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 母乳

 1.母乳栄養児の方が、感染症に罹患しにくい
 母乳には、免疫グロブリン(特に、IgAクラス)、リゾチーム、補体、ラクトフェリン、Bifidus菌成長因子など、感染防御因子が含まれている。母乳中の分泌型IgAは、酸や、蛋白質分解酵素の影響を受け難く、局所免疫として、細菌やウイルスによる腸管内侵襲から、新生児の腸管を防御する。
 新生児は、母乳栄養児の方が、人工栄養字より、感染症に、罹患しにくい。
 母乳は、胃腸感染症(サルモネラ菌、コレラ菌)の発症を予防する。ロタウイルス感染も、母乳栄養児の方が、感染率が低い。
 母乳には、腸の粘膜を修理する作用があるので、急性胃腸炎の際にも、母乳栄養児では、母乳を続ける。しかし、母乳には、Naは、15mg/100ml(6.5mEq/L)しか含まれていないので、母乳のみでは、下痢による塩分(電解質)喪失を、補えない。急性胃腸炎の際には、味噌汁の上澄みや、ORSなどを、飲ませる。
 牛乳は、母乳より蛋白質濃度が、3倍程、濃いが、調整粉乳(ミルク)は、蛋白質濃度が、母乳程度に低い。なお、牛乳(ホルスタイン種)は、Naを40mg/dL(17mEq/L)と、人乳より多く含んでいる。
 調整粉乳(ミルク)は、下痢の際に、標準濃度(13%)より薄めて使用する必要はない。ただし、重症例では、一時的に、2〜3割程度、薄めて(希釈して)使用した方が、経過が良いこともある。

 2.母乳に含まれる免疫グロブリン
 母乳に含まれる免疫グロブリン(抗体)は、分泌型IgA(sIgA)が、最も含有量が多い(60〜80%を占める)。次いで、IgM(3〜10%)、IgG(1〜3%)が多い。
 総IgA、sIgA、IgM、IgG濃度は、泌乳期3〜5日(分娩3〜5日後)が、最も高値を示す。総IgA、sIgA、IgM濃度は、その後、急激に減少する。IgGや、IgGサブクラスの濃度は、初乳よりも、末期乳(分娩300日後)で高値を示す。
 母乳中の総免疫グロブリン量は、母乳中の粗蛋白質の6〜10%を占めている。母乳中の総免疫グロブリン量は、α-ラクトアルブミン、カゼイン、ラクトフェリンに次いで、多い。

 3.母乳と牛乳とでは、成分が、異なる
 人乳(母乳)に比して、牛乳は、蛋白質、ミネラルが、多い。
 人乳に含まれる蛋白質には、アルブミン、カゼインが、ほぼ等量含まれている。牛乳は、カゼインを多く含んでいる。カゼインは、胃酸により、大きな、硬い、凝固(カード)を作り易い。
 人乳に含まれる脂質には、必須脂肪酸のリノール酸(LA)が、多く含まれている。牛乳のリノール酸含有量は、少ない。
 人乳に含まれる糖質は、乳糖の形で含まれているが、人乳の方が、牛乳の倍、乳糖を含んでいる。
 人乳に含まれるミネラルは、牛乳の3分の1の濃度で、腎臓への負担が少ない。牛乳は、人乳に比して、カルシウムを4倍、リンを6倍、高濃度に含んでいる。牛乳中の高濃度のカルシウムやリンは、鉄と不溶性の複合物を形成し、鉄の吸収を、阻害する。鉄の吸収率は、人乳(母乳)が50%なのに対して、牛乳は3〜10%と、低い。離乳期に、母乳や調整粉乳(ミルク)の代わりに、牛乳を与えると、鉄欠乏性貧血のリスクが高まる(注1)。
 ナトリウム濃度も、人乳(母乳)より、牛乳の方が、2倍以上、高い。
 表1 母乳と牛乳との成分の比較
 栄養成分  母乳    普通牛乳  調整粉乳
 エネルギー(kcal)    63    69    66
 蛋白質(g)     1.1     3.3     1.5
 脂質(g)     3.49     3.7     3.5
 糖質(g)     6.87     4.8     7.1
 ミネラル(g)     0.2     0.72     0.25
 カルシウム(mg)    27    110    48
 リン(mg)    14    93    29
 ナトリウム(mg)    15    40    18
 4.一般成分は、泌乳期により、変化する
 母乳中の蛋白質は、初乳に比し、泌乳期の経過と共に、減少する(分娩300日後には、初乳の約55%に、減少する)。母乳中のミネラル(灰分)も、初乳の約70%に、減少する。他方、母乳中の乳糖は、泌乳期の経過と共に、増加し、分娩300日後には、初乳の約120%に、増加する。母乳中の脂質は、分娩20日後頃に、初乳の約120%にまで、増加するが、その後、減少し、分娩300日後には、初乳と、同程度になる。

