冷え症
体内での熱産生が低下したり、皮膚の血行調節が不良だったりすると、「冷え」を自覚する。特に、熱産生が低下すると、健康な人が、「冷え」を自覚しない温度(室温など)でも、体熱の喪失を減らす為、前毛細血管括約筋が収縮し、皮膚表面の毛細血管を流れる血液量が低下し、「冷え」を自覚する。
このように、冷え症(冷え性)では、健康な人が、「冷え」を自覚しない温度(室温など)で、「冷え」を自覚するのが、特徴。
冷え症(冷え性)の状態では、血行(微小循環)が悪いので、いろいろな病気(万病)の原因となると言われている。
体熱は、主に骨格筋や肝臓など、代謝の活発な組織で産生され、血液で、全身に輸送される。
1.冷え症と食餌
漢方によれば、体を暖める食品(陽性食品)と、体を冷やす食品(陰性食品)とがある。
陽性食品には、肝臓や腎臓などで、熱の産生を増加させる作用がある成分が含まれ、陰性食品には、肝臓や腎臓などで、熱の産生を抑制させる作用がある成分が含まれていると、考えられる。
野菜は、根の部分は、体を暖める陽性食品、また、葉の部分は、体を冷やす陰性食品のことが多い。
なお、野菜は、気温が低下した環境(霜など)では、葉など含まれている澱粉等の養分を用いて、ブドウ糖やショ糖の生成を増加させ、浸透圧を維持して、凍らないようにするので、糖度が高まり、味が甘くなることが多い。ハクサイ(白菜)など葉物の野菜の糖度(ブドウの糖濃度)や、グルタミン酸の濃度は、中心部の方が、周辺部より高い傾向がある。
1).陽性食品:体を暖める食品
根菜類(ニンジン、ゴボウなど)、イモ類、煮たり炒めた葉物の野菜、カボチャ、長ネギ、玉ネギ、ニラ、ニンニク(注1)、フキ、ショウガ(生姜)、青シソ、ナツメ、アンズ、クルミ、シナモン、唐辛子、
ゴマ(注2)、納豆、味噌、肉類(特異力学作用)、海草、キノコの軸、リンゴ(注3)、桃、栗、チーズ、ヨーグルト、
小魚(注4)、漬物、黒砂糖(注5)、自然塩、日本酒、など
2).陰性食品:体を冷やす食品
葉物の野菜(ただし、生野菜は体を冷やすが、食べ続けると抵抗力が出来て、却って冷えなくなる):レタス、トマト、セロリ、セリ、ナス(カリウムを多く含み、利尿作用がある)
大根(生)、豆腐、果物(ミカン、カキ、バナナ、マンゴー、パパイヤ、スイカ、メロンなど)、キノコの笠、カレー、マヨネーズ、タラコ、イクラ等、
白米、白砂糖(注5)、ハチミツ(注5)、牛乳、バター、ビール、ぶどう酒、緑茶、烏龍茶、コーヒー、酢(注6)の物、など
3).中庸食品
玄米、大豆、ソバ(微寒:注7)、紅茶、など
なお、白砂糖の性質は「甘」で、大量に摂取すれば「脾」(胃腸機能)を傷めると言う。
砂糖は、摂り過ぎると、血液中に中性脂肪が増加して、血小板が凝集し易くなったり、赤血球の変形能が悪化して、於血の原因となると思われる(注8)。
焼酎は体を冷やし、日本酒は体を暖める(尿素は地温を冷やし、硫安は地温を温める)。
2.熱の産生
人間の体内で、一番、熱を産生しているのは、骨格筋と、肝臓とされる:骨格筋は、全熱エネルギーの38.0%を、肝臓は、12.44%を産生する(Lehmann)。その他、呼吸筋、心臓、腎臓、脳(3.0%)、骨(約1割)も、安静時に、熱を産生する臓器として、重要。
表1 安静時の熱産生
組織 |
cal/分 |
% |
骨格筋 |
456 |
38.0 |
肝臓 |
149 |
12.4 |
消化管 |
91 |
7.6 |
腎臓 |
90 |
7.5 |
脾臓 |
76 |
6.3 |
心臓 |
53 |
4.4 |
脳 |
36 |
3.0 |
膵臓 |
16 |
1.3 |
血液 |
13 |
1.1 |
唾液腺 |
8 |
0.7 |
全身 |
1,200 |
100.0 |
これら、体内で産生された熱は、血液(特に、静脈血)により、全身に、運搬されて、体温を保持する。
人間を始めとして、恒温動物である哺乳類(哺乳動物)は、気温が低下すると、体温を維持する為に、熱の産生を高める。
