チアゾリジン誘導体
経口血糖降下薬のチアゾリジン誘導体(チアゾリジン薬)は、インスリン抵抗性を改善する。
アディポネクチン(脂肪細胞から分泌されるホルモン)は、血管の障害部位を修復し、また、肝臓や筋肉へのグルコース取り込みを増加させ、脂肪燃焼を促進させる(肝臓、骨格筋に、作用し、蓄積した中性脂肪を燃焼させる)。
1.薬理作用
チアゾリジン(thiazolidine)誘導体は、脂肪細胞の核内受容体型転写因子PPARγに結合し、試験管内(in vitro)で、(グルコールの消費を促進させ、)脂肪細胞の分化を促進する(肝臓や筋肉で中性脂肪の蓄積が促進する)。
PPARγは、脂肪細胞に特異的に発現している、分化のマスター転写因子で、aP2遺伝子の上流プロモーター領域に結合する(注1)。
チアゾリジン誘導体(一般名:塩酸ピオグリタゾン、商品名:アクトス錠)は、インスリン抵抗性のある糖尿病患者に投与すると、高インスリン血症、高中性脂肪血症、低HDL血症、インスリン抵抗性を、改善する。
チアゾリジン誘導体は、肥満・インスリン抵抗性の動物を用いた実験結果では、「小さな脂肪細胞」の新たな分化を促進させ、「小さな脂肪細胞」の数を増加させる。
チアゾリジン誘導体は、TNF-αの発現を抑制し、インスリン抵抗性を改善する。
しかし、 チアゾリジン誘導体は、脂肪細胞の分化を促進するPPARγに結合し、脂肪細胞を分裂増殖させ、脂肪細胞数を著明に増加させる、肥満を来たす恐れがある。
チアゾリジン誘導体は、アディポネクチンを増加させ、インスリン感受性を高める。
チアゾリジン誘導体は、炎症系(CRP)、凝固系(PAI-1)の、改善作用がある。
チアゾリジン誘導体(アクトス錠15/アクトス錠30)は、通常、成人には、ピオグリタゾンとして15〜30mgを、1日1回、朝食前、又は、朝食後に、服用(経口投与)する。
チアゾリジン誘導体は、肝臓で代謝されるので、重篤な肝機能障害のある患者では、蓄積するおそれがある。副作用をチェックする為に、血液検査で、肝機能検査(AST、ALT、AL-P、γ-GTP)を、少なくとも、投与開始後12カ月までは、1カ月に1回、それ以降は、定期的(3カ月に1回程度)に、行う。
チアゾリジン誘導体は、副作用として、循環血漿量の増加によると考えられる浮腫が、短期間に発現し、また、心不全が、増悪、あるいは、発症することがあるので、心不全の患者、及び、心不全の既往歴のある患者には、投与しないことが、添付文書に記されている。チアゾリジン誘導体(医薬品名:アクトスなど)は、うっ血性心不全を引き起こしたり、悪化させるおそれがある。チアゾリジン誘導体の服用中は、急激な過度の体重増加、呼吸困難、浮腫など、心不全の症状が現れないか、注意が必要。心不全の症状が現れたなら、投与を中止するか、投与量削減を検討する。
チアゾリジン誘導体は、女性では、浮腫の副作用を来たすことが、比較的多い。
チアゾリジン誘導体は、他の経口血糖降下薬(スルホニル尿素系薬剤、スルホニルアミド系薬剤、α-グルコシダーゼ阻害剤、ビグアナイド系薬剤)や、インスリン製剤と併用する際には、低血糖症状の発現に注意を要する。チアゾリジン誘導体などの経口血糖降下薬(糖尿病薬)は、サリチル酸剤、フィブラート系の高脂血症治療剤、ワルファリン(ワーファリン)などにより、血糖降下作用が増強され、副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)により、血糖降下作用が減弱される。
チアゾリジン誘導体は、妊婦や、妊娠している可能性のある婦人には、投与しない。また、授乳中の婦人に投与することを避け、やむを得ず投与する場合は、授乳を中止させることが、添付文書に記されている。
チアゾリジン誘導体(アクトス錠15/アクトス錠30)などの経口血糖降下薬の、作用等を、下表に示す。
表 経口血糖降下薬 作用分類 作用臓器 主な作用 種類 薬品名 商品名 副作用 インスリン分泌促進 膵臓
