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 ステロイドホルモン

 ステロイド剤(ステロイド性抗炎症薬)は、プロスタグランジン(PGE2)や、ロイコトリエン(LT)の生成を抑制し、ライソゾーム膜(リソゾーム膜)を安定化させ、白血球の遊走を抑制し、抗炎症作用を示す。
 コルチゾールは、肝細胞では、糖新生を促進させる。

 ステロイド剤や、ステロイド核を有するピルは、血小板凝集能を亢進させ、血栓を形成させ易くする恐れがある。

 1.副腎皮質ホルモン
 副腎皮質では、ステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン)が合成される。

 副腎皮質ホルモンは、主たる作用から、糖質の代謝に関与する糖質コルチコイドと、電解質の代謝に関与する電解質コルチコイド(鉱質コルチコイド)と、男性ホルモン作用がある副腎アンドロゲンの、3群に分類される。 

 a).糖質コルチコイド
 糖質コルチコイド(glucocorticoid:グルココルチコイド)は、肝臓での糖新生を促進させる(ストレスなどに際して、血糖値を維持する為、血糖値を上昇させる)。
 糖質コルチコイドは、副腎皮質の束状帯で、生成される。
 コルチゾール(cortisol:ヒドロコルチゾン、ハイドロコルチゾン、ハイドロコーチゾン)は、糖質コルチコイド作用が強いが、電解質コルチコイド作用も有している。生理量のコルチゾールは、(腎臓の尿細管でのNa+再吸収による)水分保持(血圧維持)に、必要。Addison病では、水分保持能力の欠如による脱水や、水負荷による水中毒を来たす。

 ステロイドホルモンは、甲状腺ホルモン同様に、核内に受容体が存在するが、糖質コルチコイドは、核内にでなく、細胞質内に、細胞質受容体が存在する。糖質コルチコイドの細胞質受容体は、糖質コルチコイドが結合すると、立体構造が変化して、熱ショック蛋白質(heat shock protein:HSP)が外れ、DNA結合部位(zinc finger)が、露出し、核内に移動し、ニ量体を形成し、糖質コルチコイド応答性エレメント(glucocorticoid responsive element:GRE)に結合する。そして、DNAのmRNAへの転写に影響を与え、酵素蛋白質(抗炎症蛋白のlipocortinなど)の合成を調節する。

 コルチゾール(ヒドロコルチゾン)は、1日、20mg程度、副腎から分泌され、早朝の血漿濃度は、12.0±4.24μg/dlと言われる。朝のコルチゾール値が5μg/dl以下の場合は、原発性及び続発性副腎皮質機能低下を疑う。
 尿中遊離コルチゾールの正常値は、通常10〜100μg/M2/日と言われる(尿中コルチゾールは、安定しているので、24時間蓄尿の場合、酸や防腐剤は不要)。尿中遊離コルチゾールが、10μg/日の場合、副腎皮質機能低下を疑う。 

 表1 副腎皮質ホルモンの分泌量と活性
 副腎皮質ホルモン   分泌量(mg/日)   糖質コルチコイド活性   電解質コルチコイド活性 
 コルチゾール    15〜20        1.0       1.0
 コルチコステロン     2〜5        0.3      15 
 アルドステロン  0.05〜0.15        0.3    3000  
 b).電解質コルチコイド
 電解質コルチコイド(mineralcorticoid:鉱質コルチコイド)は、腎臓の尿細管でのNa+再吸収を促進させる。
 電解質コルチコイドは、副腎皮質の球状帯で、生成される。
 アルドステロンは、強力な電解質コルチコイド作用を有している。

 c).副腎アンドロゲン
 副腎アンドロゲンは、男性化作用がある。
 副腎アンドロゲンは、副腎皮質の網状帯で、生成される。
 副腎アンドロゲンのデヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone:DHEA)や、アンドロステンジオン(androstenedion)は、そのままでは、活性が弱く、末梢組織で、テストステロンに変換され、男性ホルモン作用を発揮する。