動物が、熱産生(thermogenesis)を高める方法には、筋肉のふるわせることによる熱産生(ふるえ熱産生)と、褐色脂肪細胞のミトコンドリアでの熱産生(非ふるえ熱産生)とが、存在する(非ふるえ熱産生では、脂肪酸のβ-酸化の亢進に伴い、熱エネルギーが放出される)。ゲッシ動物での実験結果では、気温が低下する際の、体温を維持する為の熱産生では、非ふるえ熱産生が40%程度、また、ふるえ熱産が60%程度、寄与していると言う。加齢(老化)と共に、筋の萎縮(サルコペニア)が進み、ふるえ熱産生能力も、低下する。従って、老人は、冷え症になり易い。
褐色脂肪細胞が破壊された動物は、気温が低下した際の体温維持機能が、低下する。また、褐色脂肪細胞が破壊された動物は、(熱産生によるカロリー消費が低下して、)体脂肪量や体重が増加する。
産後などで、体力が低下していると、熱産生も低下し、冷え症になり易い。
外界が寒い(外気温が低い)と、交感神経が緊張し、毛細血管(前毛細血管括約筋)などの血管が収縮すると、熱が体外に逃げるのが、防止される。
体内の代謝で生じる生体エネルギーの内、ミトコンドリアでATPに変換される(筋肉などの仕事に利用される)分は、15〜20%と言われる(最大でも45%程度)。残りの生体エネルギーは、熱エネルギーに変換される(熱産生に利用される)。自動車のエンジンや、電気モーターが発熱することからも解るように、代謝により、エネルギーが、他のエネルギーに変換される時には、必ず、熱が発生する。
通常は、体内の代謝で生じる生体エネルギーは、ATP生成に利用され、なるべく、熱産生には、利用されないが、寒冷時などは、体温を低下させないように、熱産生を増加させる為、ATP生成を犠牲にして、生体エネルギーを熱エネルギーに変換する。ATPは、ミトコンドリアの呼吸鎖で生成されるが、脱共役することで、ATP生成を抑制し、熱産生を増加させる。
3.AVAと冷え症
ヒトの指、掌、耳朶などには、AVA(arteriovenous anastomosis:動静脈吻合、グローミュー)と呼ばれる、細動脈と細静脈を直結する(短絡させる)血管がある。AVAは、細動脈を流れて来た血液を、毛細血管を流さずに、細静脈へと流す、短絡路(shunt、バイパス)である。
手では、皮膚の表面近くの毛細血管を流れる血液は、手全体の血流量の、約2割に過ぎず、残りの8割の血流は、AVA(arteriovenous anastomosis:動静脈吻合)と呼ばれる、皮下の動脈と静脈を結ぶバイパス血管を通り、静脈へ流れる。
外界の気温が低く、寒い時には、心臓や脳などの深部の体温を維持する為、毛細血管を流さず、AVAを介して、速く血液を通過させる:寒冷刺激で、交感神経が刺激され、前毛細血管括約筋(precapillary sphincters:スフィンクター)が収縮し、細動脈血が、AVAを介して、細静脈に流れ、皮膚表面の毛細血管を流れる血液量が低下する。
前毛細血管括約筋は、閉じる時は、速いが、開き始めるには、時間を要する(10〜40分程度)。その為、一度、手足が冷えると、温かい部屋に入っても、温まるまで時間を要する。
冷え症の人は、一度閉じた前毛細血管括約筋が、再び開くまで、時間を要する(皮膚表面の毛細血管を流れる血流が、回復するのに、時間がかかり、冷え・寒さを自覚する)。
人間は、頚部で、外界の温度を感知するので、首をマフラーや、タオルなどで温かくすると、手足の前毛細血管括約筋が開いて、手足の血流量が増加し、冷え症が改善される。
動静脈吻合(グローミュー)は、白砂糖の摂取し過ぎ、御酒(アルコール)の飲み過ぎ、飽食により、機能が障害される。
毛細血管の形成が不良でも、冷え性になる(皮膚表面の毛細血管の血行が、不良となる)。入浴時に、温水と、冷水に、交互に、1分間程度、手足を浸す鍛錬は、毛細血管の形成を高め、冷え性改善効果がある。
その他、低血圧、貧血、筋肉不足(運動不足)、自律神経失調症も、冷え症の原因とされる。