(膵島)インスリン分泌促進 スルホニル尿素薬 グリメピリド アマリール 低血糖 グリペンクラミド オイグルコン グリクラシド グリミクロン トルブタミド ラスチノン 速やかなインスリン分泌・食後高血糖の改善 グリニド系薬(速効型インスリン分泌促進薬) ナテグリニド スターシス ミチグリニド グルファスト 食後高血糖改善 小腸 炭水化物の吸収遅延 α-グルコシダーゼ阻害薬 ボグリボース ベイスン 肝障害、消化器症状(放屁、下痢、腹痛、便秘) インスリン抵抗性改善 肝臓 インスリン抵抗性の改善 ビグアナイド薬 メトホルミン メルビン 乳酸アシドーシス、胃腸障害、低血糖増強 ブホルミン ジベトスB 脂肪組織 チアゾリジン薬 ピオグリタゾン アクトス 浮腫・心不全、肝障害、低血糖増強
チアゾリジン誘導体(チアゾリジン系薬)は、インスリンとの併用は、保険上、承認されていない(インスリン皮下注射療法をしている患者には、チアゾリジン系薬剤を、保険扱いで処方出来ない)。
2.アディポネクチン
アディポネクチンは、レプチンと同様に、脂肪細胞から分泌されるホルモン(アディポカイン)で、インスリン抵抗性を改善する。
アディポネクチンは、血管の障害部位を修復し、また、肝臓や筋肉へのグルコース取り込みを増加させ、脂肪燃焼を促進させる(肝臓、骨格筋に、作用し、蓄積した中性脂肪を燃焼させる)。
アディポネクチンの構造は、補体のC1qと相同している。
アディポネクチンは、AMPキナーゼ(AMPK)やPPARαを活性化させる(脂肪酸燃焼が促進される)。
肥満や糖尿病で、アディポネクチンの血中濃度が低下すると、インスリン抵抗性が、増悪する。
アディポネクチンは、非肥満者の脂肪組織の小型脂肪細胞から分泌され、血中を移動し、肝臓、骨格筋に、作用し、蓄積した中性脂肪を燃焼させる:アディポネクチンは、運動時に活性化される、AMPキナーゼを活性化させる。AMPキナーゼが活性化されると、肝臓では、糖新生が抑制され、骨格筋では、糖(グルコース)の取り込みが増加し、血糖が、低下する。肥満で、脂肪細胞が肥大すると、アディポネクチンの分泌が低下し、肝臓や骨格筋に脂肪が蓄積し、インスリン抵抗性、糖尿病、メタボリックシンドロームが、起こって来る。
アディポネクチン欠損マウスは、高中性脂肪血症、高血圧を認める。アディポネクチン欠損マウスは、動脈硬化(炎症性の血管内膜肥厚)を来たし易い。アポE欠損マウスは、粥状動脈硬化症を来たし易いが、アディポネクチンの遺伝子を発現させると、アディポネクチンが動脈に直接作用して、粥状動脈硬化症の発症が、抑制される。
PPARγ欠損マウスの小型脂肪細胞は、レプチンや、アディポネクチンが、多く発現され、また、分泌もされている。
アディポネクチンは、PPARα(注2)も、活性化する。AMPキナーゼも、PPARαも、脂肪を燃やす作用があり、β酸化を促進し、筋肉や肝臓に蓄積した脂肪を、燃やし、中性脂肪の蓄積を抑制し、インスリン感受性を、高めるという。
アディポネクチンは、炎症性の(血管)内膜肥厚を抑制し、動脈硬化を抑制する。
日本人の約40%は、アディポネクチンを分泌しにくい、遺伝子多型(SNP)を有している:アディポネクチン遺伝子SNP276の型には、T/T、G/T、G/Gがあるが、G/G型の人は、T/T型の人より、アディポネクチンの血中濃度が低い(2/3程度しかない)為、インスリン抵抗性が高まり、2型糖尿病を発症するリスクが、約2倍に、高まる。日本人の約40%は、G/G型と言われる。
食事療法で、体重を2〜3Kg減少させたり、運動療法で、体重を減少させると、肥大していた脂肪細胞が縮小し(小型化し)、血中のアディポネクチンは、上昇する。