 2.コルチゾールの作用
 副腎皮質ホルモンのコルチゾールは、糖質コルチコイド作用が強い。
 コルチゾールの糖質コルチコイド作用は、肝臓での糖代謝(糖新生)、筋肉での蛋白質代謝、脂肪組織での脂質代謝(中性脂肪の代謝)に影響を与え、結果的に、グルコースの血液中への供給を、増加させる。
 生体は、ストレス(飢餓、寒冷、外傷など)の際に、脳の下垂体のACTH分泌を介して、副腎皮質からのコルチゾール分泌を急増させ、エネルギー源となるグルコースの供給を、促進させる。しかし、コルチゾールが、血中へのグルコースの供給を増加させることは、糖尿病を悪化させる恐れがある。コルチゾールは、インスリンの、インスリン受容体との結合親和性を低下させ(インスリン受容体数は減少させない)、インスリンによるグルコース取り込み促進作用を、抑制する。
 コルチゾールには、抗炎症作用がある。
 概して、コルチゾールのような糖質コルチコイド(グルココルチコイド)は、肝組織には同化的に作用し、リンパ球や線維芽細胞のような間葉系細胞に対しては、異化的に作用する。

 ・コルチゾールは、肝細胞では、糖新生を促進させる。コルチゾールは、末梢での糖利用を減少させる。その結果、肝臓のグリコーゲン貯蔵量が増加したり、肝臓から、グルコースが、血中に放出される。
 コルチゾールは、肝細胞では、グリコーゲン合成酵素(Glycogen synthase)、GPT(Pyruvate-Glutamate transaminase:ALT)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(Pyruvare carboxylae:PC)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(phosphoenolpyruvate carboxylae:PEPCK)、Fructose-1,6-bisphosphatase、Glucose-6-phosphatase、などの酵素蛋白の合成を、誘導する(酵素の活性が上昇する)。
 コルチゾールは、肝細胞以外にも、筋線維(筋繊維:筋肉の筋細胞)でも、グリコーゲンを蓄積させる。
 ・コルチゾールは、筋細胞では、蛋白質合成を抑制し、蛋白質分解を促進する。その結果、筋肉から、アミノ酸、主に、アラニン(Ala)が、血中へ放出される。アラニンは、肝臓で、グルコースに糖新生される(グルコース・アラニン回路)。
 コルチゾールは、生理量では、蛋白質同化作用を示し、筋力を、増加させる。
 in vitroの実験では、少量(10-8〜10-9M以下)の糖質コルチコイド(グルココルチコイド)は、蛋白合成(蛋白質合成)を促進し、大量(10-4〜10-5M)の糖質コルチコイドは、蛋白合成を抑制する(阻害する)。
 in vitroの実験では、少量(10-8〜10-9M以下)の糖質コルチコイド(グルココルチコイド)は、蛋白合成(蛋白質合成)を促進し、大量(10-4〜10-5M)の糖質コルチコイドは、蛋白合成を抑制する(阻害する)。
 ヒトにhydrocortisoneを100mg静脈注射すると、血中濃度は、最高約4×10-6Mに達する。また、hydrocortisoneを300mg静脈注射すると、60分後に、血中濃度は、約7×10-6Mに達する。
 hydrocortisoneは、10-5〜10-7Mの濃度において、有意にヒト好中球の遊走を、抑制する。