精神的な緊張、イライラ、ストレスも、前毛細血管括約筋を収縮させ、毛細血管の血行を低下させ、冷え症の原因となる。
偏った食事で、血液中の脂質が増加したり(高脂肪血症)、血液中の糖が増加したり(高血糖)すると、血行が悪化し、血液粘稠度が高まり、赤血球の変形能が低下する。その為、毛細血管が障害され、毛細血管が変形し、慢性的な冷え症を来たす(指先の、触覚などの感覚が、低下する)。
冷え症になると、発痛物質、疲労物質(乳酸など)、老廃物質などが蓄積して、肩こり(肩凝り)、肌荒れ、肌のくすみ、毛髪の傷み、腰痛などの症状を来たす。
健康で長生きする為には、血液を綺麗に保ち(血小板の凝集能、血液凝固能、赤血球の変形能を正常に維持する)、血管(血管内皮細胞)を若く保ち、血行(毛細血管の微小循環)を良くすることが、大切。
その為には、油脂、肉(魚も含む)、砂糖を控え、野菜を多く摂る食生活が良いと思われる。
冷え症(冷え性)は、漢方(東洋医学)的には、「気」(熱の産生:)が低下し、「血」(赤血球の変形能、血小板の凝集能など)に異常を来たし、「水」(体液や血漿の循環)が停滞した状態と、考えられる(注9)。
体温が低下すると、免疫力(NK細胞活性)が、37%低下する。
深呼吸や静座を行うと、副交感神経の働きが高まり、交感神経による前毛細血管括約筋(スフィンクター)の収縮が抑制され、血行が良くなり、冷え症を改善出来る。
深呼吸や静座を行うと、不安やストレスに対する脳の反応を抑制出来る(ストレスに強くなる)。
病気や過労などによる消耗状態(虚症)では、生体は、熱産生を抑制し、安静にしようとするので、冷え性になる。
糖尿病で末梢神経が障害されると(糖尿病性神経障害)、血管の収縮と拡張が、上手く調節出来ない為、冷え性になり易い。
入眠時には、手足の末端の毛細血管の血流が増加し(前毛細血管括約筋が弛緩し、AVAを介する血流が低下する)、手足の血流が増加し、手足から熱が放出され、体温が低下する。体温が2℃程度低下し易いは、寝つきが良い。体温が低下し、寝つく為には、脳の活動が低下(熱産生が低下)し、手足から熱が放出されることが必要。
冷え症の人は、前毛細血管括約筋が収縮したままで、体温が低下しないので、寝つきが悪くなるおそれがある。
4.冷点と温点
体表面には、冷感を感じる冷点(cold spots)と、温感を感じる温点(warm spots)の2種類の末梢温度受容装置(peripheral thermoreceptor)が、存在する。
一般に、冷点の方が、温点より、密に分布している。
冷点、温点には、それぞれ、冷線維、温線維がついていて、温度刺激を、中枢(脳)に、伝達する。冷線維、温線維を伝達されるインパルスには、定常的なインパルスと、一過性のインパルスとの、2種類が存在する:定常的なインパルスは、温度の定常的な値を伝達し、一過性のインパルスは、温度変化を伝達する。
以下に、ヒト皮膚面の冷点、温点の分布を示す(Rein)。数字は、1cm2当たりの数を示す。
表2 ヒト皮膚面の冷点、温点の分布
部位 |
冷点の数 |
温点の数 |
前額 |
5.5〜8 |
- |
顔面 |
8.5〜9 |
1.7 |
胸部 |
9〜10.2 |
0.3 |
腹部 |
8〜12.5 |
- |
背 |
7.8 |
- |
前腕 |
6〜7.5 |
0.3〜0.4 |
手背 |
7.4 |
0.5 |
手掌 |
1〜5 |
0.4 |
指背面 |
7〜9 |
1.7 |
指掌面 |
2〜4 |
1.6 |
下腿 |
4.3〜5.7 |
- |
足背 |
5.6 |
- |
足蹠 |
3.4 |
- |
5.心の乱れと冷え症
自分本位で、我執が強いと、心が乱れ、イライラ、クヨクヨ、ハラハラし、内臓が病んで、冷え症などになりやすい。
心の乱れ方により、どの内臓が病むか、異なって来る。
a.傲慢→肝臓が悪くなる
人を見下す。感謝しない。
