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 於血

 【ポイント】
 不適切な食習慣で、血液中に脂質(中性脂肪RLP-Cなど)が増加すると、「血」の流れが滞り、於血になり易い。
 精神的ストレスは、交感神経を刺激し、活性酸素の放出を増加し、細胞膜を障害し、血小板凝集能や血液凝固能を亢進させ、赤血球変形能や赤血球酸素結合能を低下させ、於血状態にさせる。
 於血状態になると、歯肉や舌などの暗赤色化、手掌紅斑(手掌全体が、赤くなる)、眼輪部の色素沈着、臍下周囲などの圧痛、痔疾、月経障害などが見られる。
 「全ての病気は血液が原因」とも言われるが、心の持ち方や、摂取する食事は、血液の穢れ・乱れに影響する。


 於血(おけつ)とは、東洋医学的には、「血」の流れが滞った状態だが、西洋医学的には、血液の、血小板凝集能、血液凝固能、赤血球変形能などが、悪化した状態を指すと思われる(微小循環障害、凝固線溶系の異常)。
 於血では、四肢末梢(手足、口唇、舌など)が欝血し、微小循環障害により、皮膚や口唇などの暗紫色化(暗赤色化)や、手掌紅斑などが見られる。

 於血(お血)の「於」(お)には本来、病だれがついている。
 於血は、「金匱要略」によると、「血が滞っている病態で、スラスラと流通すべき血が、何等かの病態で、つかえて、スムーズに流れなくなった状態」と、定義されると言う。

 於血の状態では、便秘気味、月経痛、痔核痛、しもやけが出来易い、舌や唇や歯茎など粘膜の色が悪い、と言った症状が見られる。

 於血の4大原因としては、以下のような事柄が、考えられる。
 1.食事(食餌):中性脂肪の多い動物性脂肪を含む肉類や乳製品など、血中の中性脂肪を増加させる砂糖など、過酸化脂質を含むインスタント食品など
 2.ストレス(精神的ストレス)
 3.冷え(寒冷刺激)
 4.運動不足
 血のめぐりを悪くする食餌(動物性脂肪、過酸化脂質を含む食餌)や、体を冷やす食餌は、於血の原因となる。
 肉類などの動物性蛋白質を摂取して、動物性脂肪を摂り過ぎると、血液の粘稠度が高くなる。肉料理を食べた後には、眼球結膜(白目)の毛細血管を顕微鏡で観察すると、赤血球や白血球(リンパ球を含む)が、ベタベタと結合した状態が、食後2時間後から認められ、食後6時間後にピークになった後も、食後24時間後まで、続くと言う。

 高脂血症など、血漿に脂質異常があると、細胞膜のリン脂質:コレステロール比も異常を来たし、有棘赤血球(ゆうきょくせっけっきゅう:Acanthocyte)になり、血行(微小循環)が悪くなる。酸化ストレスが多いと、有棘赤血球が増加し、血行が悪くなると言う。
 糖尿病では、赤血球の表面の陰性苛電が減少して、連銭を形成し易くなる過酸化脂質の多い食事を摂ると、食後20分で、赤血球が連銭を形成するという。
 精神的ストレスは、アドレナリンの分泌を増加させ、血小板凝集を促進させる。
 冷え(寒冷刺激)は、血行(微小循環)を悪化させ、血小板の凝集や、血液凝固を促進させたりなどして、於血を悪化させると考えられる。反対に、於血(微小循環障害、凝固線溶系の異常)は、冷え症(四肢末梢の冷え性)の原因となる。

 ストレス、寒冷刺激などにより、交感神経が刺激され、アドレナリンが放出されると、活性酸素が、放出される。そして、活性酸素により、細胞膜が障害を受ける。そうすると、血小板は、凝集し易くなり、白血球は、活性化され癒着(接合)し易くなり(ベタベタ血液)、赤血球は、膜が硬くなり、酸素結合能や変形能が低下する。
 心の持ち方も大切で、平安(pax:パクス)な気持ち、安心立命(あんじんりゅうめい)な境地で過ごせることが、大切と思われる。
 「全ての病気は血液が原因」と言う人もいる。

