ビタミン
糖質代謝:ビタミンB1、脂質代謝:ビタミンB2、蛋白質代謝:ビタミンB6
ビタミン類(ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビオチン、ナイアシン、パントテン酸)は、カルニチンや、CoQ10と同様に、グルコース(ブドウ糖)を糖質代謝して、TCA回路と呼吸鎖で、ATPなどのエネルギー源を生成したり、脂肪酸合成する際や、脂肪酸をβ-酸化により分解する(燃焼させる)脂質代謝により、NADH2+などのエネルギー源を得て、糖新生を行う為に、必要。
精白米を炊飯した御飯を中心とする和食は、ビタミンB1が不足するおそれがある。
1.ビタミンA
別名、レチノール(retinol)。淡黄色、脂溶性ビタミンで、酸化されやすい。
11-シス-レチナールは、視細胞で、オプシンと結合して、ロドプシンを構成する。光のエネルギーを吸収すると、11-シス-レチナールは、トランス-レチナールに変化する。そうすると、視細胞の膜透過性が変化し、電気インパルスが生じる。
植物に含まれるカロテノイド(プロビタミンA)は、小腸でビタミンAに転換され、吸収され、カイロミクロンと結合して、リンパ管を経て、血中に輸送され、カイロミクロンレムナントとして肝臓に取り込まれる。ビタミンAは、肝臓で加水分解され、レチノールとなり、肝臓の類洞の肝星細胞(伊東細胞)にレチノールエステルとして、貯蔵される。
ビタミンAが欠乏すると、暗順応(暗調応)が低下し、夜盲症になる。また、皮膚や粘膜の角質化や、易感染性が生じる。
ビタミンAが欠乏すると、感染症の罹患率や死亡率が高くなる。
皮膚や粘膜は、微生物の侵入を防ぐ、最初の防波堤だが、ビタミンAは、皮膚や粘膜の上皮細胞のケラチン生成を促進させる。
ビタミンAは、結核菌抗原に対するIL-2産生を増幅させる。しかし、βラクトグロブリンや旋毛虫に対するIL-2産生をは抑制する。ビタミンAが欠乏すると、IL-2やIFN-γ産生は、増強される。ビタミンAが欠乏するとNK細胞数やNK細胞活性は、低下する。ビタミンAが欠乏すると、好中球数は減少しないが、遊走能、粘着能、貪食能、殺菌能(活性酸素やカテプシンGの産生能)は、低下する。
2.ビタミンB1
別名、チアミン(thiamin:サイアミン)。国際純正応用化学連合(IUPAC)などの命名委員会は、thiaminと言う名称を採用したが、一般的には、thiamineと表記される。水溶性ビタミン。
ビタミンB1は、米ぬか(米糠)から、抗神経炎症の結晶として、Funk、Edie、鈴木梅太郎(日本)により、分離された。ビタミンB1は、鈴木梅太郎により、オリザニン(oryza sativa)とも、命名された。ビタミンB1は、抗神経炎の意味で、アノイリン(aneurin)とも呼ばれる。
ビタミンB1は、体内でリン酸化され、チアミンニリン酸(TDP、又は、TPPと略記)になる。TPP(チアミンピロリン酸エステル:thiamine pyrophosphate)は、TDP(チアミンニリン酸エステル:thiamine diphosphate)と同義。
ビタミンB1は、糖質代謝に重要:ビタミンB1は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ(α-ケトグルタル酸脱水素酵素:KGDH)、トランスケトラーゼの補酵素になる。
ビタミンB1が欠乏すると、疲れ易くなったり、脚気、Wernike脳症(ウェルニッケ脳症)を起こす。Wernike脳症では、眼球運動麻痺、歩行運動失調、意識障害を伴い、アルコール依存症で、ビタミンB1不足だと発症するが、高カロリー輸液投与時に、ビタミンB1を添加しないで発症したWernike脳症では、後遺症として、記憶障害が問題になっている。
ビタミンB1は、米ぬか(米糠)、乾燥酵母(ビール酵母など)、豚肉、卵黄、大豆(枝豆、納豆など)、ゴマ、のり、ウナギなどに、多く含まれいる。
ビタミンB1は、玄米の御飯(水稲めし)にも、比較的多量に含まれている(0.16mg/可食部100g)が、精白米の御飯には、殆ど含まれていない(0.02mg/可食部100g)。元々、ビタミンB1は、磨いだり、炊飯する前の玄米(水稲穀粒)には、0.41mg/可食部100gが含まれているが、精白米には、0.08mg/可食部100g含まれるに、過ぎない。玄米は、磨ぐこと(強洗)により、ビタミンB1を最大7.9%喪失するに過ぎない(軽洗〜強洗により、5.1〜7.9%喪失する)が、精白米は、磨ぐこと(強洗)により、ビタミンB1を最大54.2%喪失してしまう(23.2〜54.2%喪失する)。玄米は、炊飯により、ビタミンB1が、30%程度(29.8〜36.0%)減少するに過ぎないが、精白米は、炊飯により、75%〜80.0%減少してしまう。このように、精白米は、元々、ビタミンB1含量が玄米より少ない上に、磨いだり、炊飯することによる、ビタミンB1含量の減少が多いので、精白米の御飯は、ビタミンB1含量が、かなり低下してしまっている。19世紀末、(精白)米を主食とする東洋の国々で、脚気が蔓延した。1882年に、海軍の軍医監であった高木兼寛は、脚気の原因が食事にあると洞察し、航海での食事を洋風(パン食)にして、船員の脚気の発症を激減させた。玄米を精米した白米(精白米)の食事だと、ビタミンB1が不足しやすいので、強化米、玄米の方が良い。精白米を主食とする日本では、インスタント食品の多食や、偏食は、ビタミンB1欠乏を来たすことがある。
表1 食品のビタミン含量(可食部100g当たりの含量:四訂食品成分表1992と五訂食品成分表2005とから引用)
食品名 |
ビタミンB1 |
ビタミンB2 |
ナイアシン |
ビタミンB6 |
ビタミンB12 |
葉酸 |
パントテン酸 |
ビタミンC |
ビタミンE |
mg |
mg |
mg |
mg |
μg |
μg |
mg |
mg |
mg |
米ぬか(米糠) |
