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 ミトコンドリアの輸送系

 ミトコンドリア外膜には、ポリン(porin)と言う穴構造(外膜チャネル)が存在し、大きさ10kD以下の分子は、自由拡散で通過する。従って、膜間スペース(膜間腔)の代謝産物やイオンの濃度は、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)と同等になっている。
 しかし、ミトコンドリア内膜は、ミトコンドリア外膜に比して、蛋白含量が高く、ミトコンドリア内膜を通過出来るのは、水(H2O)、酸素(O2)、二酸化炭素(CO2)、アンモニア(NH3)に限られ、NADH2+ATP、ADP、Ca2+、ピルビン酸、オキサロ酢酸、リン酸(Pi)などの通過は、ミトコンドリア内膜の種々の輸送系( )により、制御されている。

 イオンや代謝物質は、ミトコンドリア内膜を通過出来ないので、ミトコンドリア内(マトリックス)と、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)との間には、イオン濃度勾配が、生じる。
 ミトコンドリアは、小胞体と同様に、細胞質ゾルのCa2+濃度(カルシウムイオン濃度)を、安定させる。
 Ca2+(カルシウムイオン)は、ミトコンドリアでのエネルギー産生(ATP産生)を調節する。
 ミトコンドリア内Ca2+濃度Cam)が減少すると、アポトーシスが起こる。

 アポトーシスを惹起するPTPの開口(induction)は、Ca2+に依存する。その理由は、Bernardiの実験結果から、PTPの開口は、膜電位(the proton electrochemical gradient:刄ハH+)により制御されていて、Ca2+Camの増加)が、ミトコンドリア内で、膜電位(刄ハH+)を変化させて、PTPの開口(induction)を引き起こすためと、考えられる。

 1.NADH2+の輸送系
 解糖で、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)に生じるNADH2+は、ミトコンドリア内膜を通過出来ない(注1)。
 NADH2+のエネルギー(還元当量の電子)を、ミトコンドリア外から、ミトコンドリア内に輸送する輸送系(NADHシャトル)としては、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルグリセロリン酸シャトルリンゴ酸-クエン酸シャトルが存在する。
 肝臓で主に作用するNADHシャトルは、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル(MA shuttle)。 

 1).リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル
 リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル(malate-aspartate shuttle)は、ミトコンドリア外のNADH2+のエネルギーを、ミトコンドリア内膜を経て、ミトコンドリア内(マトリックス)へ転送する為の仕組みで、哺乳類で発達している。
 リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルは、肝臓、心臓、腎臓などの臓器の細胞で、働いている。 
 リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルでは、まず、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)のオキサロ酢酸が、リンゴ酸脱水素酵素(リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、MDH:malate dehydrogenase)により、リンゴ酸に変換される。その際、NADH2+NAD+に酸化され、リンゴ酸にNADH2+から電子(H)が移動する。
 リンゴ酸は、ミトコンドリア内膜のリンゴ酸-α-ケトグルタル酸輸送体を通過して、ミトコンドリア内(マトリックス)に輸送される。
 ミトコンドリ内に輸送されたリンゴ酸は、MDHにより、オキサロ酢酸に戻され、その際、リンゴ酸に移動した電子(H)により、NAD+が還元され、ミトコンドリア内に、NADH2+が生成される。
 このようにして、ミトコンドリア外のNADH2+の電子(H)の還元当量が、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)から、ミトコンドリア内膜を経て、ミトコンドリア内に転送され、電子伝達系で利用可能となる:NADH2+その物が、ミトコンドリア内膜を通過するのではない。
 ASTGOT)は、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル(malate-aspartate shuttle、malate-aspartate carrier system)を作動させるのに必要な酵素。

 リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルは、肝臓、心臓、腎臓などの臓器の細胞で機能し、解糖で生じたNADH2+のエネルギーを、ミトコンドリ外(細胞質ゾル)からミトコンドリア内に輸送する役割をする。
 リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルを利用して、NADH2+をミトコンドリア内に輸送した場合、一つのNADH2+当り、3ケのATPが生成されると言う。 

 リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルの反応は、運動時など、ATP生成を要する際には、下図の方向に働き、ミトコンドリア外のNADH還元当量を、ミトコンドリア内に輸送し、電子伝達酸化的リン酸化に使用し、ATPを生成することが出来る。
 リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルを、下図の方向に働かせる駆動力は、陰性に荷電したマトリックスから、陰性荷電のアスパラギン酸を組みだす、グルタミン酸-アスパラギン酸輸送体(Asp- / H-Glu antiporter)によると言う。
 また、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルを構成する、リンゴ酸輸送系の輸送(反応)は、可逆的(注2)なので、糖新生の際には、運動時とは逆に、下図の方向に働き、ミトコンドリア内のNADH還元当量を、ミトコンドリア外に、輸送する。その際、同時に、糖新生に必要なオキサロ酢酸をも、ミトコンドリア内からミトコンドリア外に、輸送する(引き出す)。
 リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル(malate-aspartate shuttle)は、ミトコンドリア膜を直接通過出来ないNADH2+やNADに変わり、還元当量を、リンゴ酸として、輸送する。
 NADH/NAD+([NADH] / [NAD+] ratio)は、NADH2+NAD+の濃度比([NADH] / [NAD+] ratio)。
 TCA回路の代謝を調節する重要な因子は、TCA回路の基質のアセチル-CoAとオキサロ酢酸、それと、生成されたNADH2+
 オキサロ酢酸は、リンゴ酸とは、次式の平衡関係にある。
 K=[オキサロ酢酸][NADH]/[リンゴ酸][NAD+
 ここで、K=6.2×10-6。従って、[NADH] / [NAD+]=[リンゴ酸]/[オキサロ酢酸]×6.2×10-6
 典型的には、NADH/NAD+比([NADH] / [NAD+] ratio)は、ミトコンドリア内(マトリックス)では0.1(オキサロ酢酸/リンゴ酸比は、6.2×10-5ミトコンドリア内では、リンゴ酸濃度が高い)、細胞質(cytoplasm)では、0.002(オキサロ酢酸/リンゴ酸比は3.1×10-3細胞質ゾルでは、オキサロ酢酸濃度が高い)。
 ミトコンドリア内では、NADH/NAD+比が0.1なので、オキサロ酢酸濃度がかなり低くない限り、ミトコンドリア内では、オキサロ酢酸は、リンゴ酸に還元される。細胞質では、NADH/NAD+比が0.002なので、細胞質では、リンゴ酸は、オキサロ酢酸に酸化される。
 TCA回路では、リンゴ酸濃度は5mM以上だが、オキサロ酢酸の濃度は0.1mM以下と、低い。

 細胞質内の[NADH] / [NAD+]比は、細胞質内の乳酸/ピルビン酸比(lactate/pyruvate ratio)を反映し、また、ミトコンドリア内の[NADH] / [NAD+]比は、β-ヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比(β-hydroxybutyrate/acetoacetate ratio)を反映する。
 ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症(PC欠損症)では、ミトコンドリア内で、ピルビン酸から、オキサロ酢酸を生成出来ない。その為、PC欠損症では、細胞質内の乳酸/ピルビン酸比([NADH] / [NAD+]比)は、高値となり、また、ミトコンドリア内のβ-ヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比([NADH] / [NAD+]比)は、低値になる。
 このように、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)により、オキサロ酢酸が産生されないと、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルが、上手く作動せず、細胞質内ではNADH2+が増加し、ミトコンドリア内ではNADH2+が減少する(paradoxical state)。

 2).グリセロリン酸シャトル 
 グリセロリン酸シャトル(glycerol phosphate shuttle)は、ミトコンドリア内膜の膜間スペース側(膜間部側)に存在し、以下に述べるような3ステップの反応(仕組み)で、NADH2+を、ミトコンドリア内(マトリックス)に、輸送する。
 1).細胞質ゾル(サイトゾル)のNADH2+の電子(H)は、グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(3-ホスホグリセロールデヒドロゲナーゼ)により、ジヒドロアセトンリン酸を還元し、NAD+と、グリセロール3-リン酸(α-グリセロリン酸)が、生成される。NAD+は、解糖系で、再利用される。
 2).グリセロール3-リン酸の電子(H)は、ミトコンドリア内膜の膜間スペース側(膜間部側)で、フラボプロテインデヒドロゲナーゼにより、FAD+を還元し、FADH2+が、生成され、ジヒドロアセトンリン酸に戻る。
 3).FADH2+は、ミトコンドリア内膜で、電子(H)を、電子伝達系に送り込み、FAD+に戻る。

 グリセロリン酸シャトルは、筋肉などの臓器の細胞で、働いている(肝臓、心臓、腎臓以外の臓器の細胞で、働いている)。
 グリセロリン酸シャトルを利用して、NADH2+をミトコンドリア内に輸送した場合、FADH2+NADH2+の代わりになる為、一つのNADH2+当り、2ケのATPが生成されるに過ぎないと言う。 

 3).リンゴ酸-クエン酸シャトル

 リンゴ酸-クエン酸シャトル(malate citrate shuttle:MC shuttle)では、クエン酸が、CIC(citrate carrier)によりミトコンドリア外に輸送され(脂肪酸合成に用いられる)、交換に、細胞質のリンゴ酸(NADH2+)がミトコンドリア内に輸送される。また、細胞質のピルビン酸が、PyC(pyruvate carrier)を介して、ミトコンドリア内に輸送される。
 CIC(citrate carrier)は、脂肪酸合成に際して、クエン酸輸送系として、ミトコンドリア内のクエン酸を細胞質に輸送する。クエン酸輸送系(クエン酸運搬系)は、ミトコンドリア内のクエン酸を細胞質に輸送し、交換に細胞質ゾルのリンゴ酸、ピルビン酸、リン(Pi)などの陰イオンをミトコンドリ内に輸送する。CIC(citrate carrier)の前駆体(CIC precursor protein:pCIC)は、トリカルボン酸輸送体(tricarboxylate carrier)。
 2.ATPの輸送系
 ミトコンドリア内(マトリックス)で、酸化的リン酸化で生成されるATPは、ATP-ADP輸送体ATP-ADPトランスロケータ)により、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)に輸送され、交換に、ミトコンドリア外のADPが、ミトコンドリア内に輸送される。ATP-ADP輸送体は、ANT(adenine nucleotide translocase:アデニンヌクレオチドトランスロカーゼ)、AAA(ATP:ADP Antiporter)とも呼ばれる。ANTは、mPTPを構成していると、考えられている。