 於血は、血行(毛細血管の微小循環)を悪化させ、冷え症(冷え性)の原因となると考えられる。於血(微小循環障害、凝固線溶系の異常)が原因の冷え症では、四肢末梢の冷えを感じることが多い(体幹部の冷えは、ほとんどない)。
 排便後に圧痛があれば、於血があり、左側腹部の圧痛は肉食と関係が、右側腹部の圧痛は、果物や体を冷やすものと関係があるらしいと言っている漢方の先生もいる。
 漢方薬で、於血を取る薬は、「駆於血剤」と呼ばれ、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキ・シギャクカ・ゴシュユ・ショウキョウトウ)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、当帰勺薬散(トウキシャクヤクサン)、がある。
 桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン:7.5g)
は、ケイヒ、シャクヤク、トウニン、ブクリョウ、ボタンピ(各3.0g)の混合生薬の乾燥エキス(1.75g)を含有している。桂枝茯苓丸は、婦人科疾患(月経不順、月経困難、不妊症、子宮筋腫、子宮の炎症など)、打撲症、痔核、蕁麻疹、湿疹の治療に用いられる。
 桂枝(ケイシ)は、クスノキ科のCinnamomum cassia Blumeの樹皮や周皮の一部を除いたもの(シナモン)で、桂枝の成分のcinnamic aldehydeは、血小板凝集を納所依存性に抑制する。
 茯苓(ブクリョウ)は、消火器に対する作用が優れているが、抗炎症作用もある。

 於血では、共通して増加する蛋白質が存在する。桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)を、於血の患者に投与すると、この蛋白質が、減少し、症状も改善すると言う。

 レムナント様リポ蛋白コレステロール(RLP-C値)は、於血の原因になる。RLP-Cは、それ自体、粘稠性を有し、血液をドロドロ(ドロドロ血液)にし、血小板凝集を促進させ、血液粘度を亢進させ、血栓形成を促進させる。

 血清RLP-C値は、糖尿病、高脂血症、メタボリック症候群で、高値を示す。
 於血になると、臍下周囲(臍傍)に圧痛や抵抗が見られるが、治療により血清RLP-C値が正常化すると、臍下周囲(臍傍)の圧痛や抵抗は、改善する。
 於血患者の47%は、高RLP-C血症を示す(血清RLP-C値が7.5mg/dl以上)。しかし、治療により、血清RLP-C値が正常化しても、於血状態(於血スコアが陽性)であることがあり、RLP-Cのみが、於血の原因ではない。

 血液が、於血状態になると、不眠、腰痛、肩凝り、頭痛など、多彩な自覚症状が、現れる。
 於血で見られる所見、徴候としては、歯肉や舌や皮膚の暗赤化、眼輪部や顔面の色素沈着、細絡(皮膚に毛細血管が静脈瘤の様に浮いて見える)、手掌紅斑、臍下周囲やS状結腸部の圧痛、痔疾、月経障害などがある。於血で見られる手掌紅斑は、手掌全体が、赤くなることが多い。肝障害(肝硬変など)で見られる手掌紅斑は、手掌の中心部を除いて、辺縁部(母指球と小指球)や指が、赤くなる(紅潮・発赤する)。臍下周囲(臍傍)の圧痛や抵抗は、腸骨静脈の血流の悪化が、原因と考えられる。

 西洋医学には、血液粘稠度と言う言葉がある。
 血液粘稠度とは、血小板凝集能、赤血球凝集能(膜構造、表面荷電、高分子蛋白、浸透圧、pH)、赤血球変形能(酸素欠乏、pH)、白血球変形能、血漿脂質濃度(中性脂肪、コレステロール、RLP-C)、血漿粘度(血漿蛋白、フィブリノゲン、マクログロブリン)、ヘマトクリット(Ht)、ずり速度などにより、規定される。
 血液粘稠度は、血液レオロジー因子(血液の流れやすさを決定する因子)であり、血液粘稠度の亢進は、血小板凝集や血液凝固を促進させ、血栓形成を促進させ、心筋梗塞や脳梗塞の発症と関連する。