肝臓に脂肪(トリグリセリド)が蓄積する脂肪肝などのように、肝臓の機能が悪くなると、全身倦怠感、易疲労感などの症状が現れる。肝臓の機能が悪くなると、血液中の栄養素(遊離アミノ酸など)が低下し、脳は、沢山食べることを、要求する。また、肝臓から良い胆汁酸が分泌されないと、消化機能が低下するので、消化器官に、負担が加わる。肝臓の機能が悪くなると、漢方の腎臓(副腎)の機能が低下する(肝臓でのコレステロール合成が低下し、ステロイド核の副腎皮質ホルモン合成が、低下し、元気がなくなる)。
肥満で脂肪肝になるなど、肝臓が悪くなり、グリコーゲン貯蔵量が少ないと、短時間で、血糖が低下し、食欲が刺激され、間食が増え、肥満になり易い(肥満の悪循環)。
b.冷酷→心臓、血管系が悪くなる(尿路結石になる)
他人に対する思いやりがない。冷たい。自分の都合しか考えない。
c.利己→消火器が悪くなる(食べ過ぎて肥満になる)
わが身の安心、安全、安楽のみを求める。
d.強欲→肺(粘膜、皮膚)、大腸が悪くなる(便秘になる、病毒が排泄されない)
欲が深い。自分の能力や努力以上のものを欲しがる(能力以上のことを要求する)。
ストレスにより、自律神経の働きが乱れる(交感神経と副交感神経のバランスが崩れる)と、冷え性になり易い。
ストレス等により、交感神経が緊張すると、血行が悪くなり、於血になり、鬱血による頭痛などの症状が現れる。
交感神経は、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンにより刺激される。副交感神経は、アセチルコリン、プロスタグランジン(PGE2など)、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエン(LT)により刺激される。
無理な生活も良くないし、安易(楽)な生活も良くない。
6.特異力学作用
特異力学作用とは、食物(カロリー源)が有する自由エネルギーが、ATPに変換され仕事(細胞内の機能)に用いられるのでなく、熱に変換される(熱産生に用いられる)ことを意味する。
蛋白質のカロリー(エネルギー)の30%、糖質のカロリーの5%、脂質のカロリーの4%は、特異力学作用により、熱に変換される。
肉類は、特異力学作用が強いので、肉類を食べると、熱が産生され、体が温まる。牛肉は、豚肉より、特異力学作用が強く、体を温める作用が強い。
7.入浴
入浴(温浴)は、血行を良くする。
温浴と冷水浴を、交互に行うと、毛細血管の機能が高まり、冷え症の改善に効果がある。
適度な体操も、血行を良くする。
8.爪もみ療法
爪もみ療法は、手の指では、爪の両側(爪の生え際)を、反対側の手の親指と人差し指で、痛いくらいの強さで挟み、さらに、指を内→外→内→外と、捻るように動かす(1〜2秒間で、内→外→と動かす)。一つの指の爪に対して、10〜20秒間程度、揉む。薬指は、交感神経を刺激するので、揉まない方が良いと言う。
爪もみ療法は、1日、朝、昼、晩の3回程度行う。
爪もみ療法は、足の指にも行うと良い。
指の爪の脇を、揉むと、副交感神経が刺激され、血管が拡張し、血行が良くなり、体温が上昇する(冷え症が改善する)。
爪もみ療法をすると、末梢血中の白血球数が増加し、また、白血球が活発に動くようになる。
爪もみ療法を行うと、爪付近に存在する静脈吻合が刺激され、副交感神経の活動が盛んになり、血管が拡張し、全身の血流が改善する。
爪もみ療法を行うと、体内に蓄積していた有害ミネラル(カドミウム、鉛、水銀、砒素)の尿中への排泄が増加する。
爪を上から圧迫(利き手でない手の薬指の爪を、利き手の親指と人差し指で上下に挟み、利き手でない手の薬指の爪を、利き手の親指で、少し痛いくらいの強さで、30秒間圧迫する。そして、親指を離した時に、薬指の爪の色が回復するまで、1秒以上要する場合は、毛細血管が傷害されていることがある。
毛細血管が傷害されるのは、血液中の脂質が増加したり(高脂肪血症)、血液中の糖が増加したり(高血糖)して、於血になり、血行が悪化し、血液粘稠度が高まることが原因。