 5.水溶性ビタミンの含有量は、泌乳期により、変化する
 水溶性ビタミンビタミンB1は、初乳から、泌乳期の経過と共に、増加する。ビタミンB2、パントテン酸、ビタミンB12、ビタミンCは、泌乳期の経過と共に、減少する。葉酸、ナイアシンは、初乳に比して、泌乳期の経過で、分娩30日後頃まで増加し、その後、減少するが、分娩300日後でも、初乳より濃度は高い。

 脂溶性ビタミンのビタミンEは、同族体が、8種類存在する。そのうち、α-トコフェノールの生理作用が、最も強い。生体組織に含まれるトコフェノールの90%は、α-トコフェノール。
 母乳中のビタミンE含有量は、初乳(分娩3〜5日後)では、1.22mg。その後、母乳中のビタミンE含有量は、移行乳(分娩6〜10日後)では、0.89mgに減少し、成乳(分娩16日以降)では、0.38mgに減少する。

 ビタミンEは、多価不飽和脂肪酸が、活性酸素などにより、酸化されるのを防止する、抗酸化物質である。
 ビタミンE(mg)/多価不飽和脂肪酸(g)比の適切な値(摂取比)は、0.4と言われている。
 母乳のビタミンE(mg)/多価不飽和脂肪酸(g)比は、初乳(分娩3〜5日後)では、2.2。その後、母乳のビタミンE(mg)/多価不飽和脂肪酸(g)比は、移行乳(分娩6〜10日後)では、1.6に減少し、成乳(分娩16日以降)では、約0.6に減少する。

 6.母乳中には、グルタミン酸などの遊離アミノ酸が含まれている
 母乳中には、カゼイン、α-ラクトアルブミンなどの蛋白質の他に、グルタミン酸などの遊離アミノ酸や、尿素など、非蛋白態窒素成分が含まれている。
 母乳中の遊離アミノ酸濃度(mg/100ml)は、泌乳期により、変化する。母乳中の遊離アミノ酸濃度は、初乳より、成乳の方が、濃くなる。
 母乳中のグルタミン酸濃度や、グルタミン濃度は、初乳より、成乳の方が、濃くなる。
 母乳中のグルタミン酸や、タウリン(や、ホスホエタノールアミン)は、新生児の消化機能を補うエネルギー源となる。
 表2 泌乳期による遊離アミノ酸と尿素含量の変化(mg/100ml)
 泌乳期
 (日)
 初乳
 3〜5
 成乳
 31〜60
 成乳(後期)
 121〜240
 グルタミン酸   15.92   20.94   26.79
 グルタミン   0.31   3.66   8.27
 タウリン   5.93   4.22   3.76
 アラニン   2.06   2.12   3.07
 セリン   0.97   1.27   1.81
 スレオニン   1.26   1.02   1.46
 その他   15.00   8.98   10.10
 総遊離アミノ酸   41.45    42.21   55.26
 尿素   39.01   34.82   43.82
 総合計   81.06   77.52   99.63
 7.母乳は、上皮成長因子を含んでいる
 
母乳には、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、神経成長促進因子(NGF)、ポリアミン、ヌクレオチドなどの成長因子が、含まれている。
 母乳中の上皮成長因子(EGF)は、乳児の未熟な腸上皮細胞を成熟化させる役割があると考えられている。
 母乳中の上皮成長因子(EGF)は、泌乳期と共に、減少する:母乳中の上皮成長因子(EGF)は、初乳(分娩3〜5日後)では、15.03μg/100ml(冬季)、15.46μg/100ml(夏季)。その後、母乳中の上皮成長因子(EGF)は、成乳(分娩31〜60日後)では、8.04μg/100ml(冬季)、8.12μg/100ml(夏季)と減少し、さらに、成乳(分娩241〜481日後)では、5.10μg/100ml(冬季)、5.44μg/100ml(冬季)にまで、減少する。