 ATP-ADP輸送体は、30kDの同一アブユニットのニ量体で、二つの安定したコンホメーションを採る:一つのコンホメーションでは、ADP-ATP結合部位は、ミトコンドリア内側に向き(ミトコンドリア内膜側に位置して、マトリックス側に開く)、もう一つのコンホメーションでは、ADP-ATP結合部位は、ミトコンドリア外側に向く(ミトコンドリア外膜側に位置して、細胞質ゾル側に開く)。
 ミトコンドリア内側に向いたコンホメーションのATP-ADP輸送体が、ミトコンドリア内のATPと結合すると、コンホメーションが変化して、ミトコンドリア外側に向いたコンホメーションのATP-ADP輸送体となり、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)に、ATPを送り出して、変わりに、ADPと結合する。ミトコンドリア内のATPと結合したATP-ADP輸送体は、再び、コンホメーションが変化して、ミトコンドリア内側に向いたコンホメーションのATP-ADP輸送体となり、ミトコンドリア内に、ADPを輸送する。
 ミトコンドリア内は、ATP(正味の電荷は−4)を送りだし、ADP(正味の電荷は−3)を取り込むので、差し引き、負電荷を一つ、送り出すが、その起電力は、プロトン濃度勾配が作る膜電位(Delta Psi )に依存している。
 ATPとADPの比([ATP] / [ADP] ratio)は、細胞質(cytoplasm)では、10:1〜15:1で、ミトコンドリア内では、約1:30(ミトコンドリア内のATP/ADP比に関しては、約1.6、約2.1と言う報告もある)。
 ミトコンドリア内のATP/ADP比([ATP] / [ADP] ratio)が大きいと、ATPが複合体IV の サブユニットにアロステリックに結合し、酸化的リン酸化(呼吸) が抑制される(ADP濃度が高まる)。

 3.Ca2+の輸送系
 ミトコンドリアには、Ca2+(カルシウムイオン)の輸送に関与する、輸送系1(流入系:influx)と、輸送系2(流出系:efflux)とが、存在する(注3)。輸送系1と輸送系2は、共役(coupling)している。

 輸送系1(流入系)は、Ca2+-uniporterによる輸送により、膜間スペース(膜間腔)のCa2+を、ミトコンドリア内(マトリックス)に、流入させる。ミトコンドリア内膜の膜電位(Delta Psi )が、マトリックス側が負(−)な為、陽イオンのCa2+を引き寄せ、Ca2+が流入する。輸送体1によるCa2+の流入(influx)は、呼吸鎖により、H+がミトコンドリア外に流出(efflux)することに、依存する。
 Ca2+-uniporterは、(ミトコンドリア)外のCa2+により活性化される(細胞質ゾルの[Ca2+]が低いと、Ca2+-uniporterは、活性が著しく低い)。
 RaM(rapid uptake mode)は、細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)が、生理的な濃度より高い(>400nM)時に作動し、細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)が低下する(100〜200nM)と、リセット(reset)される。

 輸送系2(流出系)は、Na+-Ca2+交換輸送体(NCE:Na+/Ca2+ antiporter)による対向輸送により、マトリックスのCa2+を、膜間スペースに、流出させ(汲み出す)、交換に、3Na+を流入させる。輸送系2は、Na依存性にCaを流出(Efflux)させる経路(Na+-dependent pathway for Ca2+)。
 輸送系2(NCE)以外に、Na+に依存しないで、Ca2+を流出させる経路(Na+-independent pathway for Ca2+ efflux:NICE)が、存在する。NICEは、恐らく、3H+の流入と交換に、Ca2+を流出させる、H+/Ca2+ antiporterと考えられている。