 ・コルチゾールは、脂肪組織(や肝臓)では、中性脂肪(トリグリセリド)合成を抑制する。
 コルチゾールは、脂肪組織では、インスリンの作用を抑制し、脂肪分解作用を、亢進させる(インスリンの作用の抑制により、グルコース取り込みが抑制され、グリセロール 3-リン酸アシル-CoAから、中性脂肪が合成されない)。インスリンは、脂肪組織のリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性を上昇させるので、コルチゾールにより、インスリンの作用(インスリン受容体との結合)が抑制されると、LPLにより分解されないカイロミクロンVLDLLDLが増加し、高脂血症(高中性脂肪血症、高コレステロール血症)を来たす。コルチゾールは、糖新生を促進させ、血糖値を上昇させ、インスリン分泌を促進させ、その結果、一部の脂肪組織では、脂肪動員(脂肪分解)を上廻って、脂質合成が、促進される。
 その結果、血中への脂肪酸やグルセロール放出が、増加する。グリセロールは、肝臓で、グルコースに糖新生される。 
 Cushing症候群では、血中の総コレステロール、中性脂肪、遊離脂肪酸が増加する。Cushing症候群では、コルチゾールにより、インスリン分泌が促進され、躯幹を中心に、脂肪沈着が、見られる。また、Cushing症候群では、脂肪沈着により、頬部には、満月様顔貌(moon face)が、頚部には、野牛のこぶ(buffalo hump)が、見られる。

 ・糖質コルチコイドのコルチゾールや、ステロイド剤(ステロイド性抗炎症薬)には、抗炎症作用がある。
 コルチゾールは、プロスタグランジン(PGE2)や、ロイコトリエン(LT)など、炎症に関与する化学伝達物質の産生を抑制する。その結果、血管透過性の亢進などが抑制され、炎症性浮腫が抑制され、抗炎症作用が、現れる。しかし、コルチゾールの抗炎症作用は、病原体に対する免疫応答を減弱させ、感染症を悪化させる側面もある。
 ステロイド剤NSAIDsは、COXを阻害し、プロスタグランジン合成(PGE2合成)を抑制し、抗炎症作用などを現す。
 ステロイド剤は、COXの合成を阻害して(COX-2遺伝子の発現を阻害するが、COX-1遺伝子の発現をは阻害しない)、抗炎症作用、鎮痛作用などを現す。
 血小板でのトロンボキサンA2TXA2)の合成は、主にC0X-1によるので、COX-1遺伝子の発現を阻害しないステロイド剤は、出血傾向(抗凝固作用)の副作用を来たさず、むしろ、血小板凝集能を亢進させ、血栓を形成させ易くする。
 ステロイド剤は、リポコルチン(lipocortin)を誘導して、ホスホリパーゼA2PLA2)の活性も阻害し、アラキドン酸の遊離を抑制し、プロスタグランジン(PGE2)や、ロイコトリエン(LT)の生成を、抑制する。なお、プロスタグランジン(PGE2)の生成を抑制するNSAIDsアスピリンは、5-リポキシゲナーゼの活性は阻害しないので、ロイコトリエン(LT)の生成をは、抑制しない。
 ステロイド剤やNSAIDsは、PGE2抗炎症作用(細胞膜安定化作用)を阻害してしまうが、ステロイド剤は、ロイコトリエン(LT)の炎症作用(白血球遊走や活性化)を抑制することなどにより、抗炎症作用(細胞膜安定化作用)を現すと考えられる。
 ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)は、適切な条件下では、リソゾーム膜安定化作用がある。ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)の他に、アスピリン、フェニルブタゾン、インドメタシン、フルフェナム酸にも、リソゾーム膜安定化作用がある。
 感染症に際して、副腎皮質から分泌されるコルチゾール(ステロイドホルモン)や、単球(マクロファージ)から産生されるPGE2は、細胞膜を安定化させ(細胞を炎症から保護し)、抗炎症作用を示す(外国から攻められた戦争に際して、国は、自国民を保護する為に防空頭巾を配るように、生体は、感染症に際して、自分の細胞の膜を安定化させ、保護しようとして、抗炎症作用のある、コルチゾールや、PGE2を、増加させる)。
 ステロイド剤は、マクロファージから、IL-1などのサイトカインが、産生されるのを、抑制する。ステロイド剤は、白血球(好中球や単球)が、炎症部位へ遊走することを、抑制する。ステロイド剤は、血液中のリンパ球数を減少させ、リンパ組織を萎縮させる。
 ステロイド剤(コハク酸プレドニゾロンナトリウム)は、recombinant IL-2(1U/ml)を用いて、長期培養中のT細胞(Tリンパ球)に添加すると、生細胞数と、標的細胞障害活性が、減少する:ステロイド剤が、10-8〜10-9Mの濃度では、生細胞数は有意に減少しない(Tリンパ球の増殖を、有意に抑制しない)。しかし、標的細胞障害活性は、10-8〜10-9Mの濃度でも、抑制される(10-9Mが、生理的な組織中濃度と言われる)。
 ステロイド剤は、免疫抑制剤としても、使用される。
 ステロイド剤は、神経細胞膜に作用して、膜の興奮性を減じ、鎮痛作用を来たす。
 コルチゾールは、ライソソーム膜(リソゾーム膜)を安定化させ、プロテアーゼの放出を防止する作用もある。 
 ステロイド(剤)は、細胞膜の蛋白の立体構造や、脂質二重層の脂肪酸側鎖の配列、蛋白−脂質間の相互作用を変化させ、細胞膜のイオンチャネル(ion channel)を抑制し、細胞膜安定化作用(細胞膜安定化効果)を示す。