2.50 |
0.50 |
25 |
− |
− |
− |
− |
0 |
− |
玄米(水稲穀粒) |
0.41 |
0.04 |
6.3 |
0.45 |
(0) |
27 |
1.36 |
(0) |
1.3 |
玄米(水稲めし) |
0.16 |
0.02 |
2.9 |
0.21 |
(0) |
10 |
0.65 |
(0) |
0.5 |
精白米(水稲穀粒) |
0.08 |
0.02 |
1.2 |
0.12 |
(0) |
12 |
0.66 |
(0) |
0.2 |
精白米(水稲めし) |
0.02 |
0.01 |
0.2 |
0.02 |
(0) |
3 |
0.25 |
(0) |
Tr |
小麦粉(強力粉1等) |
0.10 |
0.05 |
0.9 |
0.07 |
(0) |
15 |
0.77 |
(0) |
0.3 |
食パン |
0.07 |
0.04 |
1.2 |
0.03 |
(Tr) |
32 |
0.47 |
(0) |
0.6 |
うどん(ゆで) |
0.02 |
0.01 |
0.2 |
0.01 |
(0) |
2 |
0.13 |
(0) |
0.1 |
そば(ゆで) |
0.05 |
0.02 |
0.5 |
0.04 |
(0) |
8 |
0.33 |
(0) |
0.2 |
鶏卵(全卵、生) |
0.06 |
0.43 |
0.1 |
0.08 |
0.9 |
43 |
1.45 |
0 |
1.1 |
鶏卵(卵黄、生) |
0.21 |
0.52 |
0 |
0.26 |
3.0 |
140 |
4.33 |
0 |
3.6 |
鶏卵(卵黄、ゆで) |
0.19 |
0.51 |
0 |
0.24 |
2.9 |
110 |
4.08 |
0 |
3.6 |
鶏卵(卵白、生) |
0 |
0.39 |
0.1 |
0 |
0 |
0 |
0.18 |
0 |
0 |
鶏卵(卵白、ゆで) |
0.01 |
0.35 |
0.1 |
0 |
0 |
2 |
0.18 |
0 |
0 |
普通牛乳 |
0.04 |
0.15 |
0.1 |
0.03 |
0.3 |
5 |
0.55 |
1 |
0.1 |
豚肉(ロース、焼き) |
0.90 |
0.21 |
9.2 |
0.33 |
0.5 |
1 |
1.19 |
1 |
0.1 |
鶏肉(ささ身、生) |
0.09 |
0.11 |
11.8 |
0.60 |
0.1 |
10 |
3.08 |
2 |
0.2 |
鶏肉(ささ身、焼き) |
0.10 |
0.14 |
15.5 |
0.52 |
0.2 |
8 |
3.16 |
2 |
Tr |
さんま(焼き) |
Tr |
0.29 |
10.0 |
0.41 |
19.3 |
19 |
1.00 |
Tr |
0.8 |
糸引き納豆 |
0.07 |
0.56 |
1.1 |
0.24 |
Tr |
120 |
3.60 |
Tr |
1.2 |
ほうれんそう(生) |
0.11 |
0.20 |
0.6 |
0.14 |
(0) |
210 |
0.20 |
35 |
2.1 |
ほうれんそう(ゆで) |
0.05 |
0.11 |
0.3 |
0.08 |
(0) |
110 |
0.13 |
19 |
2.7 |
きゅうり(生) |
0.03 |
0.03 |
0.2 |
0.05 |
(0) |
25 |
0.33 |
14 |
0.3 |
きゅうり(ぬかみそ漬) |
0.26 |
0.05 |
1.6 |
0.20 |
0 |
22 |
0.93 |
22 |
0.3 |
ごま(乾) |
0.95 |
0.25 |
5.1 |
0.60 |
(0) |
93 |
0.56 |
Tr |
2.4 |
鶏卵では、卵黄に含まれるが、卵白には含まれない(注1)。精米した白米(精白米)の食事だと、ビタミンB1が不足しやすいので、強化米、玄米の方が良い。
肉類中のビタミンB1は、炒めて調理した場合、牛肉は61.0%、豚肉は50.0%減少してしまう。なお、肉類中のビタミンB1は、牛肉を煮た場合は60.0%減少するが、豚肉を揚げた場合は35.0%減少するに過ぎない。豚肉は、他の肉類(鶏肉や牛肉)より、ビタミンB1含量が多い。
魚類にも、ビタミンB1が含まれるが、さんま(秋刀魚)には、ビタミンB1は、殆ど含まれていない(秋刀魚等の魚類は、ビタミンB12を多く含んでいる)。貝類や、エビやイカのビタミンB1含量は、少ない。
大豆中のビタミンB1は、大豆を煮た場合には、50分間で、29.4%減少するが、焼いた場合には、2分間で、38.4%も減少してしまう。
野菜類(ホウレンソウ、玉ネギ)中のビタミンB1は、煮たり、油炒めしても、減少は、30%以内で、少ない。ホウレンソウのビタミンB1は、5分間煮た場合、28.4%減少(喪失+分解)し、油炒めした場合、20.8%減少(分解)する。ビタミンB1は、可食部100g当たり、ニンニク(にんにく、りん茎、生)には0.19mg、ホウレンソウ(ほうれんそう、生)には0..11mgも含まれているが、ニラ(にら、葉、生)には0.06mg、ネギ(根深ねぎ、葉、軟白、生)には0.04mg、玉ネギ(たまねぎ、りん茎、生)には0.03mgしか、含まれていない。
ビタミンB1は、アリシン(ニラ、ネギ、ゴマ、玉ネギなどに含まれる)と結合すると、アリチアミンになり、小腸から高率に吸収されるようになる。
ビタミンB1は、緑茶の抹茶には、0.60mg/可食部100g含まれているが、浸出液には、全く含まれていない。玄米茶(浸出液)や、麦茶にも、全く含まれていない。
ビタミンB1は、酒類でも、清酒、白ワイン、ウイスキーには、全く含まれていないので、常用飲酒(アルコール依存症)になり、偏食をしていると、ビタミンB1が欠乏し易い。なお、ビタミンB1は、淡色ビールには、0.02mg/可食部100g(100ml)、赤ワインには、0.01mg/可食部100g含まれている。
