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 電子伝達系と酸化的リン酸化
 ミトコンドリアmitochondria)では、電子を内膜に伝達させて、水素イオン(H+:プロトン)を膜間スペース(膜間腔)に輸送し(電子伝達系)、生じるプロトン濃度勾配(電位差、pH差)を用いて、共役(注1)的にATPの合成が行われる(酸化的リン酸化)。ミトコンドリア内は、電位は-180mV、pHは、8。
 これら全過程は、呼吸鎖(respiratory chain)と呼ばれている。

  電子伝達系では、電子が、酸化還元電位の低い物質(NADH2+0.315V)から、高い物質(O20.815V)に、伝達される。
 還元された酸素(O2)は、プロトン(H+)と結合して、水(H2O)が生成される。
 ミトコンドリアの内膜には、5つの複合体と、CoQ(補酵素Q、ユビキノン)、シトクロムc(チトクロームc)が存在する。
 CoQは、内膜内を自由に動きまわり、電子を伝達したり、プロトンを膜間スペースに汲み出す。
 
 哺乳類では、ATPの80〜90%は、ミトコンドリアでの酸化的リン酸により、生成される。
 ミトコンドリアは、ATPを合成して細胞の生を維持するだけでなく、アポトーシスに中心的な役割を果たして、細胞の死をも制御している。
 1.電子伝達系
 電子伝達系では、NADH2+やFADH2+の水素が酸化される。
 NADH2+は、解糖で生成されミトコンドリア内に還元当量が輸送されたり、TCA回路でアセチル-CoA(解糖や、脂肪酸のβ-酸化や、アミノ酸代謝で生成される)が代謝され生成されたり、脂肪酸のβ-酸化により生成される。
 FADH2は、脂肪酸のβ-酸化により、生成される。

 電子伝達系では、酸化還元反応により、電子は、酸化還元電位の低い物質(NADH2+0.315V)から、高い物質(O20.815V)に、伝達される。
 電子伝達系では、NADH2+として捉えられた、糖質や脂肪酸由来の還元当量(reducing equivalents)を、酸素に伝達し、水が生成される(NADH2+やFADH2+水素が酸化される)。
 電子伝達系では、TCA回路クエン酸回路)や解糖で産生されたNADH2+注2)や、コハク酸が、酸化され、電子(e-)が放出される。
 放出される電子(e-)が、内膜に存在する複合体間を、伝達される。

 電子伝達に伴い、水素イオン(H+:プロトン)が、膜電位に逆らって、膜間スペースに輸送される。その結果、ミトコンドリア内(マトリックス)は、電位は-180mV、pHは、8となる。
 伝達された電子が、酸素分子を還元させ、さらに水素イオンと結合させて、水が生成される。

 a.複合体I(NADH dehydrogenase、NADH-CoQ reductase)
 複合体Iは、FMN、Fe-Sを持つ。

 ミトコンドリアのマトリックスでは、ピルビン酸のTCA回路での分解や、脂肪酸のβ-酸化で放出される、水素原子が、酸化還元反応の補酵素である、NAD+(nicotinamide adenine dinucleotide)を還元し、NADH2+が生成される。
 なお、解糖で産生されるNADH2+が、細胞質ゾルから、ミトコンドリアのマトリックス内(マトリックス)に入るには、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル肝臓、心臓、腎臓など)や、グリセロリン酸シャトル(筋肉など、注3)を、使用する。

 複合体Iは、NADH2+注4)の2ケの水素イオン(H+)と2ケの電子(e-)を、CoQ(補酵素Q、ユビキノン)に伝達する。

 複合体Iと複合体IIは、脱水素酵素複合体。

  なお、複合体Iには、プロトンポンプの作用があり、プロトン(H+:水素イオン)を、マトリックスから、ミトコンドリア内膜を経て、膜間スペースに汲み出すと言う説がある。その場合、NADH2+の電子1対(2ケの電子)当り、4ケのプロトン(H+)を、膜間スペースに汲み出す、と考えられている(注5)。

 b.複合体II(succinate dehydrogenase)
 複合体IIは、TCA回路クエン酸回路)の、コハク酸脱水素酵素と同じで、FADと、Fe-Sを持つ。
 複合体IIは、コハク酸から、2ケの水素イオンと2ケの電子を、FADを介して、CoQユビキノン)に伝達し、還元型のCoQH2(ユビキノール)が出来る。
 コハク酸+FAD→フマル酸+FADH2
 FADH2+CoQ→FAD+CoQH2(電子は、FAD→Fe3+S→CoQと伝達される)

