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 セレクチン

 白血球表面の糖鎖は、組織内(血管外)の炎症巣へ浸潤する際、血管内皮細胞表面のE-セレクチンと結合する為に、重要な役割を担っている。

 血管内皮細胞は、感染などの炎症時に、TNF-αにより刺激され、表面に、E-セレクチン(接着分子)を発現する。E-セレクチンの先端には、レクチンドメインが存在する。
 白血球(好中球)は、表面に、シアリルLex抗原などの糖鎖が存在し、血管内皮細胞表面に発現したE-セレクチンと、結合する(弱い接着)。
 さらに、白血球(好中球)は、サイトカイン(IL-8など)により活性化されインテグリン(LFA-1)を発現し、血管内皮細胞表面のインテグリンリガンド(ICAM-1)と結合する(強い接着)。そして、白血球(好中球)は、血管内皮細胞間を遊出して(潜り抜けて)、組織内の感染などによる炎症巣へ、浸潤する。

 1.白血球とセレクチン
 セレクチンは、血管内皮細胞表面に存在する分子で、白血球が、血管内皮細胞と接着し、血管外に浸潤する際に、関与する。
 組織が、感染などで損傷を受けると、局所で、インターロイキン-1(IL-1)やTNF-αが放出され、血管内皮細胞は、細胞接着分子のE-セレクチン(穴、注1)を血管内に向かって、差し出す(この反応は、数十秒から数分で起こる)。

 白血球(単球、好中球)は、表面に、セレクチン(穴)と結合するセレクチンリガンド(鍵)として、糖鎖シアリルLex抗原など)を有している。白血球は、この糖鎖リガンド(鍵)により、セレクチン(穴)を発現した血管内皮細胞と接触し、血管の表面を転がるようになる(ローリング:rolling)。

 そうすると、白血球表面の接着分子インテグリン(受容体=穴:LFA-1やVLA4)が活性化され、血管内皮細胞表面に、まず、ICAM-1(intercellular adhesion molecule-1)、遅れてVCAM-1(vascular cell adhesion molecule-1)というインテグリンリガンド(鍵)が現れる。

 血管内皮細胞表面のICAM-1は、LFA-1という白血球のインテグリンと、結合する(LFA-1/ICAM-1)。
 なお、ICAM-1は、ライノウイルス受容体(注2)。ライノウイルスは、小児気管支喘息の発作の約8割に関与している。
 また、VCAM-1は、VLA4というインテグリンと、結合する。
 そして、白血球は、平らに変形して、血管内皮細胞と強く接着(sticking:注3)する。
 接着した白血球は、血管外の組織に遊走(transmigration)して浸潤し、損傷した組織を破壊したり、異物を貪食する。

 なお、マクロファージがT細胞に抗原を提示する際に、マクロファージのMHC(主要組織適合抗原)クラスII分子が、抗原TCR(T細胞受容体)に認識させる(シグナル1)ことに加え、マクロファージのインテグリン・リガンドT細胞のインテグリンが結合する(シグナル2)ことで、T細胞は初めて、活性化される。シグナル1だけだと、免疫寛容が成立する。

 2.癌細胞とセレクチン
 セレクチンは、レクチン様ドメインを持っている。セレクチンは、セレクチンリガンドと、結合する。セレクチンリガンドには、シアリルLex糖鎖抗原(シアリルルイスx)、シアリルLea糖鎖抗原(シアリルルイスa)などの糖鎖(これらは、シアル酸フコースを含むオリゴ糖)が存在する。
 血管内皮細胞に発現されるE-セレクチンは、細胞表面に発現する、シアリルLea抗原シアリルLex抗原と結合する。
 E-セレクチンは、シアリルLea抗原シアリルLex抗原注4)を発現した癌細胞(大腸癌や胃癌)が、血管内皮細胞へ接着し転移する際、重要な役割を果たしていて、癌の血行転移と関係する。
 モノクローナル抗体(抗ヒトCD抗体)を用いた検査では、E-セレクチンは、CD62E抗原、Lex抗原は、CD15s抗原として、その発現が、検出される。
 3.腫瘍マーカーとしてのセレレチンリガンド(糖鎖)
 癌によっては、体内に存在する癌細胞から、物質(糖鎖性の物質が多い)が放出され、血液中に増加する。これらの物質は、腫瘍マーカーとして、癌の診断や、再発のスクリーニングに用いられている(注5)。

