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 単純ヘルペス

 単純ヘルペスウイルス(HSV)は、単純ヘルペスウイルス(HSV)は、初感染後、終生潜伏感染していて、ウイルスが排泄される。
 単純ヘルペスウイルス(HSV)は、ヘルペス脳炎(単純ヘルペス脳炎)を来たすこともある。

 1.単純ヘルペスウイルス
 単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex virus:HSV)は、DNAウイルス。
 単純ヘルペスウイルス(HSV)には、HSV-1とHSV-2とが存在する。主に、HSV-1は、口唇型でnon-genital感染(唾液で感染:直接接触、又は、飛沫感染)し、HSV-2は、性器型でgenital感染(性行為で感染)する。

 HSV-1は、小児期、特に、乳幼児時期に初感染を受ける。HSV-1の初感染は、不顕性(無症状)のことが多いが、ヘルペス性歯肉口内炎として、発熱、歯肉口内炎などの症状で、顕性発症することもある。
 HSV-1の初感染は、母親からの移行抗体が消失する生後4〜6カ月から、3〜4歳頃までの期間に起こる。
 HSV-1の初感染時に、ほとんどの小児は、不顕性感染で終わり、一部(10%以下)の小児は、顕性感染(主にヘルペス性歯肉口内炎)を来たす。

 日本人は、約70%の人が、10歳までに、単純ヘルペスウイルス(HSV)に、初感染する。感染経路は、幼児の場合、両親(特に、母親)や兄弟からの家族内感染が多いと言われる。
 成人では、50〜100%の人が、HSV-1抗体陽性と言われる(HSV-1が体内に、終生潜伏感染している)。
 日本でのHSV-1抗体陽性率は、5歳以下25%、10歳代後半38%、20歳代53%、30歳代63%、40歳以上94%と言う報告もある。
 HSV-1抗体陽性率は、4〜20歳にかけて、急激に上昇し、20歳以上では、60〜90%の人が、HSV-1抗体を保有する(HSV-1の初感染を済んでいる)。HSV-2の抗体は、12歳以下の児は、陰性の場合が多く、HSV-2の抗体保有率は、成年期でも20%程度と言う報告もある。

 単純ヘルペスウイルス(HSV)は、新生児に感染すると、(移行抗体が存在しないと、)ウイルスが全身に広がり、致死的になることがある(全身型新生児ヘルペス)。
 単純ヘルペスウイルス(HSV)は、母親からの移行抗体が存在する乳幼児には感染しない(感染しても発症しない)が、移行抗体が消失する生後9カ月以降の児には、感染し、主に、ヘルペス性歯肉口内炎として、発症する。

 単純ヘルペスウイルス(HSV)は、初感染後、他のヘルペス系のウイルス(水痘帯状ヘルペスウイルスなど)と同様に、体内(神経節)に終生潜伏感染し、体力(免疫力)が低下した時など、口唇ヘルペス、アフタ性口内炎などとして、再発する。
溶連菌感染症時の口唇ヘルペス(苺舌も見られる)
 水痘は、水痘帯状ヘルペスウイルス(VZV)により、引き起こされるが、単純ヘルペスウイルス(HSV)によっても、水痘様の発疹が現れることがある(カポジ型水痘様発疹症)。
 帯状疱疹は、潜伏感染していた水痘帯状ヘルペスウイルス(VZV)により、引き起こされるが、単純ヘルペスウイルス(HSV)によっても、帯状疱疹のような発疹が、現れることがある(特に、東南アジアから移住している人から、HSVに感染した場合)。
 HSV-1による帯状疱疹様の発疹
 単純ヘルペスウイルス(HSV)は、初感染後、終生潜伏感染していて、ウイルスが排泄されるおそれがある。健康人でも、口腔から、小児では1%の人が、成人では0.75〜5%の人が、ウイルスを排泄している。

 2.ヘルペス性歯肉口内炎
 単純ヘルペスの初感染は、大部分(>90%)が不顕性に終わるが、発熱した後、歯肉炎や、アフタ性口内炎を来たすことがある(ヘルペス性歯肉口内炎)。
 ヘルペス性歯肉口内炎は、2〜3歳の小児(生後9カ月以降の乳幼児)に、多く見られる。ヘルペス性歯肉口内炎は、5歳以下の小児に多く、特に、1歳児に多く見られる(40%のヘルペス性歯肉口内炎の症例は1歳児)。
 ヘルペス性歯肉口内炎の多くは、HSV-1が原因。