 脂肪酸がβ-酸化される際に、FADH2が産生され(β-酸化では、NADH2+も生成される)、電子伝達フラビンタンパク質 (ETF:electoron transfer flavoprotein)を経て、電子が伝達される。
 c.複合体III(cytochrome bc1 complex)
 シトクロムbc1複合体、シトクロム還元酵素とも呼ばれる。
 還元型CoQ(CoQH2、ユビキノール)は、複合体IIIのシトクロムbに、2ケの電子を伝達し、2ケの水素イオンを膜間スペースに汲み出し、酸化型CoQに戻る。
 この際、2ケの電子の内、1ケは、複合体IIIのシトクロムc1を経て、ミトコンドリア内膜の膜間スペース側に存在するシトクロムcに伝達される。もう1ケの電子は、シトクロムb内を移動して、酸化型CoQに伝達され、一電子還元する。この還元型CoQ(CoQ・-のラジカル)は、マトリックス側から2ケの水素イオンを取り込み、膜間スペースに水素イオンを汲み出すという(Qサイクル)。

 d.シトクロムc
 シトクロムc(チトクロームc)は、ミトコンドリア内膜の膜間スペース側に表在する可溶性蛋白質。
 シトクロムcは、ヘム鉄を色素部分に持っている。
 複合体IIIから1ケの電子を受け取り、複合体IVに伝達する。
 Fe2+(還元型)⇔Fe3+(酸化型)+e-

 シトクロムc(チトクロームc)は、アポトーシスの際に、ミトコンドリアから放出される。

 e.複合体IV(cytochrome oxidase)
 シトクロムcオキシダーゼ、シトクロムaa3複合体とも呼ばれる。
 シトクロムcから、複合体IVに渡された電子により、酸素分子(O2)が四電子還元され(four-electron reduction:Fea33+−O-−O-−CuB2+)、さらに、マトリックスから取り込まれた水素イオン(H+)と結合して、水(H2O)が生成される。
 この際、一部の酸素分子(O2)は、一電子還元(one-electron reduction)されて、スーパーオキシド(O2-)と言う活性酸素(reactive oxygen species:ROS)になる(注6):O2+e-→O2-
 シアンイオン(CN-)、硫化水素(H2S)は、複合体IVを阻害し、毒性を示す。

 このように、NADH2+からは、電子が、NAD+→複合体I(FMN→Fe3+S)→CoQ→複合体III(シトクロムb→Fe3+S→シトクロムc1)→シトクロムc→複合体IV→O2と、酸化還元電位の低い物質から高い物質の方に、伝達される(注7)。

 また、このように、電子伝達された電子により、酸素(O2)が還元されて、H2O)になる。呼吸で排出される二酸化炭素CO2)の酸素原子(O)は、糖(グルコースC6H12O6など)由来であり、空気中の酸素(O)由来ではない(注8)。
 C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O

 グルココルチコイド(副腎皮質ホルモン)のハイドロコーチゾン(hydrocortisone)、プロドニゾロン(prednisolone)、
デクサメサゾン(dexamethasone)は、複合体IVを阻害(inhibit)する。
 IFN-γは、活性化マクロファージに、iNOS(inducible nitric oxide synthase)を誘導し、産生されるNOは、複合体IVを抑制する。なお、IFN-γは、複合体IのサブユニットであるNDUFV1の発現を抑制する。
 炎症に関与するPGE2の原料になるアラキドン酸は、複合体Iと複合体IIIを、選択的に阻害し、ミトコンドリアの過酸化水素(hydrogen peroxide)産生を、有意に高める。不飽和脂肪酸の方が、飽和脂肪酸より、阻害作用が強い。このように、炎症と、酸化的リン酸化(OXPHOS)との間には、関連がある(Vane等)。