 ミトコンドリアは、小胞体や、筋小胞体と同様に、細胞質ゾルのCa2+濃度を、安定させる(注4):細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)が上昇すると、輸送系1による、Ca2+のマトリックスへの流入が増加するが、輸送系2による、Ca2+の膜間スペースを経た、細胞質ゾルへの流出速度は、変化しない(流入>流出)。その結果、ミトコンドリア内(マトリックス)の[Ca2+](Cam)は、増加し、細胞質ゾルの[Ca2+]は、もとのレベルに低下する。逆に、細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)が低下すると、輸送系1による、Ca2+のマトリックスへの流入が低下するが、輸送系2による、Ca2+の膜間スペースを経た、細胞質ゾルへの流出速度は、変化しない(流入<流出)。その結果、実質的に、Ca2+は、マトリックスから、細胞質ゾルに流出して、細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)は、もとのレベルに増加する。
 このようにして、細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)は、一定に維持される:ミトコンドリア外(細胞質ゾル)の自由な[Ca2+](extramitochondrial free [Ca2+]=Cao )は、0.5-1.0μM(0.1-1μM)に維持される。なお、細胞内(細胞質ゾル)Ca2+濃度(Cac)は10-7Mで、細胞外Ca2+濃度(Cao)の10-3M、小胞体内Ca2+濃度の10-3M(1mM=1mEq/L)よりも、10,000倍も低い注5

 細胞質ゾルの[Ca2+](Cac細胞内カルシウムイオン濃度)は、静止期は、0.06〜0.2μM(10-8〜10-7M)に維持されている。
 細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)は、刺激期には、細胞外Ca2+(細胞外カルシウム)が、細胞膜の電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)や、受容体構成Ca2+チャネル(NMDAグルタミン酸受容体)などを経て、細胞外から細胞質ゾルに流入し、また、ミトコンドリア内Ca2+が、輸送系2(NCE)などにより、細胞質ゾルに放出され、1〜10μM(10-6〜10-5M)に、上昇する。細胞内の微小管は、Ca2+濃度(Cac)が、10-5Mより高くなると短縮し、短縮状態が長時間続くと、微小管は崩壊してしまう。このように、細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)が、高濃度に上昇した状態が持続することは、細胞にとって好ましくないと言われる。

 細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)が上昇すると、Ca2+排出機構である、Ca2+-ATPase(細胞膜、小胞体膜に存在)や、細胞膜のNa+-Ca2+交換輸送体(NCE)により、細胞外に輸送され、また、輸送系1(Ca2+-uniporter)によりミトコンドリア内に輸送され、静止期のレベルに、低下する。
 Ca2+-ATPase(Caポンプ)や、細胞膜のNa+-Ca2+交換輸送体(NCE)は、細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)を汲み出し、細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)を一定の濃度に維持する。Ca2+は、筋小胞体に、Ca2+-ATPase(Caポンプ)により汲み出される(取り込まれる)と、蓄積し、筋収縮時には、多量に放出されるので、筋収縮力などが亢進する。
 表1 哺乳類細胞のイオン濃度
 イオン  細胞内(mM)  細胞外(mM)
 Na+   10  140
 K+  140    5
 Ca2+    0.0001(10-7M)  1-2
 Mg2+   58  1-2
 Cl-    5  110
 HCO3-   10     28
 リン酸   75     4
 Zhu等の培養細胞を用いた実験結果によると、ミトコンドリア内Ca2+濃度([Ca2+]:Cam)が減少すると、膜電位(Delta Psi mDelta Psi )は低下し、その後、シトクロム(cytochrome c)の放出など、アポトーシス(apoptosis)が起こり、細胞は死ぬ。反対に、トコンドリア内Ca2+濃度([Ca2+]:Cam)が増加ししても、膜電位(Delta Psi m)は低下するが、細胞は、アポトーシスでなく、壊死(necrosis)で、死ぬ(注6)。

 Al-Nasserの実験結果では、PTPが開口すると、ミトコンドリアが膨化し、膜電位が低下し、ミトコンドリア内に蓄積されていたCa2+(accumulated Ca2+)が、放出される。
 Bernardiの実験結果では、PTP(の開口)は、Ca2+の存在下でも、非存在下でも、膜電位(the proton electrochemical gradient:delta mu H+)で制御されていて(controlled)、膜電位の崩壊(a collapse of the membrane potential)が原因(cause)で、PTPが開口する。
 ミトコンドリア内(マトリックス)が酸性だと(at acidic matrix pH values)、PTPの開口(induction)は、防止された。ミトコンドリア内にCa2+が蓄積すると、マトリックスがアルカリ性になり、膜電位の低下(menbrane depolarization)が起こる。
 PTPの開口(induction)は、Ca2+に依存する:Ca2+が、ミトコンドリア内に流入すると、膜透過性が亢進し、ミトコンドリアの膨化、膜電位の低下が起こる。Ca2+Camの増加)が、ミトコンドリア内で、膜電位(delta mu H+:刄ハH+)を変化させ、PTPの開口(induction)を引き起こすためとも考えられている。
 なお、PTPの開口がCa2+に依存するのは、PTP(a non-specific pore)を構成する為には、ANT(adenine nucleotide translocase) が、CyP-D(cyclophilin-D)と結合する際に、Ca2+を介する変化( a calcium-mediated conformational change.)が必要な為とする説もある(Halestrap)。酸化ストレス(oxidative stress)は、CyP-DのANTへの結合を、増加させる。細胞内pHが、7.0以下に低下すると、Ca2+によるPTPの開口(ミトコンドリア内膜の透過性亢進:mitochondrial permeability transition)は、起こりにくくなる。