 単純ヘルペスの初感染は、ヘルペス性歯肉口内炎(ヘルペス性歯齦口内炎)を起こし、歯肉(歯齦:しぎん)が腫脹し、下のスライド写真のように、咽頭や咽頭後壁等にアフタが出現することがある。

咽頭後壁のリンパ濾胞にも、白黄色の水疱が見られる
 歯肉が発赤・腫脹する前の病初期に、まず、咽頭後壁や側索の顆粒(リンパ濾胞)が発赤・腫脹し、顆粒の表面に、境界明瞭な、類円形の白黄色の小水疱(直径0.5〜2mm)が、数〜数十個、現れる。
 このような顆粒表面の白黄色の小水疱は、発病2日以内(発熱2日以内)に、79.7%の症例で、咽頭後壁や側索に、見られると言う(2歳以上の症例では、85〜90%の症例で、発病2日以内に見られる)。顆粒表面の白黄色の小水疱は、1〜2日程で消失し、歯肉腫脹が顕著な時期には、消退していて、認められないこともある。
 
成人例(子供さんから移された)
 病初期に、顆粒(リンパ濾胞)以外に、口蓋舌弓の口蓋移行部にも、小水疱や、小潰瘍が見られることがある。ヘルパンギーナでも、口蓋移行部に、小水疱等が見られることがあるが、ヘルペス性歯肉口内炎の場合、下の写真のように、かなり、大きな潰瘍になることがある。ヘルパンギーナの場合、まず、赤い小さい点状の隆起が現れ、その隆起が、小水疱化する。ヘルパンギーナは、コクサッキーウイルス(Coxsackievirus B3など)が原因で発症する。ヘルパンギーナでは、滲出性扁桃腺炎や、咽頭後壁の顆粒(リンパ濾胞)の腫脹が見られることがあるが、顆粒(リンパ濾胞)に、アフタ(潰瘍)は認められず、頚部リンパ節の腫脹や歯肉炎も現れない。
 病初期に、扁桃腺は、発赤・腫脹し、白色の膿栓(膿状の分泌物)が付着し、滲出性扁桃腺炎の所見を呈することがある。
 咽頭後壁のアフタ(潰瘍)や、扁桃腺の滲出物(膿)は、スワブすると、黄赤色で、臭い匂いがする(細菌の混合感染がある)。ヘルペス性歯肉口内炎では、ヘルパンギーナとは異なり、頚部リンパ節腫脹、歯肉腫脹、口周囲の水疱性発疹が現れる。
 表1 滲出性扁桃腺炎を来たす疾患の鑑別
 疾患名  原因ウイルス  扁桃腺の滲出物  咽頭後壁のリンパ濾胞  口内炎  歯肉炎  頚部リンパ
 節腫脹
 形状  色  増殖  潰瘍形成
 ヘルペス性歯肉口内炎  単純ヘルペスウイルス  膜  白〜白黄  ++  ++  +  +  ++
 ヘルパンギーナ  コクサッキーウイルス  点、膜  白色  +〜−  −  +  −  −
 咽頭結膜熱  アデノウイルス  膜(厚)  白  +++  −〜+  −  −  +
 伝染性単核球症  EBウイルス  膜、線  白  +〜−  −  −  −  +++
 猩紅熱  A群β溶血性連鎖球菌  微慢性、線  黄白〜白  −〜+  −  −  −  ++
 ヘルペス性歯肉口内炎では、発熱して、歯肉が腫脹する前の病期に、頚部リンパ節の腫脹が見られることがある。

 次いで、ヘルペス性歯肉口内炎では、歯肉(歯齦)が、歯の周囲を中心に、鮮紅色〜黒赤色に腫脹する。そして、疼痛が酷く、摂食出来なくなることも多い。ヘルペス性歯肉口内炎では、歯肉が、発赤、腫脹し、疼痛があり、時に、出血する(歯肉を突っ突くと、容易に出血する)のが、特徴。
 ヘルペス性歯肉口内炎で、歯肉の腫脹が現れるのは、発熱して3日以上経過してからのことが多い
 舌は、白苔が厚く付着し、後に、舌苔が剥がれる頃、潰瘍(アフタ)が生じることがある。舌の尖端や縁にも、潰瘍(アフタ)が生じることがある。
 口唇は、腫脹して、下の写真のように、ヘルペス性の小水疱が現れる。口唇は、乾燥の為、裂けて、出血したり、糜爛が生じることもある。
 ヘルペス性歯肉口内炎では、次第に、口唇や、周囲の皮膚に水疱が現れ、かたぶさ(痂)が出来る(結痂)。
 時に、単純ヘルペスウイルスに感染して、発熱、顆粒表面の白黄色の小水疱、滲出性扁桃腺炎、頚部リンパ節の腫脹が現れても、歯肉口内炎を呈しないこともある(ヘルペス性咽頭炎)。