 梅干しを加熱すると、含まれていたクエン酸と糖質が結合し、ムメフラールと言う化合物が作られる。
 ムメフラールは、赤血球の変形能を高める。

 アトピー性皮膚炎は、於血により皮膚の真皮の血行が悪く、表皮の基底細胞層の細胞分裂が低下している。
 食養や漢方薬で於血を改善させると、表皮の剥脱や漏出液の排出が見られた後、アトピー性皮膚炎が、完治する症例がある言う。

 於血状態の人は、α交感神経の活動が亢進して、皮膚血流量が低下している(精神的ストレスなどにより交感神経の活動が亢進すると、於血になる)。

 おまけ

 その1:メニエール病とストレス

 メニエール病の発症には、ストレスが関与している。
 メニエール病になる人は、発病前から、ストレスを溜め易い、行動パターンや、性格を有している。
 ・我慢行動:親や上司の期待に沿って、嫌なことでも我慢する。
 ・熱中行動:徹底的にやらないと気が済まない。仕事などに熱中し易い。
 ・発散行動が少ない:我慢行動や熱中行動により、ストレスが溜まり、自分の気持ちを抑制し、発散出来ないので、イライラしたり、怒り易くなる。
 女性の方が、男性より、多い。
 周囲の人が、感謝の言葉をかけたりして、本人の我慢行動や熱中行動を減らし、発散行動(歌唱、親しい友人との会話、ウォーキング、水泳など)を増やしてあげることが、大切。
 メニエール病は、最近は、耳の病気でなく、ストレスが原因の病気と考えられている。

 メニエール病は、内リンパ嚢での内リンパ液の吸収障害による内リンパ液貯留(貯留水腫)と、ストレスによる内リンパ液の産生過剰により、内リンパ水腫が増悪し、めまいや難聴発作が生じると考えられている。
 メニエール病の症状は、心労、不安、過労、不眠などのストレス(精神的ストレスや肉体的ストレス)により、増悪する。
 バゾプレシン(VP)、別名、抗利尿ホルモン(ADH)は、腎臓での水の再吸収を促進させる。下垂体より分泌されたバゾプレシンは、腎臓の集合管(尿管腔側)に存在するバゾプレシン受容体(V2-R)に結合し、水チャネル蛋白であるアクアポリン2(Aquaporin-2)を細胞膜に発現させ、水の再吸収を促進させる。内耳には、バゾプレシン受容体(V2-R)や、アクアポリン2が存在(局在)している。バゾプレシン負荷により、(内リンパ液が増加し、)内リンパ水腫が、形成される。
 メニエール病の患者では、血漿バゾプレシン値(血漿VP値)が、上昇している傾向が認められている。

 その2:漢方薬に用いられる生薬
 桂皮(ケイヒ)は、シナモンの1種のシナニッケイ(Cinnamomum cassia) の樹皮。抗血栓作用(凝固抑制作用)、冷え症改善効果がある。ケイヒ末は、赤褐色〜褐色で、特異な芳香があり、甘味がある。桂皮の主成分は、cinnamldehydeであり、解熱作用、皮膚血管拡張作用、結核菌増殖阻止作用、溶血作用、心臓抑制作用などが知られている。
 芍薬(シャクヤク)は、ペオニフロリンなどの有効成分を含み、鎮痛鎮静、筋弛緩、抗痙攣、血管拡張、抗炎症などの作用がある。
 桃仁(トウニン)は、バラ科の桃や山桃の種子で、消炎性駆於血薬として、血液停滞による下腹部満痛、月経不順、打撲症による鬱血、血行不良による関節痛などに用いられる。
 茯苓(ブクリョウ)は、サルノコシカケ科のマツホド(Poriacocos Wolf)の菌核。利尿作用、抗腫瘍作用、免疫賦活作用、抗炎症作用、血液凝固抑制作用などがある。
 牡丹皮(ボタンピ)は、ボタン科のボタン(Paeonia moutan Sims)の根皮。鎮痛作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用、免疫賦活作用、脂肪分解抑制作用(インスリン様活性)、血小板凝集抑制作用、線溶抑制作用、ACE活性阻害作用などがある。
 表2 糖尿病性神経細胞障害に対する漢方薬の成分の効果(参考文献の石田氏の表4を改変し引用)
 薬理作用  山薬  地黄  沢瀉  茯苓  桂皮  牛膝  甘草  芍薬  生姜  蒼朮  山茱萸  牡丹皮  車前子  修治附子
 血糖降下作用  ◎  ○                ○  ○    ○  ○
 末梢血管拡張作用          ○      ○            ◎
 凝固抑制作用    ○  ○  ○  ○      ○        ○    
 血小板凝集抑制作用              ○          ○    
 脂肪分解抑制作用      ○    ○            ○  ○    
 ARI作用          ○    ◎  ◎            
 鎮痛作用                ◎  ○          ◎
 利尿作用    ○  ○  ○  ○  ○                