 マウスを12時間拘束ストレスに曝した実験結果では、ステロイド剤(ヒドロコルチゾン)を投与(されていた)マウスの方が、正常マウスより、IFN-γ、TNF-α、IL-6の産生が、多い(ステロイド剤により、免疫抑制作用があるPGE2の産生が、抑制される為:ステロイド剤を中断すると、増加しているサイトカインに、リンパ球が反応して、リバウンドが起こる)。

 3.副腎皮質ホルモンの合成
 ステロイドホルモンは、化学構造式で、ステロイド核を有している。
 ステロイド核は、コレステロールから合成される。
 副腎皮質細胞は、表面のLDL受容体により、LDLを、細胞内に取り込み、脂肪滴として、コレステロールエステルを、貯蔵している。
 下垂体ACTHは、コレステロールエステル加水分解酵素(CEH)を活性化し、脂肪滴中のコレステロールエステルを、遊離コレステロールに変換させる。
 遊離コレステロールは、ミトコンドリアに輸送され、ミトコンドリア内膜で、プレグネロンに変換される。
 プレグネロンは、滑面小胞体に輸送され、17α-ヒドロキシプレグネロンを経て、11-デオキシコルチゾールに変換される。
 11-デオキシコルチゾールは、再び、ミトコンドリアに輸送され、コルチゾールに変換される。

 コルチゾールは、主に、肝臓で代謝され、グルクロン酸が結合(グルクロン酸抱合)したりした後、大部分は、17-OHCSとして、尿中より、排泄される。

 4.ストレスと副腎皮質
 コルチゾールの1日分泌量は、約20mgだが、最大のストレス下では、200〜300mg分泌される。

 ストレスが続くと、生体では、ストレスに抵抗する為に、副腎皮質が肥大し、副腎皮質ホルモンの分泌が、増加する。
 しかし、適応困難なストレス(過大なストレスや、長期間のストレス)は、生体を、疲弊させて、副腎皮質ホルモンの分泌を、減少させてしまう。

 慢性疲労症候群では、血清コルチゾールや、DHEA-S(デヒドロエピアンドロステロンサルフェート)など、副腎皮質から産生されるホルモンが減少し、思考力や集中力が低下する。

