COXとNSAIDs
アラキドン酸が、アラキドン酸カスケードで、シクロオキシゲナーゼ(COX)により代謝されて、プロスタグランジン(PG)が合成される。
消炎鎮痛剤であるNSAIDs(インドメタシン、アスピリンなど)は、PGE2合成を阻害し、痛み(疼痛)や腫脹を抑制する。PGE2は、炎症促進作用により、疼痛や、発熱などを来たすがPGE2は、炎症抑制作用(免疫抑制作用)があり、炎症性サイトカインの産生を、抑制する。従って、NSAIDsにより、PGE2の合成が阻害されると、疼痛が緩和したり(鎮痛作用)、解熱する(解熱作用)が、炎症性サイトカインによる炎症(組織破壊など)は、進行するおそれが考えられる。
1.プロスタグランジン(PG)には、炎症作用、発痛作用、発熱作用がある
組織損傷は、細胞膜ホスホリパーゼA2を活性化させ、アラキドン酸を遊離する。
マクロファージから産生される、インターロイキン-1(IL-1)は、血管内皮細胞や髄膜の細胞に、COX-2活性を誘導し、PGE2やPGD2が、合成される。
IL−1βは、NF-kBの発現を介して、COX-2と、EP3受容体のmRNAの発現を、増加させる。COX-2により産生されたPGE2は、EP3受容体に結合し、cAMPを低下させ、ブドウ糖(グルコース)によるインスリン分泌を、抑制する。
PGE2、PGI2は、ブラジキニンの血管拡張作用を増強し、発赤を引き起こし、炎症が起こる。
発痛物質のブラジキニンが、B2受容体に結合すると、痛みが感知される。
PGE2、PGE1、PGI2は、発痛増強物質で、痛覚閾値を低下させ、ブラジキニンの発痛作用を増強する。
知覚神経が直接刺激される痛みと異なり、PGによる発痛は、外傷を受けてから、痛みを感じるまで、PGが合成される時間を要する。
PGE2は、視床下部の体温調節中枢に作用して、体温のセットポイントを上昇させ、熱産生が増加するので、発熱が起こる。
なお、PGD2には、催眠誘発作用がある。そのため、カゼなどで発熱した時に、眠くなって、体を休息させようとする。PGE2は、逆に、覚醒作用(睡眠阻害作用)がある。
また、アラキドン酸が5-リポキシゲナーゼで代謝されて合成される、ロイコトリエンB4(LTB4)は、ブラジキニンの発痛作用を増強する。
2.COXには、COX-1とCOX-2がある
a.COX-1
COX-1は、どの組織(胃粘膜、血管内皮、血小板、腎など全身)の細胞(小胞体)にも、活性型として常に一定量存在する、構成型の酵素。
COX-1は、正常状態では、恒常的に、血管内皮細胞や胃粘膜上皮細胞に発現されている。
COX-1は、胃粘膜保護(PGE2やPGI2を産生して、胃粘膜の血流を維持したり、粘液産生を増加させる)や、血小板凝集の抑制(PGI2の産生)や、腎血流量の増加などの、生理機能の維持に関与している。
腎髄質で合成されるPGE2には、腎血管を拡張し、腎血流を維持する作用がある。
血小板でのトロンボキサンA2(TXA2)の合成は、主にCOX-1による。
COX-1活性を阻害すると、胃粘膜障害、腎障害(腎機能の低下)、出血傾向(PGI2よりTXA2の合成が阻害された場合)などの副作用を来す。
アスピリンは、COX-1阻害活性が強い。
COX-1は、糖質コルチコイド(ステロイド剤)により、遺伝子の発現が、抑制されない。
b.COX-2
COX-2は、サイトカイン(特にIL-1やTNF-α)などの刺激により、一過性に核内で産生され、核膜に存在する誘導型の酵素で、炎症細胞(マクロファージ、好中球、線維芽細胞、滑膜細胞など)に発現する(注1)。
刺激によりCOX-2が合成され、COX-2の酵素活性が発現するまでには、少なくとも1〜2時間必要。
COX-2の主要産物は、PGE2。
PGE2は、細胞内のcAMPレベルを上昇させる。cAMPは、ポジティブフィードバックで、COX-2を誘導する
COX-2は、PGE2を産生させ、血管透過性を亢進させ、炎症初期の血管滲出反応に関与する。
知覚神経で瞬時に感知するような、非炎症性の痛みには、COX-2は、関与していない。
細胞膜からアラキドン酸を切り出すホスホリパーゼA2(PLA2)も、COX-2と連動して誘導されるおそれがある。