腸内細菌でも、乳酸菌や変形菌は、ビタミンB1を産生する。しかし、腸内細菌により産生されたビタミンB1の内、菌体に固定されている量が多く(60%)、腸管から体内に吸収されて利用される量は、少ない。
植物や動物組織には、ビタミンB1(チアミン)を分解する酵素アノイリナーゼを有するものが存在する。
アノイリナーゼ菌は、健康成人の約3%、幼児、学童の6.7%に、腸内細菌として存在している。乳児は、アノイリナーゼ菌を、保菌していない。
ビタミンB1は、アノイリナーゼ菌により分解されてしまうが、アリチアミンは、アノイリナーゼ菌により、分解されないという。
ビタミンB1(チアミン)は、主として、小腸上部から吸収される。チアミンは、高濃度では単純拡散により輸送され、低濃度では能動輸送される。
チアミンは、動物組織では、リン酸化され、特に、TPP(チアミンピロリン酸エステル)として存在し、少量は、遊離チアミン、TMP、TTPとして存在する。
TPPの(腸からの)吸収は、遊離チアミンより、悪い。
TPPは、静脈内に注射しても、細胞の細胞膜を通過し難い。
食品中のチアミンは、加熱、水洗い等により、減少する。ビタミンB1(チアミン)は、酸性の溶液中では、比較的安定だが(分解されない)、中性、又は、アルカリ性の溶液中では、加熱すると、容易に破壊(分解)されてしまう。チアミンの加熱による減少(破壊)は、中性、又は、アルカリ性の条件下で起こり易い。ビタミンB1は、中性、又は、アルカリ性で煮沸すると、一部分、分解するが、pH3程度の酸性では、比較的安定している(分解され難い)。ビタミンB1(チアミン)は、水溶性ビタミンなので、特に、アルカリ性の溶液中では、調理中に、水の中に喪失してしまう。なお、ダイズを煮て調理した場合、汁を別にしたビタミンB1残存率は71%に低下するが、汁を共にしたビタミンB1残存率は93%なので、ビタミンB1の喪失(分解)の程度は、強くない。ダイズを油揚げした場合のビタミンB1残存率は、85%(四訂食品成分表1992の326頁の59項より引用)。ビタミンB1は、アルカリ性の条件下で、フェリシアン塩、ブロムシアン塩等で酸化させると、チオクロームに変化し、紫青色の蛍光を発する(チオクローム蛍光反応は、ビタミンB1の微量定量に応用された)。ビタミンB1は、diazo化したp-アミノアセトフェノンと反応すると、紫赤色を呈する(この呈色反応も、ビタミンB1の微量定量に応用された)。
脚気(beriberi)では、浮腫、循環器症状、神経症状が現れる。神経症状は、脚気の初期は、知覚障害が主であるが、次第に、運動障害、神経麻痺、筋萎縮へと、進行する。脚気の自覚症状としては、全身倦怠感、下肢の重み感、四肢末端のしびれ感、動悸、胸部圧迫感、食欲不振が現れる。
ビタミンB1が不足すると、ピルビン酸が、ピルビン酸デヒドロゲナーゼにより、アセチル-CoAに変換されず、血液中に増加し、乳酸アシドーシスを来たす。
高カロリー輸液療法(TPN)中に、ビタミンB1が不足すると、乳酸アシドーシスを来たす(チアミン100〜400mgを投与する)。
高カロリー輸液療法中に、輸液にビタミンB1を配合しないと、ウェルニッケ脳症等、ビタミンB1欠乏症を来たすおそれがある。
医薬品等安全性情報(No.144)により、高カロリー輸液療法施行中は、必ずビタミンB1を投与をすることが、注意されている。
ビタミンB1は、亜硝酸塩を安定剤として含有するアミノ酸輸液製剤と配合すると、分解を受ける。
ビタミンB1を、3%アミノ酸液に混合すると、6時間後には、ビタミンB1残存率が、56.9%に低下してしまう。
ビタミンB1注射液(アリナミンFを含んだ注射液)を、注射器に吸引し、更に、血管穿刺等を行い、ビタミンB1注射液に血液が混じると、赤血球が凝集する。この赤血球の凝集は、可逆的であり、赤血球は、容易に解離する。
塩酸チアミン(医薬品名:メタボリン)は、融点(mp)は約245℃(分解):塩酸チアミンは、乾燥状態では、空気中で安定していて、120〜130℃で、2〜3時間加熱しても、殆ど、分解されない。塩酸チアミンは、pH2〜4の水溶液中では、比較的安定しているが、アルカリ性の水溶液中では、不安定で、分解される。
ウェルニッケ脳症(Wernicke's encephalopathy)では、眼球運動障害、運動失調、意識障害などの症状が現れる。ウェルニッケ脳症では、MRI検査を行うと、FLAIR横断像で、橋下部被蓋部、中脳周囲は左右対称性に高信号を呈する。
ビタミンB1は、水溶性なので、汗と共に、喪失してしまう(夏場の暑さや、スポーツに、ビタミンB1が喪失し易い)。
3.ビタミンB2
別名、リボフラビン(riboflavin)。黄色の結晶。リボフラビンは、既に1879年に、凝乳(カード:乳が固まって豆腐状になった物)を分離した牛乳中に存在する、黄緑色の水溶性の蛍光色素として、見出されていた。
ビタミンB2は、体内で、フラビンヌクレオチドである、FMN(flavin mononucleotide)と、FAD(flavin adenine dinucleotide)の一部となり、酸化還元反応で、水素(還元電子)の運搬体になる。
ビタミンB2は、脂質代謝に関与する。
また、ビタミンB2は、皮膚での、炭水化物や蛋白質の代謝に関与する。
その為、ビタミンB2が欠乏すると、口唇糜爛(びらん)、口角炎、口唇炎、口内炎、舌炎などの症状が現れる。
甘い物(糖分)を食べ過ぎると、糖分の分解の為、ビタミンB2が消費され、皮脂の分泌量が増加するという。また、ビタミンB2の欠乏は、過酸化脂質の増加を来たすという。
ビタミンB2は、八目ウナギ、強化米、乾燥酵母、レバー、糸引納豆、鶏卵(卵黄)、のりなどに、多く含まれている。
食品中のビタミンB2(リボフラビン)は、小腸(主に、回腸下部)で、Na依存性に吸収される。吸収されたビタミンB2は、大半が、小腸粘膜でリン酸化されFMNとなり、血液中を血漿アルブミンや血漿グロブリンと結合し、肝臓や腎臓に輸送され、FADに変換される。