 2.酸化的リン酸化(mitochondrial oxidative phosphorylation:OXPHOS)
 上記のように、電子伝達系の過程で、マトリックス側から膜間スペース側に水素イオンが輸送される(外膜は、水素イオンを透過させるので、マトリックスの水素イオン濃度が低くなる)。
 その結果、プロトン(H+)濃度勾配が、ミトコンドリア内膜を隔てて、膜間スペースとマトリックスの間に、生じる。なお、プロトン(H+)は、ミトコンドリア外膜を自由に通過出来るので、膜間スペースは、細胞質ゾルと、トポロジー的に、同等である。

 f.複合体V(F1F0-ATPase、ATP合成酵素、H+-ATPase)
 ミトコンドリアの膜間スペース側から、ATP合成酵素である複合体Vを経て、マトリックス側に3ケのH+が流れる際に、1ケのATPが合成される。複合体Vは、モーター分子で、1秒間に100回以上、回転(左回り)して、ATPを合成している。
 ATPやADPは、ミトコンドリア内膜を通過出来ないので、搬入・搬出は、ATP/ADPトランスロカーゼによって行なわれるという。
 プロトン濃度勾配を利用して、ATP合成酵素がATPを合成する仕組みは、植物が光合成に際して、葉緑体のチラコイドで、ATPを合成する光リン酸化(photophosphorylation)の仕組みに近似している(注8)。

 3.呼吸鎖の活性
 ミトコンドリアの呼吸鎖(電子伝達系と酸化的リン酸化)の活性(効率)は、訓練(持久運動など)によって、適応的に増強される。
 普段、余り運動をしていない人は、ミトコンドリアの呼吸鎖の活性(酸化活性)が弱い。普段、余り運動をしていない人は、β-酸化活性(脂肪酸をβ-酸化で分解する能力)も、非常に弱い。β-酸化活性は、高脂肪食(長鎖脂肪酸)や特殊な脂質化合物(の摂取)によって、増強される(酵素の転写が、誘導される)。β-酸化活性は、運動などの訓練で、増強するには、血中の遊離脂肪酸濃度が高くなる空腹時(低血糖時)に行うのが良いと言う。

 4.UCP
 UCP(uncoupling protein)は、ミトコンドリアにある脱共役蛋白質で、様々な刺激により熱を作る。
 食物由来(糖質や脂質由来)のエネルギー基質(NADH2+など)は、ミトコンドリアで、ATP(高エネルギーリン酸化合物)に変換される。エネルギー基質のエネルギーの内、ATPに変換される効率(変換効率)は、たかだか40%程度と言われ、半分以上は、熱に変換される(熱産生)。産生される熱は、体温調節に寄与する。
 代謝の活発な臓器(肝臓など)では、自動車のエンジンが熱を持つように、熱も多く産生される。発汗の機構が上手く作動しないと、熱中症など、欝熱による障害が生じる。

 1).UCP1
 UCP1は、褐色脂肪組織に特異的に存在し、熱産生機能を果たす。褐色脂肪組織は、非ふるえ熱産生により、熱産生を行う(骨格筋は、ふるえ熱産生により、熱産生を行う)。
 UCP1は、熱産生能力が高い。UCP1による熱産生は、ノルアドレナリンにより促進させられる:ノルアドレナリンによる刺激により代謝量が約10倍に増加し、細胞当たり約3ナノワットに相当する熱を産生する:組織1kg当たり約300ワット(300ワット/kg)の熱を産生する(哺乳動物の基礎代謝は、4.1ワット/1kg)。UCP1が欠損したマウスは、寒冷耐性が低下する:UCP1が欠損したマウスは、冷え症になり、通常の室内環境でも、末梢血管を収縮させ、熱放散を、抑制する。UCP1が欠損したマウスは、高脂肪食だと、加齢と共に、肥満になる(インスリン抵抗性を伴う)。
 