非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)は、COX-2を選択的に阻害する薬剤の方が、胃粘膜障害、腎障害(腎機能の低下)、出血傾向などの副作用が少ないと考えられる。
しかし、胃潰瘍部位では、誘導されるCOX-2が、PG(特に、PGE2)を生成し、潰瘍の治癒に重要な役割をしていると考えられる。ひとたび潰瘍が発症した場合は、COX-2活性を阻害すると、肉芽形成や血管新生が抑制され、治癒が遅延する危険がある。
COX-2は、糖質コルチコイド(ステロイド剤)により、遺伝子の発現が、抑制される。
COX-2は、核の無い血小板には存在しない。
COX-2は、腎臓では常時存在している:COX-1は、腎髄質でNa量を調節し、COX-2は、腎髄質で濾過量や血流量を調節している、という。
COX-2は、脳や脊髄の内皮細胞(brain endothelial cells)にも存在している。
COX-2は、受精卵の着床の際に必要。
COX-2の遺伝子は、PKCに依存しており、発癌に重要な役割をしている。何故ならば、COX-2の過剰な発現は、アポトーシスを抑制し、腫瘍細胞の浸潤を増加させる。
COX-2の誘導には、cAMPが関連する。
PGE2は、細胞膜上のEP2受容体を刺激して、細胞内のcAMPレベルを増加させる。cAMPは、ポジティブフィードバックで、COX-2を誘導する。
表1 COX-1とCOX-2の比較(参考文献の大野氏の表5を改変し引用) 特性 COX-1 COX-2 mRNAのサイズ 3kb 4kb 遺伝子の局在 9番染色体上 1番染色体上 酵素の性質 構成酵素 誘導酵素(脳・腎では構成酵素) ステロイド剤の作用 殆ど阻害されない 強く阻害される 誘導因子 殆ど誘導されない サイトカインなど 生理作用 胃粘膜保護、血小板凝集、利尿、血流の維持など 炎症反応、血管新生、排卵、骨吸収、創傷治癒 3.非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)
インドメタシン(IND、医薬品名:インダシンなど)、ジクロフェナクナトリウム(医薬品名:ボルタレンなど)などのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬、非ステロイド系抗炎症薬、エヌセイド)は、COXの活性を阻害(COXの合成を阻害するのではない)し、アラキドン酸からPGH2が合成されるのを阻害し、PG合成とTX合成を抑制する。
その結果、NSAIDsは、鎮痛作用、抗炎症作用、解熱作用を現す。NSAIDsは、特に、疼痛や腫脹や発熱を引き起こす、PGE2合成を阻害する。なお、PGE2は、細胞内cAMPを上昇させ、情報伝達系の制御によって、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL‐1など)の産生を、抑制し、抗炎症作用(免疫抑制作用)を示す。従って、NSAIDsにより、PGE2の合成が阻害されると、疼痛が緩和したり(鎮痛作用)、解熱する(解熱作用)が、炎症性サイトカインによる炎症(組織破壊など)は、進行するおそれが考えられる。
なお、NSAIDsのCOX阻害作用は、アスピリンと異なり、可逆的。また、NSAIDsは、アスピリンとは、COX-1の異なる部分に結合するので、高分子のNSAIDsを先に投与すると、アスピリンの抗血小板作用が、阻害され得る。また、炎症の四徴の内、発赤や熱感は、ヒスタミンやセロトニンによって引き起こされるので、NSAIDsは、著効しない。
表2 NSAIDsの分類(参考文献の今日の治療薬のP207の表2と、疼痛コントロールのABCのS39の表1等から引用) 分類 薬剤一般名 特徴 酸性NSAIDs カルボン酸 サリチル酸 アスピリン、サリチル酸ナトリウム 血小板凝集抑制作用や中枢性鎮痛作用有する アリール酢酸 インドメタシン、ジクロフェナクナトリウム 効果比較的強い、作用の発現早い プロピオン酸 イブプロフェン、ナプロキセン、ロキソプロフェン 消炎、鎮痛、解熱作用を平均的に有し、副作用少ない フェナム酸 メフェナム酸、トルフェナム酸 鎮痛作用比較的強い エノール酸 ピラゾロン ケトフェニルブタゾン、クロフェゾン 作用時間長い、尿酸排泄能に優れる(痛風の疼痛に良い) オキシカム ピロキシカム、テノキシカム、アンピロキシカム 作用時間(血中半減期)長い 塩基性NSAIDs 非酸性 エピリゾール、チアラミド、エモルファゾン 抗リウマチ作用弱い、鎮痛作用も強くない NSAIDsは、5-リポキシゲナーゼの活性は阻害しない。他方、ステロイド剤は、5-リポキシゲナーゼの合成も阻害するという。