ビタミンB2不足は、咽頭痛、口角炎、舌炎、脂漏性皮膚炎、角膜血管増生などを起こす。
ビタミンB2から誘導されるFMNやFADは、TCA回路や、電子伝達系を構成するので、ビタミンB2が不足すると、エネルギー生成障害が生じる。
動物では、(母親がビタミンB2不足の為、)妊娠中(胎生期)に胎児がビタミンB2不足だと、奇形(骨格異常、小顎症、口蓋裂、水頭症、心奇形など)を来たす。
グルタチオンペルオキシダーゼ-グルタチオン還元酵素系は、過酸化脂質を処理する。ビタミンB2から誘導されるFADは、グルタチオン還元酵素の補酵素なので、ビタミンB2(リボフラビン)不足だと、過酸化脂質処理能が低下する。実際に、ビタミンB2欠乏ラットは、グルタチオン還元酵素活性が低下し、血中過酸化脂質が上昇する。
食品中のビタミンB2は、普通の調理方法では、影響を受けない(分解されない)。例えば、肉類は、良く煮て調理しても、肉類中にビタミンB1残存率は70〜80%あり、喪失分の15%は、煮汁中に、存在する。なお、ビタミン残存率は、ジャガイモを丸ごと40分間蒸した場合、ビタミンB1とビタミンB2が、共に、96%、ビタミンCが74%。
ビタミンB2は、熱には比較的安定(熱では分解され難い)が、紫外線や可視光線によって、不可逆的に、変性してしまう。ミルク中のビタミンB2は、光(紫外線)により、著しく分解される。
ビタミンB2(リボフラビン)の代謝は、甲状腺ホルモン、アルドステロン、ACTH等、ホルモンにより、調節されている。
甲状腺機能低下症の患者では、肝臓のビタミンB2(リボフラビン)、FMN、FADが、減少している。
抗生剤、精神安定剤、ステロイドホルモン、アルコール等は、ビタミンB2と複合体を形成したり、FMNやFADを合成する酵素や、フラビン酵素や、リボフラビン結合蛋白質(RBP)を阻害したり、腸内細菌を抑制し、ビタミンB2欠乏(利用障害型)の原因となる。
ビタミンB2は、アルカリ、光で分解され易い。
血液中のビタミンB1やビタミンB2の濃度を測定するには、血液をヘパリンNa入り容器に入れ、遮光して、保存する(早朝空腹時に採血する)。
3.ニコチン酸(ビタミンB3)
別名、ナイアシン(niacin)。抗ペラグラ因子として、発見された。
ニコチン酸(注2)のアミド(ニコチンアミド)は、NAD+(nicotinamide adenine dinucleotide:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)、NADP+(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)の一部となり、酸化還元反応で、補酵素として、水素(還元電子)を運搬する。
NAD+が、2ケの水素原子で還元される際に、1ケの水素原子は、電子(e-)のみをNAD+に渡して、H+(プロトン)として、遊離する。
NAD++2H++2e-→NADH+H+
NADH+H+は、NADH2+と記される。
ニコチン酸は、生体内では、必須アミノ酸である、トリプトファン(Trp)から合成され、腸内では、腸内細菌から合成されるので、通常、ニコチン酸の欠乏を来たさない。
ニコチン酸が欠乏すると、ペラグラ(pellagra)を呈する。ペラグラは、皮膚炎、下痢、痴呆を3徴候とする。トウモロコシを主食としていると、トリプトファンが不足し、ペラグラになりやすい(トウモロコシが寄生したカビにより、ニコチン酸を分解され、ニコチン酸が欠乏する)。ミトコンドリアで、ピルビン酸を代謝するピルビン酸デヒドロゲナーゼ(ビタミンB1が補酵素)は、NAD+を必要とするので、ニコチン酸が欠乏すると、ブドウ糖の代謝に障害が生じ、乳酸が蓄積して、疲労しやすくなるという説もある。
ニコチン酸は、米ぬか(米糠)、乾燥酵母、魚(ブリ、サバ、アジなど)、タラコ(明太子は、水溶性であるニコチン酸の含量は、減少する)、レバーなどに多く含まれている。
ニコチン酸の誘導体のニセリトロール(薬剤名:ペリシッド錠)は、血清リポ蛋白異常を改善する:総コレステロール、VLDL-コレステロール、LDL-コレステロール、トリグリセリド(中性脂肪)、遊離脂肪酸27.8%を低下させ、HDL-コレステロールを上昇させる。なお、徐放性ニコチン酸は、低用量でも、肝障害を起こしたり、顔面紅潮などの副作用がある。
4.パントテン酸(ビタミンB5)
パントテン酸は、CoA(コエンザイムA:補酵素A)の構成成分で、脂質、糖質、アミノ酸代謝に重要。
パントテン酸が欠乏すると、エネルギー生成不全により、成長が停止したり、皮膚や毛髪が障害される。
パントテン酸は、大腸の腸内細菌によっても、合成されるが、このパントテン酸は、ヒトは利用出来ないという(大腸には、パントテン酸を取り込む能力がない)。
パントテン酸必要量は、乳児(0〜5カ月)では4mg(1g脂肪酸当たりのパントテン酸必要量は0.11mg)、中年(50〜60歳)では6mg(1g脂肪酸当たりのパントテン酸必要量は0.10mg)とされる。
機序は不明だが、パントテン酸(pantothenic acid)を投与して、細胞内のCoA量を増加させると、活性酸素の障害から生体を守る、グルタチオンの濃度が高まる。
ビタミンB6は、IgA抗体の産生を、増加させるという。
5.ビタミンB6
別名、ピリドキシン(pyridoxine)。ピリドキサール(pyridoxal)、ピリドキサミンpyridoxamine)も、ビタミンB6活性を有する。
ピリドキサールリン酸として、AST(GOT)などの補酵素として、働き、アミノ酸代謝や、各種物質代謝に関与する:ビタミンB6は、蛋白質代謝に関与する
ビタミンB6が欠乏すると、ペラグラ様皮膚炎(ペラグラは、ニコチン酸欠乏症候群)、痙攣、貧血、高コレステロール血症などがあるが、普通の食生活では、ビタミンB6欠乏になりにくい。