 その3:食養とストレス
 
健康の為に、厳格な食事療法をしようとすると、却って、精神的なストレスを増すことがある。
 食養に関して、玄米でなければならないとか、生野菜を食べないといけないとか、朝食を抜かなければならないとか、諸説があるが、理論ばかりが先行して、結果をもたらさないこともある。
 「食生活に関する本を1冊も読まない人は何でも摂ることがバランスのよい食事と考え、10冊読んだ人は極端な理論に目がいき、30冊読むとノイローゼになり、100冊読んだ人は何も食べられなくなり、200冊読んでやっと落ち着く」

 参考文献
 ・鈴木泰三、他:臨床生理学(上巻) 南山堂(1975年).
 ・新藤義晴:万病を治す冷えとり健康法 農文協(1989年).
 ・川嶋昭司、他:食べもののメリット・デメリット事典 農文協(1988年).
 ・高屋豊:血清RLP-C血と於血スコアで動脈硬化性疾患の評価を Medical Tribune 2005年8月11日号、40頁.
 ・棚橋紀夫:質疑応答 血液粘調度と心筋梗塞・脳梗塞の関係、日本醫事新報 No.4234(2005年6月18日)、91-92頁.
 ・田川邦夫:からだの働きからみる代謝の栄養学 タカラバイオ株式会社(2003年).
 ・新谷弘実:胃腸は語る−胃相腸相からみた健康・長寿法、弘文堂(平成10年初版、平成12年11刷).
 ・高橋正紘:急性めまいへのアプローチ、話題の医学、テレビ東京、2006年7月23日放送.
 ・竹田泰三:メニエール病の病態と治療、日本医師会雑誌、第134巻・第8号、1471-1472頁、2005年11月(平成17年11月).
 ・室賀昭三:新版 漢方医学、財団法人 日本漢方医学研究所(1990年).
 ・岡田耕造:漢方薬だけで「治せる!」難治性アトピー性皮膚炎、東京図書出版会(2003年).
 ・武田尚壽:こうすればアトピー性皮膚炎は治る、日本文芸社(平成3年).
 ・石田俊彦:糖尿病性神経障害、日本医師会雑誌、第119巻・第3号、RK-681-RK-684、1988年.
 ・幕内秀夫:工藤公康 粗食は最強の体をつくる!、株式会社三笠書房、2006年第1刷.
 ・臨床内科医のための漢方医学講座(2002〜2006内科専門医会誌 掲載 認定内科専門医のための漢方医学講座2002〜2006の別冊集)、内科専門医会誌、VOl.18 No.2 2006.5(医薬広告社、2007年4月発行).
 ・下田哲也:平凡社新書194 漢方の診察室、株式会社平凡社、2003年初版第1刷発行.
 ・柴原直利、寺澤捷年:於血状態と自律神経機能との関連性、第58回日本自律神経学会総会/シンポジウム5/東洋医学と自律神経、自律神経、43巻4号、2006年、363-369頁.

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