好中球の炎症巣への遊走・浸潤は、LTB4、補体、IL-8などにより起こる。従って、PGE2合成を阻害するNSAIDsは、好中球の炎症巣への遊走・浸潤を、抑制しない。
COX-2は、視床下部のPGE2の産生に、関与している。
感染症に罹患した際に、放出されるIL-1やTNF-αにより産生されるPGE2が、視床下部の体温中枢に作用して、発熱させる。そのため、COX-2活性を阻害するNSAIDsには、解熱作用もある。
NSAIDsは、ほとんどすべてが有機酸であり、血漿蛋白結合率が高い。炎症組織は血漿蛋白の透過性が高く、pHが低いため、NSAIDsの炎症組織中の濃度は高くなる。
NSAIDsの副作用は、用量依存性に起こり、胃腸障害(胃酸分泌の増加、粘液産生の低下)、抗凝固作用(TXA2合成阻害による血小板凝集の抑制)、肝障害、腎障害などがある。
NSAIDsは、腎血流量(RBF)を低下させ、糸球体濾過量を低下させ、腎障害を起こす。特に高齢者では、NSAIDsによる腎障害が現われやすい:Naや水分が体内に貯留する(注2)。
なお、腎臓では、糸球体でPGI2やPGE2、集合管でPGE2やPGF2α、髄質の間質細胞でPGE2、血管系でPGI2、というように、異なったPGが産生されて、腎機能を調節している。
PGE2は、生体を発熱させ、組織に腫脹、浮腫などを来たす炎症促進作用がある。反面、PGE2は、TNF-αや産生を抑制し、炎症抑制作用も、ある。従って、PGE2の産生を抑制するNSAIDsは、解熱鎮痛消炎作用を示すと同時に、血管内皮細胞障害など、炎症を促進させてしまうおそれがある。
インフルエンザ脳症を予防する為に、メフェナム酸を使った解熱剤を、インフルエンザに伴う発熱に対して、原則として、投与しないことになっている。
すべて、NSAIDsは、乳汁中に少量排泄される。しかし、米国小児科学会は、下記の薬は授乳中使用し得るとしている。
イブプロフェン(ブルフェン)、メフェナム酸(ポンタール)、ナプロキセン(ナイキサン)、トルメチン(トレクチン)、ピロキシカム(フェルデン、パキソ)、ケトロラク、
a.アスピリンの胃粘膜障害
アスピリン(アセチルサリチル酸)も、NSAIDsの一種。
NSAIDsには、消化性潰瘍を悪化させる副作用がある。これは、NSAIDsが、特にCOX-1を抑制して、胃粘膜保護作用(胃酸分泌抑制、胃粘膜血流増加、胃粘液分泌促進)のあるPGE2の産生を抑制するためとされている。
その他、アスピリンは、経口投与すると、一部は直接、胃粘膜から吸収され、副作用で、胃粘膜に糜爛(びらん)が形成される。この糜爛形成には、好中球が関与している。
ラットにアスピリンを経口投与して、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を指標として好中球の局在を調べると、アスピリン投与30分後という早期から、好中球が胃粘膜の血管内に増加するが、胃粘膜組織中には、あまり浸潤しない(好中球は、血管外に浸潤すると、アポトーシスが抑制されて、寿命が延長する)。
これには、アスピリンがCOX活性を抑制する→5-リポキシゲナーゼにより生成されるロイコトリエン(LT)とプロスタグランジン(PG)とのバランスが崩れる→好中球を遊走及び活性化させるLTB4の作用が優位になり、接着分子Mac-1を発現した好中球が、胃粘膜微小血管内に接着する→白血球塞栓が形成される→微小循環が障害される→虚血により、胃粘膜が損傷を受ける、という機序が推測される(アスピリンがCOX活性を抑制し、LT産生を抑制するPGE2の産生が抑制され、LTの作用が優位になるとも考えられる)。