 若年性皮膚筋炎(juvenile dermatomyositis:JDM)では、筋線維内鞘の毛細血管内皮細胞に、自己抗体が結合し、補体C3が活性化され、血管炎が起こる。
 若年性皮膚筋炎では、軟部組織の石灰化が、特徴的症状だが、石灰化の中心は、カルシウムアパタイト(カルシウムリン灰石)。カルシウムは、障害された筋のミトコンドリアから、放出される。活性化されたマクロファージが、(IL-1β、IL-6、TNF-αを産生し、)石灰化を来たす。

 4.H+やK+の輸送系
 1).H+/K+交換輸送体(H+/K+ exchanger:KHE
 H+-K+交換輸送体(H+-K+ exchanger)は、 H+-K+ antiporterとも呼ばれる。
 H+-K+ exchanger(H+-K+交換輸送体)は、K+をマトリックスからミトコンドリア外に流出(efflux)させ、交換に、H+をミトコンドリア内(マトリックス)に流入(influx)させる(antiporterは、逆の方向にも、物質を輸送する)。
 H+-K+ exchanger(KHE)は、特異性が低い:H+-K+ exchanger が、H+と交換に輸送するのは、K+に限らない。H+-K+ exchanger は、K+と、Na+と、Li+とを、区別しない(does not discriminate)ので、H+と交換に、Na+や、Li+をも、ミトコンドリア内に流入させる(輸送する)。
 従って、H+-K+ exchangerは、非特異的に、H+-Na+ exchanger(NHE、H+-Na+ antiporter)としても機能する。
 H+-K+ exchangerの活性は、マトリックスの遊離(free)Mg2+濃度が低下すると、増加する。H+-K+ exchangerの活性は、低浸透圧液(hypotonic media)内や、浸透圧膨張(osmotic swelling)後に、増加する。
 H+-K+ exchangerの活性は、ミトコンドリア内の遊離Mg2+(free matrix Mg2+)が低下すると、上昇する。
 また、H+-K+ exchangerの活性は、ミトコンドリア内のpHを上昇させると、増加する。H+-K+ exchangerの活性は、マトリックスのH+により、抑制される(Beavis等)。

 2).Na+/H+交換輸送体(Na+/H+ exchanger:NHE
 総ての組織のミトコンドリアには、Na+/H+交換輸送体(Na+/H+ exchanger:NHE)も存在する。
 NHE(Na+/H+ exchanger)は、ミトコンドリア内のpHや、容量(浸透圧)を調節する:ミトコンドリア内のNa+をミトコンドリア外に、ミトコンドリア外のH+を、ミトコンドリア内(マトリックス)に輸送する。
 NHE(Na+/H+交換輸送体)は、H+を輸送するが、K+の輸送は行わない。
 NHEの最適pHは、7.0であり、NHEの活性は、pHが上昇すると、直線的に、低下する。
 NHE(Na+/H+ antiporter)は、NCE(Na+/Ca2+ antiporter)より、作用が、早い。
 NHEは、恐らく、輸送系1(Ca2+-uniporter)と、輸送系2(Na+/Ca2+ antiporter)の共役によって営まれる、Ca2+濃度の維持(steady-state Ca2+ cycling)に、貢献している。