 単純ヘルペスの(初)感染で、ヘルペス脳炎を起こす場合は、歯肉炎や口内炎を来たさないことが多い。

 単純ヘルペスウイルスに初感染した後、ヘルペス性歯肉口内炎を発症するまで(発熱するまで)の潜伏期間は、1週間程度(感染してから、発症するまでの日数は、2日から14日以内)。発熱するまでの潜伏期間は、通常3〜8日(3〜12日間)と言われる。
 発熱(弛張熱)や、鼻汁などの症状で始まり、頚部リンパ節が腫脹することも、多い。発熱が3日間程続いた後、歯肉の腫脹が現れ、その後も、発熱が続くことが多い(小児のヘルペス性歯肉口内炎では、6日間以上、発熱が続くことがある)。
 咽頭後壁の顆粒に、黄白色の水疱が見られる。扁桃腺は、表面に、線状〜点状の膿栓が付着し、滲出性扁桃腺炎の所見を呈することが多い。舌は、最初、白く(白苔様に)なることが多く、次第に、水疱(アフタ)が、舌表面に現れ、歯肉が腫脹する。口唇、口角、口周囲の頬や顎にも、水疱が現れる(水疱などの病変は、咽頭後壁から、前方に広がる傾向にある)。
 ヘルペス性歯肉口内炎では、歯肉炎や、口内炎の為、よだれが多くなる(唾液を飲み込めず、口から垂らす)。
 単純ヘルペスウイルス(HSV)に初感染した後、咽頭炎、扁桃腺炎として、発熱するが、ヘルペス性歯肉口内炎を発症するまでに至らないこともある(ヘルペス性歯肉口内炎を発症した兄弟から、HSVを感染させられても、発熱を伴なう咽頭炎、扁桃腺炎で終わることもある)。
 
 ヘルペス性歯肉口内炎では、血液検査では、CRPは、高い値を示さない:CRPは、−〜4.0mg/dl程度。
 ヘルペス性歯肉口内炎に罹患した後、血液中の単純ヘルペスウイルス抗体価が上昇する(陽性になる)には、2週間以上、要する。
 水痘の潜伏期間に、単純ヘルペスウイルスによるヘルペス性歯肉口内炎に罹患すると、水痘の潜伏期間が延びる

 単純ヘルペスウイルスの初感染時には、ヘルペス性歯肉口内炎として、発症する。
 単純ヘルペスウイルス(HSV-1)は、一度、感染すると、三叉神経節に潜伏感染していて、発熱、日光浴、紫外線照射、疲労、精神的ストレス、手術、外傷などによって、体力(免疫力)が低下した際に、ヘルペス性口内炎、口唇ヘルペスとして、再発することがある。
 ヘルペス性口内炎は、成人、小児ともに、HSV-1が原因で起こることが多い。日本では、ヘルペス性口内炎で、HSV-2の検出報告はないと言われたが、欧米では、ヘルペス性口内炎やHSV感染患者の唾液から、HSV-2の検出報告が存在する。

 単純ヘルペスウイルスのHSV-1に、過去に感染し、HSV-1が体内に潜伏感染し、HSV-1に対する抗体を保有していても、他の株のHSV-1に感染して、口内炎などの臨床症状が現れることがある。その場合、後に感染したHSV-1も、体内に、潜伏感染することになる。

 ヘルペス性歯肉口内炎の患児が、口腔内病変や唾液に触れた手で、自分の眼や、性器に触れると、単純ヘルペスウイルス(HSV)を他の組織に自己接種(自己播種)させてしまうので、注意を要する。