また、アスピリンなどのNSAIDsが、PGE2(TNF-α産生を抑制する)の産生を抑制する→TNF-α産生が増加する→TNF-αにより、血管内皮細胞が障害される→微小血栓形成や微小循環障害が起こる→胃粘膜が損傷を受ける、という機序も推測される。
さらに、アスピリンが、白血球の変形能を低下させる→細い血管を好中球が機械的に閉塞させる(capillary plugging)→微小循環障害が起こる→胃粘膜が損傷を受ける、という機序も推測されている。
H2ブロッカー(H2受容体拮抗剤)のファモチジン(医薬品名:ガスター)は、アスピリンを経口投与されたラットの胃粘膜のMPO活性の増加や、TNF-αの産生の増加を、抑制する。
なお、アスピリンにより、IL-8産生(好中球を遊走させる)は、増加しない。
胃粘膜病変を起こす作用は、病変の広がりで判断すると、水浸拘束ストレス<酸性アスピリン<無水エタノールの順に強い。また、胃粘膜病変を起こす作用は、病変の数で判断すると、水浸拘束ストレス≧酸性アスピリン>>の順に弱い:酸性アスピリンは、胃粘膜病変を数多く起こすが、病変の広がり(大きさ)は、無水エタノールで起こる胃粘膜病変より、狭い。水浸拘束ストレスは、胃粘膜病変を数多く起こすが、病変の広がり(面積)は、狭い。無水エタノールは、広い胃粘膜病変を起こすが、数は少ない。
b.アスピリン喘息
アスピリンで喘息が誘発されることがある。この喘息誘発の副作用は、アスピリン以外のNSAIDsによっても生じる。
これは、NSAIDsにより、COX活性が抑制されると、LT合成(LTC4、LTD4、LTE4の合成)が亢進するためという説がある。
PGE2には、LT産生を抑制する抗炎症作用があるが、NSAIDsがCOXを抑制し、PGE2産生を抑制することで、LT産生が増加するのかも知れない。
細胞膜安定化作用のあるPGE2の産生が抑制され、肥満細胞や好塩基球からのヒスタミン分泌が増加し、喘息発作が起こるという説もある。反対に、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)は、適切な条件下では、リソゾーム膜安定化作用があるが、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)の他に、アスピリン、フェニルブタゾン、インドメタシン、フルフェナム酸にも、リソゾーム膜安定化作用があるという(細胞膜のリン脂質が、アラキドン酸カスケードにより消費されないので安定化する)。
アスピリン喘息は、30〜40歳に多く見られる。
アスピリン喘息は、女性に多い。
アスピリン喘息は、アスピリンだけでなく、インドメサシン、メフェナム酸、フェニールブタゾン、フェロームなどの酸性消炎鎮痛剤、ペンタゾシンなどの鎮痛剤が、原因に関係する。
c.ジクロフェナクナトリウム
ジクロフェナクナトリウム(医薬品名:ボルタレンなど)は、COX-2を選択的に阻害する。
ジクロフェナクナトリウム製剤を投与後に、ライ症候群を発症したとの報告があり、原則として、小児のウイルス性疾患の患者に投与しない。
ジクロフェナクナトリウム製剤を、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人に投与すると、胎児に動脈管収縮・閉鎖、徐脈、羊水過少が起き、胎児の死亡例も報告されている。
インフルエンザの臨床経過中に、インフルエンザ脳症・脳炎を発症した患者(主として小児)のうち、ジクロフェナクナトリウム製剤を投与された例で、予後不良例が多い、報告されている。これは、ジクロフェナクナトリウムが、血管内皮修復に関与するシクロオキシゲナーゼ活性(COX活性)を抑制することと、関連があると考えられている。
わが国では、ライ症候群を予防する為に、アスピリン、アスピリン・アスコルビン酸、アスピリン・ダイアルミネート、サリチル酸ナトリウム、サリチルアミド、エテンザミド、ジクロフェナクナトリウムを、15歳未満の小児のインフルエンザや水痘に伴う発熱に対して、解熱などの目的で、原則として、投与しないことになっている。
なお、ジクロフェナクナトリウムは、インフルエンザ脳症の死亡率を、上昇させる(悪化させる)。