 5.クエン酸の輸送系  
 ミトコンドリア内(マトリックス)のクエン酸は、担体蛋白質(CIC)により、ミトコンドリア外に輸送され、交換に、ミトコンドリア外のリン酸が、ミトコンドリア内に、輸送される。
 ミトコンドリア内で、ATPやNADH2+が十分に生成され、TCA回路で、イソクエン酸デヒドロゲナーゼが抑制され、クエン酸が、ミトコンドリア内にかなり蓄積すると、クエン酸は、tricarboxylate antiporterにより、細胞質に輸送される。その際、tricarboxylate antiporterにより、H+も細胞質に輸送され、交換に、リンゴ酸がミトコンドリア内に輸送される。ミトコンドリア内で、クエン酸合成により、オキサロ酢酸が消費されるので、クエン酸が、ミトコンドリア外へ輸送されるのと交換に、リンゴ酸(オキサロ酢酸に変換され得る)が、ミトコンドリア内に輸送されるのは、都合が良い。また、交換にミトコンドリア内輸送されたリンゴ酸は、必要な場合は、dicarboxylate antiporter(dicarboxylic acid antiporter)により、ミトコンドリア外に輸送され、交換に、ミトコンドリア外のリン酸(HPO42-)が、ミトコンドリア内に輸送される。リンゴ酸は、リンゴ酸-α-ケトグルタル酸輸送体(α-ketoglutarate antiporter)により、ミトコンドリア外に輸送され、交換に、ミトコンドリア外のα-ケトグルタル酸が、ミトコンドリア内に輸送される。
 クエン酸は、細胞質で、ACC(acetyl-CoA carboxylase)を活性化させ、脂肪酸合成を促進させ、PFK-1を阻害して、解糖を抑制する。
 肝臓や脂肪細胞では、クエン酸のミトコンドリア外への輸送に伴ない、細胞質ゾルでの脂肪酸合成が、始まる。クエン酸は、細胞質のATP-クエン酸リアーゼにより、アセチル-CoAと、オキサロ酢酸とに、分解される。アセチル-CoAは、脂肪酸合成に使われ、オキサロ酢酸は、リンゴ酸に戻され(還元され)、ミトコンドリア内に、輸送される(オキサロ酢酸は、糖新生にも、使われる)。また、リンゴ酸は、リンゴ酸酵素(malic enzyme)により、ピルビン酸に変換され(ピルビン酸は、ミトコンドリア内に輸送され、オキサロ酢酸に変換される)、この際、脂肪酸合成に必要な、NADPHが生成される。
 リンゴ酸 + NADP+ ⇔ ピルビン酸 + 二酸化炭素 + NADPH
 細胞質には、アコニターゼ(aconitase)や、イソクエン酸デヒドロゲナーゼが存在するので、クエン酸は、イソクエン酸を経て、α-ケトグルタル酸に変換され、その際、NADPH(脂肪酸合成に必要)が、生成される。α-ケトグルタル酸は、リンゴ酸-α-ケトグルタル酸輸送体(α-ketoglutarate antiporter)により、ミトコンドリア内に輸送され、交換に、ミトコンドリア内のリンゴ酸が、ミトコンドリア外に輸送される。
 このように、ミトコンドリア外のリンゴ酸は、ミトコンドリア内のクエン酸が、ミトコンドリア外に輸送される際に、交換に、ミトコンドリア内に輸送され、また、ミトコンドリア外に輸送されたクエン酸の代謝産物であるα-ケトグルタル酸が、ミトコンドリア内に輸送される際に、交換に、ミトコンドリア外に輸送される。

 6.その他 
 ・ミトコンドリア外膜には、ポリン(porin)と言う穴構造(外膜チャネル)が存在し、大きさ10kD以下の分子は、自由拡散で通過する。従って、膜間スペース(膜間腔)の代謝産物やイオンの濃度は、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)と同等になっている。

 ・オキサロ酢酸,、乳酸は、ミトコンドリア内膜や外膜を通過して、ミトコンドリア内(マトリックス)と、ミトコンドリア外(細胞質ゾル)間を移動出来ない。

 ・ピルビン酸は、ピルビン酸-H+共輸送体(ピルビン酸-H+共輸送系)により、水素イオン(H+:プロトン)と共に、ミトコンドリア内膜や外膜を通過して、マトリックスと、細胞質ゾル間を移動出来る。

 ・リンゴ酸α-ケトグルタル酸は、リンゴ酸-α-ケトグルタル酸輸送体により、グルタミン酸アスパラギン酸は、グルタミン酸-アスパラギン酸輸送体により、それぞれ、ミトコンドリア内膜や外膜を通過して、マトリックスと、細胞質ゾル間を移動出来る。

 ・脂肪酸は、acyl-CoAとなった後、カルニチンと結合して、ミトコンドリア内膜を通過して、マトリックスに移動し、β-酸化される。

 ・グリセロール(グリセリン)、エタノール(エチルアルコール)、酢酸は、両新媒性の低分子化合物であり、生体膜(細胞膜)を自由に通過出来る。

 ・リン酸(Pi)は、膜間スペース(膜間腔)からミトコンドリア内に輸送され、交換に、水酸化イオン(OH-)が、ミトコンドリア内から、膜間スペースに輸送される。

 注1ミトコンドリア外で行われる解糖で、1分子のブドウ糖(グルコース)が、2分子のピルビン酸に分解される際に、差し引き、2分子のNADH2+と、2分子のATPとが、生成される。
 2分子のピルビン酸は、ミトコンドリア内に輸送されて、TCA回路で代謝され、6分子のNADH2+と、2分子のFADH2と、2分子のGTPとが、生成される。
 ミトコンドリア内では、この他、脂肪酸のβ-酸化により生成されるアセチル-CoAが、TCA回路で代謝され、NADH2+が生成される。

 注2:リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルを構成する、リンゴ酸輸送系リンゴ酸-α-ケトグルタル酸輸送体)による輸送は、可逆的で、リンゴ酸(NADH2+)を、ミトコンドリア内から、ミトコンドリア外に輸送したり(糖新生時)、反対に(逆に)、リンゴ酸(NADH2+)を、ミトコンドリア外から、ミトコンドリア内に輸送する(運動時)。
 しかし、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルでは、ミトコンドリア内のm-AST(m-GOT)による反応は、オキザロ酢酸を、アスパラギン酸に変換する方向に進行し、逆行しないと言う。従って、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルを構成する、グルタミン酸-アスパラギン酸輸送体による輸送は、もっぱら、ミトコンドリア内のアスパラギン酸を、ミトコンドリア外に輸送し、ミトコンドリア外のグルタミン酸を、ミトコンドリア内に輸送する。