 なお、川崎病(MCLS)でも、口唇の糜爛などが、見られる。
 3.ヘルペス脳炎
 単純ヘルペスウイルス(HSV)は、ヘルペス脳炎を来たすことある。
 単純ヘルペスウイルス(HSV)は、側頭葉、鳥葉、眼窩脳の部位(神経細胞)に、親和性を有する。
 ヘルペス脳炎は、発熱、咽頭痛、全身倦怠感が続いた後、髄膜刺激症状(悪心、嘔吐)、痙攣、言語障害などの神経症状が現れる。 
 ヘルペス脳炎の多くは、HSV-1が原因だが、初発症状は、発熱のみで、ヘルペス性歯肉口内炎のように、歯肉炎や、口内炎など、ヘルペスウイルス感染症を示唆する症状が現れないことが多い。
 ヘルペス脳炎は、側頭葉壊死のため、聴力障害や言語障害などの後遺症が残ることが多いと言う。

 ヘルペス脳炎では、CT所見で、急性期に、側頭葉を中心に、脳壊死による低吸収域や、出血による高吸収域を認める。
 私の大学病院で経験した症例では、大学に輸送した病院で撮影したCTでは、脳浮腫の所見だけしか認めなかったが、同じ日の夜、大学病院で再検査したCTでは、両側の側頭葉に、脳壊死による低吸収域や、出血による高吸収域を認めた。
 ヘルペス脳炎では、脳の壊死出血病変の為、脳脊髄液(CSF)中に、ミスタップでないのに、赤血球の混入や、キサントクロミーを認めることがある。
 ヘルペス脳炎で見られる壊死や出血は、単純ヘルペスウイルスが、直接、脳実質を、障害することが、原因と考えられる。
 インフルエンザ脳症として見られる急性壊死性脳症で見られる壊死や出血は、インフルエンザウイルスが、直接、脳実質を、障害することが原因ではなく、血管内皮細胞障害により、血管透過性が亢進し、微小血栓形成微小微小循環障害が起こることが原因と考えられる。

 なお、ヘルペス脳炎の治療には、アシクロビル(ACV)の点滴治療が行われる。アシクロビル(ACV)の添付文書には、通常、アシクロビル(ACV)を、1回体重1kg当たり5mgを1日3回、8時間毎に1時間以上かけて、7日間点滴静注するように、記載されている。しかし、私が大学病院で経験した症例では(この当時は、アシクロビルは、保険適応されておらず、治験の段階だった)、14日間程、アシクロビルを点滴で投与し、一旦、ヘルペス脳炎の症状が改善した(解熱し、意識レベルが改善し、歩行可能となった)が、アシクロビル投与終了後、ヘルペス脳炎の症状が、再燃した。ヘルペス脳炎では、アシクロビル投与は、長めに行うか、暫減しながら投与を中止した方が、良いようである。その為、添付文書には、「なお、脳炎・髄膜炎においては、必要に応じて投与期間の延長もしくは増量ができる。ただし、上限は1回体重1kg当たり10mgまでとする。」と明記されている。
 ヘルペス脳炎は、アシクロビル(ACV)が登場する前の時代には、70%の症例が死亡し、残りの30%の症例は後遺症を残すとされていた。自経例では、治験段階のアシクロビルを点滴投与し、救命し得たが、残念ながら、重篤な後遺症を残してしまった。
 ヘルペス脳炎の教訓
 1.ヘルペス脳炎(単純ヘルペス脳炎)では、長期間の発熱を伴うが、通常の単純ヘルペスウイルス感染症に見られるような、口内炎、歯肉炎、皮膚の水疱などの皮膚病変は、認められないことが多い(発熱が長く続いて、咳などの呼吸器症状がなく、次第に、意識が低下したり、痙攣などを起こす際には、ヘルペス性脳炎を疑う)。
 ヘルペス脳炎では、両側の側頭葉に、低吸収域(壊死による)や、高吸収域(出血による)を認める。
 なお、ヘルペス脳炎では、CRPや白血球数は上昇しない(ウイルス感染なのに、リンパ球より、好中球が増加する)。
 2.ヘルペス脳炎では、意識障害はあるが、細菌性髄膜炎などに比して、項部硬直などの髄膜刺激症状は、軽微なことがある。
 3.ヘルペス脳炎では、脳脊髄液の検査で、髄液に、赤血球が混入していたり、キサントクロミーであることがある(私が経験した症例でも、最初の病院で行った脳のCT検査では、脳浮腫の所見しか見られなかったのに、髄液中に、赤血球が混入して、キサントクロミーであった為、夜間、CTを再検査して、診断が早まった)。なお、髄液中には、リンパ球優位に白血球が増加する(自経例では、髄液中の細胞数は608/3ケで、リンパ球が64%、単球が15%、好中球21%だった。赤血球が、125/3ケ混入していた)。なお、ヘルペス脳炎の年長児の患者では、髄液からHSVがウイルス分離されることは、稀であり、診断には、髄液中や血清中のHSV抗体の上昇などが、用いられた。近年は、髄液をPCR法により検査して、るHSV-DNA(HSV1ゲノム)の検出も行われると言う(注1)。
 4.ヘルペス脳炎(急性壊死性脳症も含めた脳炎)では、CTは、状態が許すなら、頻回に検査した方が良い。
 5.ヘルペス脳炎では、アシクロビル(ACV)投与は、長めに行うか、暫減しながら投与を中止した方が、良い