ジクロフェナクナトリウムは、坐剤(ボルタレン坐剤)は、錠剤に比して、投与後の最高血中濃度が約3倍高く、生物学的利用率も25%高いと言われる。
ジクロフェナクナトリウムのようなNSAIDsは、プロスタグランジン合成阻害作用(PGE2の産生を抑制する)により、腎臓の尿細管からのNa+再吸収を増加させ、Naと水分が貯留して、浮腫や高血圧などの、副作用を示すことがある。しかし、ジクロフェナクナトリウム坐剤(ボルタレン坐剤)は、副作用として、血圧を下降させることがある。ジクロフェナクナトリウムは、同じ投与量でも、坐剤の方が、血圧下降のリスクが高い。
d.その他
・エトドラク製剤(医薬品名オステラック、ハイペン)は、NSAID(選択的COX-2阻害剤)である。エトドラク製剤は、PGE2の生合成を抑制する作用以外に、発痛物質であるブラジキニンの産生や遊離を抑制する作用や、好中球機能(遊走、ライゾゾーム酵素遊離、活性酸素遊離)を抑制する作用も有する。エトドラク製剤は、軟骨基質からのグリコサミノグリカンの遊離を抑制する。エトドラク製剤は、グルコサミノグリカンの生成には、影響しない(抑制しない)。
エトドラク製剤は、選択的にCOX-2を阻害する以外に、ブラジキニン産生を抑制したり、好中球(多形核白血球)からのライソゾーム酵素の遊離を抑制したり、好中球の遊走を抑制する作用もある。
・COX-2阻害剤(COX-2阻害薬)は、心血管合併症(心筋梗塞など)の発症リスクを、高める。
その原因として、COX-2阻害剤は、血小板のCOX-1活性を阻害(抑制)しないので、トロンボキサンA2(TXA2)の合成は、阻害されない。他方で、COX-2阻害剤は、血管内(血管内皮細胞)のCOX-2活性を阻害するので、プロスタサイクリン(PGI2)の合成(産生)は、阻害される。その結果、血栓が形成され易くなり、心血管合併症の発症リスクが、高まると、考えられる。
なお、COX-2阻害剤と心血管合併症(心血管系の副作用)との関連は、大腸ポリープの再発予防を目的とした、COX-2阻害剤の臨床試験で、問題になって来た。
・PGE2は、IL-2、IFN-γ、LTの産生を抑制し、抗炎症的に作用する。PGE2は、炎症の初期に分泌されて、発熱を促すのみならず、炎症を解決(the resolution of inflammation)するようにも指令するので、NSAIDsのような薬を使用してPGE2産生を抑制すると、炎症の解決が長引くことも、危惧される。
・NSAIDsは、ニューキノロン系の抗生剤と併用すると、中枢性痙攣発作を起こす危険がある。
・PGE2や、 PGI2は、EP受容体のEP2、EP4受容体を介して、細胞内cAMPを上昇させる。
脂肪組織に存在するホルモン感受性リパーゼ(HSL)は、cAMP濃度が上昇すると活性化され、脂肪の分解を促進する。
NSAIDsは、PGE2の生合成を抑制するので、cAMP濃度を下げる方向に働き、ホルモン感受性リパーゼの作用を抑制し、脂肪の分解を抑制し、肥満をもたらす危険性は、理論上、考えられる。
また、NSAIDsは、副作用として、胃腸障害を来たせば、食欲不振を招くが、PGD2の産生を抑制して、食欲を亢進させるおそれもある。
・NSAIDsは、変形性関節症(OA)や慢性関節リウマチ(RA)の治療に用いられる。
NASIDsでも、COX-2選択的NASIDs(etoricoxib)は、従来型NASIDsに比して、上部消化管イベント(穿孔、潰瘍、出血)の発症率は、低い傾向にあるが、閉塞、大出血の合併率は、同程度と言われる。
COX-2選択的NASIDsは、従来型NASIDsに比して、血栓性心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、血管死)の発症率は、変わらない。
4.副腎皮質ステロイドホルモン(ステロイド剤)
ステロイド剤は、COXの合成を阻害して(COX-2の方が強く阻害される)、抗炎症作用、鎮痛作用などを現すという。
ステロイド剤は、リポコルチン(lipocortin)を誘導して、ホスホリパーゼA2(PLA2)の活性も阻害し、アラキドン酸の遊離を抑制し、PGやLTの生成を抑制する。
ステロイド剤は、IL-1などのサイトカインが、マクロファージから産生されるのを、抑制する。