 5.ステロイド剤
 天然のコルチゾール(ヒドロコルチゾン、ハイドロコルチゾン)は、糖質コルチコイドとして、強い抗炎症作用を有するが、同時に、電解質コルチコイド活性を有している為、多量に投与すると、体内にナトリウム(Na+)貯留させてしまう。
 コルチゾール(cortisol)の電解質コルチコイド活性を減少させた、合成の糖質コルチコイドが開発され、副腎皮質ステロイドホルモン(ステロイド剤)として、アレルギー疾患などの治療に、使用されるようになった。
 表2 ステロイド剤の作用の比較
 化合物   抗炎症作用   糖質コルチコイド活性   電解質コルチコイド活性   血中半減期  1日投与量  1錠中含有量
 コルチゾール      1       1        1  1.4〜3時間   80〜150mg  10mg
 プレドニゾロン       4       3.7        0.8  120分前後  20〜40mg  5mg
 メチルプレドニゾロン       5        5.4       <0.5   2.1時間  16〜32mg  2mg
 デキサメサゾン     30     154       <0.5  約200分  2〜4mg  0.5mg
 プレドニゾロン(prednisolone)は、コルチゾール(cortisol:hydrocortisone)の1位を二重結合にしたΔ1-cortisol。
 プレドニゾロンは、コルチゾールに比して、4倍の抗炎症作用(肉芽腫抑制作用)を有するが、電解質コルチコイド活性(ナトリウム貯留作用)も、コルチゾールに比して、0.8倍程度有する。プレドニゾロンは、コルチゾールに比して、3.6倍の糖質コルチコイド活性(糖質代謝作用:肝グリコーゲン蓄積作用)を有する。

 デキサメサゾン(dexamethasone:9α-fluoro-16α-methyl-prednisolone)は、プレドニゾロンの9α位にフッ素を、16β位にメチル基を導入した化合物で、コルチゾールやプレドニゾロンより、抗炎症作用が強いが、電解質コルチコイド活性(ナトリウム貯留作用:電解質作用)は、弱い(全く無い訳ではない)。
 デキサメサゾンは、食欲増加、体重増加、皮膚線条などの副作用が強く、便へのカルシウム(Ca)排泄も、亢進する。
 表3 ステロイド剤の特徴水島裕氏編集の「今日の治療薬」の表2と吉田正氏の表1を改変し引用)
 ステロイド化合物  半減期(時間)  糖質コルチコイド活性  電解質コルチ
 コイド活性
 1日投与量
  (mg)
 1錠中含有量
  (mg)
 血中  生物学的  力価  対応量(mg)
 コルチゾール  1.2   8〜12   1  20   1  10〜120  10
 コルチゾン  1.2   8〜12   0.7  25〜30   0.7  12.5〜150  25
 プレドニゾロン  2.5  18〜36   4.0   5   0.8   5〜60  1、5
 メチルプレドニゾロン  2.8  18〜36   5.0   4   0   4〜48  2、4
 トリアムシノロン  −  18〜36   5.0    4   0   4〜48  4
 パラメタゾン  −  36〜54  10   2   0   1〜24  2(非販売)
 ベタメタゾン  3.3  36〜54  25〜30   0.75   0   0.5〜8  0.5
 デキサメタゾン  3.5  36〜54  25〜35   0.75   0   0.5〜8  0.5
 成人の副腎からは、1日に20mgのコルチゾールが分泌される。ステロイド剤1錠中には、20mgのコルチゾール(の糖質コルチコイド作用)に相当する量が含まれている。

 ステロイド剤には、免疫抑制作用(抗体産生抑制作用)、抗炎症作用がある。
 ステロイド剤が、抗体産生を抑制するには、炎症を抑制するより、多量に用いる必要がある。例えば、プレドニゾロン(医薬品名:プレドニンなど)は、30mg/日未満の投与量では、抗体産生を十分に抑制しないが、5〜10mg/日の投与量でも炎症を抑制する(抗炎症作用を現わす)。

 デキサメタゾン、ベタメタゾンなどは、血中半減期が長い上、細胞質のステロイド受容体と強固に結合するので、生物活性が、血中半減期の長さより、更に、強い。
 半減期が長いステロイド剤は、副腎抑制(萎縮)が強いので、長期間投与したステロイド剤を中止(離脱)する際には、慎重に減量する必要がある。
 ベタメタゾンは、血中半減期や生物学的半減期がプレドニゾロンより長いので、朝隔日1回内服させても、副作用は軽減しないと言われる。