必須脂肪酸や、ビタミンB6(ピリドキシン)や、ビタミンB5(パントテン酸)が欠乏すると、肝臓に脂肪蓄積が起こる(脂肪肝)。アルコール常飲者では、ビタミンB6が欠乏し易い。アルコール常飲者では、ビタミンB1やビタミンA等のビタミンも、欠乏し易い。
抗結核薬のINH(イソニコチン酸ヒドラジド)は、ビタミンB6の代謝に拮抗するので、大量投与すると、ビタミンB6欠乏症状を呈する。抗生剤(抗生物質)、抗うつ剤(抗鬱剤)、経口避妊薬によるビタミンB6欠乏もある。
ビタミンB6大量療法は、West症候群の治療に、行われるが、ビタミンB6血中濃度が上昇し過ぎると、急性中毒により、横紋筋融解症を来たした症例報告がある。
ビタミンB6は、魚(ヒラメ、イワシ、サケなど)、肉類、クルミ、鶏卵、レバーなどに、多く含まれている。
ビタミンB6は、多くの腸内細菌で生成されるが、その量は少ない。
ビタミンB6は、内服(経口的に投与)した場合、殆ど全てが、小腸で吸収される(受動輸送)。
ビタミンB6は、ピリドキサール(PAL)、ピリドキシン(PIN)、ピリドキサミン(PAM)の3種類が存在する。ビタミンB6は、生体内では、5'-リン酸エステルとなり、リン酸ピリドキサール(PALP)、リン酸ピリドキシン(PINP)、リン酸ピリドキサミン(PAMP)として存在する。主として、リン酸ピリドキサール(PALP)が、代謝に関与する。
ビタミンB6(PALP)は、痙攣と関係する。ビタミンB6は、グルタミン脱炭酸酵素の補酵素であり、グルタミン酸(Glu)を、中枢神経の抑制性物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)に脱炭酸する。γ-アミノ酪酸(GABA)は、同じように、ビタミンB6(PALP)を補酵素とするGABAトランスアミナーゼにより分解され、succinic semialdehyde(SSA)となる。グルタミン酸(Glu)は、グルタミン酸脱水素酵素(GDH)により、α-ケトグルタル酸とアンモニアとから生成されるが、中枢神経系では、succinic
semialdehyde(SSA)も、グルタミン酸脱水素酵素(GDH)により、コハク酸に変換される。
6.ビタミンB12
別名、コバラミン(coblamin)。コバルト(Co)を含み、赤色を呈する。シアンと結合していて、シアノコバラミンとも呼ばれる。
ビタミンB12は、胃粘膜から分泌される内因子(intrinsic factor)と呼ばれる、糖蛋白と、複合体を形成し、回腸から吸収され、血中を、トランスコバラミンと呼ばれる蛋白と結合して輸送される。
ビタミンB12は、生体内では、補酵素として、メチルコバラミンと、アデノシルコバラミンの、2つの型で存在する:メチルコバラミンは、C1代謝に関与し、アデノシルコバラミンは、還元、転移、異性化などの反応に関与する。
ビタミンB12が欠乏すると、悪性貧血(pernicious amenia:巨赤芽球性、大赤血球性の貧血に、知覚異常、しびれ感などの神経症状を伴う)を呈する。ビタミンB12欠乏は、内因子欠損が原因の場合が多い。
ビタミンB12は、肉類、レバー、鶏卵、魚、貝など、動物性食品に多く含まれている。しかし、ビタミンB12は、植物性食品には、含まれていない(注3)。
7.ビタミンC
別名、アスコルビン酸(ascorbic acid)。水溶性ビタミン。
ビタミンCは、強い還元力を有する:酸化されると、デヒドロアスコルビン酸になる。
ビタミンCは、コラーゲン(注4)合成の際に、プロリンやリシン残基の水酸化に必要。
ビタミンCが欠乏すると、壊血病、皮下出血、易感染などを呈する。
ビタミンCは、,新鮮な野菜、果物、レバー、緑茶などに含まれている(紅茶には、含まれていない)。
ビタミンCは、好中球の機能を高め、好中球の機能の異常を改善する。
ビタミンCは、鉄の吸収に必要:鉄は、2価鉄となって吸収されるが、鉄を2価鉄の状態に保つのに、ビタミンCが必要。
ビタミンCは、加熱に弱いと言われるが、野菜を茹でた場合、熱により壊れる量は少ない。ビタミンCは、野菜によっては(キャベツ、玉ネギ、ネギ、菜類等)、煮汁(茹で汁)に、染み出す。ジャガイモ、サツマイモ、ニンジン等は、茹でても、含まれているビタミンCは、煮汁に染み出さない。
アスコルビン酸酸化酵素(アスコルビン酸オキシダーゼ:Ascorbate oxidase
:[E.C. 1.10.3.3]) 、別名Ascorbase(アスコルバーゼ、俗称:アスコルビナーゼ)は、ビタミンC(L-ascorbate)を、デヒドロアスコルビン酸(dehydroascorbate)に可逆的酸化(分解)する。
生の人参(ニンジン)、キュウリ(きゅうり)、カボチャに、多く含まれる。ニンジンジュースや、紅葉おろし(もみじおろし)は、Ascorbate
oxidaseにより、(還元型)ビタミンCが、減少するので、Ascorbate oxidaseを抑制する為、酢や、レモンを加える。
大根おろしのビタミンC残存率は、10分後にはおろした直後の85%に低下し、40分後には、76%に低下し、2時間後には53%にまで低下する。
ビタミンCは、アルカリ性の条件下では、CuやFeにより、酸化され易い。
血清中のビタミンCは、4℃では6時間、−80℃では21日間、安定している。
ビタミンCは、ビタミンB12や、ビタミンKを、不活化する。
ビタミンCは、ビタミンとして、壊血病を予防する作用以外に、抗酸化物質として電子を供与する作用があり、水溶液中で活性酸素を消去したり、脂質中のビタミンEラジカルをビタミンEに再生する。
ビタミンCは、種々の植物や動物は合成出来るが、ヒトやその他の霊長類と、モルモットは、合成出来ない。
8.ビタミンD
別名、カルシフェロール(calciferol)。