その他、ステロイド剤は、神経細胞膜に作用して、膜の興奮性を減じ、鎮痛作用を来たす。
5.アセトアミノフェンとCOX-3
アスピリンを、インフルエンザや水痘に罹患した際に、解熱剤として使用すると、ライ症候群の発症率が高くなることが知られており、最近は、解熱・鎮痛目的の市販薬に、アスピリンの変わりに、アセトアミノフェン(acetaminophen)が使用されていることが多い:医薬品名タイレノール(Tylenol)などに、アセトアミノフェンが使用されている。タイレノールの方が、アスピリンより、胃腸障害の副作用が少ないという。
アセトアミノフェンは、非ピリン系解熱鎮痛薬に分類されている(NSAIDsには、分類されない)。 アセトアミノフェンは、授乳中に内服しても、母乳(注3)中の濃度は、血液中より低い(母乳中への移行は、1.85%):常用量であれば、アセトアミノフェンは、授乳中に投与しても、問題ないと言う。
アセトアミノフェンは、服用1時間後に、最高血中濃度になり、効果は約5時間持続する。アセトアミノフェンの最高血中濃度到達時間は0.5時間、半減期は2.5時間。アセトアミノフェンは、胃腸障害が少ない。
フェナセチンは、長期服用すると腎障害を起こす為に、使用されなくなったが、フェナセチンは、体内で代謝され、アセトアミノフェンに変わる。
アセトアミノフェンは、COX-3を抑制すると言う。
その為、アセトアミノフェンは、胃粘膜障害(消化管出血や潰瘍)、腎障害、出血傾向(血液凝固阻害作用)などが、現れにくい(注4)。
アセトアミノフェンは、抗炎症作用は弱く、アスピリンのような血小板凝集阻害作用はない。しかし、アセトアミノフェンは、肝細胞壊死を来すおそれや、水痘の病期を延長させてしまうおそれがある。
アセトアミノフェンの使用量は、5〜10mg/kg/日。
コカール錠200には、1錠中に、アセトアミノフェンが、200mg含まれている。通常、成人では、頭痛、耳痛、症候性神経痛、腰痛症、筋肉痛、打撲痛、捻挫痛、月経痛、分娩後痛、がんによる疼痛、歯痛、歯科治療後の疼痛には、アセトアミノフェンとして1回300〜500mg(1.5〜2.5錠)、1日900〜1500mg(4.5〜7.5錠)を経口投与する。また、通常、成人では、急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)の解熱・鎮痛には、アセトアミノフェンとして、1回300〜500mg(1.5〜2.5錠)を頓用する。ただし、原則として、1日2回までとし、1日最大1500mgを限度とする。また、空腹時の投与は避けさせることが望ましい。なお、年齢、症状により適宜増減する。
2005年2月時点で、コカール錠など、保険適応が承認されたアセトアミノフェン製剤の添付文書には、ライ症候群や、インフルエンザ脳症の発症を予防する為に、使用を禁じる記載は、書かれていない。
経口投与されたアセトアミノフェンは、ほぼ100%、消化管から吸収され、1〜2時間後に、最高血中濃度に達する。
アセトアミノフェンは、血中では、20〜50%が、血漿蛋白と結合している。
アセトアミノフェンは、肝臓で処理され(グルクロン酸と硫酸抱合される)、大部分は、代謝物として、24時間以内に、投与量の90〜100%が、尿中から排泄される。
血中半減期は、1〜2時間で、投与約8時間後には、血中から検出されなくなる。
アルコール多量常飲者が、アセトアミノフェンを服用すると、肝不全を起こすことがある。これは、アルコール常飲により、CYP2E1が誘導され、アセトアミノフェンから肝毒性を持つN -アセチル-p -ベンゾキノンイミンへの代謝が促進される為。
2013年6月8日追記
アセトアミノフェン「ヨシダ」を製造販売している吉田製薬株式会社(学術部 中村様)から送って頂いた岡本禎晃等や土肥敏博等の文献によると、近年は、アセトアミノフェンの作用機序として、COX-3阻害説は、否定的だと言う。
歴史的には、寄生虫の駆除に、アセトアニリドをナフタリンと誤って処方し、解熱したことから、アセトアニリドがアニリン系鎮痛薬として臨床的に使用されるようになった(1986年)と言われる。アセトアミノフェンは、アセトアニリドやフェナセチンの代謝産物であることが判明した(1948年)。