チアゾリジン誘導体は、肥大した大型脂肪細胞(注3)を、アディポネクチンを多く分泌する小型脂肪細胞に置換し、アディポネクチンの血中濃度を、2〜3倍程度に、上昇させる。チアゾリジン誘導体は、また、アディポネクチンの遺伝子の転写因子であるPPARγを活性化させ、PPARγは、アディポネクチンの遺伝子に結合し、その転写を促進させ、アディポネクチンの血中濃度を、上昇させる。
インスリンは、アディポネクチンの分泌を、急性に増加させる。
肥満のモデル動物では、アディポネクチンの分泌が低下するのみならず、筋肉や脂肪細胞で、アディポネクチン受容体が減少している(ダウンレギュレーション)。
アディポネクチン受容体には、AdipoR1(骨格筋、血管、膵β細胞、視床下部に発現)と、AdipoR2(肝臓、マクロファージに発現)とがある。いずれの受容体も、AMPキナーゼやPPARαを活性化させ、ブドウ糖の取り込みや、中性脂肪の燃焼を促進し、動脈硬化などを、予防する。AdipoR1は、AMPキナーゼ活性化作用>PPARα活性化作用、AdipoR2は、AMPキナーゼ活性化作用<PPARα活性化作用と言われる。
アディポネクチン受容体は、酵母にも存在する。生命機構の進化の段階で、アディポネクチンは、飢餓の際に、筋肉や肝臓などで、脂肪の燃焼(β酸化)を促進させのに必要なホルモンとして、備えられたホルモンとも、考えられている。
脂肪細胞は、中性脂肪を貯蔵する、単なるエネルギー貯蔵細胞でなく、多種類のホルモンや、サイトカインを、産生・分泌している。脂肪組織は、アディポネクチン以外に、TNF-α、レプチン、レジスチン、アディプシン、PAI-1、アンジオテンシノーゲン、遊離脂肪酸、ステロイドを分泌する。
脂肪細胞は、中性脂肪を貯蔵するのみならず、アディポネクチンや、TNF-αや、アンジオテンシノーゲンや、PAI-1などを分泌する。
TNF-αは、グルコース(ブドウ糖)の細胞(筋肉細胞、脂肪細胞など)内への取り込みを抑制し、高血糖を来たす。TNF-αは、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性(産生)を抑制し、高脂血症(高中性脂肪血症)を来たす。
アンジオテンシノーゲンから生成されるアンジオテンシンII(AII)は、細動脈の血管平滑筋を収縮させ、高血圧を来たす(収縮期圧も拡張期圧も上昇する)。
PAI-1は、動脈硬化になった血管での血栓形成を促進し、心筋梗塞や脳梗塞を来たす。 アディポネクチンなどの因子は、皮下脂肪にも内臓脂肪にも、発現している。アディポネクチンやPAI-1は、内臓脂肪蓄積との関連性が高い。レプチンは、皮下脂肪蓄積との関連性が高い。TNF-αは、脂肪蓄積部位との関連性は、あまりない。
アディポネクチンの血中濃度は、インスリン感受性と正相関する。TNF-α、PAI-1、レプチンの血中濃度は、インスリン感受性と逆相関する。
大豆食品(納豆、煮豆等)に含まれる大豆蛋白は、アディポネクチンの産生を促進させる。
大豆蛋白は、アミノ酸のアルギニンを含んでいて、肝臓の肝細胞の機能を高める(尿路回路の機能を高める)。
杜仲茶は、血中アディポネクチン濃度を、増加させる:ラットの実験結果で、高脂肪食と共に、杜仲葉サンプルを配合した餌を食べさせると、高脂肪食のみを食べさせた場合に比して、血中アディポネクチン濃度が、約2倍、高くなる。
酢酸(食酢に含まれる)は、肝臓で、酵素を活性化させ、肝臓での脂肪分解を促進させる。酢酸は、クエン酸同様に、 6-ホスホフルクトキナーゼ(PFK-1)を阻害する(解糖を抑制し、乳酸の蓄積を抑制し、グリコーゲンの分解を抑制する)。
アディポネクチンは、脂肪細胞(脂肪組織)から、特異的に分泌される。
II型糖尿病モデルマウスを用いた実験結果では、高脂肪食による肥満は、アディポネクチンの分泌を低下させる。また、アディポネクチンを補充すると、インスリン抵抗性や血清中の中性脂肪値が改善することが見出された。