爪もみ療法は、副交感神経を刺激し、免疫力を高める。
各指の爪もみには、以下のような効果があると言う。
親指の爪もみ:アトピー(性皮膚炎)、咳、喘息、(関節)リウマチ
人さし指:潰瘍性大腸炎、クローン病、胃・十二指腸潰瘍、胃弱
中指:耳鳴り、難聴
小指:脳梗塞、ボケ、パーキンソン病、メニエル病、高血圧、糖尿病、椎間板ヘルニア、動悸、頭痛、生理痛、子宮筋腫、子宮内膜症、更年期障害、うつ状態、眼の病気、等
なお、薬指は、普段、使わない指で、刺激されることが少ない為、薬指を爪もみで刺激すると、稀に、交感神経が刺激されてしまうことがあると言う。
クローン病や潰瘍性大腸炎は、牛乳や乳製品の摂取を禁止し、自然の穀物(精製度が少ない穀物)、野菜、果物を摂取させると、改善したり、治癒すると言う。
9.漢方と冷え症
漢方では、冷え症を、原因などから、以下のように分類している。
・新陳代謝の低下:新陳代謝の低下が原因で、熱産生が低下し、全身の冷えが起こる。顔は青白い。全身の冷えを感じる(自覚症状)。体幹部の皮膚温が低下する(他覚症状)。脈は徐脈になる(陰症)。
治療には、新陳代謝を高める附子を含む処方が用いられる。
・胃腸機能の低下:胃腸の機能が低下し、胃下垂、胃アトニーがある人に起こる。
治療には、人参、乾姜(かんきょう)、生姜(しょうきょう)などを含む処方が用いられる。
・於血:於血(微小循環障害、血液凝固・線溶系の異常)が原因の冷え症では、四肢末梢の冷え(手足の冷え)を感じることが多い(体幹部の冷えは、ほとんどない)。於血では、四肢末梢(手足、口唇など)が欝血し、微小循環障害が見られる(皮膚や口唇などの暗紫色化など)。
治療には、体質や体格が弱い人の手足の冷えには、当帰など湿性の駆於血剤を含む処方が用いられる。また、体質や体格が丈夫な人には、桃仁、牡丹皮などの入った処方を用いる。
注1:長ネギ、玉ネギ、ニラ、ニンニクなどユリ科の植物には、硫黄化合物が含まれていて、脳の視床下部に作用し、アドレナリンなどのホルモンの分泌を促進させ、筋肉などの熱産生を上昇させ、体を温める。
注2:私が、過労で、体調を悪くして、冷え症になった時の体験では、冷え症の時は、室温が左程低くない夏場でも、手が冷たく感じられた。当時は、ドロドロ血液などと言う言葉は、未だなかったが、ケガをした時に作られる痂皮の色が、異様に赤黒かったので、血液も、於血になっていたものと思われる。
ゴマは、冷え症に、効果があったように感じている。ゴマを食べると、体内での熱の産生が、増加したように、思われる。これは、ゴマに含まれるゴマリグナンが、肝臓などで、β-酸化を促進させ、熱産生を高めるからと思われる。
葉物の生野菜であるほうれん草は、食べた後に、却って、手の冷えを、強く自覚した。しかし、ほうれん草を、茹でて、御浸しにして、酢醤油をかけて、食べると、体に、活力が出て、冷え症も良くなったように、記憶している。
西野式健康法で勧めているように、冷水と、温水に、交互に手、足、脚などを入れて鍛錬することも試みたが、食餌療法が、一番、効果があったように、記憶している。
ゴマには、便秘解消効果もある。
(2005年に栽培したゴマの実)
注3:リンゴ(林檎)は、リンゴ酸や、食物線維のペクチンを含んでいる。ペクチンは、血液中の赤血球の変形能を、高めるという。ペクチンは、活性酸素を消去する作用がある抗酸化物質であり、ペクチンを加熱処理をすると、約9倍抗酸化作用が、高まるという。リンゴのペクチンに含まれるアラビノオリゴ糖は、腸内のビフィズス菌を増加させる。
リンゴの軸に近い「蜜」の部分が黄色(琥珀色)なのは、葉から運ばれたソルビトールが蓄積する為。ソルビトールの甘さは、砂糖の約60%程度と言われる。ソルビトールは、便を柔らかくする作用もある。