 8.母乳中には、ガングリオシドが含まれている
 母乳には、ガングリオシドが含まれている。
 母乳に含まれるガングリオシドは、主に、GM3、GD3だが、GM1も微量含まれている。

 ガングリオシドは、細菌やウイルスが、宿主の粘膜上皮細胞に結合する際の受容体(レセプター)と似た糖鎖構造をしている。
 母乳に含まれるガングリオシドは、細菌やウイルスや、細菌毒素が、宿主の口腔、咽頭、消化管などの粘膜上皮細胞に結合するのを、阻害する作用がある。
 GM3、GD3、GM1は、毒素性大腸菌が、腸上皮細胞に付着することを、阻害する作用がある。GM3、GM1は、ラクトシルセラミドGalβ1-4Glcβ1-1Cer)や、シアル酸から、構成されている。しかし、ラクトシルセラミドやシアル酸には、GM3、GM1のような、毒素性大腸菌の腸上皮細胞への付着を阻害する作用は、見られない。
 糖鎖末端のシアル酸は、低pHで、分解され易い。しかし、pH3〜5(哺乳時の乳児胃内pH)でも、GM3、GD3は安定している。pH3〜5でも、GM3は約80〜90%、GD3は約50〜90%、(シアル酸構造が)保持される。
 GM3は、インフルエンザウイルスや、ヘリコバクター・ピロリと、特異的に結合する(リセプター類似物質として、感染防御に関与する)。GD3は、破傷風毒素と、特異的に結合する。

 母乳に含まれるガングリオシドは、シアル酸を1分子結合したモノシアロガングリオシド(GM1、GM3)、シアル酸を2分子結合したジシアロガングリオシド(GD3)、シアル酸を3分子結合したトリシアロガングリオシド(GT3、GT1b)などとして、存在している。
 母乳中のガングリオシドは、初乳では、GD3がGM3より多いが、移行乳(分娩11〜15日後)では、両者の濃度がほぼ等しくなり、成乳では、GM3の方がGD3より、多くなる。
 母乳中のガングリオシドの内、GM3は、泌乳期と共に、1.7μg/mlから、14.4μg/mlへ、増加する。
 母乳中のガングリオシドの内、GD3は、9.0μg/mlから、2.0μg/mlへ、減少する。
 母乳中のガングリオシドのGD3とGM3とを合わせた総量は、泌乳期30日(分娩30日後)までは、10μg/ml前後だが、泌乳期と共に、増加し、泌乳期後半(分娩241〜482日後)には、16μg/ml程にまで、増加する。
 牛乳中にも、母乳と同量のガングリオシドが、含まれている。しかし、牛乳中に含まれるガングリオシドの組成は、母乳と異なる。牛乳中に含まれるガングリオシドの組成は、GM3より、GD3が多い:GM3が約3%(0.3μg/ml)、GD3が約80%(8.8μg/ml)と、報告されている(Laegreid等)。また、牛乳中に含まれるガングリオシドの組成は、泌乳期1〜180日では、GM3が約10〜25%、GD3が約60〜70%と、報告されている(Puente等)。

 9.アトピー性皮膚炎と母乳
 乳幼児では、アトピー性皮膚炎は、人工乳栄養のみで育った児より、母乳栄養で育った児の方が、発症頻度が、高い。

 母乳を開始した時期が速い程、アトピー性皮膚炎の発症率が、1歳6カ月時点で、高い傾向にある。1歳6カ月時点で、アトピー性皮膚炎を有している率(有病率)は、0日目に母乳を開始した群では11.3%、1日目に母乳を開始した群では9.9%、2日目以降に母乳を開始した群では8.2%と、母乳を早く開始した群の方が、高い。なお、人工乳栄養のみで育った群は、1歳6カ月時点で、アトピー性皮膚炎を有している率(有病率)は、5.3%と、母乳栄養より、少ない。