 6.ステロイド剤は血小板凝集能を亢進させる

 ステロイド剤や、ステロイド核を有するピルは、血小板凝集能を亢進させ、血栓を形成させ易くする恐れがある。
 ステロイド剤(hydrocortisone sodium phosphate)は、500ng/ml〜500μg/mlの範囲の濃度では、濃度が高い程、血小板凝集能(コラーゲン、ADPによる凝集)を亢進させる。しかし、ステロイド剤は、5mg/ml以上の高濃度では、却って、血小板凝集能は、低下させる。
 ステロイド剤の血小板凝集亢進作用は、アスピリンによって、阻止される傾向にある。

 腎炎の治療でステロイド剤を投与された患者は、血小板凝集能が亢進し、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)が短縮し、血液凝固因子の第II因子、第V因子、第X因子、第XII因子が増加する。
 ラットの実験で、ステロイド剤(デキサメサゾン)を1日1回、5日間内服させると、投与した用量に応じて(用量依存性に)、血小板凝集能が亢進し、血漿中PAI-1が増加するが、t-PAは変化が認められない。

 ステロイド剤は、於血を悪化させる。
 ステロイド剤は、アトピー性皮膚炎を難治化させるおそれがある。

 7.急性副腎不全(副腎クリーゼ)
 正常人では、副腎から、1日約20mgのコルチゾール(糖質コルチコイド)が、分泌される。
 感染、心筋梗塞や脳梗塞などの発作、外傷、手術などのストレスに際して、生体内のコルチゾール必要量が増加し、副腎からは、最大、約300mgのコルチゾールが、分泌される。

 コルチゾール(糖質コルチコイド)が不足すると、急性副腎不全(副腎クリーゼ)に陥る。
 急性副腎不全(副腎クリーゼ)の症状としては、悪心、嘔吐、激しい腹痛、低血圧状態が現れる。
 急性副腎不全(副腎クリーゼ)の検査所見としては、低ナトリウム血症、高カリウム血症、低血糖、好酸球増加などが認められる。
 急性副腎不全(副腎クリーゼ)の救急処置としては、血中コルチゾール測定用の採血(血清保存)を行った後、検査結果を待たずに、まず、速やかに、十分量のヒドロコルチゾン100mgを、静脈内注射する。また、十分量の補液を行う:生理食塩水に5%の濃度でブドウ糖を溶解させる。輸液には、カリウム(K)を含んでいる補液は、使用しない。

 アジソン病(Addison's disease)では、ヒドロコルチゾン(医薬品名:コートリル錠10mg)を20mg/日程度、補充する治療を行う。
 しかし、アジソン病の患者が、感染等のストレスに曝されると、コルチゾール(糖質コルチコイド)の必要量が高まり、コルチゾールが不足して、急性副腎不全に陥るおそれがある。
 また、プレドニンなどのステロイド薬を、長期間、内服していた患者が、急に、内服を中止した場合も、急性副腎不全に陥るおそれがある。 
 アジソン病(Addison's disease:慢性原発性副腎皮質機能不全)は、副腎皮質の90%以上が破壊された時に、臨床的な副腎皮質機能不全の症状が現れる。
 アジソン病の原因としては、特発性の副腎皮質萎縮(米国では55%)、結核による副腎病変(約40%)が多い。アジソン病が突発性副腎皮質萎縮が原因の場合は、病変は副腎の皮質に限局して髄質は侵されない。副腎結核が原因の場合は、副腎は皮質も髄質も侵される。2-デオキシグルコース50mg/kgを30分間かけて点滴静注する(2-デオキシグルコースは、グルコースと競合する)と、正常者や副腎皮質萎縮患者(皮質のみが萎縮し髄質の機能は保たれているアジソン病患者)は、尿中アドレナリンが約5〜10倍に著明に上昇する。副腎結核が原因の患者は、髄質も破壊されている為に、尿中アドレナリンは上昇しない。
 副腎の球状帯が破壊されるとアルドステロン分泌が低下し、束状帯が破壊されると主にコルチゾール分泌が低下する。
 血漿17-OHCSは、正常平均値(9μg/dl)以下を示す。尿中17-KSは、5mg/1日に低下する。
 アジソン病患者に対するコルチゾール(ヒドロコルチゾン、医薬品名:コートリル錠10mg)の処方量は、新生児・乳児12〜25mg/m2/日、3歳児12〜20mg/m2/日、12歳児12〜150mg/m2/日を、1日1〜4回に分服させる(m2は体表面積)。
 副腎皮質過形成の症例に対しては、アジソン病患者に対するコルチゾール投与量の1.5倍程度を1日総投与量にする。
 成人の副腎からは、1日に20mgのコルチゾール(ヒドロコルチゾン)が分泌される。ステロイド剤1錠中には、20mgのコルチゾール(の糖質コルチコイド作用)に相当する量が含まれている。