アディポネクチンは、肝臓や筋肉で、脂肪の燃焼を促進する(AMPキナーゼを活性化し、肝臓では糖新生を抑制し、骨格筋では糖の取り込みを促進し、脂肪を燃焼する)。肝臓や筋肉に脂肪が蓄積すると、アディポネクチンが分泌されなくなり、脂肪が燃焼されなくなり、インスリン抵抗性などが現れる。
アディポネクチン受容体には、AdipoR1(肝臓、骨格筋な多数の組織に発現している)とAdipoR2(主に肝臓に発現している)の二種類が存在する。アディポネクチンは、AdipoR1に結合するとAMPキナーゼ経路(AMPK経路)を活性化させ、AdipoR2に結合するとPPARα経路を活性化させ、インスリン抵抗性などを改善する。
アディポネクチン受容体(AdipoR1とAdipoR2)が欠損したマウスを用いた実験結果では、肝細胞にアディポネクチンが結合せず、アディポネクチンにより血糖が降下しない。アディポネクチン受容体が欠損したマウスは、インスリン抵抗性と耐糖能障害を来たす。
肥満マウスでは、アディポネクチン受容体(AdipoR1とAdipoR2)は、正常(通常)の半分程度に減少している。
アディポネクチンが、アディポネクチン受容体(AdipoR1とAdipoR2)に結合すると、AMPキナーゼやPPARαが活性化され、脂肪酸燃焼(骨格筋や肝臓での脂肪酸のβ-酸化)や糖取り込み(脂肪細胞でのグルコース取り込み)が促進される。
オスモチン(植物由来ペプチド)は、立体構造がアディポネクチンに類似している。酵母のオスモチン受容体は、動物のアディポネクチン受容体に類似している(相同体)。
アディポネクチンは、遺伝子の相違により、脂肪細胞から分泌され易いタイプと、分泌され難いタイプの2種類存在する。日本人の約4割の人は、分泌され難いタイプのアディポネクチンを産生していて、血中アディポネクチン濃度は、分泌され易いタイプのアディポネクチンを産生している人に比して、2/3程度の量しかない。
アディポネクチンは、脂肪細胞に最も豊富に発現している。
アディポネクチンは、肝臓と骨格筋において、インスリン感受性を亢進させる。アディポネクチンは、肝臓と骨格筋でAMPキナーゼを活性化させ、肝臓で糖新生を抑制し、骨格筋で糖取り込みを促進させる。
アディポネクチンは、肝臓と骨格筋でPPARα活性化作用を示し、AMPキナーゼ活性化作用と共に、脂肪酸分解(脂肪酸燃焼)を促進し、トリグリセリド量(中性脂肪量)を低下させ、インスリン抵抗性を改善する。
アディポネクチンやアディポネクチン受容体は、アンジオテンシン経路(RAA系)の抑制(ARBなどによる)によって、増加する。
PPARαは、フィブラート系薬剤によって活性化される。
PPARγは、減量、チアゾリジン誘導体などにより活性化される。
アディポネクチンは、骨格筋では、遊離脂肪酸輸送蛋白(FATP)を活性化させ、遊離脂肪酸の分解(β-酸化)を促進させ、インスリン感受性を高めている。
肥満症では、アディポネクチン(Ad)産生や、アディポネクチン受容体(AdipoR)の発現が低下し、インスリン抵抗性が亢進し、メタボリックシンドロームに陥る。AMPキナーゼを活性化させたり、PPARαを活性化させることが、治療に有用と考えられている。
脂肪組織において、PPARα作動薬はアディポネクチン受容体(AdipoR)を増加させ、PPARγ作動薬は高分子量のアディポネクチン(HMW-Ad)を増加させる。
チアゾリジン誘導体は、PPARγ作動薬として、アディポネクチン依存性とアディポネクチン非依存性の経路を介して、抗糖尿病作用を発揮する。
アディポネクチンは、高分子量アディポネクチンの方が、活性が高い。
チアゾリジン誘導体は、高分子量アディポネクチン(高活性型)を著明に増加させる。
フィブラート剤(抗高脂血症薬)は、アディポネクチン受容体(AdipoR)を増加させる。
カテキンは、マウス実験結果では、脂肪細胞での活性酸素種(ROS)の産生を減少させる。