 点滴静注用のアシクロビル(ACV:医薬品名ゾビラックス)は、pHが約10.5とアルカリ性なので、他の注射剤(補液など)と配合(混合)すると、混合液も、アルカリ性になることが多い。
 例えば、アシクロビル(ゾビラックス)300mgを15mlの注射用蒸留水に溶解し、pH3.5〜6.5のソリタ-T1号や、ソリタ-T2号と混合し、全量を200mlとした場合、混合液のpHは、それぞれ、9.8、9.7になる。
 免疫機能の低下した患者(悪性腫瘍、自己免疫疾患などの患者)が水痘に罹患した場合、重症水痘になるので、早期から静注用ゾビラックスを1回5mg/kg(最高用量10mg/kg/1回)、1日3回、1時間かけて、点滴静注する(7日間)。ゾビラックス点滴静注用250は、1バイアルにアシクロビル250mgを含有している。これを、日局生理食塩液10mL、又は、日局注射用水10mLに溶解し、投与量に相当する量を、1バイアル当たり100mL以上の補液で希釈する(用時調製)。
 保険適応に関しては、ゾビラックス点滴静注は、帯状疱疹には1日3バイアルで5日間、2バイアルで7日間まで認められる。ゾビラックス点滴静注は、カポジ水痘様発疹症や成人水痘にも認められる。単純疱疹(単純ヘルペスウイルス感染症)には認められないが、免疫機能の低下した患者(悪性腫瘍、自己免疫疾患など)に発症した単純疱疹、水痘、帯状疱疹には、ゾビラックス点滴静注は適応がある。

 なお、ヘルペス脳炎のように、脳が障害され、体温調節中枢が正常に機能しないと、感染症に罹患していないのに、体温が上昇し、感染症の発熱なのか、判断に迷うことがある。
 自験例でも、夏場だったこともあり、特に、夕方から夜間にかけて、欝熱により体温が38℃以上に上昇したが、クーリングが、体温の下降に、効果があった。

 4.新生児ヘルペス
 免疫(移行抗体)が存在しない新生児が、単純ヘルペスウイルス(HSV)に感染すると、新生児ヘルペスを発症し、重篤な経過を辿ることがある。
 
 新生児ヘルペスは、ウイルス(HSV)が、全身に急速に広がり、肝臓、副腎など多臓器不全を来たす全身型新生児ヘルペスと、皮膚や中枢神経系に限局する局在型とがある。

 新生児ヘルペスでは、ウイルスは、分娩時に、母親から、経産道感染することが多い。その他、羊水を介した上行感染(出生直後に発症する)や、分娩後の水平感染もある。

 新生児ヘルペスでは、臨床症状として、紅斑を伴なう1〜2mmの水疱が見られるのが特徴。しかし、水疱は、新生児ヘルペスの全例に現れるのでなく、水疱が初発症状として現れるのは、28%の症例に過ぎない:全経過中に、水疱が現れるのは、53%の症例に過ぎない。
 新生児ヘルペスでは、臨床症状として、発熱(61%の症例:低体温の場合もある)、哺乳力低下(32%の症例)、無呼吸(呼吸頻拍の場合もある)、黄疸(肝脾腫が見られる)などが見られる。
 新生児ヘルペスでは、血液検査で、GOT(AST)やGPT(ALT)の上昇などが見られる。