 2).UCP3
 UCP3は、骨格筋に発現している(UCP3が、熱産生能力を有するか、議論が分かれている)。
 UCP3の発現量は、運動により増加し、老化と共に減少する。
 UCP3遺伝子やUCP1遺伝子の発現量は、甲状腺ホルモンのトリヨードサイロニン(T3)により、増加させられる(T3は、骨格筋や褐色脂肪組織の熱産生の調節に関与している可能性がある)。

 5.甲状腺ホルモン
 甲状腺ホルモン(thyroxin)は、酸化的リン酸化を、促進させる。
 甲状腺機能亢進症では、トリヨードサイロニン(triiodothyronine:T3)により、心臓でのATP消費が増加するが、ATP生成(酸化的リン酸化により生成される)と、筋肉収縮(ATPが消費される)よりも、熱産生(thermogenesis)の方に、膜電位(膜のエネルギー)が、使用される。

 ミトコンドリアには、甲状腺ホルモンと高い親和性で結合する受容体が存在する。
 甲状腺ホルモンは、ラットの腎臓で、細胞質の蛋白を介して、ミトコンドリアの蛋白合成を促進させる。
 甲状腺ホルモンは、ラットの心筋細胞で、細胞質において、抑制性物質の量を増加させ、ミトコンドリア外膜に存在するMAO(モノアミンオキシダーゼ)活性を抑制する。

 6.シトクロムc オキシダーゼ欠損症
 シトクロムc オキシダーゼ(cytochrome c oxidase:CCO)が、先天的に欠損したシトクロムc オキシダーゼ欠損症(cytochrome c oxidase deficiency)では、乳児期早期から著しい筋緊張低下、蛋白尿、尿糖などが見られる。
 ミトコンドリアに異常がある筋線維は、光学顕微鏡所見(modified Gomori trichrome染色)では、多くが赤染し、少しぼろぼろとした感じがする(ragged-red fiber)。
 電子顕微鏡所見では、ミトコンドリアの形態異常が見られる:ミトコンドリアは、巨大で、クリステが複雑に増加している。

 ミトコンドリアの形態異常は、CPT欠損症、カルニチン欠損症、電子伝達系の異常(CCO欠損症等)で、見られる。

 7.その他
 ・細菌(大腸菌)が、グルコースと無機塩類を用いて、細胞成分1gを合成するには、ATPは僅か34.8mmol必要とするに過ぎない(ATPを1mol用いて、細胞量30gが合成される)。
 細胞成分の合成に利用される34.8mmolのATPの内、19.1mmol(56%)はアミノ酸を重合して蛋白質を合成するのに、利用される。
 グルコースからアミノ酸を生成するのに要するATP量は、1.4mmol(約1/10量)と言われる。