マウス(C57BL/6Jマウス)を高脂肪食で10週間飼育すると、内臓脂肪(副精巣周囲脂肪組織)でのROS産生(NADPHオキシダーゼ遺伝子の発現)、体重、脂肪組織蓄積量、血漿中過酸化脂質量、血漿中コレステロール量が増加する。高脂肪食に茶カテキンを1%添加すると、内臓脂肪でのROS産生などが、増加しない。高脂肪食だと、善玉アディポサイトカイン(アディポネクチンやレジスチン)が有意に低下するが、茶カテキンを添加した高脂肪食だと、善玉アディポサイトカインは低下しない。高脂肪食摂取後に、茶カテキンを添加した食事を摂取させると、高脂肪食摂取による肥満(体重増加や脂肪組織の蓄積)、血漿中の過酸化脂質やコレステロールの増加、内臓脂肪(副精巣周囲脂肪組織)でのROS産生(NADPHオキシダーゼ遺伝子の発現異常)が正常化する。このように、茶カテキンは、メタボリックシンドロームの予防や治療に、有用と考えられている。
3.糖尿病の診断
・早朝空腹時血糖値126mg/dL以上、随時血糖値200mg/dL以上、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dL以上のいずれかであれば、糖尿病型と判定する。
・HbA1cは、血液中の糖が結合(糖化)したヘモグロビン。
赤血球に含まれるヘモグロビン(Hb)は、血液中のブドウ糖と反応し、ブドウ糖と結合したグリコヘモグロビン(ヘモグロビンA1)が生じる。グリコヘモグロビン(ヘモグロビンA1)は、ヘモグロビンA1c(HbA1c)とヘモグロビンA1b(HbA1b)とヘモグロビンA1a(HbA1a1+HbA1a2)とから、構成される。
糖尿病型で、かつ、糖尿病の典型的症状があるか、HbA1c6.5%以上であれば、糖尿病と診断出来る。
4.アディポカイン
アディポカインには、アディポネクチン(脂肪細胞からのみ分泌される)、レジスチン、MCP-1(脂肪細胞とマクロファージから分泌される)、IL-1β、IL-6、TNF-α(脂肪細胞とマクロファージと肝臓から分泌される)、RBP4、PAI-1(脂肪細胞と肝臓から分泌される)等が、存在する。
肥満(生活習慣病やメタボリックシンドローム)になると、脂肪細胞は肥大し、アディポネクチンの産生が低下する。
肥満になると、レジスチン、MCP-1(脂肪細胞とマクロファージから分泌される)、IL-1β、IL-6、TNF-α(脂肪細胞とマクロファージと肝臓から分泌される)、RBP4、PAI-1(脂肪細胞と肝臓から分泌される)の産性が増加する。その結果、肥満になると、血液凝固と炎症が起こり易くなると、考えられる。
肥満の病態では、アディポネクチン受容体(AdipoR1とAdipoR2)の発現が低下していて、遺伝子組換えアディポネクチンを投与しても、アディポネクチン作用が得られない。
チアゾリジン誘導体(PPARγアゴニスト)は、ヒト2型糖尿病の患者に投与すると、低下していた血中アディポネクチンを、2〜3倍、上昇させる。
比較的低用量のチアゾリジン誘導体は、脂肪細胞のアディポネクチン産性を増加させ、血中アディポネクチン濃度を上昇させ、主に、肝臓のインスリン抵抗性を改善する(糖新生を抑制する。AMPKは、上昇する。TNF-α、レジスチン、FFAは、抑制されない)。
比較的高用量のチアゾリジン誘導体は、脂肪細胞を小型に分化させ(脂肪細胞が小型化する)、血中アディポネクチン濃度を上昇させ、悪玉アディポカイン(TNF-α、レジスチン)分泌やFFA(遊離脂肪酸)産性を抑制し、主に、骨格筋のインスリン抵抗性を改善する。
アディポネクチン欠損マウスは、インスリン抵抗性が軽度であっても、炎症性血管内膜肥厚が、著明に現れる。
チアゾリジン誘導体(PPARγアゴニスト)により産性が増加するアディポネクチンは、血管壁の接着分子の発現、炎症性サイトカインの産性、マクロファージの酸化LDLの受容体(SR-A、CD36)を抑制する。
アンジオテンシンII受容体阻害薬(ARB)は、チアゾリジン誘導体より弱いが、アディポネクチンの産性を増加させる作用がある。
5.レプチン