体内では、アセチル-CoAから、コレステロールが生成されるが、コレステロール生成の最終段階で生成される、7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)が、光(紫外線)にあたると、ステロールのB環が開裂して、コレカルシフェロール(ビタミンD3)となる。
ビタミンD3(カルシフェロール)は、生理活性は、有していない。
ビタミンD3(カルシフェロール)は、肝臓で、C-25位が水酸化されカルシジオールとなり、腎臓(近位尿細管細胞のミトコンドリア)で、C-1α位が水酸化され、活性型の(生理活性を有する)カルシトリオール、つまり、1,25-ジヒドロキシカルシフェロール、1,25-(OH)2ビタミンDとなる。
1,25-(OH)2ビタミンDは、小腸上皮細胞に作用して、カルシウムやリンの吸収を促進させ、骨組織に作用して、カルシウムの動員を促進させ、腎臓に作用して、カルシウムの再吸収を促進させる(注5)。
ビタミンDは、魚類(マグロ、カツオ、サバ、ブリ、サンマ、イワシ、サケ、シラス干し、メザシの順に多い)に多く含まれている。ビタミンDは、レバー、乳製品、卵黄などにも、含まれている。キノコ(シイタケなど)やカビなどの菌類は、エルゴステロール(プロビタミンD2)を含んでいて、紫外線に当たり還元されると、エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、さらには、コレカルシフェロール(ビタミンD3)となる。
ミルク(牛乳)を摂取しない菜食主義の人や、乳糖不耐症の人は、ビタミンD欠乏に陥りやすいと言われる。
ビタミンDが欠乏すると、くる病(クル病)になる。くる病になると、血漿カルシウムイオン(血漿Ca2+)が低下して、PTH(副甲状腺ホルモン)分泌が促進され、続発性副甲状腺機能亢進症(二次性副甲状腺機能亢進症)を来たし、腎尿細管からのリン(P)の再吸収が抑制され、血清リン(血清P)は低下する。くる病の未熟児の頭蓋骨は、押すと、トタン板のように、ペコペコしている。
9.ビタミンE
別名、トコフェノール(tocophenol)。
α型、β型、γ型、δ型があるが、α-トコフェノールが、最も、活性が高い。オリーブ油、サンフラワー油、サフラワー油は、主に、α-トコフェノールを含み、ゴマ油は、主に、γ-トコフェノールを含み、ダイズ油、トウモロコシ胚芽油は、主に、γ-トコフェノールを含むが、α-トコフェノールも多く含んでいる。
ビタミンEは、抗酸化作用を持つ。
ビタミンEが欠乏すると、動物実験では、不妊、筋萎縮(注6)などを呈する。
ビタミンEは、菜種油(なたね油)、アーモンドなどに多く含まれている。
ビタミンEを、所要量より多い量を投与すると、免疫機能(NK細胞活性、マクロファージ貪食能、ヘルパーT細胞活性)が増強される。
ビタミンEを、若者に投与すると、白血球の殺菌能(活性酸素の産生能)は、むしろ、低下する。
ビタミンEを、新生児に投与すると、好中球の貪食能が増強される。
ビタミンEが欠乏すると、細胞膜での過酸化脂質の生成が亢進し、活性酸素により、食細胞(好中球など)やリンパ球が障害され、免疫機能が低下する。ビタミンEが欠乏すると、細胞膜での過酸化脂質の生成が亢進すると、免疫抑制作用のあるPGE2の生成が増加して、T細胞の活性化が抑制される。
ビタミンEは、抗酸化物質であり、抗酸化作用がある。
ビタミンEは、脂溶性ビタミンだが、他の脂溶性ビタミンと異なり、摂取し過ぎても、過剰症が現れにくい。
ビタミンEなど抗酸化物質は、活性酸素による連鎖的脂質過酸化反応を停止させる。
10.ビタミンH
別名:ビオチン(biotin)。
ビオチンは、ピルビン酸カルボキシラーゼ、アセチル-CoAカルボキシラーゼなど、炭酸固定反応(カルボキシラーゼ)の補酵素として働く。
ビオチンは、肝臓(レバー)、胚芽、豆類、ロイヤルゼリー等に、結合型ビオチンとして、多く含まれている。結合型ビオチンは、膵液中のビオチニダーゼにより分解され、遊離型ビオチンに変換される。
ビオチン(遊離型ビオチン)は、主に、空腸で、吸収される。
母乳中のビオチン量は、母親の血清中ビオチン量より、約十倍高い。
ビオチンの欠乏は、湿疹、皮膚の落屑、舌乳頭萎縮などを呈する。
ビオチンは、多くの食品に含まれるので、成人では、ビオチンの欠乏は、起こらない。ビオチンは、腸内細菌により合成されるが、大腸粘膜にはビオチン吸収機能がない。食品に含まれる結合型ビオチンは、小腸(空腸)で、膵液中のビオチニダーゼにより分解され、遊離型ビオチンとなり、主に、空腸で、吸収される。
ビオチニダーゼ欠損症では、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)、脂漏性皮膚炎(seborrhemic dermatitis)、禿髪(alopecia)、失調などが見られる。難治性皮膚炎の患者は、ビオチニダーゼ欠損症(ビオチニダーゼが正常の10%以下の患者)で、血清中のビオチン値が著明に低下していることがある。ビオチニダーゼ欠損症の小児は、ビオチン(10 mg/24 hr)を投与すると、症状が、劇的に改善する。
鶏卵の卵白を生食すると、卵白に含まれるアビジン(avidin)とビオチンが結合して、生物利用性が低下する。その為、毎日、大量の卵白を摂取すると、ビオチン欠乏が起こる。
ビオチン欠乏は、動物での実験結果では、高頻度に奇形を発生させる。
11.ビタミンK
別名、ビタミンK1は、フィロキノン、ビタミンK2は、メナキシン、ビタミンK3は、メナジオン。
ビタミンKは、肝臓での血液凝固因子(プロトロンビンなど)の生成に必要。
ビタミンKは、腸内細菌により、合成される。
ビタミンKの欠乏は、腸内細菌叢が定着していない新生児や、抗生物質を連用している患者で起こりやすい。また、ビタミンKは、吸収に胆汁を要するので、胆道閉鎖、肝不全などでも、欠乏する。