 新生児ヘルペスの発症時期(生後平均日数)は、全身型4.6日、中枢神経型11.0日、皮膚型6.0日。

 5.カポジ水痘様発疹
 乳幼児では、単純ヘルペスウイルスに感染して、水痘様の、紅暈を伴なう小水疱が、顔面から全身に現れることがある(カポジ水痘様発疹)。
 カポジ水痘様発疹(カポジ型水痘様発疹症:Kaposi's varicelliform eruption:KVE)は、アトピー性皮膚炎など、皮膚炎を起こしている小児に多く見られる。
 カポジ水痘様発疹の多くは、HSV-1が原因。
 カポジ水痘様発疹は、皮膚の発疹(小水疱)以外に、発熱を伴なうことがある。また、再発すること(複数回発症すること)がある。
 カポジ水痘様発疹は、黄色ブドウ球菌などの細菌の混合感染による膿痂疹(細菌感染)を合併することもある。膿痂疹を合併すると、水疱が黄色になったり、茶褐色の痂皮が形成されたりして、カポジ水痘様発疹の存在が、見落とされるおそれがある。その場合、カポジ水痘様発疹では、同じ大きさの発疹(小水疱)が多数混在し、細菌性の膿痂疹では、発疹の大きさが、大小異なり、痂皮が多いことが、鑑別点になる。
 単純ヘルペスウイルス抗体価(CF)は、カポジ水痘様発疹に罹患16日後には、X128倍程度に上昇する。

 6.TORCH症候群
 妊娠中の単純ヘルペスウイルス(HSV)による感染(胎内感染)は、トキソプラズマ(To)、風疹ウイルス(R)、サイトメガロウイルス(CMV)と同様に、異常児の生まれるおそれがある(TORCH症候群)。

 TORCH症候群や、トレポネーマ(Syphilis)による先天性梅毒では、新生児に、肝脾腫、肺炎等、様々な症状があらわれる。
 表2 TORCH症候群と梅毒(参考文献の川名氏等の表2と植田氏の表3を改変し引用)
 臨床像  病原微生物
 To  R  CMV  HSV  Syphilis
 トキソプラズマ  風疹ウイルス  サイトメガロウイルス  単純ヘルペスウイルス  トレポネーマ
 肝脾腫  +  +  +  +  +
 黄疸  +  +  +  +  +
 肺炎  +  +  +  +  +
 紫斑  +  +  +  +  +
 水疱  −  −  −  ++  +
 髄膜脳炎  +  +  +  +  +
 脈絡網膜炎  ++  ++  +  +  +
 小頭症  +  −  ++  +  −
 脳内石灰化  ++  −  ++  +  −
 水頭症  ++  +  −  +  −
 難聴  −  +  +  −  +
 白内障  +  ++  −  +  −
 角膜結膜炎  −  −  −  ++  −
 網膜症  ++  ++  +  +  +
 心筋炎  +  +  −  +  −
 心奇形  −  ++  −  −  −
 骨の異常  +  ++  −  −  ++
 皮膚水疱  −  −  −  ++  +
 発疹  +  −  −  +  ++
 7.性器ヘルペス
 単純ヘルペスウイルス(HSV)、特に、HSV-2は、性感染症(STD)として、性行為により感染し、性器ヘルペスを発症する。
 HSV初感染の場合、感染の機会があってから、3〜7日後に、38〜39℃の高熱を伴なって、突如、外陰部に多発性の浅い潰瘍(疼痛を伴なう)が現れる。
 性器ヘルペスでは、HSVが、外陰部以外に、子宮頚管や、膀胱からも、高率に検出される。

 8.その他
 ・ヒトに感染するヘルペスウイルスは、α、β、γの3群(亜科)に分類される。
 HHV-6は神経親和性が高い(神経指向性が強い)ので、初感染時に、マクロファージを介して高率に脳内へ移行し、脳内(主に、前頭葉、海馬)に潜伏感染する。
 HHV-6B(突発性発疹の原因ウイルス)は、HHV-6Aより神経指向性が弱いが、HHV-6脳炎・脳症を起こすことがある。
 表3 ヒトヘルペスウイルスの分類(参考文献の吉成聡氏等の表1を改変し引用)
 亜科  正式名称  俗称  略号  潜伏感染部位
 α-ヘルペスウイルス  ヒトヘルペスウイルス1  単純ヘルペスウイルスI型  HSV-1  三叉神経節
 ヒトヘルペスウイルス2  単純ヘルペスウイルスII型  HSV-2  仙骨神経叢
 ヒトヘルペスウイルス3  水痘帯状疱疹ウイルス  VZV  三叉・脊髄後根神経節
 β-ヘルペスウイルス  ヒトヘルペスウイルス5  ヒトサイトメガロウイルス  HCMV  脊髄myeloid系前駆細胞
 ヒトヘルペスウイルス6A  なし  HHV-6A  髄液中、単核球
 ヒトヘルペスウイルス6B  なし  HHV-6B  マクロファージ、単核球、脳グリア細胞
 ヒトヘルペスウイルス7  なし  HHV-7  末梢単核球
 γ-ヘルペスウイルス  ヒトヘルペスウイルス4  Epstein-Barrウイルス  EBV  B細胞
 ヒトヘルペスウイルス8  Kaposi肉腫関連ヘルペスウイルス  HHV-8  B細胞?
 ・健康な日本人110人から、毎日、2ヶ月間、唾液を採取した結果、5人(4.5%)から、単純ヘルペスウイルスが分離されたと言う報告がある。