 注1:電子伝達系と酸化的リン酸化は、共役」(coupling)しているので、酸化的リン酸化でATPが合成されないと、電子伝達が起こらない。
 2,4-ジニトロフェノールは、脱共役剤:2,4-ジニトロフェノールは、ミトコンドリアの内膜を通過出来る。2,4-ジニトロフェノールは、膜間スペースで、水素イオン(プロトン:H+)と結合して、生じた非解離型は、マトリックスに移行する。その結果、電子伝達で生じる、プロトン勾配がなくなり、ATP合成が阻害される。
 また、新生児や冬眠動物では、褐色脂肪組織の細胞のミトコンドリアで、プロトンが、複合体V(F1F0)とは異なるプロトンチャネルを通過して、マトリックスに流れる(脱共役する)ので、ATP合成より、熱産生(熱発生)が起こる。寒冷により、交感神経が刺激されると、脂肪分解が起こり、遊離した脂肪酸が、褐色脂肪細胞のミトコンドリア内膜に多量に存在する、thermogeninと呼ばれる脱共役蛋白質(uncoupling protein:UCP)を開き、膜電位(ミトコンドリアのプロトンの濃度勾配)を解消する。UCPは、サーモニゲン(熱発生タンパク)とも呼ばれる。そうすると、ATP合成が行われないが、脂肪酸など、基質の酸化が著しく亢進して、熱産生が起こる(脂肪酸のβ-酸化が促進され、熱エネルギーが放出される)。褐色脂肪細胞が破壊された動物は、気温が低下した際の体温維持機能が、低下する。また、褐色脂肪細胞が破壊された動物は、(熱産生によるカロリー消費が低下して、)体脂肪量や体重が増加する。
 体内の代謝で生じる生体エネルギーの内、ミトコンドリアでATPに変換される(筋肉などの仕事に利用される)分は、15〜20%と言われる(最大でも45%程度)。残りの生体エネルギーは、熱エネルギーに変換される(熱産生に利用される)。
 通常は、体内の代謝で生じる生体エネルギーは、ATP生成に利用され、なるべく、熱産生には、利用されないが、寒冷時などは、体温を低下させないように、熱産生を増加させる為、ATP生成を犠牲にして、生体エネルギーを熱エネルギーに変換する。ATPは、ミトコンドリアの呼吸鎖で生成されるが、脱共役することで、ATP生成を抑制し、熱産生を増加させる。
 サリチル酸などのNSAIDsは、PTPと言う、ミトコンドリアの内膜と外膜を貫通する穴構造を、開口させて、プロトンを、ミトコンドリア内に流入させ、膜電位を低下させ、アポトーシスで、細胞を死滅させてしまう。
 アポトーシスを惹起するPTPの開口(induction)は、Ca2+に依存する。その理由は、Bernardiの実験結果から、PTPの開口は、膜電位(the proton electrochemical gradient:刄ハH+)により制御されていて、Ca2+Camの増加)が、ミトコンドリア内で、膜電位(刄ハH+)を変化させて、PTPの開口(induction)を引き起こすためと、考えられる。
 Trost等の実験結果では、細胞外Ca2+濃度(Cao)が高いと、サリチル酸の毒性(ミトコンドリア障害作用)が、増強した。細胞外(extracellular)のカルシウムイオン濃度(Ca2+濃度)が高いと、サリチル酸の、毒性(ミトコンドリア障害作用)が、増強したカルシウム拮抗作用のある薬剤(verapamil、diltiazem、chlorpromazine、nifedipine、nisoldipine)は、サリチル酸の毒性(ミトコンドリア障害作用)を、阻害ないし軽減させた
 注2NADH2+は、TCA回路クエン酸回路)や、脂肪酸のβ-酸化で生成される。TCA回路では、ブドウ糖(解糖)、脂肪酸、アミノ酸から生成されたアセチル-CoAが分解され、NADH2+が生成される。

 注3NADH2+は、NADH+H+のこと。

 注4グリセロリン酸シャトルは、ミトコンドリア内膜の膜間スペース側(膜間部側)に存在し、以下に述べるような3ステップの反応(仕組み)で、NADH2+を、ミトコンドリア内に、輸送する。
 1).細胞質ゾル(サイトゾル)のNADH2+の電子(H)は、グルセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(3-ホスホグリセロールデヒドロゲナーゼ)により、ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)を還元し、NAD+と、グリセロール3-リン酸(グリセロール-3-リン酸、α-グリセロリン酸)が、生成される。NAD+は、解糖系で、再利用される。
 2).グリセロール3-リン酸の電子(H)は、ミトコンドリア内膜の膜間スペース側(膜間部側)で、フラボプロテインデヒドロゲナーゼにより、FAD+を還元し、FADH2+が、生成され、ジヒドロキシアセトンリン酸に戻る。
 3).FADH2+は、ミトコンドリア内膜で、電子(H)を、電子伝達系に送り込み、FAD+に戻る。

 注5:プロトンポンプは、ミトコンドリア内膜に存在している。プロトンは、酸化型プロトンポンプでは、プロトンポンプのマトリックス側のアミノ酸側鎖に結合している。
 酸化型プロトンポンプは、電子伝達で還元されると、構造(コンフォメーション)が変化して、プロトンが結合した解離基(アミノ酸側鎖)が、細胞質ゾル側に向きを変えて、プロトンを、膜間スペースに解離する。還元型プロトンポンプは、再酸化されると、構造が変化して、マトリックス側に向きを変える。
 このようにして、電子伝達で、酸化型プロトンポンプが、還元型に構造を変化することで、マトリック側から、膜間スペースに、NADHの電子1対当り、4ケのプロトンを、汲み出す(輸送する)と言う。 