 発熱回数が多い児は、アトピー性皮膚炎を発症するリスクが、高い。
 Hygiene hypothesisによれば、細菌など微生物の菌体成分が、樹状細胞を介して、ナイーブT細胞を、アレルギー反応を抑制するTh1細胞へと、分化させる。アトピー性皮膚炎が増加したのは、環境が衛生的になり、抗生剤(抗生物質)を使用することで、細菌感染などの機会が減り、Th1細胞(細胞性免疫に関与する)より、Th2細胞(IgE抗体など液性免疫に関与する)が、優位に分化するようになったことが原因とする説(衛生仮説)も、提唱された。このような衛生仮説では、Th1細胞の機能が弱いことが原因となって、アトピー性皮膚炎が増加したことになる。しかし、アトピー性皮膚炎になる児は、(生来、)Th1細胞の機能が弱いことの結果として、発熱回数が多くなっているとも、考えられる。

 10.母乳の乳質への食事の影響
 母親が、現代栄養学に基づく標準型食事を摂取すると、伝統的日本型和食(脂質、砂糖を制限した食事)を摂取した場合より、血清脂質が、高値になる。母親が、標準型食事を摂取しても、伝統的日本型和食を摂取しても、(母乳を飲んだ)乳児の血清脂質や、血清蛋白は、差がなく、体重から判定した乳児の発育にも、差がない。
 
 母親が、現代栄養学に基づく標準型食事を摂取すると、母親の血清脂質が高くなり、(母乳の味が)「悪く」なり(桶谷式主観評価)、乳児は、母乳を飲まなくなる。
 母親が、脂質、砂糖を制限した伝統的日本型和食を摂取すると、母親の血清脂質が高くなり、(母乳の味が)「良く」なり、乳児は、母乳を良く飲むようになる。
 母親が、脂質(脂肪)を多く摂ると、母乳がドロッとして、乳腺が詰まる原因になるおそれがある。
 母乳の味が良くなるには、野菜類(β-カロテンが含まれる)、豆類(蛋白質やビタミンEが多く含まれる)、魚類(カルシウムが豊富に含まれる)、ゴマ類(ミネラルが豊富に含まれる)、キノコ類(シイタケなど:糖質と繊維質が多く含まれる)、イモ類(食物繊維やビタミンやミネラルが含まれる)、ワカメ類などを、母親が食べると良いと言う。
 母親が喫煙すると、ニコチンが、母乳に移行し、母乳を飲んだ乳幼児に、不眠、下痢、嘔吐、循環器障害などを起こすおそれがある。

 分娩後に、ホルモン変化により、乳房組織が急激に変化する時期に、母親が、高カロリー食を摂取すると、乳房内の循環系に異常を来たし、新生児は、母乳が飲み辛くなる。産褥期は、乳房の基底部の伸縮性が正常化して、新生児が母乳を良く飲めるようになるまで、母親は、低カロリー・低脂肪の食事を摂取した方が、良い。

 母親が、授乳期に、高カロリー食を摂取して、授乳間隔が長いと、乳管が、乳栓で詰まり、授乳時の疼痛や、乳腺炎を引き起こす。
 乳腺炎は、乳頭や乳輪の傷口から細菌が感染し炎症が起こる場合と、赤ちゃんの吸引力の不足などの為、乳管が十分に開かず、乳腺内に母乳が鬱滞し炎症を起こす場合とがある。
 赤ちゃんの抱き方を変えて飲ませると、いつもと異なる乳管(乳腺)が刺激され、母乳の鬱滞が改善し、乳腺炎が、予防される。
 母親が、油っこい食事や、甘いもの(餡入りの御持ちなど)を食べたり、体重が標準より増加していると、乳腺炎を起こし易い。なお、母親が乳製品や大豆製品を摂り過ぎると、乳児は乳を吐き易くなり、また、母親が芋やカボチャを摂り過ぎると、乳児は鼻水(鼻汁)が多くなると言われる。

 11.結節性リンパ濾胞過形成
 結節性リンパ濾胞過形成は、生後2〜3カ月頃から、便中に、線状出血物か、点状出血物が、少量混入する。
 結節性リンパ濾胞過形成は、多くは、数ヶ月で、自然治癒する。