 ・単純ヘルペスウイルスは、再発しても、抗体価は変動しないので、再発かどうかの診断は血液検査では解らない。
 抗体価が低下しなくても、局所の細胞性免疫(Tリンパ球、マクロファージ、顆粒球)が低下すれば、再発が起こる。
 病巣部から検体を採取し、蛍光抗体法(標識モノクローナル抗体を使用)で検査すると、1型か2型かどうかも診断出来るが、陽性に出ないこともある。

 ・単純ヘルペスウイルスは、過去に初感染し、潜伏感染していて、免疫(抗体)があっても、他の株の単純ヘルペスウイルスが再感染することがある(2つ以上の株の単純ヘルペスウイルスが潜伏感染することになる)。
 単純ヘルペスウイルスは、1型と2型の両者に、感染することがある。両者が同じ人の体内に潜伏感染するが、主な潜伏感染部位は、1型は三叉神経節、2型は仙髄神経節と言われる。

 ・単純ヘルペスウイルスは、感染者の唾液、精液、膣分泌液中に排泄され、他の人に接触感染する。
 単純ヘルペスウイルスは、タオル、食器などを介しても、感染し得る。

 注1:近年は、ヘルペス脳炎の診断の為に、髄液をPCR法により検査して、るHSV-DNA(HSV1ゲノム)の検出も行われると言う。
 なお、単純ヘルペスウイルス(HSV)は、多くの人々に潜伏感染していて、血中のHSV抗体価が、高いヒトもいて、ヘルペス脳炎でなくても、髄液中のHSV抗体が陽性になることがあると言う。また、脳血管障害の場合や、所謂ミスタップの場合も、血中のHSV抗体が、髄液に流入して、髄液中のHSV抗体が陽性になる(脳血管障害の場合、髄液中のアルブミンも増加する)。従って、髄液中のHSV抗体が陽性と言うだけでは、ヘルペス脳炎と診断する根拠にならないと言われる。
 
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 ・松岡伊津夫、松岡明子:ヘルペス性咽頭炎の存在と同歯肉口内炎の早期アシクロビル静注療法 小児科診療 第50巻・8号、1607-1616、昭和62年.
 ・栗谷豊、他:単純性ヘルペス脳炎の臨床 小児科 Vol.20 No.4、383-395、1979年.
 ・植田浩司:胎内感染症 小児科 Vol.26 No.5、487-494、1985年.
 ・水谷裕迪:ヘルペス脳炎の診断と治療 小児科 Vol.25 No.5、505-510、1985年.
 ・瀧田誠司:口内炎 小児科 Vol.33 No.6、641-645、1992年.
 ・飯田廣夫:単純ヘルペスウイルス、感染症、302-306頁、理工学社(1981年).
 ・吉成聡、浜野晋一郎:総説 HHV-6の中枢神経症状−脳炎・脳症を中心に−、日本小児科学会雑誌、111巻8号、1013〜1026頁、2007年.
 ・佐久間孝久:アトラスさくま(小児咽頭所見 ATLAS SAKUMA)、2005年8月第1版第1刷発行(2006年5月第1版第3刷)、株式会社メディカル情報センター.
 ・新村眞人 監修・編集、宮崎東洋、小澤明 編集:臨床内科医に必要な皮膚科学 ヘルペスウイルス感染症、日本臨床内科医会 企画、日本皮膚科学会 協力、1995年9月30日 第1刷発行、株式会社スタンダード・マッキンタイヤ 制作、日本ウエルカム株式会社 配布.
 ・赤羽太郎、柳沢光彦、小林真二:単純ヘルペス脳炎 小児科診療 第50巻・11号、2272-2276、1987年.

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