 8.ステロイド剤と高血圧
 ステロイド剤(糖質コルチコイド)は、高用量を治療に用いると、高血圧の副作用を来たすおそれがある。
 ステロイド剤を投与されている患者が、高血圧の副作用が現れた場合の血圧管理には、降圧薬としては、利尿薬、Ca拮抗薬、ARBなどを用いる。

 9.ステロイド剤と身長
 ステロイド剤(グルココルチコイド)は、小児の成長(身長の伸び)を抑制する。
 グルココルチコイドが、身長の伸びを抑制するのは、下垂体前葉ホルモン、特に、成長ホルモンの分泌を抑制するためと言われる。グルココルチコイドは、ソマトメジン-C(インスリン様成長因子1:IGF-1)の合成や、ソマトメジン-Cの軟骨への作用も抑制する。グルココルチコイドは、骨や軟骨の成長も、直接的に抑制すると言う。
 グルココルチコイドの身長抑制作用は、ヒドロコルチゾン(ハイドロコーチゾン)、コーチゾンは、弱いが、合成グルココルチコイド(ステロイド剤)は、強い:ステロイド剤の身長抑制作用は、プレドニゾロン(10mg/m2体表面積以上で成長障害が出るおそれがある)<メチルプレドニゾロン<パラメタゾン<トリアムシノロン<デキサメタゾン<ベタメタゾンの順に強い。ヒドロコルチゾン(20mg)、プレドニゾロン(プレドニン:5mg)、デキサメタゾン(0.5mg)、ベタメタゾン(0.5mg)を比較すると、デキサメタゾンやベタメタゾンは、身長抑制作用が、ヒドロコルチゾンの10倍から100倍あると言われる。
 表4 ステロイド剤の身長抑制作用の比較(参考文献の竹内慎先生の表2を改変し引用)
 ステロイド剤  抗炎症作用  ACTH分泌抑制作用  生物学的半減期
 (時間)
 身長抑制作用
 強さ  持続(日)
 コルチゾン   0.8   0.4(1)  −   8〜12    1
 コルチゾール   1   1  1.25〜1.5   8〜12   −
 プレドニゾン   4(5)   4(10)  1.25〜1.5     10
 プレドニゾロン   4   −  −  18〜36   −
 トリアムシノロン   5   −  2.25  18〜36   −
 パラメタゾン  20   −  −  36〜54   −
 ベタメタゾン  40(50)   −  3.25  36〜54  100
 デキサメタゾン  40(50)  80(200)  2.75  36〜54  −
 ステロイド剤の使用を中止すると、成長期の子供さんの身長は、キャッチアップ(catch up)する(ステロイド剤を飲まなかった時に伸びたであろうレベルにまで身長が急激に伸びる)。