 H2受容体拮抗剤のシメチジン(Cimetidine)を、大腸癌の手術後に投与すると、シアリルLex抗原シアリルLea抗原のレベルが高かった患者の生存率が、向上する(シメチジンが、セレクチンの血管内皮細胞での発現を抑制し、癌細胞の血管内皮細胞への接着を抑制し、癌転移を抑制する)。
 カルシウム拮抗剤(ベラパミル)は、ラット腸癌の転移を、抑制する(セレクチンは、細胞膜結合型C-型レクチンであり、シアリルLex抗原などのセレクチンリガンドと結合するには、カルシウムイオンが必要)。

 4.E-セレクチン(ELAM-1)とELAM-1や
 E-セレクチンは、血管内皮細胞に、P-セレクチンは、血小板と血管内皮細胞に、L-セレクチンは、白血球に、それぞれ、発現される。

 E-セレクチンは、ELAM-1(endotherial leukocyte adhesion molecule-1)、CD62E抗原とも、呼ばれ、炎症局所の血管内皮細胞(活性化された血管内皮細胞)に、発現する。
 E-セレクチン(ELAM-1)は、サイトカイン(IL-1βやTNF-αなど)の刺激で、血管内皮細胞表面に、発現する。
 E-セレクチン(ELAM-1)のリガンドは、シアリルLex抗原シアリルLea抗原:E-セレクチン(ELAM-1)は、細胞表面にシアリルLex抗原を発現した、好中球(顆粒球)、好酸球、単球、T細胞と結合し、血管内皮細胞に、接着させる。シアリルLex抗原とシアリルLea抗原を強く発現した癌細胞は、活性化された血管内皮細胞に、接着する(癌細胞は、血行性に転移する)。

 P-セレクチンは、GMP-140 (granule membrane protein of 140 kDa)、PADGEM (platelet activation-dependent granule external membrane)、CD62P抗原などとも呼ばれ、活性化された血小板(α顆粒に含まれている)や血管内皮細胞などに、発現する。
 P-セレクチン(GMP-140)のリガンドは、シアリルLex抗原(シアリルLewisx糖鎖)であり、PSGL-1(P-selectin glycoprotein ligand-1)と呼ばれるコア蛋白質(N末端付近のチロシン残基が、硫酸化されている)に結合している。

 L-セレクチンは、LAM-1 (leukocyte adhesion molecule-1)、LECAM-1 (leukocyte-endothelial cell adhesion molecule-1)、MEL-14抗原 (gp90mel)、CD62L抗原などとも呼ばれ、白血球(ナイーブT細胞:Th0細胞など)に発現する。
 L-セレクチンのリガンドは、リンパ節の高血管内皮細静脈 (high endothelial venule:HEV) に存在する、硫酸化修飾を受けたシアリルLex抗原(シアリル6-スルホLewisx抗原)と言われる。このシアリルLex抗原は、GlyCAM-1、CD34抗原、PSGL-1などをコア蛋白質として、結合している。

 なお、E-セレクチンとP-セレクチンのリガンドとしては、シアリルLex抗原も、シアリル6-スルホLex抗原も、作用する。
 L-セレクチンのリガンドとして作用するのは、シアリル6-スルホLex抗原のみである。

 注1:E-セレクチンは、血管内皮細胞に、P-セレクチンは、血小板と血管内皮細胞に、L-セレクチンは、白血球に、それぞれ、発現される。E-セレクチンと、P-セレクチンのセレクチンリガンドは、白血球上に、L-セレクチンのセレクチンリガンドは、血管内皮細胞上に、それぞれ、見出される。
 セレクチンは、細胞膜結合型C-型レクチンであり、セレクチンリガンドとの結合には、カルシウムイオンが必要(カルシウム依存性のレクチン活性)。

 注2:ライノウイルスは、感冒の主因だが、COPD(chronic obstructive pulmonary disease)患者が、ライノウイルスに感染すると、症状が急性増悪する。 
 マクロライド系の抗生物質である、エリスロマイシンは、抗菌作用以外に、炎症性サイトカインや、ライノウイルス受容体であるICAM-1の合成を低下させる作用が、知られている。培養ヒト気管上皮細胞に、ライノウイルスを感染させた実験では、エリスロマイシンは、(ライノウイルス受容体であるICAM-1の合成を低下させることにより、)培養液中に放出される、ライノウイルス量、細胞内ライノウイルスRNA量、及び、炎症性サイトカイン量を、減少させたという。
 びまん性汎細気管支炎(DPB)には、エリスロマイシン(10 mg/kg/日)等、マクロライド長期少量投与療法が行われる。