 注3:ミトコンドリア内へCa2+(カルシウムイオン)を輸送する(流入させる、取り込む)輸送系1では、ミトコンドリア内(マトリックス)が、負(−)に分極していることに依存している。輸送系1を担う分子は、mCU(mitochondrial Ca2+ uniporter)と命名されている。mCUによるCa2+取り込み輸送は、Chlorpromazine、Imipramineなどの向精神薬(精神安定剤)により、阻害される。mCUによる、ミトコンドリア内へのCa2+取り込みは、ミトコンドリア内(マトリックス)が、負(−)に分極している膜電位(Delta Psi m)に依存している。従って、脱共役剤(CCCP、FCCPなど)により、膜電位が消失すると、ミトコンドリア内へのCa2+取り込みが、行われない。
 ミトコンドリア外へCa2+を輸送する(流出させる)輸送系2を担う分子は、mNCE(mitochondrial Na+-Ca2+ exchanger)と命名されている。mNCEによるCa2+流出輸送は、Clonazepamなどの向精神薬(精神安定剤)により、阻害される。
 mPTP(mitochondrial permeability transition pore)分子は、VDAC(voltage-dependent anion channel:電位依存性陽イオンチャネル、porinと同じ)、ANT(adenine nucleptide translocase:ATP-ADP輸送体である、ATP-ADPトランスロケータ)、CyP-D(cyclophilin-D)の複合体と考えられている。mPTPは、生理的条件下では開口しないが、アポトーシス誘発因子のBaxは、mPTPを開口させる。mPTPが開口すると、ミトコンドリア内(マトリックス)に、細胞質ゾルから流入が起こり、ミトコンドリアは膨化し、アポトーシスが惹起される。
 小胞体内は、Ca2+濃度が高いが、ミトコンドリアは、小胞体と、密な接触があると言う。
 IP3(イノシトール3リン酸)は、小胞体Ca2+チャネル(IP3受容体)に結合して、Ca2+を細胞質ゾルに放出させたり、ミトコンドリアから、Ca2+を細胞質ゾルに放出させ、細胞内Ca2+濃度を上昇させる。細胞膜のCaチャネルからも、Ca2+が細胞内に流入する

 シクロフィリンには、多数のファミリー蛋白質が存在するが、シクロフィリンD(CyP-D)は、ミトコンドリアに局在する。
 
シクロフィリンD(CyP-D:cyclophilin-D)は、ミトコンドリア膜透過性遷移現象(mitochondrial membrane permeability transition:MPT)に関与する。MPTは、カルシウム依存性(Ca2+依存性)に、内膜の透過性が亢進し、その結果、ミトコンドリアの膜電位の低下、膨化、ミトコンドリア外膜の崩壊を伴うミトコンドリアの脱機能が、起こる。
 シクロフィリンD(CyP-D)は、通常、ミトコンドリアのマトリックス
に存在し、MPTに際して、ミトコンドリア内膜に移行する。そして、シクロフィリンDは、内膜に存在するANT、外膜に存在するVDACなどと、MPTポア複合体(mPTP分子)を形成する。なお、ANTは、MPTに必須でないと言う。
 MPTポア複合体(mPTP分子)は、アポトーシス時のミトコンドリア外膜透過性亢進現象に関与する
と考えられて来たが、シクロフィリンDを欠損したマウスの実験結果から、シクロフィリンD依存的なMPTポア複合体(シクロフィリンDを含むmPTP分子)は、アポトーシスに関与しないと言う。また、MPTポア複合体(mPTP分子)は、活性酸素や、過剰な細胞内カルシウムにより誘導されるネクローシス(壊死)に関与する(重要な役割を果たす)。
 シクロフィリンDを欠損したマウスは、心臓や脳を、虚血・再灌流しても、障害が起こりにくい(虚血によるネクローシスが、起こりにくい)。心筋梗塞や脳梗塞では、、シクロフィリンD依存的なMPTポア複合体(シクロフィリンDを含むmPTP分子)によるネクローシスが関与していると、考えられている。

 注4:Ca2+(カルシウムイオン)は、ミトコンドリアでのエネルギー産生(ATP産生)を調節する。
 Ca2+は、エネルギー産生(ATP産生)に関与する、ミトコンドリア内の3つの酵素活性を調節する。3つの酵素とは、ピルビン酸脱水素酵素(pyruvate dehydrogenase complex)、イソクエン酸脱水素酵素(NAD+-linked isocitrate dehydrogenase)、α-ケトグルタル酸脱水素酵素(2-oxoglutarate dehydrogenase)。
 細胞質ゾルのCa2+([Ca2+]cCac)濃度が上昇し、ミトコンドリアが、Ca2+を取り込む(uptake)と、これらの酵素活性が、高まり、エネルギー産生(ATP産生)が、増加する。従って、ミトコンドリア内へのCa2+輸送は、生体のエネルギー需要が高まって、エネルギー産生を必要としていることを伝える(relay)ことが、重要な作用の一つ。
 ミトコンドリア内へのCa2+輸送(ミトコンドリアのCa2+取り込み)により、酵素活性が活性化され、エネルギー産生(ATP産生)が高まる。
 細胞質ゾルの[Ca2+](Cac)が上昇すると、ミトコンドリア内へのCa2+輸送により、酵素活性が活性化され、エネルギー産生(ATP産生)が高まる。
 なお、ミトコンドリア内Ca2+濃度( [Ca2+]mCam)は、心筋細胞では、非収縮時(a resting level)は<100nMで、頻回の収縮時(over the course of many contractions)には、600nMに増加する。