 ステロイド剤(糖質ステロイド)をネフローゼ症候群の治療に用いた場合、平均投与量が40〜10mg/m2(体表面積)/日で持続漸減投与中は、身長の伸びは、正常小児の年間身長増加より著しく抑制される。しかし、10〜5mg/m2(体表面積)/日の量まで減量して投与中は、正常小児と同等の伸びを示す。さらに、間歇投与(隔日内服)にすると、正常小児と同等、あるいは、それ以上の伸びを示す(キャッチアップする)。
 プレドニゾロンは、10mg/m2(体表面積)/日以上の投与(内服)では身長抑制を回避出来ない。プレドニゾロンは、5mg/m2(体表面積)/日以上の投与(内服)では身長抑制を招く危険がある。プレドニゾロンは、10〜43.3mg/m2(体表面積)/日の投与量の範囲では、投与量と身長抑制との間に相関がない。
 他のステロイド剤(糖質ステロイド)による身長抑制作用は、プレドニゾロンと同等の抗炎症作用を示す換算量で、現れる。
 ステロイド剤の投与方法は、連日投与以外に、4投3休、3投4休、隔日1回投与などがある。連日投与(持続漸減投与)だと、プレドニゾロンが40〜10mg/m2(体表面積)/日で身長抑制され、10〜5mg/m2(体表面積)/日でも身長抑制が見られる。それに比して、隔日投与だと、10〜5mg/m2(体表面積)/日では、正常かそれ以上に伸びる(キャッチアップ)。隔日投与(隔日1回投与)では、長時間作用するデキサメサゾン(dexamethasone)やベタメダゾン(betamethasone)以外は、投与量が多くても、正常に近い身長の伸びが期待出来る。
 ベタメタゾンは、1〜1.5mg/日の量で、下垂体・副腎系を抑制する。
 ベタメタゾンやデキサメサゾンは、血中に長く残る(血中半減期が長い)ので、ネフローゼ症候群などで、副作用を軽減させる目的で、朝1回隔日投与を行っても、意味はない。ベタメタゾン錠0.5mg「サワイ」は、ネフローゼ症候群に保険適用がある。
 表5 ステロイド剤の身長抑制作用:投与方法と投与量(参考文献の竹内慎先生の表1を改変し引用)
 ステロイド剤  身長抑制
 作用
 投与方法と投与量(日)
 連日  4投3休、3投4休  隔日1回
 コルチゾン  有  45mg/m2  >60mg/m2  
 無  >55mg/m2    
 無  50〜70mg/m2    
 プレドニゾロン  有  5〜8mg/m2      
 有  >4mg/m2    
 有  >5mg/m2      
 有  >6mg/m2    
 無  2〜4mg/m2  2.5〜30mg/m2  41.8(30〜60)mg
 無  <3mg/m2  5〜20mg/m2  60mg/m2
 無  <5mg/m2    
 メチルプレドニゾロン  有  >5mg/m2    
 無  <5mg/m2    
 ベタメタゾン  有  >0.6mg/m2    6mg/m2

 10.その他
 ・1型11β-HSD(11β-hydroxysteroid dehydrogenase 1)は、細胞内で糖質コルチコイド(グルココルチコイド)を活性化させる変換酵素。
 1型11β-HSD(11β-HSD1)は、皮下脂肪より、内臓脂肪に多く発現していて(酵素活性が高い)、体脂肪量やインスリン抵抗性指標と相関が強い。
 脂肪細胞の11β-HSD1遺伝子発現は、チアゾリジン誘導体(経口糖尿病治療薬)のようなPPARγアゴニスト(ペルオキシゾーム増殖薬活性化受容体作動薬)によって、著明に抑制される。
 2型11β-HSD(11β-HSD2)は、1型11β-HSD(11β-HSD1)と反対に、細胞内の活性化型グルココルチコイド(コルチゾール)を不活化させる。2型11β-HSD(11β-HSD2)は、主に、水・電解質代謝に関与する腎臓(尿細管上皮)、大腸、汗腺、胎盤などに、多く発現している。

 ・原発性副腎不全(慢性副腎不全)には、ヒドロコルチゾン(合成糖質副腎皮質ホルモン:合成糖質コルチコイド:医薬品名:コートリル錠10mg)を12〜18mg/m2/日分3と、フルドロコルチゾン酢酸エステル(合成鉱質副腎皮質ホルモン:合成電解質コルチコイド:フロリネフ)を0.05〜0.1mg/日分3で、内服させる。
 1〜2歳までの原発性副腎不全の症例には、食塩0.1〜0.2mg/kg/日(最高2〜3g/日)も内服させる。

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