 注6:複合体IVに渡された電子により、酸素分子(O2)が還元される際に、一部の酸素分子は、一電子還元され、スーパーオキシド(O2-)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシルラジカル(HO・)など活性酸素(ROS)が、発生してしまう。
 活性酸素は、複合体IIIでも、電子(プロトン)が、CoQ(ubiquinone)、シトクロムb、シトクロムc1の間を、行き来する間に発生する。複合体IVで発生する活性酸素の量よりも、複合体IIIで発生する活性酸素の量の方が、多いと言う。
 複合体Iでも、活性酸素が発生する。

 注7酸化還元電位が負の物質は、電子親和力が水素より低く、電子を与え易い。
 酸化還元電位が正の物質は、電子親和力が水素より高く、電子を受け取り易い。
 電子伝達系では、NADH2+から1/2O2に、2ケの電子が伝達されるが、NADH2+(-0.315V)とO2(+0.815V)との間には、1.13V(ボルト)の電位差がある。電子1molが、1Vの電位差の間を移動すると、-96.5kJの電気エネルギー(自由エネルギー:ΔG)が、放出されるので、自由エネルギー変化ΔGo'は、-222kJ/mol。
 電子は、電子伝達系では、 エネルギー準位が高いところ(酸化還元電位が低い物質:NADH2+)から、低いところ(酸化還元電位が高い物質:O2)へと流れ、その際に放出されるエネルギー(ΔGo')が、プロトンの輸送に用いられる。
 標準酸化還元電位
 酸化還元系  Eo' (V)
 ピルビン酸→酢酸+CO2  -0.70
 酢酸+3H++2e-→アセトアルデヒド+H2O  -0.581
 H++e-→1/2H2  -0.421
 NAD++H++2e-→NADH  -0.315
 FAD+2H++2e-→FADH2(遊離の補酵素)  -0.219
 ピルビン酸 + 2H+ + 2e-→ 乳酸  -0.185
 オキサロ酢酸+2H++2e-→リンゴ酸  -0.166
 FAD+2H++2e-→FADH2(フラボタンパク中)  -0.
 ユビキノン+2H++2e-→ユビキノール  +0.045
 1/2O2+2H++2e-→H2O  +0.815
 金属のイオン化傾向は、金属元素が有している、酸化還元電位の大小の順を、示している。
 イオン化傾向:貸そう(K)か(Ca)な(Na)、ま(Mg)あ(Al)あ(:Zn:亜鉛)て(Fe:鉄)に(Ni)すん(Sn)な(Pb:鉛)、ひ(H)ど(Cu:銅)す(Hg:水銀)ぎる(Ag:銀)借(Pt:白金)金(Au:金)

 注8:ギブズ(Gibbs)の自由エネルギーは、CO2:-394.36kJ mol-1H2O:-237.13kJ mol-1C6H12O6:-910kJ mol-1なので、
 C
6H12O6+6O2→6CO2+6H2O
 の反応では、2880kJ
発生する。
 生体は、効率良くATPを生成するが、物質代謝で生じる総エネルギーのうち、ATPに変換出来るのは、45%以下と言われる:熱機関(蒸気機関車)の効率が、10%程度であることを考えると、生体のATPへのエネルギー変換効率は、非常に良い(最近では、熱効率は、ガソリンエンジンが25%程度、ディーゼルエンジンが30%程度と言われる)。残りの55%以上のエネルギーは、熱エネルギーに変わり、体熱として、体表面から拡散されてしまう。食物中のエネルギー量を100%とすると、95%が自由エネルギー(エネルギー量の5%は、エントロピー変化により熱量に変わる)として取り出され、最大45%が、ATPに変換される。ATPに変換された自由エネルギーは、生合成、(筋肉)運動、能動輸送などの生体の仕事に、使用される。50%のATPに変換されなかった自由エネルギーや、生体の仕事に使用されたATPから、熱量が、生じる(熱産生が起こる)。
 なお、ATPの代謝では、下記のような自由エネルギーが発生する。
 MgATP2- + H2O ⇔ MgADP- + Pi2- + H+ :-30.3 kJ mol-1
 ATP4- + H2O ⇔ AMP2- + PPi3- + H+ :-37.4 kJ mol-1
 ADP3- + H2O ⇔ AMP2- + Pi2- + H+ :-36.3 kJ mol-1
 AMP2- + H2O ⇔ adenosine + Pi2- :- 9.6 kJ mol-1
 PPi3- + H2O ⇔ 2 Pi2- + H+ :-33.4 kJ mol-1
 