 結節性リンパ濾胞過形成(リンパ濾胞増殖症)は、直腸粘膜に、リンパ濾胞の過形成が生じ、出血が起こり、血便(便中の、線状出血物か、点状出血物)が、生じる。血便の量は、少量で、しばしば、粘液が、混入する。
 結節性リンパ濾胞過形成は、「直腸上皮および粘膜固有層における好酸球の浸潤を伴う粘膜浮腫」、「上皮下アポトーシスと好酸球の浸潤が特徴」と、病理学的に、記載される。
  
 結節性リンパ濾胞過形成の症例の約6割は、母乳栄養児で、母乳性血便症とも呼ばれる。母乳性血便症では、母乳を中止する必要はないと言われる。

 母乳栄養児の母乳性血便症の組織(リンパ濾胞)と、人工栄養児の人工乳性血便症の組織を、免疫学的に検討すると、母乳性血便症のリンパ濾胞より、人工乳性血便症のリンパ濾胞の方が、Th1細胞型の免疫応答にシフトしている(人工乳性血便症のリンパ濾胞では、細胞性免疫に関与するTh1細胞型のサイトカインの産生が増加する)。

 12.DHA
 母乳(人乳)は、脂肪酸100g当り、0.5gのDHA(C22:6)を含有している。母乳(人乳)は、可食部100g当り(100ml当り)、脂質を3.5g含有していて、その内、3.15gが、脂肪酸(飽和脂肪酸1.25g、一価不飽和脂肪酸1.30g、多価不飽和脂肪酸0.60g、注2)。

 DHAは、EPAと同様に、抗血栓作用を有する。DHAは、血小板凝集を抑制し、トロンボキサン産生を抑制し、抗血栓作用を現わす。
 DHAは、学習能力向上作用(記憶力増強作用)、網膜反射能向上作用(視力低下抑制作用)などがあり、脳や網膜で、重要な生理活性を有すると言われている。
 DHAは、赤血球変形能を改善し、全血粘度(血液粘稠度)を改善し、脳循環を改善し、脳血管障害を改善し、痴呆性老人(脳血管性痴呆、及び、アルツハイマー型痴呆)の痴呆症(認知症)を改善すると言う。

 DHAは、発癌抑制作用(PGE2合成を抑制し、特に、大腸癌、乳癌、肺癌などの発癌を抑制する)、血中脂質低下作用(コレステロール、中性脂肪を低下させる)、抗炎症作用(抗アレルギー作用)もあると言う。

 DHAは、魚、鶏卵、鶏肉などにも、含有されている。
 なお、五訂食品成分表2005を見ると、牛乳加工乳、調整粉乳の項には、DHAの含有量が記載されていない。
 日本で販売されているミルク(調整粉乳)は、DHAを配合した製品が多い。
 表3 脂肪酸100g当りの多価不飽和脂肪酸含有量(g)
 食品名  n-6系多価不飽和脂肪酸  n-3系多価不飽和脂肪酸
 リノール酸  アラキドン酸  リノレン酸  イコサペンタエン酸  ドコサヘキサエン酸 
 LA  AA  ALA  EPA  DHA
  18:2   20:4   18:3   20:5   22:6
 カステラ   16.5    0.2    0.5      1.7
 かわらせんべい   22.5    1.4    0.9      1.4
 あじ焼き   22.0    1.7    0.9    8.1   15.3 
 まいわし焼き    2.2    1.0    0.9   12.6    12.2
 しらす干し    1.0    2.0    1.1   13.5   28.2
 さけ新巻き焼き    1.0    0.7    0.5    8.3   16.8
 さんま焼き    1.5    0.6    1.1    6.1    9.9
 あさり生    0.8    4.3    0.5    7.0   11.3
 いか焼き    0    2.8    0.2   14.0   37.9
 えびあまえび生    1.0    1.9    0.1   21.9   18.1
 鶏若鶏ささ身   14.7    2.5    0.5    0.7    3.6
 豚肝臓   15.3   17.0     0.3    0.7    4.6
 鶏卵全卵生   13.4    1.7    0.3    0    1.8
 人乳(母乳)   15.0    0.5     2.1    0.1    0.5