ビタミンKが欠乏すると、出血傾向が現れ、新生児では、新生児メレナ(下血)、頭蓋内出血など、重症な疾患を引き起こす。人工栄養のミルクには、ビタミンKが添加されている。しかし、母乳は、ビタミンK含有量が少ない。新生児には、ケイツーシロップを予防投与する(ビタミンK2シロップ 2 mg/1ml を、10倍に希釈して 、出生24時間以内、6日目、1ヶ月後に内服させる)。
ビタミンKは、緑黄色野菜、納豆(ビタミンK2)、鶏卵、肉類、魚介類、海藻類(あまのり、ひじき、わかめなど)などに、多く含まれている。
ビタミンKは、腸管内で吸収された後、ビタミンAやビタミンEと同様に、カイロミクロンと結合して、リンパ管を経て、全身に輸送される。
ビタミンKが不足すると、軟骨へのカルシウム(Ca)沈着が阻害される。
妊娠初期に経口抗凝固薬(ワーファリンのようなビタミンK拮抗性抗凝固剤)を使用すると、ビタミンKが不足し、胎児の軟骨形成異常が生じる。
ビタミンKには、ビタミンK1(フィロキノン:植物由来)、ビタミンK2(メナキシン:細菌由来)、ビタミンK3(メナジオン:人工合成)が存在する。
ビタミンKは、カルボキシラーゼの補酵素(補因子):カルボキシラーゼは、血液凝固因子の前駆体蛋白質や、骨形成に関与する蛋白質のグルタミン酸残基に、CO2を結合させ、γ位のCをカルボキシル(-COOH)化し、γ-カルボキシグルタミン酸残基(Gla蛋白質)に変換する。
Gla蛋白質は、Ca2+結合蛋白。血液凝固因子(血液凝固蛋白質)のγ-カルボキシグルタミン酸残基にカルシウム(Ca2+:IV因子)が結合すると、血液凝固因子が血小板表面に吸着し、血液凝固反応が起こる。
12.葉酸
英語では、folic acid。構造上、プテロイルグルタミン酸とも呼ばれる。
葉酸は、抗貧血作用があり、ほうれん草から抽出された。
葉酸は、体内で代謝され、還元型の5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(FH4)になり、核酸のプリン合成、ピリミジン塩基合成、アミノ酸代謝などに作用する。葉酸は、細胞増殖に必須のビタミン。
葉酸が欠乏すると、巨赤芽球性貧血(megaloblastic anemia)、舌炎、うつ病などを呈する(注7)。
妊娠前から葉酸を投与すると、二分脊椎などの神経管異常の発生が抑制される。
葉酸は、ほうれん草、ブロッコリーなどの新鮮な野菜、レバー、落花生などに、多く含まれている。
葉酸は、アリカリ性の条件下で、可溶化しているので、酸性溶液中では、析出するおそれがある。
13.その他
・リポ酸(注8)、イノシトール(脂肪肝を防ぐ作用がある)、カルニチン、ユビキノン(CoQ)、ビオプテリン、フラボノイド類は、体内で、補酵素(注9)的作用を呈する、ビタミン様物質。
イノシトール(生のキャベツの葉に多く含まれる)は、髪の毛の細胞膜を構成し、髪の毛を健康に維持する。
・ビフィズス菌などの腸内細菌は、ビタミンB群(B1、B2、B6、B12)、ビオチン、ビタミンK、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸、イノシトールを合成する。他方、腸内細菌には、ビタミンB1やビタミンCを分解してしまう菌も存在する。
・脂肪酸が、アセチル-CoAとなって、ミトコンドリアのTCA回路で、代謝されるには、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3(ナイアシン、ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンH(ビオチン)、葉酸の、8種のビタミンが、全て、所要量、存在することが、大切。もし、どれか、1つのビタミンが欠乏すると、代謝が、円滑に進まない(注10)。
・乾燥肌と痒みを防ぐ為には、ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンEの摂取を心掛ける。
これらのビタミン類は、野菜や果実(ほうれん草、人参、にら、アスパラガス、枝豆、落花生等)に多く含まれている。
冬期には、カボチャが、これらのビタミン類を摂取するのに良い食材。
・ダイビタミックス注(DAIVITAMIX INJ.)は、1管(2ml)中に、塩酸チアミン(ビタミンB1:50mg)、塩酸ピリドキシン(ビタミンB6:100mg)、シアノコバラミン(ビタミンB12:1,000μg)が、含まれている。pHは、4.0〜4.5、浸透圧比(生理食塩水に対する比)は、3.0〜3.2。
ダイビタミックス注は、成人には、1日1回2mlを、皮下注射、筋肉注射、又は、静脈注射(20%ブドウ糖液20mlに添加)する。
ダイビタミックス注は、神経痛、末梢神経炎、末梢神経麻痺に、保険適応が、承認されている。
ダイビタミックス注は、慢性疲労時などに、20%ブドウ糖液20mlに添加して注射すると、体力が回復する(慢性疲労時には、腸からのビタミンの吸収が、低下するおそれがある)。
全てのビタミン製剤は、「単なる栄養補給の目的」で投与することは、保険で適応が承認されない。
・ビタミン剤は、天然の素材を用いた製剤と、人工的に化学合成された製剤とでは、効果が異なると言われる。ビタミン剤の効果は、天然の素材を用いた製剤の方が、人工的に化学合成された製剤より5倍高い。
ビタミンE(VE)は、α-D-トコフェノールは天然の素材を用いた製剤で、α-DL-トコフェノールは人工的に化学合成された製剤。
・ビタミンの半減期は下記表の如く。
表2 ビタミンの半減期(参考文献の雨海照祥氏等の表2を改変し引用)
|
水溶性 |
脂溶性 |
ビタミン名 |
B群 |
C |
葉酸 |
A |
D2 |
D3 |
E |
K |
半減期 |
数日 |
1時間 |
5時間 |
200〜300日 |
30日 |
1〜2日 |
16時間 |
数時間 |
注1:鶏卵1ケには、コレステロールが、250mg含まれている。
注2:ニコチン酸は、1867年に、Huberが、タバコに含まれる有毒成分の一つであるニコチンを、硝酸で酸化して得たのが、最初とされる。