 1日2,550Kcalを消費するヒトでは、ATP(分子量=約500、加水分解エネルギー=7.3Kcal/mol)合成の変換効率を50%とすると、1日に175mol(87kg)のATPが生成されることになる。体内に存在するATP量は、約100gなので、ATPは、合成・分解を繰り返している。
 ヒトの体内の肝臓や骨髄では、生成されたATPの90%以上が、体を構成する蛋白質、核酸、多糖類などの化学合成の為に、使用される。

 注8:植物には、光を感知する光受容体が存在する。
 光受容体には、赤色光(赤い光:R)を感知するフィトクロム、青色光(青い光)を感知するフォトトロピン、クリプトクロムが存在する。

 1).フィトクロム
 フィトクロムは、赤色光(赤い光:R)を感知して、発芽を促進する。赤色光を当てた後、遠赤色光(FR:far red)を当てると、発芽を抑制する(フィトクロムは、赤色光を感知して、発芽を促進させ、遠赤色光を感知して、発芽を抑制する)。
 フィトクロムが、赤色光を感知すると、茎の伸びを押させ、葉を広げさせる。フィトクロムが、遠赤色光を感知すると、茎を伸張させる。
 フィトクロムAは、弱い光を波長に関係なく感知している。フィトクロムBは、光の波長を見分けている。フィトクロムBが、赤色光を感知し、発芽や、茎の伸張に関与している。フィトクロムBは、赤色光を感知すると、核内に移行し、信号を伝達する。光受容体(光受容蛋白質)のフィトクロムBは、赤色光により活性型に変化し(発芽を促進する)、遠赤色光により不活性型に変化する(発芽を抑制する)。
 赤色光(R)>遠赤色光(FR)だと、植物の伸長が抑制され、発芽(花芽分化)が促進される(メガクール)。
 赤色光(R)<遠赤色光(FR)だと、植物の伸長が促進され、発芽が抑制される(青ポオパオ)。

 2).フォトトロピン
 フォトトロピンは、青色光(青い光)を感知する。葉緑体は、細胞内で、活発に動いているが、強い光を感知すると、細胞内で、周辺(細胞膜近く)に逃げて行き、光が弱くなると、細胞の中心に戻って来る(光定位運動)。
 フォトトロピン2が、青色光を感知すると、光定位運動が起こる。

 3)フィトクロム3
 シダは、フィトクロム3を有していて、フィトクロムのように赤色光(赤い光:R)と、フォトトロピンのように青色光(青い光:B)の両方を感知する。
 赤色光(R)<青色光(B)だと、葉菜類の伸長が促進する(青の太陽:夏)。
 赤色光(R)>青色光(B)だと、長日花卉類の開花が促進する(赤の太陽:冬)。
 太陽光は、夏には、波長の短い青色の光の割合が増加し(青の太陽)、反対に、冬には、波長の長い赤色の光の割合が増加する(赤の太陽)。従って、植物は、夏場には、青の太陽により伸長し(茎が伸びる)、冬場からは、赤の太陽により花芽を付ける。

 赤色発光ダイオードの赤色光(R)を葉緑素(クロロフィル)に照射すると、光合成が促進され、食部酢の茎や葉が伸長する(赤色光は、植物を伸長させる)。
 青色発光ダイオードの青色光(B)を葉緑素(クロロフィル)に照射すると、植物の茎が太くなったり、葉が厚くなったりする(青色光は、植物の葉や茎を太くする)。

 昆虫は、300nm程度の波長の光(遠紫外線)を好むので、誘虫灯は、この波長の光で虫を引き寄せる。

 参考文献

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