レプチン(leptin)は、脂肪細胞から分泌されるホルモン(アディポカイン)であり、脳(視床下部)の食欲中枢に働き、食欲を抑えたり、体内の基礎代謝を上げる。
肥満などで、脂肪細胞が肥大すると、脂肪細胞からレプチンが分泌される。レプチンは、脳視床下部に作用して食欲を抑制したり、褐色脂肪細胞に作用して基礎代謝を亢進させる(交感神経が刺激され、脂肪酸分解であるβ-酸化が促進され、熱産生が増加する)。その結果、体脂肪量が減少し、肥満が抑制されると考えられる。
先天的にレプチンが分泌されないネズミは、食欲が抑制出来ないので、肥満になる。
ところが、肥満の人は、脂肪細胞が多いので、レプチンの分泌は、むしろ増加している。それなのに、高度の肥満の人は、脳がレプチンに鈍感になり(レプチン抵抗性)、レプチンによっては、食欲が抑制されなくなっていると考えられている。
ダイエットをして、急激に減量すると、脂肪細胞からのレプチン分泌も、極端に減少し、その結果、食欲が増して、体重は、リバウンドすることもある。
レプチンは、脂肪細胞から分泌される。レプチンのmRNAは、脂肪組織にのみ、発現が見らる。
レプチンは、脳以外に、膵臓、卵巣、造血幹細胞など、種々の組織に、レプチン受容体を介して、作用する。
レプチンは、造血にも、関与している。
レプチンは、肝臓での、HDL代謝(HDL-アポリポ蛋白の分解)に、関与している。
レプチンが欠損したマウスは、肝臓の肝細胞での、HDL受容体を介するHDL(HDL-アポリポ蛋白)取り込みや、分解が、低下する。レプチンを投与すると、肝細胞でのHDL受容体(スカベンジャー受容体SR-B1以外の受容体)を介するHDL取り込みや分解が、回復する。
メタボリックシンドロームでは、内臓脂肪が増加する(腹囲も太くなる)。
内臓脂肪の増加に伴ない、血中のレプチン濃度が、上昇する。
レプチンは、赤血球膜の弾力性を、低下させる(赤血球変形能が低下する)。
レプチンは、血管壁の弾力性を低下させる(動脈硬化が促進したり、高血圧になる)。
6.その他
・膵β細胞に存在するスルホニル尿素受容体(SUR1:膜タイプSU受容体)は、ATP感受性Kチャネル(KATPチャネル)が含まれている。
食事をして、血中にブドウ糖が増加(血糖が上昇)し、ブドウ糖が膵β細胞の糖輸送担体(GLUT2)を介して、膵β細胞内に輸送され、糖代謝により、細胞内〔ATP〕/〔ADP〕比が増加すると、ATP感受性Kチャネルが閉鎖し、細胞膜が脱分極し、電位依存性Caチャネルが開口し、細胞内にCa2+が流入し、細胞内Ca2+濃度が上昇し、インスリン分泌顆粒の刺激が起こり、インスリン分泌が起こる。
ミチグリニド(商品名:グルファスト)は、グリニド系の速効型インスリン分泌促進薬。ミチグリニドは、スルホニル尿素受容体(SUR1)に結合し、ATP感受性Kチャネルを閉鎖させ、細胞膜を脱分極させる。その結果、電位依存性Caチャネルが開口し、細胞内にCa2+が流入し、細胞内Ca2+濃度が上昇し、インスリン分泌顆粒が刺激され、インスリン分泌が促進される。
・ランタス注オプチクリック300、ランタス注ソロスター(キット製剤)は、遺伝子組み換えインスリン(グラルギン)を100U/ml×3ml含んでいる。
ランタス(インスリン グラルギン)は、ヒトインスリン(等電点約pH5.5)のA鎖21位のアミノ酸をアスパラギンからグリシンに置換し、B鎖C末端31、32位に2個のアルギニン残基を付加することにより、等電点が、約pH6.7へ移行している。
ランタスは、皮下注射された後、生理的pH7.4で、等電点沈殿を起こし、徐々に溶解・吸収される。
ランタスは、SU薬を含む経口糖尿病薬療法(チアゾリジン誘導体を除く)に併用して、基礎インスリン分泌を補う目的で、皮下注射する。
ランタスは、開始時には、4〜6単位/日(1回)を、朝食前(又は就寝前)に、皮下注射する。初期には、4〜20単位/日を1日1回皮下注射する。