林檎自体には、ビタミンCは、あまり、含まれていない(3mg/100g程度)。林檎1.5〜2個/日を、3週間、続けて摂取すると、血液中のビタミンC濃度は、34%上昇する(林檎に含まれる食物繊維のペクチンが、腸を綺麗にして、他の食品に含まれるビタミンCの吸収を促進させる)。
林檎に含まれるペクチンの抗酸化作用(活性酸素消去率)は、ペクチンを120℃以上(特に、150℃)に加熱すると、増加る(ペクチン活性酸素消去率は、100℃で40%程度なのが、150%では100%に増加する)。
リンゴには、光合成で作られるポリフェノール(色素や苦味成分)が、400〜500種類含まれている。リンゴに含まれるポリフェノールには、プロアントシアニン、カテキン、ケルセチン、エピカテキンなどがある。リンゴに含まれるカテキンは、お茶に含まれるカテキンよりも苦味が少なく風味が良い。
注4:魚に含まれる、不飽和脂肪酸のEPAやDHAは、ミトコンドリアのUCPに作用して、熱産生を高める。
注5:黒砂糖、白砂糖ハチミツは、可食部100g当りの栄養成分が、下記の表の如く、相違している。
黒砂糖には、ビタミンB1も含有されている。
白砂糖(ブドウ糖と果糖からなるショ糖)は、解糖され、TCA回路で、NADH2+と言う還元力のある物質を生成するが、呼吸鎖で、二酸化炭素が生じるので、酸性食品。砂糖(白糖、白砂糖)を摂り過ぎると、(血液が、酸性になり、)白血球(好中球や単球やリンパ球)の機能が低下するとされる:砂糖(白糖)を、食べ過ぎると、結核などの感染症に罹り易くなる。砂糖を、食べ過ぎると、発痛物質である、PGE2や乳酸の生成が促進させられ、痛みが増強すると考えられる。糖尿病の高血糖状態では、好中球(多核白血球)の細胞質内に、ソルビトールが蓄積し、細胞機能、特に、殺菌能が低下する。糖尿病でも、1型糖尿病では、好中球の殺菌能が、低下する。白砂糖は、摂取し過ぎると、動静脈吻合(グローミュー)の機能が障害され、冷え症を悪化させたり、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる。
黒砂糖は、カルシウムやカリウムも多く含む、アルカリ食品(尿アルカリ化食品)。
表3 黒砂糖、白砂糖、ハチミツの成分の比較
食品名 |
黒砂糖 |
白砂糖 |
ハチミツ |
エネルギー |
354Kcal
(1,481KJ) |
384Kcal
(1,607KJ) |
294Kcal
(1,230KJ) |
糖質 |
89.7g |
99.2g |
79.7g |
カルシウム(Ca) |
240mg |
1mg |
2mg |
ナトリウム(Na) |
27mg |
1mg |
7mg |
カリウム(K) |
1,100mg |
2mg |
13mg |
ビタミンB1 |
0.05mg |
0mg |
0.01mg |
ビタミンB2 |
0.07mg |
0mg |
0.01mg |
砂糖の成分は、ショ糖(蔗糖:スクロース:sucrose)。ショ糖は、ブドウ糖(グルコース:glucose)と、果糖(フルクトース:fructose)からなる、ニ糖類で、水に溶けやすい。
炭水化物が多い食事、特に、ショ糖(砂糖)の含量が多い食事は、肝臓からのVLDLの分泌を、促進させる(高中性脂肪血症になる)。
砂糖の摂り過ぎは、高中性脂肪血症や、於血になるおそれがある:砂糖は、摂り過ぎると、肝臓で脂肪酸合成に利用され、血液中に中性脂肪が増加する。その結果、血小板が凝集し易くなったり、赤血球の変形能が悪化して、於血の原因となると考えられる。砂糖(蔗糖)は、分解されると、ブドウ糖と果糖になる。果糖や砂糖を取り過ぎると、肝臓での果糖の代謝により、中性脂肪が多く合成され、脂肪肝や、高脂血症(高VLDL血症)の原因になる。
糖類・糖分(砂糖など)の摂取は、アトピー性皮膚炎を悪化させる。
砂糖と脂肪を一緒に摂るのは、健康に良くない:砂糖を摂取すると、インスリンが分泌され、脂肪組織のLPL活性が上昇し、血中の中性脂肪の脂肪組織への取り込みが促進される。脂肪摂取で、血液中に中性脂肪(カイロミクロン)が増加し、LPL活性が高まった脂肪組織に、取り込まれる(肥満や、メタボリックシンドロームになる)。