 13.その他

 ・乳腺は、肝臓、脂肪組織などと同様、、脂肪酸合成が盛んな組織。

 ・母乳が、乳房に一杯溜まっていると、新たに、母乳は作られなくなる。

 ・母乳は、前乳(搾り始め)より、後乳(搾り終わり)の方が、脂肪分を多く含んでいる(脂肪分の割合が多くなる)。

 ・母乳は、初乳(出産5日以内)の方が成乳(出産30日以降)より蛋白を多く含むが、成乳の方が初乳より糖質(乳糖)や脂質(脂肪)を多く含んでいる。
 表4 ヒトの初乳と成乳の組成の相違(参考文献の林昌洋氏の表1を改変し引用)
 組成  単位  初乳(出産5日以内)  成乳(出産30日以降)  増減
 糖質  乳糖  g     5.3      7.3  ↑
 蛋白質  総蛋白  g     2.3     0.9  ↓
 カゼイン  mg   140   187  ↑
 ラクトフェリン  mg   330   167  ↓
 IgA  mg   364   142  ↓
 脂質  脂肪  g     2.9     4.2     ↑
 コレステロール  mg    27    16  ↓
 ビタミン  ビタミンA  μg    89    47  ↓
 βカロテン  μg   112    23  ↓
 ビタミンD  μg       0.04
 ビタミンE  μg  1280   315  ↓
 ビタミンK1  μg     0.23     0.21  ⇔
 ミネラル  カルシウム  mg    23    28  ⇔
 ナトリウム  mg    48    15  ↓
 カリウム  mg    74    58  ↓
 クロル  mg    91    40  ↓
 鉄  μg    45    40
 亜鉛  μg   540   166  ↓
 pH     7.7     6.8  ↓
 14.腸内細菌
 有用な腸内細菌は、ビタミンや蛋白を合成し、宿主は利用している。他方で有害な腸内細菌は、腐敗産物や毒素や発癌物質(アミン、アンモニア、硫化水素、フェノール、インドールなど)を合成し、宿主に障害を及ぼしている。
 新生児は、出生直後は、腸管内は無菌の状態だが、生後3〜4時間後には、糞便内に、Streptococcus、E.coli、Clostridium、酵母などが現れる。
 新生児は、哺乳開始をすると、腸内の細菌数が増加し、生後1日目の総菌数は1011/1g糞便以上になる。
 新生児は、生後3〜4日目頃から、Bifidobacteriumが出現し、最優先菌となる。
 新生児は、母乳栄養だと、腸内細菌は、Bifidobacteriumの増加が著しく(Bifidus菌叢の形成)、E.coli、Streptococcusなどの菌は1/100に抑制される。新生児は、人工栄養だと、腸内細菌は、Bifidobacterium(最優勢菌)の他、E.coli、Streptococcus、Bacteriodes、Clostridium、Veillonella、Lactobacillus、Bacillusなどの菌数も、母乳栄養児より多くなる。
 離乳期には、母乳栄養児も、腸内に、Bacteriodes、Eubacterium、Clostridium、Peptostreptococcusなどが増加する。
 胃酸が減少すると、腸内細菌は、E.coli、Streptococcusが増加し(優勢になる)、Bifidobacteriumは減少する。
 胆汁酸は、抱合胆汁酸は細菌の増殖を抑制しないが、遊離胆汁酸(抱合がとれた胆汁酸)は特定の種類の細菌の増殖を抑制する。
 Bifidobacteriumが腸内で増殖するには、エネルギー源(エサ)としての糖類(特に、フラクトオリゴ糖)が存在する必要がある。
 Bifidobacteriumが腸内から検出されない母乳栄養児(乳児)では、Bifidus菌拮抗球菌が存在することが報告されている。このBifidus菌拮抗球菌は、Bifidobacteriumを大量に投与する(内服させる)と、腸管内から排除される。

 15.おまけ
 子牛が下痢をした時には、親牛のエサに片栗粉をコップ一杯程度混ぜて、(親牛に)食べさせると、牛乳の成分が変わるのか、3〜4日程度、下痢が治るという。
 親牛が下痢をした時にも、エサに片栗粉をコップ一杯程度混ぜて食べさせると効果がある。
 