ランタスは、増量時には、2〜4単位/日ずつ増量する。維持量は、通常4〜80単位/日。
インスリン(ランタス)増量の目安として、連続3日間朝食前空腹時血糖を測定し、平均値が140mg/dl以上なら、インスリンを2単位/日増量(追加)し、110〜140mg/dl未満なら、インスリンを1単位/日増量する。
朝食前血糖値110mg/dlを目標に、ランタスの投与量を調節する。必要な場合、併用しているSU薬を減量する。
インスリン治療中に、低血糖を来たした場合には、ブドウ糖5〜10g(砂糖なら10〜20g)を、内服させる。ブドウ糖を含む飲料なら、150〜200mlを飲用させる。約15分後にも、低血糖が持続する場合、再度、同一量を摂取させる。意識レベルが低下し、経口摂取が不可能な場合、ブドウ糖や砂糖を、口唇と歯肉との間に塗りつける。グルカゴンを1バイアル(1mg)注射する。
低血糖時に、医療機関では、血糖を測定した後、20%グルコース注射液を40ml(50%グルコース注射液を20ml以上)、静脈注射する。
注1:PPARγは、peroxisome proliferator-activated receptor gamma(ペルオキシゾーム増殖促進受容体ガンマ、ペルオキシソーム増殖薬活性化受容体γ)のこと。
PPARγ2は、脂肪細胞の分化のマスター遺伝子で、脂肪細胞や、マクロファージに、発現している。
チアゾリジン誘導体や、プロスタグランジンJ2代謝産物は、PPARγ2のリガンド。
なお、PPARαは、フィブラート系薬剤(フィブラート製剤)の受容体で、PPARδは、大腸癌の発症に関与するという。
高血圧患者では、アンジオテンシンII(AII)に対する受容体(AT1受容体)の発現が、血圧正常者に比して増加していて(血管収縮、血管壁肥厚、動脈硬化)、血圧が上昇し易くなっていると考えられている。
降圧剤でも、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗剤)のテルミサルタン(胆汁排泄型持続性AT1受容体ブロッカー、商品名:ミカルディス)は、PPARγを活性化させ、AT1受容体の発現を抑制する(カンデサルタン、バルサルタン、オルメサルタンにはPPARγ活性化作用がない)。
PPARγアゴニスト(作動薬)は、アディポネクチンの産生(遺伝子の転写)を促進させる。
PPARγアゴニストは、アディポネクチン産生促進作用によって、AMPキナーゼを活性化させ、糖新生を抑制し、インスリン必要量を減少させ、主に肝臓のインスリン抵抗性を改善する。
PPARγアゴニストは、脂肪細胞の分化を促進させ、脂肪細胞を小型化させ、MCP-1、TNF-α、レジスチン、遊離脂肪酸(FFA)などを減少させ、主に骨格筋のインスリン抵抗性を改善する。
PPARαは、脂肪酸の異化(酸化)を促進させる。
PPARγは、脂肪細胞の分化や糖取り込みを制御する。
注2:PPARα(peroxisome proliferator-activated receptor arufa:ペルオキシソーム増殖薬活性化受容体α、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α)は、アルコール性の肝炎、肝硬変に繋がる線維化や肝肥大を、抑制すると言う。
その機序として、アルコールは、NFkBを活性化させ (NFkBは、核内に移行する)、炎症を引き起こすが、PPARαは、NFkBと結合するIkBを細胞内に増加させ、炎症を抑制すると考えられている。
納豆や味噌にも含まれている、フォスファチジルコリン(ホスファチジルコリン:レシチン)は、肝細胞内のIkBを増加させ、アルコールによる炎症を、抑制すると言う。
