24型の菌株は、リウマチ熱を発症させる。
 A群溶連菌感染症(扁桃腺炎や猩紅熱)の患者は、無治療だと、3%の症例は、リウマチ熱を発症する。 

 リウマチ熱は、発症2〜3週前に、先行するA群溶連菌の感染と思われる上気道感染症(扁桃腺炎)が約半数の症例に、認められる。

 リウマチ熱では、主症状として、多発性・移動性関節炎、環状紅斑、心炎(心内膜炎、心筋炎、心膜炎)、皮下結節、舞踏病が現れる。副症状として、発熱、関節痛、赤沈値亢進、CRP陽性、心電図PR時間延長が見られる。
 Jonesの基準(1992)では、先行するA群溶連菌の感染が、血液中関連抗体(ASOなど)が高値か上昇、あるいは、咽頭培養陽性か迅速診断陽性で、証明され、主症状2項目以上、または、主症状1項目+副症状2項目以上あれば、リウマチ熱と診断される。リウマチ熱患者では、発症時に、咽頭培養でのA群溶連菌が検出されるのは、30%程度の症例と言われる(リウマチ熱で、ペニシリンを内服させていても、持続的に溶連菌が咽頭培養で検出され、扁桃腺摘出を行ったら、リウマチ熱も治った女児がいた)。

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