 注5:細胞内カルシウム濃度(Ca2+濃度)は、細胞外カルシウム濃度より、10,000倍も低い。その為、細胞成分を主体とする肉類(豚肉、鶏肉など)は、細胞外ミネラルであるカルシウム含有量が、少ない。
 なお、魚類は、カルシウム含量が多い。大豆製品(豆腐、納豆)は、カルシウム含量が多い。御飯(精白米)より、パン(小麦粉)の方が、カルシウム含量が多い。葉物野菜(ほうれんそうなどの葉菜類)は、カルシウム含量が多いが、果実野菜(トマトなど)は、カルシウム含量が少ない。
 表2 食品のカルシウム含有量
 食品  カルシウム(Ca)  リン(P)
 ぶた(ロース、脂身つき)     4   130
 若鶏     5   180
 焼きさんま    90   200
 はまぐり(水煮)   120   140
 豆腐(木綿)   120    85
 糸引納豆    90   190
 めし(精白米)     4   130
 食パン(市販)    36    70
 ほうれんそう(ゆで)    60    60
 トマト(果実)     9    18

 注6Zhuによると、ミトコンドリア内Ca2+濃度(Cam)が減少すると、アポトーシスが起こると言う。
 培養細胞を用いた実験結果によると、細胞外(培養液)のCa2+濃度Cao)を低くすると、早期に、ミトコンドリア内Ca2+濃度(Cam)と、膜電位(Delta Psi Delta Psi m)とが、減少(reduction)し、その後、シトクロム(cytochrome c)が放出され、カスパーゼ(caspase)が活性化され、アポトーシス(apoptosis)が起こる。ミトコンドリアのPTP(mitochondrial permeability transition pore)を阻害する、シクロスポリンA(cyclosporin A)や、Bcl-2は、ミトコンドリア内Ca2+(Cam)の放出を阻害し、アポトーシスを抑制した。
 反対に、(培養液のCa2+濃度を高め、)ミトコンドリアにCa2+を過補充(overload)し、ミトコンドリア内Ca2+濃度([Ca2+]:Cam)を高めると、細胞は、アポトーシスでなく、壊死(necrosis)で、死ぬ:細胞外Ca2+Cao)が過剰に存在すると、ミトコンドリア内Ca2+(Cam)も増加し、同時に、1時間後をピークに、膜電位(Delta Psi m)が低下(decrease)し、2時間後には、壊死(necrosis)が起こる。
 ミトコンドリア内Ca2+濃度(Cam)の低下と、膜電位(Delta Psi m)の低下は、アポトーシスの共役した反応(a coupled reaction for apoptosis)だが、両者は、壊死では、脱共役(was uncoupled)している:壊死では、ミトコンドリア内Ca2+濃度(Cam)が上昇すると、膜電位(Delta Psi m)が低下し、壊死が起こる。
 クロナゼパム(Clonazepam)は、ミトコンドリアのNa+-Ca2+交換輸送体(Na/Ca exchanger)を比較的特異的に阻害する。クロナゼパムは、(培養液の高いCa2+濃度の為に、)過剰に増加したミトコンドリア内Ca2+濃度(Cam)を軽減させ、壊死から、細胞を防御することが出来ると言う(この論文で、ミトコンドリアの「Na/Ca exchanger」とは、輸送系2のことのようだが、輸送系2だと、Ca2+を、ミトコンドリア内からミトコンドリア外に輸送するので、阻害すると、ミトコンドリア内Ca2+濃度のCamは、むしろ増加すると考えられる)。
 なお、小胞体(endoplasmic reticulum)では、Ca2+-ATPaseが、Ca2+を、小胞体内に蓄積させる。thapsigarginは、小胞体(endoplasmic reticulum)のCa2+-ATPaseを強力に阻害する。thapsigarginは、多くの培養細胞株(various cell lines.)に、アポトーシスを誘導する。胸腺細胞(thymocytes)は、極く少量のthapsigarginによりアポトーシスが誘導されるが、PTP(の開口)を阻害するシクロスポリンA(cyclosporin A)は、このアポトーシスを、阻害出来る。しかし、thapsigarginは、細胞外(extracellular)のCa2+Cao)を除去し(after removal)、ミトコンドリア内Ca2+(Cam)が蓄積しないようにしても、アポトーシスを誘導する。

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