アセトアミノフェンは、鎮痛作用や解熱作用は強いが、抗炎症作用(炎症抑制作用)は、極めて弱い。アセトアミノフェンは、抗炎症作用が弱いので、炎症を伴う術後痛には、NSAIDsに比して、鎮痛作用が弱いと言われる。アセトアミノフェンは、米国では、変形性関節症患者の鎮痛薬として、第一選択薬とされている。
アセトアミノフェンの作用機序として、アセトアミノフェンが肝臓でCYP(CYP2E1など)により加水分解されて生じる代謝産物のP-アミノフェノールが、脳内に移行し、脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)により、アラキドン酸との縮合体(N-アラキドニルフェノールアミン:AM404)が合成され、AM404が解熱作用や鎮痛作用を現すと言う。アセトアミノフェンから合成されるAM404の脳内の作用機序として、@AM404が脳内でCOXを阻害する、AAM404がエンドカルナビノイドの取り込みを阻害し、エンドカルナビノイドがシナプス間隙に蓄積し、カルナビノイド受容体(CB1)が活性化される、BAM404が中脳中心灰白質のカプサイシン受容体(TRPV1)を活性化する、の3つの機序が想定されていると言う。
アセトアミノフェンは、末梢でのCOX阻害作用が弱いので、胃腸障害が少ない。アセトアミノフェンが成分のタイレノールは、空腹時にも、服用可能。
アセトアミノフェンの特徴としては、下記のような点がある。
1.消化器系障害管(胃腸障害)が少ない:空腹時にも内服可能
2.腎障害が少ない
3.血小板凝集抑制作用が弱い:アセトアミノフェンは、COX-1を殆ど阻害しない
4.アスピリン喘息の発症が少ない
5.ライ症候群の危険率が低い
6.インフルエンザの解熱にも安全に使用可能
7.ニューキノロン系抗生剤とも併用可能
8.新生児や高齢者にも安全に使用可能
9.妊婦にも比較的安全に使用可能
11.安全域が広く、長期投与が可能
アセトアミノフェンは、肝臓で、大部分は、グルクロン酸抱合体や硫酸抱合体になり排泄されるが、一部は、CYP2E1により水酸化(ヒドロキシ化:加水分解)され、N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)が生成される。
飲酒(アルコール)は、CYP2E1を誘導し、アセトアミノフェンからのNAPQI生成を亢進させる。NAPQI(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン)は、肝毒性があり、肝蛋白質と結合し、小葉中心性壊死(肝毒性)を現す。NAPQI(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン)は、アセトアミノフェンと同様に、グルタチオン抱合され、無毒化されて、メルカプツール酸になり、排泄される。
アセトアミノフェンは、癌性疼痛にも、有効。
アセトアミノフェンは、中枢(脳)に作用して、解熱作用や鎮痛作用を現す。アセトアミノフェンは、脳の視床下部の体温中枢に作用して、熱放散を増大させ、解熱作用を示す。アセトアミノフェンは、脳の体温中枢ではアスピリンと同程度のプロスタグランジン合成阻害作用を現すが、末梢(末梢組織)ではアスピリンよりプロスタグランジン合成阻害作用は極めて弱いと言われる。アセトアミノフェンは、平熱時には殆ど体温に影響を及ぼさず、発熱時には投与3時間後当たりで、最大の解熱作用を現す。アセトアミノフェンの鎮痛作用は、アスピリンと同様に、緩和な痛みの軽減に限られている。アセトアミノフェンには、抗炎症作用は殆ど無い(添付文書)。
アセトアミノフェンは、COX-1やCOX-2の阻害作用は、殆ど有していない。
2002年10月に、米国の研究者達が、COX-3が存在すると発表し、アセトアミノフェンは、COX-1やCOX-2をは阻害せず、COX-3を特異的に阻害し、薬理作用を現すと考えた。しかし、その後、COX-3と消炎鎮痛作用との関連は証明されていない。現在は、アセトアミノフェンの薬理作用の機序は、解明されていない。