 注1:アメリカ小児科学会は、12カ月以前の乳幼児に、牛乳を飲ませることは、好ましくないと、勧告している(1992年)。牛乳は、Ca、Pの含有量が多いので、腸内で、鉄と不溶性の複合物を形成し、鉄の吸収を、阻害する。鉄の吸収率は、人乳(母乳)50%、牛乳3〜13%、牛肉40%、鶏肉40%、大豆9%、小麦粉10%、米9%、じゃがいも10%、とうもろこし粉4%、にんじん10%、ホウレン草2%と、言われる。

 注2:日本人では、母乳中のDHA含有量は0.63〜1.0%であり、米国、ドイツ、オーストラリアでの測定値に比して、2〜3倍高いと言われる。
 日本人女性の母乳中のDHA含有量が高いのは、日本人が食生活で、魚食をすることが、原因と推定されている。
 DHAを多く含む魚油は、うつ病や自殺の危険性を軽減する可能性が有ると言う。

 参考文献
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 ・山城雄一郎:改定「離乳の基本」について 小児科 37: 1307-1316, 1996年.
 ・西牟田守:ミネラル、微量元素の代謝特性 小児内科 22: 17-24, 1990年.
 ・山口規容子:母乳と人工乳−利点と欠点− 小児内科 22: 55-59, 1990年.
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 ・二木武:下痢とミルク スポット小児科医 No.8, 1993年(社団法人日本小児科学会広報委員会).
 ・一般成分の泌乳期変化 スポット小児科医 No.8, 1993年(社団法人日本小児科学会広報委員会).
 ・母乳中のビタミンEと多価不飽和脂肪酸 スポット小児科医 No.21, 1996年(社団法人日本小児科学会広報委員会).
 ・山城雄一郎:離乳食と鉄 スポット小児科医 No.22, 1996年(社団法人日本小児科学会広報委員会).
 ・水溶性ビタミンの泌乳期変化 スポット小児科医 No.22, 1996年(社団法人日本小児科学会広報委員会).
 ・母乳中に含まれる上皮成長因子 スポット小児科医 No.24, 1997年(社団法人日本小児科学会広報委員会).
 ・乳汁に含まれるガングリオシド スポット小児科医 No.25, 1997年(社団法人日本小児科学会広報委員会).
 ・母乳に含まれるガングリオシドの機能 スポット小児科医 No.26, 1997年(社団法人日本小児科学会広報委員会).
 ・母乳に含まれる免疫グロブリン スポット小児科医 No.28, 1998年(社団法人日本小児科学会広報委員会).
 ・香川芳子:五訂食品成分表2005(女子栄養大学出版部、2005年).
 ・香川綾:四訂食品成分表1992(女子栄養大学出版部、1992年).
 ・下条直樹、他:アトピー性皮膚炎の発症・増悪因子:乳幼児健診におけるアンケート調査から 日本小児科学会雑誌 2005年2月号、177-(95)(第108回日本小児科学会学術集会 一般演題 O-250).
 ・アトピー性皮膚炎の発症・増悪要因 Medical Tribune 2005年8月18日号、24-25頁.
 ・小林美智子:乳質と食事との関係(質疑応答) 日本醫事新報 No.4133(2003年7月12日)、96-97頁.
 ・永田智:母乳性血便症の臨床像と発症機序(質疑応答) 日本醫事新報 No.4217(2005年2月19日)、111-112頁.
 ・久原祐子:牛の下痢は片栗粉でとまる 現代農業 2005年11月号、49頁(農山魚村文化会館).
 ・駒沢勝:母乳の利点・欠点と母乳推進の論拠 小児科 Vol.27 No.3、347-353、1986年.
 ・愛するベビーに飲ませたい!おいしいおっぱいの作り方、Baby-mo、50-55頁、2006年6月号.
 ・林昌洋:授乳婦の服薬について、チャイルドヘルス、Vol.9 No.6、32-332頁(2006年6月号、診断と治療社).
 ・吉原昭次:下痢と細菌、小児内科、Vol.18 No.11、1655-1661頁.

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