注3:ベジタリアンのように、菜食を続けた場合、腸内細菌により、ビタミンB12が合成され、体内に吸収されるので、ビタミンB12は、欠乏しないという。
注4:コラーゲンは、筋肉では、筋線維を束ねている筋周膜や、皮(皮膚)の部分などに存在する。
コラーゲンは、65度以上の熱で収縮する。
コラーゲンは、動物の体を支持する役割があり、含まれるコラーゲン量は、動物の大きさに、ほぼ、比例するという:100g中の肉類に、鶏肉は0.6g、豚肉は0.95g、牛肉は1.05gのコラーゲンを含有する。
コラーゲンを食べると、変形性関節症の痛みが軽減したり、骨粗しょう症の骨減少が抑制されたり(骨密度が上昇する)、髪の毛が太くなったりする。これは、摂取されたコラーゲンが、胃腸で消化されて生成されるペプチドが、ペプチド輸送体により、血液中に吸収され、線維芽細胞を刺激し活性化させ、体内でのコラーゲン合成を促進させる為と、言われる。
注5:1,25-(OH)2ビタミンD3は、活性型ビタミンD3。
ビタミンD3には、免疫抑制作用がある。ビタミンD3は、単球・マクロファージのビタミンD3レセプターを介して、IL-12の産生を抑制し、T細胞機能を抑制する。また、活性化T細胞が産生するIFN-γは、マクロファージからビタミンD3を産生させる。このビタミンD3は、T細胞に作用して、IL-2、IFN-γなどの産生を抑制したり、角化細胞に作用して、IL-6、IL-8の産生を抑制する。
注7:廃用による筋萎縮では、筋線維の数が減少するのでなく、筋線維の太さが減少する。廃用による筋萎縮の程度は、遅筋(タイプI線維)の方が、速筋(タイプII線維)より、著明。また、速筋(タイプII線維)では、タイプIIのサブタイプが、タイプIIbから、タイプIIaへと、変化する。
注6:葉酸の不足は、血中ホモシステイン値の上昇を来たし、アルツハイマー病(認知症)の発症に、関連している可能性がある。
なお、神経細胞膜内コレステロール量が増加すると、Aβ(アミロイドβ蛋白)が、脳内で重合(凝集)し易くなり、脳内に蓄積し、アルツハイマー病(痴呆症、認知症)を来たすと考えられる。
注8:リポ酸は、チオクト酸、アルファリポイック酸(-lipoic acid)とも呼ばれ、肝臓や、発酵食品にも、含まれている。リポ酸は、腸内細菌によっても、生成されるので、欠乏症は、通常、生じない。リポ酸は、肝臓における脂肪酸のβ酸化を抑制し、血中の遊離脂肪酸や、中性脂肪が、上昇するという。
α-リポ酸(α-lipoic acid)は、ピルビン酸がアセチル-CoAになる代謝(Pyruvate dehydrogenaseが関与する)や、α-ケトグルタル酸がスクシニル-CoAになる代謝(α-ketoglutarate
dehydrogenaseaが関与する)において、ビタミンB1(Thiamine)、ビタミンB2、パントテン酸、CoA、FAD、NADなどと共に、補酵素として、アセチル基(CH3-C=O〜)の転移に関与し、α-ケト酸の酸化的脱炭酸を、促進させる(酢酸の生成や、TCA回路の代謝が、促進される)。
注9:補酵素(coenzyme)は、共同に(co)に、酵素(enzyme)と作用し、酵素の酵素作用を、補う作用のある有機物質。
酵素(複合タンパク質型酵素)の酵素作用が表れるためには、特異な構造を有する酵素蛋白(アポ酵素:apoenzyme)の他に、低分子量有機化合物を必要とする場合があり、そのような低分子量有機化合物を、補酵素(coenzyme)と呼ぶ。
多くの酵素は、特定の補酵素(非蛋白質性の有機化合物)が存在しないと、基質の反応を触媒出来ない。
補酵素(coenzyme)の多くは、電子の受容体(水素受容体)として、働く。
補酵素は、ビタミンから作られるものが多い。
補酵素としては、TPP(チアミンピロリン酸ド←ビタミンB1)、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド←ビタミンB2)、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド←ビタミンB3=ニコチン酸)、NADP+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸←ニコチン酸)、Coenzyme A(CoA:補酵素A←ビタミンB5=パントテン酸)、Coenzyme B6(PALP:ピリドキサールリン酸←ビタミンB6)、Coenzyme B12(補酵素B12←ビタミンB12)、Coenzyme F(Coenzyme Folate:テトラヒドロ葉酸:THF←葉酸)、Coenzyme
Q(CoQ:補酵素Q)、Coenzyme R(補酵素R:ビオチン)、ATP(アデノシン三リン酸)、α-Lipoic
acid(リポ酸)、S-Adenosyl-L-methionine(S-アデノシルメチオニン)、UDPG(UDPグルコース)が、知られている。
補酵素は、旧来、補酵素I(NAD+:DPN←1ニコチン酸アミド+1アデニン+2リン酸+2五炭糖)、補酵素II(NADP+:TPN←1ニコチン酸アミド+1アデニン+2リン酸+2五炭糖)、補酵素III(ニコチンアミドを含むヌクレオチドでシステインの酸化に関与。ニコチン酸アミドリボシッド-5'-ピロリン酸なる構造を有すると言われた)、補酵素A(CoA←パントテン酸+ATP)、補酵素F(5,6,7,8-テトラヒドプチロイル-L-グルタミン酸←葉酸)、補酵素Q(CoQ:キノン化合物)、補酵素R(ビオチン)に、分類されていた。
補酵素は、助酵素とも呼ばれた。
注10:8種のビタミンの内、ビタミンB1が、特に、欠乏しやすい。
豚肉に含まれるビタミンB1は、調理すると、肉汁中に溶けて、喪失しやすい。
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