砂糖の取り過ぎは、ビタミンB1不足を招くおそれがある:白砂糖で、ブドウ糖(グルコース)を摂り過ぎると、ビタミンB1を補酵素とするピルビン酸デヒドロゲナーゼにより、ピルビン酸のアセチル-CoAへの変換が促進され、血液中のビタミンB1が低下する。なお、黒砂糖には、ビタミンB1が含まれている。
砂糖の摂り過ぎは、痛みを増悪させる:ビタミンB1不足は、乳酸が蓄積し易くし、痛み(神経痛など)を悪化させると考えられる。砂糖の摂り過ぎは、血中の中性脂肪を増加させ、血小板が偽足を出して凝集しやすくなり、血行を悪化させ、酸性の代謝中間産物(乳酸など)を蓄積させ、痛みを増悪させると考えられる。砂糖などの糖質(グルコースを含む)や、食用油などの脂質(アラキドン酸の原料になるリノール酸を含む)は、それぞれ、発痛物質である、乳酸、プロスタグランジンE2(PGE2)の生成を増加させ、痛みを増悪させると考えられる。糖分(グルコースを含む砂糖)、肉(アラキドン酸)、油脂(リノール酸)が多い食餌は、乳酸やPGE2の産生を増加させて、神経痛などを悪化させると考えられる。御菓子、酒、穀類(御飯、パン、ウドンなど)、肉類(獣鳥魚介)、卵なども、痛みを増悪させる。野菜(緑葉食や青汁)や果物は、痛みを軽減する(血行を良くし、発痛物質の除去を促進する)。
砂糖は、白血球の機能を低下させ、感染症に罹り易くなる:砂糖(白糖、白砂糖)を摂り過ぎると、(血液が、酸性になり、)白血球(好中球や単球やリンパ球)の機能が低下するとされる。砂糖の過剰摂取は、マクロファージや好中球の機能を低下させると言う。砂糖(白糖)を、食べ過ぎると、結核などの感染症に罹り易くなる。黒砂糖は、アルカリ食品(尿アルカリ化食品)とされる。
砂糖を摂取すると、乳酸などが血中に増加し、尿中からのカルシウム排泄が増加する:砂糖(refined carbohydrate)を過剰に摂取すると、酸塩基平衡を維持する目的で、過剰な酸を腎臓から排泄する為に、尿中カルシウム排泄量が、増加する。紅茶や緑茶(お茶)には、シュウ酸が多く含まれている。尿路結石の予防のためには、水分を多目に取ることが勧められている(尿量が、1日当り2リットル以上になるようにする)。飲用する水分としては、水道水、ミネラルウォーター、シュウ酸含量が少ない麦茶やほうじ茶が、良い。清涼飲料水や甘味飲料水は、含まれている砂糖や燐酸により、尿中クエン酸が減少したり、尿中カルシウムが増加するので、好ましくない。
砂糖は、冠動脈疾患や、脳梗塞の発症リスクを高める:砂糖(ショ糖)、カフェイン、鉄(肉類の摂取に由来する)の摂取量が多いと、血漿フィブリノーゲンが、上昇する。
同じ量の重さの糖を比較すると、glycemic index(GI)は、砂糖は50〜59、果糖は20〜29、マルトースや蜂蜜は80〜90、果物は40〜49と言われる。
母親が、現代栄養学に基づく標準型食事を摂取すると、母親の血清脂質が高くなり、(母乳の味が)「悪く」なり(桶谷式主観評価)、乳児は、母乳を飲まなくなる。母親が、砂糖、脂質を制限した伝統的日本型和食を摂取すると、母親の血清脂質が高くなり、(母乳の味が)「良く」なり、乳児は、母乳を良く飲むようになる。
糖分(砂糖)や脂質が多い食事や、便秘(宿便)は、ニキビを悪化させる要因と言われる。ニキビは、皮脂の量(皮脂が過剰に分泌されること)より、皮脂の質(皮脂が固い)ことが、発症の原因と考えられる。
急性胃腸炎やアセトン血性嘔吐症などに際して、脱水予防に、補給する飲料は、砂糖の濃度を、5%程度にする。砂糖の濃度が濃すぎると、番茶の浸透圧が高くなり、胃が刺激され、嘔吐を誘発してしまう。1%のブドウ糖液(グルコース液)は、浸透圧が約55mOam/L。ブドウ糖濃度が、2〜2.5%だと、Naと水が、最大の高率で、吸収される。