アセトアミノフェンは、アセトアニリドやフェナセチンをヒトに投与した際の主要代謝物で、アセトアニリドやフェナセチンの解熱作用や鎮痛作用はアセトアミノフェンにより現れると考えられている。
アセトアミノフェンは、UDP-グルクロン酸転移酵素、硫酸転移酵素、チトクロームP-450(CYP2E1、CYP3A4、CYP1A2)によって代謝される。アセトアミノフェン(カロナール細粒)を内服させると、投与量の約3%は未変化体のまま排泄されるが、残りの大部分は、グルクロン酸や硫酸抱合体として排泄される。グルクロン酸抱合されたアセトアミノフェンは、尿中に排泄されるが、腎不全や無尿の患者では、胆汁中に排泄され、腸管内で脱抱合を受け、アセトアミノフェンに戻り、再び吸収されるので、血中濃度が高くなる。
アセトアミノフェンは、NSAIDsで問題になる胃腸障害の副作用が現れることが少ない。
NSAIDsは、COXを阻害し、プロスタグランジンの合成を阻害するので、ナトリウムや水分が貯留し、血圧を上昇させる(高血圧になる)。アセトアミノフェンは、COXをあまり阻害しない為、血圧を上昇させるリスクは低い(高血圧にならない)。
アセトアミノフェン(カロナール細粒20%)は、Tmaxは0.59±0.41時間、t1/2は2.90±0.44時間(添付文書)。
アセトアミノフェンは、効果発現時間は15〜30分、最高血中濃度到達時間は30〜60分、消失半減期は2〜4時間、作用時間は4〜6時間、蛋白結合率は25〜30%で、主に尿中へ排泄される。
6.腸内細菌とCOX
腸内細菌が産生する酪酸ナトリウムは、COX-2を阻害し、腸の血管の成長を抑制する。
注1:膵臓のランゲルハンス島では、COX-2は、常に(basal conditions)、優位型(as the dominant form)として、発現している。
注2:PGE2は、腎では、腎血管を拡張し、腎血流を増大させ、また、近位尿細管でのNa+再吸収を減少させ、利尿させる(水とNa+を排泄させる)。
NSAIDsによる腎障害は、糸球体血流量が低下すること(尿量が低下する)と、PGE2産生が抑制されるため、尿細管からのNa+再吸収が増加する(浮腫が現れる)ことが、原因と考えられる。
腎不全では、PGE2の産生が増加し、腎髄質で、腎糸球体の細動脈を拡張させ、糸球体の血流量を増加させ、糸球体血流量を維持している。NSAIDsにより、PGE2の産生が抑制されると、糸球体の血流量が低下して、腎不全を悪化させる。一般に、糸球体血流量が低下すると、傍糸球体装置の輸入細動脈で、圧受容体(baroreceptor、又は、張力受容体:stretch receptors)が、糸球体血圧の低下を感知し、レニンが分泌される。しかし、慢性腎不全の患者では、レニンの分泌が、既に、亢進している。また、健常人では、PGE2は、レニン産生を刺激するので、NSAIDs投与により、PGE2の産生が抑制されると、レニンの分泌や、アルドステロン(Na+再吸収を増加させる)の産生は、抑制される。
PGE2は、cAMPの産生を抑制し、PKAによるNa+/K+-ATPaseの発現を抑制して、尿細管でのNa+再吸収を抑制する。NSAIDsは、PGE2の産生を抑制するので、尿細管からのNa+再吸収が増加し、Naと水分が、貯留して、浮腫などの、副作用を示すことがある。
注3:母乳100g中には、脂肪が、約3.5g含まれている。母親の脂肪中に蓄積されている物質は、ほぼ母体脂肪中の濃度で、母乳中に分泌される。ダイオキシンは、脂溶性物質なので、主に食品中の動物性脂肪から体内に取り込まれ、分解や、排泄されにくいので、体内の脂肪に、蓄積する。
主4:アセトアミノフェンも、サリチル酸と同様に、PGE2によるインスリン分泌抑制作用を阻害する。
分泌が増加したインスリンは、脂肪組織、肝臓で、ホスホジエステラーゼ(PDE)を活性化させ、cAMPを5'AMPに異化させ、cAMP濃度を減少させ、ホルモン感受性リパーゼ(HSL)の活性を抑制し、中性脂肪の分解を抑制する。
その結果、アセトアミノフェンを常用すると、肥満になるおそれがある。
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