高脂血症の治療に用いられるフィブラート系薬剤(フィブラート製剤)は、肝臓で、PPARαを活性化し、脂肪酸合成を抑制し、脂肪酸分解(β-酸化)を促進し、VLDLの産生を、強力に抑制する。フィブラート系薬剤は、血中で、リポ蛋白リパーゼ(LPL)と、肝性トリグリセリドリパーゼ(HTGL)を活性化させ、VLDLやレムナントリポ蛋白の異化を促進する。フィブラート系薬剤は、アポ蛋白のアポA-Iの合成を促進し、HDLを増加させる。フィブラート系薬剤は、動脈硬化を惹起させる、レムナントリポ蛋白や、小型のsdLDLを、減少させる。フィブラート系薬剤は、腎臓排泄率が高い(主に腎臓から尿中に排泄される)ので、横紋筋融解症の副作用に注意が必要。フィブラート製剤は、スタチン系薬剤との併用は、原則禁忌。
PPARαは、PPARγと反対に、中性脂肪の消費を促進する。
PPARαやAMP-キナーゼが活性化されると、脂肪酸燃焼が促進される(ミイコンドリア内での脂肪酸のβ-酸化が促進される)。
PPARαは、フィブラート系薬剤によって活性化される。
PPARγは、減量、チアゾリジン誘導体などにより活性化される。
注3:肥満に際して、大型脂肪細胞が多い肥大型(脂肪細胞が肥大する)と、比較的小型脂肪細胞が多い増殖型(脂肪細胞が増殖する)とが存在する。肥大型の肥満の方が、合併症が多い。
大型脂肪細胞の直径は、最大でも、140μm程度と言われる。BMI値が30までは、脂肪細胞は肥大し、大型脂肪細胞の比率が高まる。BMI値が30を超えても、脂肪細胞の直径は更に拡大せず、大型脂肪細胞の周囲に、小型脂肪細胞が増殖して集まり、皮下脂肪厚が増加する。
参考文献
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・吉田俊秀、他:インスリンの作用と肥満 日本医師会雑誌 第124巻・第5号 IS-21〜IS-24、2000年.
・船橋徹:脂肪細胞の働きと糖尿病との関係 日本醫事新報 No.4147(2003年10月18日)、91-93頁.
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・田川邦夫:からだの働きからみる代謝の栄養学 タカラバイオ株式会社(2003年).
・NEWS 糖尿病・メタボリックシンドローム アディポネクチン受容体の増加で血糖値改善に成功 門脇東大院教授「治療法として非常に有効」、日本医事新報、No.4321(2007年2月17日).
・柏木厚典:メタボリックシンドローム Over View、日本医師会雑誌、第136巻・特別号(1)、メタボリックシンドローム up to date、S2-S13頁.
・門脇孝:アディポサイトカイン、日本医師会雑誌、第136巻・特別号(1)、メタボリックシンドローム up to date、S71-S75頁.
・島袋充生:脂肪毒性、日本医師会雑誌、第136巻・特別号(1)、メタボリックシンドローム up to date、S100-S103頁.
・山内敏正、原一雄、門脇孝:アディポネクチン、日本医師会雑誌、第136巻・特別号(1)、メタボリックシンドローム up to date、S179-S184頁.
・門脇孝:質疑応答 アディポネクチンの臨床応用の現状・展望、日本医事新報、No.4344(2007年7月28日)、86-87頁.
・第61回日本栄養・食料学会 茶カテキン成分による脂肪細胞機能改善効果を確認、Medical Tribune、2007年8月9日、32頁.
・浅原実郎:アンチエイジング医学の基礎と臨床、日本抗加齢医学会専門医・指導士認定委員会、株式会社メジカルビュー社、2004年第1版第1刷発行(2006年第1版第8刷).
・トピックス 米FDAがアバンディア、アクトスの警告強化 心不全リスクで全チアゾリジン系薬が対象、Nikkei Medical 2007.9、41頁.
・島野仁:肥満とメタボリックシンドローム、Astellas Square、14-15頁.
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