 ライノウイルスの90%以上は、major type ライノウイルスで、接着分子ICAM-1を感染受容体(ウイルス受容体)とし、細胞に感染・進入する。一部分のライノウイルスは、酸性エンドゾームを通過して、ウイルスRNAが、細胞内に進入する。ライノウイルスの10%のminor type ライノウイルスは、低比重リポ蛋白受容体(VLDL受容体)を介して、細胞に感染し、酸性エンドゾームを通過して、ウイルスRNAが、細胞内に進入する。
 マクロライド系の抗生剤(14員環マクロライドであるエリスロマイシン)は、気道上皮でのICAM-1発現を抑制し、酸性エンドゾームを減少させる。その結果、ヒト気管上皮細胞を用いた実験では、エリスロマイシンを添加すると、培養液に放出されるライノウイルス量、細胞内ライノウイルスRNA量、及び、炎症性サイトカインが減少した。
 マクロライド系の抗生剤(エリスロマイシン)以外にも、ステロイド剤プロトンポンプ阻害剤(ランソプラゾール:医薬品名タケプロン等)、去痰薬(カルボシステイン:医薬品名ムコダイン等)にも、ライノウイルス抑制効果がある。
 
 慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)は、ウイルスや細菌による気道感染を契機に、症状が急性増悪する。
 ライノウイルスは、COPDを急性増悪させる。ライノウイルス感染により、気道上皮細胞などからの炎症性物質の放出、喀痰分泌の亢進、肺炎球菌の接着性の亢進などが起こる。
 ライノウイルスが宿主細胞に感染する際には、まず、ウイルスが、宿主細胞側の感染受容体に結合する。
 Major typeのライノウイルス(約90種類)は、宿主細胞側のライノウイルス感染受容体として、細胞接着分子のICAM-1を用いる。また、minor typeのライノウイルス(約10種類)は、感染受容体として、LDL受容体を用いる。
 Major typeのライノウイルスは、宿主細胞のICAM-1に結合し、ウイルスRNAは直接的に細胞質に侵入するか、一旦、細胞内の酸性エンドゾームに取り込まれた後に細胞質に侵入する。また、minor typeのライノウイルスは、宿主細胞のLDL受容体に結合し、ウイルスRNAは、一旦、細胞内の酸性エンドゾームに取り込まれた後に細胞質に侵入する。
 エリスロマイシン(EM)は、気道上皮細胞によるICAM-1発現を抑制する(エリスロマイシンは、major typeのライノウイルスの感染を阻止する)。
 COPD患者に、気管支拡張剤に併用し、少量(200〜400mg/日)のエリスロマイシンを、12カ月間内服させた臨床研究の結果では、風邪の罹患回数、急性増悪の回数が、共に、減少した。
 エリスロマイシンは、気道上皮細胞からのムチン放出を抑制する作用がある
 エリスロマイシン少量長期投与療法(3カ月間)は、喀痰増加や頻回増悪を来たすCOPD患者の治療に有用。

 注3:単球が、血管内皮細胞へ接着するには、IL-1、TNF-αIL-6などのサイトカイン刺激で、血管内皮細胞に、E-セレクチンが発現することが必要。
 MCP-1(monocyte chemoattractant protein-1)、IL-8も、血管内皮細胞へ接着する単球数を、増加させる。MCP-1は、単球走化活性因子のこと。MCP-1は、マクロファージから産生され、体循環から、NK細胞NKT細胞を感染局所に集積させる。単球は、MCP-1を、細胞表面のCXCR-2受容体により感知して、遊走する。
 テストステロンは、アンドロゲン(男性ホルモン)の主成分であるが、遊離テストステロン濃度と、MCP-1とには、負の相関があり、遊離テストステロンは、動脈硬化に抑制的に働く。 
 アンジオテンシンII(AII)やTNF-αは、AT1レセプター(AT1受容体)に結合し、NF-kB inducing kinase(NIK)→I-kB kinase(IKK)→NF-Bと活性化させ、MCP-1や接着分子の発現や、サイトカインの産生を、促進させる。高血圧の治療に、降圧剤として使用されるカルシウム拮抗剤のニフェジピンは、NIK活性を抑制し、MCP-1などの産生を抑制し、動脈硬化の進展を、抑制する。
 ニフェジピンには、抗炎症作用(CRP値の低下作用)や、抗酸化作用(NADPHオキシダーゼ活性を抑制する作用)も、ある。