注6:酢は、陰性食品(冷え性を悪化させる)だが、黒酢には、アミノ酸も含まれていて、血行が良くなる(冷え性が改善される)。
黒酢を飲用すると、赤血球の体積が増加し、赤血球の変形能が改善し、手足の血行が改善し、酸素や二酸化炭素の運搬機能が高まると言う。黒酢に含まれるクエン酸でなく、黒酢に含まれる、アミノ酸や、ペプチドが、赤血球変形能の改善効果を有する。
黒酢などの食酢に含まれるリンゴ酸は、ミトコンドリア内に輸送されると、オキサロ酢酸に変換され、TCA回路の代謝を促進させ、脂肪酸の分解を促進すると考えられる。しかし、食酢に含まれるクエン酸は、脂肪合成を促進させる。
食酢に含まれる、リンゴ酸、クエン酸、酢酸などの有機酸は、血液を弱アルカリ性に改善する。
しかし、食酢は、陰性食品なので、摂り過ぎは、冷え症の人には、良くないと考えられる。
注7:ソバにふくまれるルチンは、血管を強くして、血流を良くして、冷え症(冷え性)を改善するという。
ルチンは、ポリフェノールのケルセチンに、グルコースとラムノースとが結合している。
注8:於血(おけつ)とは、東洋医学的には、「血」の流れが滞った状態だが、西洋医学的には、血液中の、血小板の凝集能、凝固能、赤血球の変形能の、いずれかが、悪化した状態を指すと思われる。
於血(お血)の「於」(お)には本来、病だれがついている。
血液が、於血状態になると、不眠、腰痛、肩凝り、頭痛など、多彩な自覚症状が、現れる。
於血で見られる所見、徴候としては、歯肉や舌や皮膚の暗赤化、眼輪部や顔面の色素沈着、細絡(皮膚に毛細血管が静脈瘤の様に浮いて見える)、手掌紅斑、臍下周囲やS状結腸部の圧痛、痔疾、月経障害などがある。於血で見られる手掌紅斑は、手掌全体が、赤くなることが多い。肝障害(肝硬変など)で見られる手掌紅斑は、手掌の中心部を除いて、辺縁部(母指球と小指球)や指が、赤くなる(紅潮・発赤する)。臍下周囲(臍傍)の圧痛や抵抗は、腸骨静脈の血流の悪化が、原因と考えられる。
注9:漢方(東洋医学)で言う「気」は、生体で産生される熱、細胞の活性度などを、意味していると思われる。
しかし、気功などで発せられる「気」は、現代科学でも解明されていない未知のエネルギーと思われる。
参考文献
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・田川邦夫:からだの働きからみる代謝の栄養学 タカラバイオ株式会社(2003年).
・山下均:老化と熱産生機能低下 日本醫事新報 No.4255(2005年11月12日)、30-32.
・安保徹:免疫革命 講談社インターナショナル、2003年.
・安保徹:病は気からの免疫学 講談社(2005年).
・青山廉平、石野尚吾:産婦人科 IV.冷え症、新版漢方医学、179-181頁、財団法人、日本漢方医学研究所(1990年).
・石野尚吾:冷え症、漢方治療のABC、日本医師会雑誌 臨時増刊、Vol.108
No.5、148-149頁、1992年(平成4年).
・新谷弘実:胃腸は語る−胃相腸相からみた健康・長寿法、弘文堂(平成10年初版、平成12年11刷).
・西勝造著、早乙女勝元解題:食と健康の古典4 [原本]西式健康読本、農文協(2003年ワイド版第1刷、1979年第1刷発行).
・高橋敦子、金丸絵里加:活性酸素を撃退 りんご、きょうの健康、2006.9、35-39頁、2006年9月号.
・岡田耕造:漢方薬だけで「治せる!」難治性アトピー性皮膚炎、東京図書出版会(2003年).
・甲田光雄:根本から治す アトピー、アレルギー、せせらぎ出版(1988年第1刷発行、1994年増補改訂版).
・夏は尿素で地温が一〜二度下がる 熊本県山鹿市・池松正章さん、現代農業、2007(平成19)年8月号、173-177頁、農山漁村文化協会.
・下田哲也:平凡社新書194 漢方の診察室、株式会社平凡社、2003年初版第1刷発行.
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