 MCP-1は、炎症を惹起する作用があるケモカイン。
 MCP=1は、肥満した脂肪組織で発現が増加し、脂肪組織にマクロファージを浸潤させ、脂肪組織でのTNF-α(脂肪分解促進作用があり遊離脂肪酸を増加させる)、IL-6、IL-1βの発現を増加させる。

 注4:腫瘍マーカーの糖鎖抗原は、シアル酸のN-アセチルノイラミン酸(NeuAc)、ガラクトース(Gal)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)から構成された糖鎖が、蛋白質に結合している。
 シアリルLea糖鎖抗原であるCA19-9は、構造は、SAα2,3Galβ1,3GlcNAc-Rであり、血液型抗原のLewis A抗原(Lea)にシアル酸(SA)が結合している。CA19-9は、ST酵素(シアル酸転移酵素:シアル酸を結合)と、Le酵素(ルイス酵素:フコースを結合)で合成される。ここで、SAシアル酸N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)、GalガラクトースGlcNAcN-アセチルグルコサミンを、それぞれ、意味する。
 ルイス式血液型のLewis B抗原(Leb)は、Fucα1,2Galβ1,3GlcNAc-Rであり、Se酵素(FUT2酵素)Le酵素で、フコースが2ケ結合されて、合成される。Lewis A抗原(Lea)は、フコースFuc)が1ケ結合している。
 ST酵素Se酵素は、共存していると、競合するので、Se酵素を持っていないLe(a+b-)の人は、正常人でも、CA19-9値が高くなる。
 また、Le酵素が欠損しているLe(a-b-)の人(日本人では、10人に1人存在する)は、癌があっても、CA19-9値は、ゼロになる。
 シアリルLex糖鎖抗原のSLXは、構造は、SAα2,3Galβ1,4GlcNAc-Rであり、ST酵素と、Le酵素またはFUT6酵素で合成される。そのため、Le酵素が欠損しているLe(a-b-)の人でも、癌があると、SLX値は高くなり、しかも、肺癌の予後は悪いと言う。

 なお、人間のABO式血液型で、A型ではGalNAcが、B型ではGal(ガラクトース)が、結合している。
 GalNAcは、Galの2位の-OHが、-NH-CO-CH3に置換されている。
 Glc(グルコース)では、4位の-OHの向きは、下向きなのに対して、Galでは、上向きになっている。

 注5:腫瘍マーカーとしては、糖鎖抗原CA19-9SLXなど)、糖鎖以外のもの(CEA、AFPなど)、癌関連遺伝子(K-rasp53など)がある。

 参考文献
 ・山本一彦、他:カラー図解 靭帯の正常構造と機能 IV 血液・免疫・内分泌 (日本医事新報社、2002年).
 ・腫瘍マーカー−その診断的意義と今後の展開 日本医師会雑誌 第131巻・第5号 2004年.
 ・Meike Rinnbauer, et al: Epitope mapping of sialyl Lewisx bound to E-selectin using saturation transfer difference NMR experiments. Glycobiology, 2003, Vol. 13, No. 6 435-443.
 ・S Matsumoto, et al: Cimetidine increases survival of colorectal cancer patients with high levels of sialyl Lewis-X and sialyl Lewis-A epitope expression on tumour cells. British Journal of Cancer (2002) 86, 161-167.  ・山谷睦雄:ウイルス感染とマクロライド 日本医師会雑誌 第134巻・第7号、1290-1291、2005年. 
 ・山谷睦雄:COPD急性増悪の防止とエリスロマイシン少量長期投与、日本医事新報、No.4290(2006年7月15日)、92-93頁.
 ・門脇孝:アディポサイトカイン、日本医師会雑誌、第136巻・特別号(1)、メタボリックシンドローム up to date、S71-S75頁.
 ・北徹:メタボリックシンドロームと粥状動脈硬化、日本医師会雑誌、第136巻・特別号(1)、メタボリックシンドローム up to date、S127-S131頁.

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